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ふさ千明のおたネタ日記

漫画、アニメその他諸々の感想がメインのブログです。現在は「ここだけの話」シリーズについての感想を中心に運営しております。毎日15時の更新は終了し、現在は再び不定期更新に戻っております。

2024年2度目の台湾旅行記(5日目)

最終日で帰国日。
 ではあるが朝、目が覚めたらデカいニュースが飛び込んできた。ご存じのとおりトランプ前アメリカ大統領暗殺未遂事件である。
 幸い命に別状はないとのことであったが、世界の荒れを再確認させられたニュースだった。
 事件の巻き添えとなり卑劣なテロリストの犠牲となった方にはこの場にて謹んでご冥福をお祈り申し上げるとともに、負傷なされた方々にお見舞い申し上げます。

 さて。事件自体は遠いアメリカの話ではあるが、現実問題としてこの件が我々にどう影響するかと言えば手荷物検査が厳重になり出国までにいつもより時間を要する可能性が高くなったということだ。
 インタウンチェックイン制度を活用していつもどおりぎりぎりまで台北の街を満喫するつもりであったがこうなっては致し方ない。
 それでも朝食だけはしっかり食べてからホテルをチェックアウトし、地下鉄空港線台北駅のインタウンチェックインカウンターでスーツケースを預け入れ、そのまま地下鉄で桃園空港へと移動する。
 着いてみると空港内は混雑こそしていたが空気感はいつもどおりで。心配していたような厳重警戒という雰囲気はなかった。ただ、やはり手荷物検査はいつもより念入りで大変時間がかかっていた。私も今までチェックなどされたことがなかったモバイルバッテリーの容量について規定範囲内かどうか確認を受けた。嫁さんは取り立てて見られるものもなかったようだが前に並んでいた人があれこれとチェックされていたそうで私よりも後に出てきた。込み合うより前に来ておいて正解だったなと顔を見合わせた。
 いつもより長く空港に滞在することになったわけだが、ここの場合昼食と買い物以外にマッサージを受けるという選択肢もある。時間の使い方について相談したところ嫁さんが珍しく速めの昼食を希望したのでフードコートへ向かった。
 前から決めていたらしく小南門という台湾料理の店へ並ぶ嫁さんに対して、私はと言えば朝食をかなりガッツリと食べた私はまだあまり腹が減っていない。
 ササッと済まそうにもどの店もセットメニューのみでどれも分量が多い。
 最終的にモスバーガーで決着したが、この時無理やりにでも決めて食べておいて良かったという事態にこの後遭遇した。
 いつものD6搭乗口でダラダラと待っていたら搭乗開始時間になって急に搭乗口変更のお知らせが早口で流れた。しかも中国語と英語のみで。
 直後ショートメールを受信したがリンクがあるばかりで詳しいことは書いていなかった。チェックしてみるとGmailのほうにA9へ変更した旨の通知が来ていた。
 大移動開始である。幸いにして空港の反対側という程には離れていなかったが、それでも結構な距離歩くこととなった。 
 しかも。このあと遅延は延びに延びて最終的には2時間遅れになった。理由は使用を予定していた機材が飛行中に落雷を受けたためということだったのでチャイナエアラインを責める気にはなれなかった。むしろこういう時に簡単な点検で済ませて無理矢理飛ばすとメーデー案件になるのでこれでよかったと感謝すらしている。
 無事に離陸し、着陸も無事完了したので100点満点である。
 おかげでまた台湾に行けるのだから。

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2024年2度目の台湾旅行記(4日目)

(※画像は縦長のものも自動で横長に設定されてしまうためお手数ですが回転させてご覧ください)

 土曜日。フルで使えるのは今日まで。明日は帰国せねばならない。大変残念だが来た以上は帰らなければいけない。それが定めである。

 この日の日程は珍しく最初から決まっていた。土日にだけ開催される産直マーケットを2か所ハシゴするのである。まずはホテルから近くて規模の大きい希望廣場へ。
 体育館くらいの面積に、東部の花蓮県と南部の苗栗県を中心に様々な産物が並ぶ。最近は農産物だけではなく魚介も取り扱うようになったが、やはりリスクが大きすぎて買って帰るに至らない。面倒な手続きは不要だし検疫に引っかかったりする恐れもないが、冷凍品が溶けだしてスーツケースの中のものをダメにしたり悪臭を放ったりという可能性を排除できない限りはむつかしい。保冷バッグとて市販品は遥か数百キロのフライトを想定したものではない。
 かくして大好物のサバヒーという魚を持ち帰り自力で調理するという夢は今年も断念。

 その代わりというわけではないが蜂蜜や珈琲豆、茶葉などを購入。面白かったのは珈琲の葉で淹れたお茶を飲める出店があったこと。こういうものは店だけを回っていたのでは到底巡り合えない。飲んでみると香りは珈琲だが飲むとお茶、という摩訶不思議な味わい。非常に貴重な体験であった。
 買ったものは結構な分量にはなったがまだ部屋には戻らず今度は花博公園の方へと向かう。こちらは特に出店者のエリアなどは固まっておらず、台北近郊から来ている店もあった。いずれにしても台湾各地から集まった品々を生産者の方から直接買える貴重な機会なのは希望廣場と同じ。
 生の果物野菜は持って帰れないのでやはりドライフルーツや茶葉珈琲豆がメインターゲットとなる。ついつい買ってしまうのはその場で飲める生絞りフルーツジュース。これが実に美味い。炎天下をウロウロしているからというのは要素としてはあるだろうが、それを差っ引いても美味かったのは今年1月に経験済み。
 そんなこんなで入手した成果をいったん部屋に置いて。代わりにタオルを複数枚リュックに入れて再び出発。
 目指すは行義路温泉。台北の温泉というと北投が知られているが、そこよりも市街地寄りにあるのが旅行者には大きなメリットである。
 地下鉄淡水線石牌駅からバスで10~15分。それだけの移動で景色はすっかり山。
 温泉街には日帰り入浴可能なところがいくつかあるが、我が家のお気に入りは川湯温泉館。バス停からはえっちらおっちらと坂を下って階段を下りて5分ほど。
 ここは日本スタイルの全裸で入る温泉である。洗い場にはボディーソープとシャンプーも常備されていてタオルさえ持っていけばあとは不自由なく楽しめる。
 湯温の熱めな大きく広い浴槽に打たせ湯が出来るぬるめの小さな浴槽、水風呂にサウナまであるのでぐるぐる回っているといつまででも入っていられそうだが、成分が濃いのであんまり長湯をしているとノボせてしまう。
 程々のところで切り上げねばと思いつつ、大変心地いいのであと少しあと少しと長湯をしてしまう。
 そんな入り方をしてしまうと上がってからもなかなか汗が引かない。血行が良くなっていくのをじわじわと感じつつも、夫婦そろって眠くなってきたので昼食をキャンセルして急ぎ部屋に戻る。
 涼しい部屋で昼寝をする幸せを噛みしめて熟睡し、目が覚めた時にはもう日が暮れていた。
 昼食をキャンセルしたので空腹かと思えばさにあらず。じゃあ昨日やらなかったコンビニ飯を買い出ししてくるから腹が減ったらそれを食べようという結論に至った。
 ただしまだそんなにお腹が空いていないということなので先に買い物に行かせてもらった。どこへ行くかと言えばとらのあなである。アニメイトとらしんばんもあるのだが、あちらは人が多すぎて物を探すどころからウロウロするだけでも一苦労なのでとらのほうがありがたい。
 売り場は商業誌と同人誌が半々という感じ。今回のターゲットは主に成人向け。台湾の成人向け同人誌というものに大変興味があったのでぜひこれぞというものを発掘したかった。
成人向け売り場のなかにひっそりとある中文原創(中国語オリジナル)コーナー。1冊1冊確認してみて、見本誌があり内容を読んで気に入った百華荘という中華ファンタジー系の漫画を選択。



 もうひとつ、これは日本の漫画の翻訳版だが「放學後的資優生」(和題:放課後の優等生)を購入‥‥しようとしたところ年齢確認のために身分証明書の提出を求められた。



 当然である。日本ではこういう事態に備えて運転免許証でもマイナンバーカードでも常時持ち歩いているのだが。ここは海外ということで悉く部屋の金庫の中である。
 やむなく取って返し嫁さんに事情を説明するとゲラゲラ笑って「いってらっしゃい」と送り出してくれた。せっかくなので手元にある身分証関係全部持ってて再び出発。
 律儀にもレジ横に取り置かれた2冊を無事購入。日本語に堪能な店員さんに「身分証は日本語のものでも大丈夫ですけどどうされますか?」とおっしゃっていただけたのだが、ちょっと迷って結局無難にパスポートを提出。
 その店員さん曰く「日本と台湾で修正の違いがありますので、ぜひしっかりとご確認ください」とのことで。帰国後じっくりと拝見したが確かに差があった。あまり詳細には書けないので気になるかたはぜひとらのあな台北店でご購入の上、ご自身の目で見比べていただきたい(ダイレクトマーケティング)。
 また、台湾でも「海苔修正」という表現を使うという大変貴重な知見を得た。



 帰途、近場のセブンイレブンに行くついでに峰圃茶荘という老舗のお茶屋さんへ足を運ぶ。割と茶葉の量は充足しているのだが、ここには毎回来ているので今回だけ来ないというのも座りが悪い。高級品からお値打ち品まで一通り購入する。
 セブンイレブンではレンチンする小籠包やら鶏飯おにぎりやらフルーツビールやらを購入。歩き疲れて痛み止めを飲んでしまった嫁さんにはノンアルコールビールを渡して乾杯。この旅最後の夜もご機嫌のまま更けていった。

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2024年2度目の台湾旅行記(3日目)

台北市内には迪化街というエリアがある。問屋街である。漢方薬、乾物、布地等々が主な取扱い物品である。
 1月にも訪れたが、今回も当然足を向ける。
 台北地下街から最寄りの階段を上がってあとはひたすら歩く。万全の日焼け対策と日本よりも低い湿度のおかげもあって無事到着。
 ランドマークである永楽市場で一息入れてから、徘徊開始。旧正月直前だった1月よりも開いている店が多い。店員さんが日本語で試食を勧める声も止むことがない。特にカラスミを売り込む店が多いが、嫁さんが食べられないので買って帰ったことがない。私一人では流石に持て余す。
 また、これは良かったことと言っていいかわからないが巨大重機が道の真ん中で作業をしており、実質的に車道が閉鎖状態だったので過去イチ歩きやすかった。
 端から端まで歩いて店と品ぞろえを確認し、結局いつもどおり六安堂と黄永生という2軒の漢方薬問屋が並んだところでノド飴やドライフルーツを買う。ここだと比較して気に入った方を買うというやり方が出来る。
 乾物はどちらの店も年々取り扱う品が増えていてマンゴーやパイナップルと言ったメジャーなもの以外にもトマトやオクラも並んでいた。
 乾物以外では四神湯や下水湯と言った台湾スープの素もあったが、これは相談の末に断念。
 さっき歩いた時に目星をつけておいた水出し珈琲の店で休憩。

 体力気力が回復したところで昼食として目星をつけておいた【髪/胡】鬚張(ひげちょう)魯肉飯へ向かう。ここは台湾における吉牛的ポジションのお店。
 ぎりぎり正午前だったので待たずに座れた。久々に来てみるとスマホオーダーになっていた。朝食がボリューミーだったので分量的には控えめな定食を選ぶことになってしまったが、定番の味を堪能出来たのは良かった。
 帰りに甜甜圏という人気のドーナツ屋で大量に仕入れて部屋に戻った。今日の夕飯はコンビニ飯で軽く済ませて、デザートとしてこれを貪り食らおうという算段である。
 日暮れまでは涼しい部屋でダラダラと休憩し、夕飯の調達に出る。流石にそれだけだともったいないので台湾最大の書店チェーン誠品書店でウロウロと物色していたら色々と野球雑誌「職業棒球」7月号と「追尋 岡村俊昭」という書籍を発見したので共に購入。後者はかつて9度の甲子園出場を果たし南海ホークスでは首位打者も獲得した台湾出身の野球人岡村俊昭氏の伝記である。
 いいものが手に入ったという以上に、内心で燻っていた野球熱に思い切り火が着いた。同行していた嫁さんに「ちょっと1イニングだけでも見て来たい」と言ったところ「じゃあ本の物色続けてるから行っといで」と返されて。
 台北のお隣新北市にある新荘棒球場を目指す。最寄りの新荘駅へは書店から地下鉄を乗り継いで30分ほど。下車すると出口までの壁面にホームチームである富邦ガーディアンズの選手たちが居た。
 これだけで既に来てよかったという気分になり、駅を出てすぐのところにあった「1135m 新荘棒球場」の看板に従って足取りも軽く歩き出した。
 しかし。結論から言えばこれが罠だった。到着したのは運動公園の体育館のあるほうで野球場は真逆の位置。この時横着せず外周に沿って歩けばよかったのだが、公園を突っ切ろうとしたところ道に迷う羽目になった。
 遠くから響いてくる賑やかな応援のメロディーと歌声を頼りにどうにかこうにか球場にはたどり着けたもののチケット売り場が分からない。右往左往した挙句グッズショップの店員さんに中&英語が混ったカタコトでたずねてようやく聞き出したところこれまた真反対にあり。暗い夜道のなか、えっちらおっちらと球場をぐるり一周してしまった。
 この時既に約束の時間は迫っていたためせめてもの記念にとチケットだけ購入して退散。帰りは駅への順路を示す看板もなかったのでグーグルマップをアテにして歩いたところ半分以下の所要時間で戻れてしまった。最初からこのルートにしていればという思いは振り払っても振り払っても脳裏を去来した。
 すっかりうっかり珍道中ではあったが、台湾プロ野球の現場の熱には触れられたので球場まで来た甲斐は割とあったと思っている。
 その後、誠品書店まで戻って嫁さんと合流しコンビニ飯改めパック寿司とビールを購入して部屋へ戻った。
 この夜は新荘棒球場で味わった熱と音とを肴に痛飲した。

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2024年2度目の台湾旅行記(2日目)

明けて朝。この旅で迎える台湾最初の朝。節々の痛みや頭痛などもなく、日頃に比べると快適な目覚め。
 和洋中の3種が揃ったビュッフェバイキングでたのしく朝食をとり、充実感いっぱいで部屋に戻る。
 本日の予定は多数ある企画の中から遠出のプランをチョイス。魅惑の東部エリアかでかなり迷ったものの、今回は南部に決定。台南へ出て日本統治時代にあった林百貨店をリノベーションしたショッピングモール、その名も林百貨を訪れることにした。
 台北からは台湾新幹線こと台湾高速鉄道(以下高鉄)で台南まで約90分の旅。日本ではもう見かけなくなった700系をベースにした車両。オレンジの帯をまとったその名もT700に乗る。
 我々夫婦もボチボチいいトシなので無理は禁物が合言葉、疲労軽減効果を期待してグリーン車の切符を取った。6号車はほぼ満席で、割とギリギリのタイミングで買った割には横並びで取れてラッキーと思える程度には込み合っていた。
 高鉄ではグリーン車に乗ると珈琲とお茶菓子のサービスがあり、毎度珈琲だけをその場でいただいてお菓子は帰国後に旅路を振り返りながら食べることにしている。
 文字どおりのハイスピードで流れる車窓に目を細めながらいただく珈琲は幸福の名に値する。
 期待どおりさしたる疲労感もなく高鉄台南駅に到着。
 下車してまず向かったのは駅前広場。花魁車地景公園と名付けられたその場所には0系新幹線が生体保存されている。花魁車とは正確には建築限界測定車という名称で、要は車両が通過した時に接触する障害物がないかを確認するための存在である。測定用に装着された当たると折れ曲がる矢羽根が花魁の簪に見えるところから花魁車というあだ名がついたのだが。
 それをわざわざ公園の名前にするあたり、この0系保存にかける意気込みの大きさ強さが窺い知れる。
 1978年生まれのこの車両は2004年まで現役車両として走行したあとに花魁車に生まれ変わりこの台湾へとやってきた。理由は勿論、我々が先程乗ってきた台湾高速鉄道を無事開通させるためである。
 その重責を大過なくに果たして後、歴史的重要性を認められたこの車両は調査研究やお色直し(修復)を経てこの地で長く展示される運びとなったのである。
 幼少期以来、長く私の記憶に刻まれ続けた憧れの超特急。その晴れやかな姿に胸が熱くなった。

 続いては本日のメインである林百貨へと向かうところであるが、市街地方面へ伸びる台湾国鉄(以下台鉄)沙崙線の発車まで少しばかり余裕があったため駅前に出来ていた三井アウトレットパークをちょろっと覗きに行く。
 見れば入口にはデカデカとクレヨンしんちゃんのラッピングが施されているし「春日部 運動會」とか書いてある。もうここ台南じゃなくて埼玉じゃんなどと思いつつ物珍しさから中へと入ってみることにした。寄り道も旅の醍醐味、などと内心言い訳をしつつ。
 ファッションブランドなどは全く知識がないのでレストラン街を中心にチラッとみただけだが、京都勝牛とか北海道スープカレーとかDONQとか鶏三和とか。まぁ、日本でもおなじみのお店が立ち並んでいる。
 まぁ、日本のアウトレットが台湾に進出してきたら期待される姿といっていいだろう。
 のんびりしすぎて乗る予定だった列車を逃してしまったのでタクシー乗り場に向かい「我想去林百貨」とオーダーして連れて行ってもらうことにする。
 日本でもよくあることだが、後から開通した高速鉄道は市街地から離れたところに駅があるもので。ここ高鉄台南駅から台鉄台南駅までは電車で30分ほどと結構遠い。
 しかし台湾は公共交通機関が日本よりもかなり割安なのでタクシーも比較的気楽に使える。しかもこのあたりの高速道路は文字どおりのフリーウェイなのでいちいち追加料金を上乗せされる心配もない。このルートはまだ沙崙線が開通する前、連絡バスで二つの駅を往復していた頃に何度となく眺めた懐かしき車窓に再びまみえることとなる。これが結構嬉しかった。
 市街地に入ると渋滞にも捕まったが、結局30分もかからずに林百貨に到着。
 見上げれば屋上には白地に赤で林と書かれた旗が翩翻と翻っている。あの部分だけを切り取れば日本統治時代そのままであろう。
 当時と違うのは冷房がガンガンに効いているということ。ここまで当時を忠実に再現されては営業不可能であろう。
 忠実に再現と言えば、ここのエレベーターが林百貨店当時の外観を今に残しているクラシカルスタイルで。アトラクション的な人気がある上に狭い。順番待ちの長い行列がなかなか進まないのを見て乗るのを諦め、こちらも負けず劣らず狭い階段をえっちらおっちら登っていく。狭いので行き違いにも配慮が必要だが、それこそ歴史的建造物あるあるなのでその辺を楽しいとすら感じてしまう。

 延々登った先の最上階には喫茶店があり、ここで本日の昼食をとる。私はオムライスカレー、嫁さんはから揚げカレー。そこにプリンやアイスクリームのデザートとドリンクもつける。我慢をしなかった結果、割と盛沢山になった。
 以前はデザートだけだったので、ニンジンやブロッコリーがゴロッと乗った台湾式カレーライスはほぼほぼ初めての経験だ。
 美味しいかまずいかで言えば美味しいのだが、所謂日本のカレーを想定していると違和感が先に立つ。しかしこういう食べ物だと割り切ればスイスイ入る。
 見た目に引きずられるのは食べ物の宿命か。
 アイスは見た目どおりの、いや見た目以上の味で日本にあっても通うレベル。ミルクがいいのか、はたまた製法の勝利か。
 プリンも昭和式の硬いやつで、嫁さんの好みど真ん中だったので非常にご機嫌だった。
 食べ終えると屋上へ上がり、空襲の銃撃痕や神社の痕跡等を神妙な心持ちで見つめ、一礼。
 
 やりたいことは一通り終わったので、あの狭い階段を今度は下りていくターン。上りに比べて列の短いエレベーターを使わなかったのは各階をゆっくりと堪能するためだ。
 下りていく先々には台湾各地の工芸品やら衣類やら調度品やら、工夫を凝らした産物の数々が並んでいて目にも楽しい。しかし、ガラス製品は割れるのが怖いし、靴はかさばるしで。毎回来るたびに物はいいんだけどなぁ、とか言いながら尻込みして結局買わずにいるのである。
 購入したのは1階に並んでいる農産物。中でも振發茶行のものには目が留まる。ここの先代にはお茶の良し悪しの見分け方から始まり数々世話になった。あまりにも良くしてくださるので一度はお土産を持っていったところ「見ろ、これが日本人だ。日本人のいいところだ」とご家族に向かって声高に褒めてくださり大いに恐縮したものである。そんな思い出の店なので本来であれば毎回本店に立ち寄って茶葉のひとつふたつ買っていくものだろうが、今は先代との違いばかりが目についてしまい辛くなるので店にも足を向けなくなりお茶も買わなくなってしまった。
 せっかくなので小箱に入った茶葉を購入。現在銘品としてプッシュされている台湾蜂蜜も一緒にレジへ持っていく。
 あとはバスで台鉄のほうの台南駅に戻るところ、ダイヤの乱れか待てど暮らせど来なかったのでタクシーを捕まえて戻った。
 歩いても20分ほどの距離なので待つより歩いたほうが早かったかも知れない。
 到着してひとつ残念だったことは日本統治時代に建てられた瀟洒なデザインの台鉄台南駅は現在補修工事中で、あの懐かしの白壁を拝むことはかなわなかった。それでも次の100年に向けて手を入れてもらっているのは嬉しいことだ。
 ここから高鉄台南駅との接続駅である沙崙行きを待つ間、ホームの売店で買ったポカリを飲みながらボーっとしていると日本ではもう見られなくなった荷物車2両を連結した客車急行がやってきたので夢中になってスマホに収めた。
 客車急行自体は台湾では本数があるのでそこまで珍しいものでもないが、荷物車2両併結は貴重な遭遇。このほかにも最新型の日立製特急列車が見られるなどして一向に退屈しなかった。
 ちなみにこの時14時半くらいだったと記憶しているが、この客車急行は終点まであと10時間以上かけて走り続ける。途中特急に追い抜かれる待ち時間を生かして荷物の積み下ろしをするなど、日本では昭和の頃に廃れてしまった制度がまだまだ息づいている。
 情緒を揺さぶられ、大した荷物も無いのに追体験のために使ってみたくなったが、その手続きのために乗るべき列車を1本見送るのも本末転倒なので流石にやめておいた。
 高鉄は賑わっていた。乗ろうとしていた台北方面の準速達タイプの列車はグリーン車が満席。普通車指定席でもよかったのかも知れないが、ここは初志貫徹で予定の1本前だが台北到着は準速達よりも遅い各停型の方を選択。無事グリーン車の座席を2つ確保。
 行きと同様にサービスされたコーヒーを飲み、ぼんやりと車窓を眺めていると眠気がやってきたので逆らわず仮眠をとるなどして過ごし台北に戻った。
 部屋に戻り、買い出しした荷物を置いて休憩。グリーン車効果か長距離移動の疲れもほぼほぼ無く、日も暮れてきたので次の外出は夕飯となるわけだが。我々は1月のやり残しを果たすべく台鉄松山駅近くにある饒河街夜市へと足を向けた。
 と言っても目指したのは夜市ではなくその近くにあるアヒル料理の店。1月に来た時には肝心の肉の部分が完売していて脚と内臓しか食べられなかったので再走案件としてやってきたのである。
 幸い今日はしっかりあるとのことで2人前注文し、あとは前回同様内臓のスープと茹でた青菜を一緒にいただく。
 半年待った甲斐のある味。脂身がついているのにクドくなく、またクセもない。なのに旨味はしっかりしている。
 2人で来ているのに感想を言い合う余力もなく、いいトシして黙々と味わって味わいつくして。食べ終えてようやく「うまかった」と言葉を発した。
 満足げな我々を見て店主夫婦も嬉しそうに「マタ来テクダサイ」と日本語で声を掛けてくれた。
 なんだか食べてばかりな日になってしまったが、その満足度は非常に高かった。

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2024年2度目の台湾旅行記(初日)

今年の夏の旅行先をどこにしようかと相談して、やはり台湾でということで話がまとまったのが6月頭のこと。価格や期間についてはかなり厳しいものになる覚悟をして探したところ4泊5日という日程のプランが例年並みの料金であっさりと見つかった。1月末は2泊3日でも非常に高かった(今回とほぼ同額)というのに、実になんとも不思議なことだ。
 ホテルもかつて定宿にしていたシーザーパークが予算内であっさりと取れた。
 現在は1月よりも更に円安が進み両替レートは非常に悪いが正直そのあたりは些事である。その辺はどうとでもなることだ。計画を立てたり行きたいところの下調べをしたりするうちに時間は矢のような勢いで進み、割とあわただしく出発当日の朝を迎える。
 7月10日朝、自宅から車で関西国際空港へと向かいチャイナエアラインCI157便で一路桃園国際空港へと飛ぶスケジュールとなっている。
 手続き開始時間に合わせてチェックインカウンターに並び早々とスーツケースを預け、その足で手荷物検査も込み合う前に抜けてしまう。この辺は前回の経験、というよりも長年の蓄積から来ている。
 指紋を登録してるので出国審査も並ばずにあっさりと抜けられた。事前準備が8割とはよく言ったものだ。
 その先にある制限エリアでは喫茶店で一息入れた後は搭乗ゲート付近でひたすら開始時間を待つ。どうせ夫婦そろって暇つぶしには事欠かないのでこれで十分。一時期はここでラウンジを使えるようになるためだけにクレカをゴールドに変えようかと思ったこともあったが、今はゴールドカードも一般化してラウンジも満席だったとかとかいう話を見聞きするとしなくて正解だった気がしている。
 そんな感じで退屈とは無縁なものでアナウンスが流れても「あとちょっと、キリのいいところまで」などと言ってゲームにかまけたりしている。
 それでも優先搭乗が終わるころには流石に手仕舞いして列に並ぶ。
 後方の席なので座ってから離陸までが若干長くかかるが、待つという程にかかるわけでもない。
 それよりもここのところ続いていた睡眠不足から眠くなってしまい、離陸の瞬間はすっかり寝落ちしていた。
 目覚めた時には既に空高く雲の上。まもなく機内食タイムとなる頃合いだった。
 エコノミーでも2種類から選べるのだが、この時キャビンアテンダントさんから日本語でも英語でもなく中国語で話しかけられてしまうのはなぜなのか。他の日本人は軒並み英語で聞かれていたというのに。
 ともあれ。チキンかポークの2択だったので私がポークを嫁さんがチキンを頼んでみたところチキンはカレー、ポークは豚肉丼だった。ライスとは別にパンもつくのだが、これにつけるためのバターがいつもながら非常に美味い。単体で売っていたらぜひ買いたいレベルで美味い。
 食後、片付けも終わって残り少ないフライト時間だったが上空11000メートルで感想や小説、そしてこの旅行記の下書きを書くなどしてぬかりなく過ごす。
 想定よりもベルト着用アナウンスが早いなと思って時計を見たらそれもそのはず、予定より30分近く巻いていた。
 この巻き到着のおかげで桃園空港に到着後は他の便とタイミングがかぶってしまいいつもより諸々に時間を要する。これじゃ早く着いてもあんまり変わらないなと内心ボヤキつつも粛々と列が進むのを待つ。
 我々の入国審査自体は大変スムーズに終了。スーツケースのピックアップをしたら日本円を台湾元へと両替する。
 いつもなら窓口を使うところ、自動両替機でやると手数料がかからないという情報を事前に仕入れていたので試してみる。きちんと日本語対応もしていて問題なく両替完了。レートが悲しいことになっているので台湾元で支払う手数料が0になるのは地味にありがたいことだ。
 さて、今では両替と同じくらい重要事項になったのがスマホ利用環境の確保だ。私はdocomoの海外利用プランを予約していたので何もせずそのまま使えるのだが、嫁さんは私が両替している間にSIMカードを買いにカウンターへ向かって行った。
 そんな感じでお互いの用事がちょうど終わっていつもどおり地下のフードコートへ移動して休憩タイム。
 今年1月に来ていてマンゴージュースに懐かしさを感じるほどには間が開いていないのだが、それでもしみじみと飲んでしまう。
 気力体力の回復を果たせたところでホテルへと出発する。台湾の交通系ICカードであるところの悠遊カードにチャージをしてから台北行きの地下鉄空港線に乗る。
 改札手前で台湾人と間違われてアンケートに捉まったりしたものの誤解は無事解けて快速列車に乗り遅れずに済んだ。
 これまでも世間話を中国語で話しかけられたり道を聞かれたり、バス停で「○○行きたいんだけどこのバスでいいの?」と問われたり色々経験してきたがまたひとつ実績が解除されることとなった。
 車中は特に何もなく。車内広告にポケモンがあったり地上に出てから三井アウトレットパークが車窓に見えたりグーグルマップのお勧めに日系スーパーロピアが出てきたりした程度である。
 台北駅に到着後は歩いてホテルへと向かう。前回と違って台北駅前という好立地のシーザーパークホテルが取れたので今回は遠出をするのも非常に気軽になった。
 シーザーパークの利用は6年ぶり。2度目の台湾旅行で使って以来、予約がいっぱいだった時と料金的に大変厳しかった今年1月以外は毎回使っているので10回目くらいになるだろうか。それでもブランクが長いのでちょっとした変化にいちいち戸惑ったりする。チェックイン時に個人情報保護についての説明と了承のサインを求められたところなどは特に表情に出ていたようで「お手数をおかけします」と日本語が堪能な受付担当者に詫びられてしまったほどである。
 そんなこんなの末に手続きは完了しエレベーターで部屋へと上がっていく。割り当てられたのはなんと最上階の20階。しかも窓からいつでも台北駅が見下ろせるという鉄道好きには最高の部屋だ。
 屋上庭園へ通じる階段にも近く、上がってみたが台北市内を一望できる。台北駅は完全地下化されているので列車の行き来を眺めたりは出来ないのだが、そうでなければ4泊5日を部屋の中からひたすら列車を見て過ごしかねない。
 荷ほどきをしているうちに時は既に夕刻を過ぎ夜の領域に差し掛かった。亜熱帯の国なのでこれから涼しくなる時間帯、ガッツリとお出かけするのも悪くはない。というかその昔はそんなスケジュールを組んで当然のように実行していたのだが。
 そんなことをして翌日動けなくなるともったいないというのが今の我々における現実。
 夕飯を食べに外へ出て、そのついでに買い物をする程度に留めようという結論に至る。その夕飯も入国初日ということもあり、無理せず近場で済ませようということで合意。文字どおり指呼の距離にある台北駅2階のフードコートに気に入りの店があるので1も2もなくそこに決定。
 シーザーパークは地下1階が地下街と直結しており、昼間は日差しに焼かれずに夜も蒸した外気に晒されず外出できるのが大きなメリットだ。
 快適な移動で目当ての店に到着してみるとなんと別の店名に変わっており、料理の方向性は同じだったもののメニューも当然リニューアルされていた。それでも好物のサバヒーは食べられることを確認し、定食を注文。
 これまでの蒸し物からスープに変わっていたもののわさび醤油はついてきていたので蒸し物の時と同じように味わった。
 セブンイレブンで飲み物やカットフルーツなどを買い出しして部屋に戻る。
 カットフルーツはパイン、マンゴー、パパイヤというラインナップからなかなか日本ではお目にかかれないという理由でパパイヤを選択。
 夕食からデザートまでこれぞ台湾という味を満遍なく堪能し、大いに満足して就寝。

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台湾旅行記2024 3日目

最終日。

 帰国便は14時20分発なので午前中いっぱいは楽しめる。空模様は不穏だったがやれることはいくらでもある。
 昨日より少し早い時間に朝食を食べ終えてとっととチェックアウトしてしまい、ホテルの人に呼んでもらったタクシーで空港地下鉄台北駅へと向かう。
 初日に30分待たされたあのタクシープールに降り立つと、もう帰らなければならないのかという思いで全身が満ちる。しかし帰らなければならないからこそ、残りの時間を悔いなく使うべきである。
 そのためにもまずはインタウンチェックインカウンターで中華航空に荷物の預け入れをしてしまう。
 スーツケースを預けてしまう。このあと買い出しをするのでそのあと預け入れるのでもよかったが、離陸3時間前がタイムリミットなのでもしギリギリアウトということになると泣くに泣けない。
 概ね欲しいものは揃ったし、どうせそんなには買えないのでストレスを軽くする道を選択。
 ちなみに台北駅で預け入れが出来るのは今回の中華航空を初めとする台湾系航空会社ばかりなので、この便利さを覚えてしまうとどうしてもそれを念頭に航空会社を選ぶことになるのである。
 さらにちなみに。日本でも京都駅などで同じ試みをしていたことがあったと記憶しているが、2001年のテロ事件きっかけでやめて以来復活していない。まぁ、日本の場合成田はともかく関空でやろうとすると京都新大阪から荷を関空特急はるか号に積んでということになるわけだが、これが経由する阪和線の遅延率が高かったのでさもありなんと思ったものである。
 南海は遅延率が低いのでそちらだけでもなんばから利用出来るようにしたらよかったのかも知れないが、まぁ、いずれにしても台北~桃園空港間と違って有料特急の車両に積むことになるだろうから無料でサービスするというのは厳しいだろう。
 閑話休題。
 さて。身軽になったところで午前中のハイライト、希望廣場で開催される農市へと向かいたいところだったが開場は10時から。
 今回オタ向けの本屋にしか行けていないので一般向け書店である誠品書店のうち24時間営業している支店がある松山文創園区へと向かった。
 最寄りは地下鉄板南線の国父紀念館駅。台北駅から乗り換えなしの5駅な上、希望廣場のある善導寺駅とも同じ路線なので何かと都合がいい。
 まもなく完成する台北ドームの最寄り駅でもあった。
 記念撮影用に顔出しパネルが設置されたのミニグラウンド(なんとロッカールーム付き!)、壁面いっぱいに「看棒球,搭捷運!(地下鉄に乗って野球を観よう!)」のポスター。なるほどここが台北の新しい野球の都になるのだな、と感慨深くなった。
 地上に出ると、目の前にいきなりドーム球場が聳えていた。外壁にはガラス張りの部分が多く、あまり見たことのないタイプだ。ちらりと覗く丸っこい屋根だけがここを野球場だと主張しているようだった。
 予期せずにいいものが見られたと思ったら、それを埋め合わせるかのように雨が降ってきた。南国台北とは言え冬はそれなりに寒い。希望廣場と違ってこっちはそれなりに駅からの距離がある。雨に打たれてうっかり風邪でも引いてしまうと出入国が面倒なことになる。
 最悪の事態だけは避けたいので泣く泣く断念して希望廣場へ。駅出口からは横断歩道以外は屋根のある部分がほとんどなので無事濡れずに到着。
 まだ10時にはなっていなかったがどうせ早めに開けているだろうと思って行ってみると案の定もうフルオープンしていた。
 ただし、記憶よりも面積が減じており、いささか小ぢんまりしていた。減った部分はきっちり駐車場に変わっていたのでこの辺りの変化も観光客減少の影響なのかも知れない。
 ともあれ、夢にまで見た農市である。
 今回のメインターゲットは茶葉と珈琲豆。いつもはこれらに加えて蜂蜜も買うところだが、もうスーツケースを預けてしまったのでこれはどれだけ売られていても見送るしかない。
 ぐるっと一周まわって見ての印象では売り物はしいたけ、葉物野菜、柑橘系果物、米が多かった。しいたけはどうだったか定かでないがそれ以外は確実に持って帰れない。そしてスーツケースを先に預けたことを後悔するくらいには蜂蜜が売られていた。
 ともあれ。珈琲豆は1カ所、烏龍茶は4カ所ほど取り扱いがあったのでとりあえず豆を先に買い、あとはもう一度値段や種類を確認しなおしてからこれぞと思った店で茶葉を買う。
 たとえ気に入っても農市は個人レベルの業者ばかりなので出会ったものはもう2度とは買えない。いざ産地まで買いに行くとなると台北から往復に丸一日かかるような場所にあるのがほとんどであるし、送ってもらおうにも台湾国内でならば取り寄せ可能でも国際通販していることは皆無だからだ。
 むしろ、だからこそ我々夫婦はこの農市を愛してやまない。この便利な時代に一期一会という言葉をこれほど噛み締められる場所はない。
 実はもう1カ所、花博農市というものもあるのだが残念ながら時間と体力気力の関係からパスせざるを得ない。
 少なくない成果を手に空港地下鉄台北駅へと戻り、まだ少しだけ時間が取れたので関空からの運転を想定して20分だけマッサージを受ける。『摩力充電站』という実に素敵な店名のそこは視覚障害を持つ方の施術が受けられるのだが、これが実に上手で。体内の奥深く密かに潜んでいた頭痛の種がスウッと退治されていくようだった。
 心身ともに軽くなり、地下鉄に乗り込む。発車5分前の快速列車は既に座席がほぼほぼ埋まっており、嫁さん分をようやく確保して私は立っていると。地元っぽい方から話しかけられた。新北がどうこうというのだけは聞き取れたがそれ以上は無理だったので必死に記憶の淵を掻き回しながらようやく「對不起、我是日本人。我不知道(すみません、私は日本人です。わかりません)」とだけ返した。念を入れて英語でも同様のことを告げようとしたところ、途端「え?」という顔をされて「スミマセン」と片言の謝罪をされた。別に謝っていただくほどのことはなく、かえって申し訳ないという思いすらある。
 かつて、毎年台湾旅行をしていた頃はそのたびに毎回毎回地元民と間違われて道を聞かれてきたものがまさかこの2泊3日という短い滞在でも遭遇するとは思わなかった。
 あとは特筆すべき何事もなく、桃園空港に到着。
 40時間ぶりくらいに再会した改札をくぐりチェックインカウンターの行列を横目にとっとと保安検査場へ。
 土曜日にしては空いている、くらいの待ち時間でクリアするとまずは昼食。搭乗後に機内食が出るのをわかっていても、桃園空港のフードコートで台湾料理を食べたくなってしまう。これもまた、かつて何度も繰り返してきた習慣。嫁さんは香港のチェーン店らしい萬芳冰室へ、私は昨日の昼に食べ損ねた小南門へと向かう。昨日うっかり羊を選んで食べ損ねた魯肉飯定食にここでようやくありつけた。
 さぁ、これで悔いはないか。ノー!もしくは不是!
 残り時間を生かしての買い物タイムは空港最後のお楽しみ。まずは自分用土産として日本に持ち込める自販機のお茶をと思ったらこれがことごとく緑茶だったことにくずおれそうになった。
 まぁ、これはこれでということで1本買ったが出鼻を挫かれたのは間違いのないところ。結局このあと土産物店を数々まわってみたが欲しいと思うものには出会えなかった。
 ただ、休憩用ソファの横にマジンガーZの立像を見つけた。人の背丈ほどのそれは以前からここにあったのかも知れない。偶然なのか意図的なのかはわからない。しかし、今ここに被災地輪島とつながりがあるものが展示されているということに台湾らしさを感じた。
 これが結局一番の空港土産となった。



 謝謝台湾、再見台湾。

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台湾旅行記2024 2日目

2日目。
 フルで使えるのはこの日が唯一。幸いにして昨日15,000歩近く歩いたダメージはほぼ無く。朝から出かけるのに何の支障もなかった。
 ホテルの朝食バイキングをきっちりといただいてからまずは早朝からやっている雙連朝市へ。行天宮駅まで歩き、民権西路駅で下車。少しばかり南下すると朝市が見えてくる。大変活気があり、ぶらぶら歩くだけでも楽しくなる。しかし、残念ながら冬場なので果物が少ない。豊富なのは柑橘系だがこれはわざわざ台湾で買って食べなくとも、ということで食指が動かない。
 嫁さんが傘を持ってこなかったので、朝市の雑貨屋で買って帰ろうかと思って除いたところ。想定より遥かに高くなっていた。毎年のように来ていたころは折りたたみ傘がとても安く、なのにとても頑丈で良質だったため毎年のように1本買って帰っていたのだが。見ると記憶にないような値段がついている。レート上の問題ではなく、99元くらいで売っていたはずの傘が底値でも399元くらいになっていた。
 これなら日本で買ったほうが安いなということで断念。また、かつては1つ2つあった烏龍茶を取り扱う露店もなくなっていたので戦果なく撤退。
 台北最大の問屋街である迪化街まで1.5キロくらいなので歩いて向かう。最寄りの駅からでも1キロくらいは歩かねばならないのでそれなら一々地下鉄に乗るより歩いたほうがずっと早い。
 車社会にどっぷり漬かりきった人間なので若干不安もあったが、ほぼノーダメージで歩き切った。
 まもなく旧正月、中華文化圏的に言えば春節ということで一帯は賑やかに飾り付けられていて大変華やいだ雰囲気だった。
 それは大変良いことなのだが、やはり店の数は減っているようで。ぽつぽつと存在する空き店舗がとても目についた。
 私がヒイキにしていたお店は生き残っていて目当てのドライフルーツは無事手に入りそうだったが一方でお茶を取り扱っている店がない。これまでは「本業じゃないけど一緒にどうですか?」みたいなノリでレジ横に置いてあったところも珍しくなかったのだが。
 一通り歩いてから『永楽市場』という看板が掲げられた大きな建物の中で休憩場所を探す。中は屋内市場になっており、4階まであるらしいのだが今回は買い物目的ではないので1階のみを回る。
 かつては『永楽布業商場』『永楽布市場』という看板だったくらいで布地関係が主流だったが今は食材など飲食物関係が多い印象。どこか落ち着いて休める場所はないかとうろついてみたところカウンター式の珈琲店を発見したのでそこに腰を据える。
 豊富なメニューの中から嫁さんは黒糖カフェラテを、私がバニラカフェラテを選択。これが冷えた身体にしみじみと美味い。コーヒーとミルクの向こうに仄かに、だが確実に存在するバニラの香りが心地いい。
 フラッと入った場所でこういう味に出会えるのだからやはり台北はいい街だ。
 心身ともに暖まったところで永楽市場を出て買い物に戻る。六安堂と漢林蔘薬行というお店でパイナップル、イチゴ、マンゴー、そしてお店特製ののど飴も購入した。
 主目的を果たせて一安心だが、しかし、やはりお茶は手に入らなかった。このあと大本命のお店に行くのでそこですべて買えばいいのだが、そこは老舗だけあってお値段もそれなりにしてしまう。気軽に飲めてちゃんと美味しいというレベルのものを事前にある程度揃えておきたかったのである。
 どうやら事のついでに買おうとすると無理らしいというがわかってきたので、専業店へ向かうことにした。そこでメインストリートから少し外れたところにある茶樂樓というお店へ足を運んだ。
 店内はなぜかほうじ茶の香りで満ち満ちていて一瞬ギョッとしたが別に店を間違えたわけではなかった。
 ここは店主が日本人なので試飲をさせていただきながらざっくばらんに色んなお話を聞くことが出来た。
 お茶を扱う店が減っていることについては店主の方曰く「日本人観光客が来ないからね。お土産にお茶を買うのは日本人くらいだから。西洋の人は烏龍茶飲まないし」ということらしい。
 なるほど、ゆえにこの店でも台湾人向けに仕入れたと思しき宇治小山園のお茶が棚ひとつを埋めているし、店内には烏龍茶ではなくほうじ茶の香りが漂っていたわけである。
 我々は台湾をこよなく愛するがゆえに無理に無理を重ねてシーズン外に訪れたものの、これは到底一般的な旅行形態にはなりえない。台湾ドルがもう少し安くなり、その上で航空運賃も今少し下がらないとかつての様に大量の日本人観光客が戻って来るとは思えない。それについては台湾側、もしくは日本側が努力してもどうにもならない面があるので世界情勢が好転するのを祈るばかりである。
 あまり明るくない話題が尽きたところで購入したお茶を抱えて店を出る。
 このあとは前回大量購入して帰国した台湾ドーナツの店へと向かったが、狭い店の前に羊腸状に形成された行列を見て断念。ざっと数えて30人以上いたのでこれはもうやむを得ない。次回に期待ということにする。
 じゃあ休憩を兼ねて昼食でもという話になり、地下街をぶらぶらと歩いて眺めて食べたいところが見つからなければ台北駅で探そうということになった。
 しかし。まだ若干昼食には早いため、食事が出来そうな店はあまり開いていない。
 道中、ゲーセンがあったり天井から吊り下げられたFateの広告を見かけたり落書きコーナーで雪風と出会ったり。そうそう、ここオタ街だったわと思い出し、漫画専門店『瘋』に立ち寄ってみる。版権取得して翻訳された漫画や日本からそのまま輸入された雑誌などに加えてグッズ類もずらっと取り揃えられているのは記憶そのままの光景だ。
 台湾と日本とではゾーニングが違うため思わぬものにR18指定がかかっていたりするのだが。新刊コーナーに並ぶ『帝都聖杯奇譚』の4巻にシールが貼られているのを見た嫁さんが「ということは2巻を買えば以蔵さんの横にR18表示された公式本が手に入る」などと言いだしたため夫婦そろって捜索開始。
 出版社が分かっているので捜索自体は簡単だったが、残念ながら1巻しか見つからなかったので断念。手ぶらで店を出るのも惜しかったので同人誌即売会のカタログを購入。
 さて今度こそ食事をと思ったものの。地下街の出口案内に『台灣漫画基地』という文字列を見つけて再び寄り道決定。
 目指す店は階段を上がって5分ほど歩いたところにあった。店内には日本の漫画はほぼゼロで、並んでいるのは台湾産のものばかり。なので帝都聖杯奇譚は置いていなかったが、代わりと言っては申し訳ないが『異人茶跡』という台湾茶の黎明期を描いた漫画の、私の手元になかった3~5巻が手に入ったのは僥倖と言うほかない。やはり寄り道はしてみるものだ。



 さて。店を出るといよいよ昼飯を真剣に算段しなければいけない頃合いになってきた。
 地下街へと戻る道すがらにちょうどQスクエアというショッピングモールが目に入り、そこの地下のフードコートで食べていこうという結論に至った。
 嫁さんは『小南門』という台湾料理店、私は『蜀羊』という羊肉料理の店を選択。前者は日本人にも知る人が少なからずいる老舗で私も当初はそこにする予定だったのだが。羊肉料理というのと店名に蜀の字が使われメニューに三國志の武将の名前が入っていることに惹かれての選択。
 基隆の夜市で魯肉飯によく似た羊肉飯というものを食べたことがあり、その味付けを想像していたのだが、食べてびっくりカレー味だった。そうわかって食べれば問題なく味わえるのだが、最初は本当に驚いた。
 さて。腹も満ちたところで買い出しモードに戻る。徒歩で峰圃茶荘というお店へと向かった。
 ここは台北有数の老舗。私の祖父が大戦中日本からフィリピンへの移動中、台湾の基隆港に立ち寄ったそうだが、その際いつ緊急出港するかわからないから遠出禁止だったのにも関わらず抜け出して台北市内まで茶の買い出しに行ったそうで。
 それ、もしかしたらこの峰圃茶荘さんだったかも知れないなぁ、と。ここに来るたびいつも祖父の話を思い出してしまう。
 椅子を勧められ注文票を渡されてまずは内容をチェック。
 元々高級な茶葉を扱うお店なのであるが支払った金額以上のものばかり。味も香りも申し分ない。重量制限ギリギリまで買って帰りたい。しかしいつもと違って手持ち資金との兼ね合いで悩む羽目になる。記憶より値上がりしている上、円安も考慮するとなれば気軽には手を出せない。
 チェックしていくうちにこの店の隠れた名物マイタケチップスが注文票に載っていないことに気が付く。店内を見回しても見当たらず、どうやら扱いをやめてしまったらしい。自家用以外にも友人へのお土産用として考えていただけにいささか困ったことになった。
 いつもより増えた悩みの種と格闘することしばし。試飲をさせていただきながらああだこうだと夫婦間の協議を重ねた結果最高級1箱、高級2箱、ティーバッグ2箱、パイナップルケーキ4箱を注文。紙袋1つで収まる程度の量だが、これでも予算的には精一杯。以前は持ちきれないほど購入し、ホテルの部屋まで配送してもらったことすらあったというのに。
 それでも、これと迪化街の分とを合わせてかなりの重量になったのでいったんホテルに戻って身軽になる。
 今日は既に1万歩以上歩いているのだがまだまだ二人とも元気が残っていたので、続いてはかつての定番買い物先だったスーパーマーケットへと足を向ける。ホテル近くの『全聯』はこじんまりとしていてあまり探し甲斐がなく、もっと大きな店舗を求めてGoogleマップに望みを託す。
 台湾にはかつて『頂好(wellcome)』というチェーン店があったのだがこれも今は名前も経営母体も変わってしまったらしく、名前で検索しても出てこない。なおも検索してみると『家楽福(カルフール)』という店が徒歩圏内にあった。
 美食で知られた錦州街をぶらぶら歩いて到着。
 地下への階段を降りるとまさに思い描いていた台湾のスーパーマーケットの姿がそこにはあった。「頂好と似てるなぁ」なんて話していたのだが、後で調べてみたらどうやら頂好をカルフールが買収したらしい。そりゃ似ているわけだ。
 しかし、売り場の配置は似ていても売り物まで同じというわけではなく。かつて台湾のスーパーならどこでも見かけたバラマキ土産好適品が見つからない。
 ああ、こんなところにも影響が出ている。うろうろと探し回った挙句どうにかこうにか箱菓子を見つけたがこれが個包装されていなかったため配布の際には往生した。
 あとは友人へのお土産として蜂蜜を購入し、それ以外にもホテルで飲食する用のおやつ菓子や自家用土産としてお安い烏龍茶ティーバッグを購入し、店を出る。
 と、いいだけ買い物をしたはずなのだがカルフールでも見つからなかったものがいくつかある。まず台湾製ヘチマ成分の入った洗顔フォーム。あと、せっかくホテルの部屋にバスタブがあるのだから使い切りタイプの入浴剤も欲しい。
 そんなわけでお次はドラッグストアを目指すわけだが。とりあえず入浴剤については台湾マツキヨや日薬本舗に行けば確実にあるだろうが、それらの店は当然日本からの輸入品しかない。だったら日本から持ち込めばよかったじゃないかという話になってしまう。せっかくなので入浴剤も台湾オリジナルのものが欲しい。
 という理由から『屈臣氏(ワトソンズ)』というドラッグストアへ。
 目当ての台湾オリジナルの入浴剤、確かにあったがよりにもよって吉野櫻と言う名前で「東京の吉野櫻の成分を使用しています」と書いてあってもう降参するしかなかった。
 なおヘチマの洗顔フォームは置いていなかった。4年前に来た時もドラッグストアにはなかったので『光南大批發』というディスカウントチェーンの店で見つけたのを思い出し、明日余裕があれば行ってみるかという話になった。
 以前ならばこの日のうちに自分一人ででも買いに行っていたところだが、アラフィフになった今では流石に洗顔フォーム1つのためにそこまでやる気力がなかった。
 再び大荷物を抱えてホテルに戻り、スーツケースを開けて整理を進める。2人いるというのはありがたいもので、結構な大荷物だったはずがあっさりとしまい込まれていく。
 おかげで想定より早く終わってしまい、時計を見ても夕食にはまだ少し早い頃合い。
 温泉がいいかマッサージを受けようかという提案を出し合っていくうち、ふっと思いついた。『帝都聖杯奇譚』の2巻、置いてそうな店に心あたりがあるぞ、と。
 アニメイトととらのあなである。そう。台北には両方存在しているのだ。しかもありがたいことに両店は隣同士とまでではないが、ほど近い場所にあってハシゴするのも苦にならない。
 問題はホテルから両店のある西門エリアまで地下鉄で行こうとすると乗り換えがちょいとばかり面倒である。しかし夕方の混雑する時間帯にタクシーを使うのもなぁと思い、ふと台北公車隊というアプリでルートを調べてみたところホテル最寄りの行天宮バス停から目的エリアの近くまで行くバス路線があった。
 台湾は公共交通の安い国なので初乗り15元(=75円)と今のレートでも一切の気兼ねなく乗れる。じゃあこれで行ってみるかと軽い気持ちでチャレンジしてみたところ。
 バスは台北市内の渋滞を縫うように走るためか急発進急停車を繰り返して走る。また、舗装が痛んだ部分を通過するたびプラスチックの硬い椅子を通じて振動が骨身に響く。酔うところまではいかなかったが、なるほど嫁さんが気乗りしない顔をしていたわけだ。
 地下鉄よりも早く安く、そしてタクシーと比べてもさして遜色ない時間で到着できたとは言えこれでは気軽に使えない。
 ダメージを回復させつつ歩を進めればバス停からとらのあなへは5分とかからずに到着。店はビルの2階にあるので受付のおっちゃんたちに軽くジェスチャーをしてから階段を上がる。





 自動ドアを開けて店内に入れば正面にいきなりFateの同人誌が面出しで並んでいる。これは間違いなくとらのあなである。しかも同人誌がオール日本語なので一見するとここがどこだかわからなくなりそうだった。
 何を見ても興味深い光景なので可能であれば店内の様子を撮影したいところだったが当然ダメなのでそこかしこを記憶に焼き付けながら商業誌コーナーへ。
 台湾角川エリアはすぐに見つかり1巻と4巻はあったが2巻3巻はなかった。土佐組人気だな、などと内心ボヤきつつもせっかく来たのだから日本直輸入同人誌や台湾オリジナルの同人誌を見てまわり、せっかくなので暖簾の向こうの18禁コーナーまで覗かせてもらった。一言で言うとすれば「見覚えのあるやつが大変多かったです」というところだろうか。
 見覚えのない台湾オリジナルの同人誌には一次創作も二次創作もあったがBL率が高くてちょっと手が出せなかった。異人茶跡との最初の出会いが同人版だったことを思うと深く分け入って探索してみたくもあったが、当初の目的を果たせていないのでオリジナルのステッカーだけ買って撤退。



 次回の渡台時にはこれをスーツケースに貼る予定にしている。今からその日が楽しみでならない。
 さて、続いてはアニメイトであるがここはらしんばんと店舗が一体になっていてその分混雑も激しい。



地下に広がる奥行きのある店内は書籍もグッズも充実している上に撮影コーナーらしきものまであり、若者がひしめいていた。その人波をかきわけるように進んで台湾角川エリアに『帝都聖杯奇譚』が無いことを確認するとすぐにも撤退せざるを得ないほどだった。
 結局らしんばんエリアには足を踏み入れることすら出来なかった。どうもこの日は台北市内でゲーム関係のイベントが行われていたようで、この賑わいはどうやらその影響によるものらしいがいやはや景気のいいことだ。台北地下街のひっそり具合とは雲泥の差である。
 まぁ、成果には乏しかったがいい時間つぶしにはなった。エネルギーを消費したので食欲も増進されている。というわけで本日のディナー、台北最後の夜は台北駅2階のフードコートでいただく。
 豊富な選択肢にも迷うことなく台南擔仔麺を選択。台湾旅行の際には必ず1度はここで食べている。今回もその吉例を守ることができて何よりだ。
 ただ、この店名には申し訳ないことに擔仔麺を頼んだことはない。いつもいただくのは虱目魚(サバヒー)という白身魚の蒸し物定食である。
 虱目魚は白身だがしっかりとした旨味があり、独特の風味もあって台湾に来ると必ず食べている好物だ。臭みというかクセがあるので針生姜とわさび醤油でいただくのだが、一口食べるだけで白飯が進む進む。
 あっという間に平らげてしまい、嫁さんが食べ終わるのを待ちながら幸せな余韻に浸った。

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台湾旅行記2024 前日&初日編

私は帰ってきた!アナベル・ガトーよりも長い4年のブランクを耐えて忍んでようやく今、台湾桃園空港に降り立つことが出来たのだ!と、飛行機が着陸した瞬間心の奥底で絶叫していた。

 思い返せばようやく渡航できるようになった昨年の夏は費用が恐ろしく高くてどうにもならなかった。その後、少しずつ少しずつ値段が落ち着いてきたものの。まだ高いまだ高いと言っているうちに短い秋も終わってしまった。
 そうするうちにどうにかこうにか予算内のものを見つけて予約をかけた。そのために有給休暇を2日も取らねばならなかったが、安い代償である。

 ただし、久々なので色々と忘れてしまっている。そのため準備からして色々と手間取ってしまった。
 ようやく前日を迎えて、さて荷造りをしようかとスーツケースを引っ張り出したら聞きなれぬ異音がした。ひっくり返して見ると車輪部分のプラスチックが劣化してボロボロになっていて脳内が一瞬真っ白になった。
 え?これで台湾行けるんか?と困惑している暇もなく。嫁さんともども検証してみた結果「無理」ということになり。急ぎ近所でスーツケースを売っている店を検索すると、かつて取り扱いのあったところはいずれも無くなっており。それなりに離れたイオンまで行かないと買えないぞ、ということが判明した。「どうせ行きはそんなに荷物ないんだし、いっそ明日関空で買うか?」と思ってみたがどうやら関空にも無さそうだとなって急ぎ車を出した。
 前日であったのが不幸中の幸い、なんとか入手することは出来たが手痛い緊急出費だった。
 思わぬアクシデントを無事に切り抜けての出発当日。寝坊することも致命的な渋滞に出くわすこともなく我が愛車は無事関西国際空港第一駐車場へと到着した。
 色々と事前情報が耳に入っていたのでとっととチェックインを済ませようと思ったが、まだカウンターが開いていない。
 仕方ないので時間つぶしがてら一旦休憩しようと思ったが国際線用の4階には喫茶店も何もなく。やむなく2階まで降りていく。
 ぐるっと回ってみてもあまり気乗りがしなかったので交代で荷物番をしつつトイレに行き、自販機でホットコーヒーでも買って飲もうかとしてハタと気づいた。
 スマホが見当たらない。さっきまで手にしていたというのに。ウェストポーチにもズボンやコートのポケットにも見当たらない。旅程表もEチケットも全てスマホの中なので見つからなければ最悪飛行機に乗れない。顔面蒼白になりながら移動経路を全て辿りなおしたりもしたがやはり落ちてはおらず。もしやと思ってスポーツバッグの中身を全て取り出してみたところ、奥底からようやく発見できた。勿論そんなところに入れた記憶など微塵もないのだが、あった以上些細なことはどうでもいい。
 しかし、我が事ながら先が思いやられる。まぁ、おかげで1円も使わずいい時間つぶしになったのも確かなのだが。
 時計を見れば受付時間を過ぎていたので今回搭乗する中華航空のカウンターへと向かう。手続き開始したばかりだというのに既に長蛇の列が出来上がっている。やれやれと思いつつその最後尾につこうとすると係員から「オンラインチェックインはお済みですか?」と訊かれた。まだですと答えるとそういう人間向け窓口の列へと誘導される。
 これがひとつだけなので進みが悪い。おかげで待っている間何度も不安に駆られて荷物の再確認を繰り返す羽目になった。
 逆に保安検査場は事前に聞いていた噂の様な行列もなくあっさりと抜けられた。
 出国審査は大昔に指紋登録してあるのでこれも待機ゼロ人の自動ゲートをするっと抜ける。
 ホッとしたのも束の間、その先の動線が変わっていて大いに戸惑うこととなる。かつてとは違い免税店の前を抜けないと辿り着けなくなっており、頑張って人混みをくぐり抜けて搭乗口を目指す。ゲームならクソ設計もいいところだが現実問題空港の収益向上という視点からすると間違っているとも言い難い。
 ここまでのアクシデントですっかり体力気力を削られてしまったが、搭乗口近辺に空いた椅子を見つけて確保すればもう大丈夫。さて、あとは搭乗までの時間をどうつぶすかだが、当然格安チケットなのでラウンジなどは使えない。とりあえず飲み物を買おうと思ったところコンビニが見当たらないし自販機も見つけられなかった。とりあえず日本食レストランのようなところで持ち帰り用として販売していたペットボトル飲料だけは仕入れられた。
 これは食前薬を飲むために買ったはずなのだが、喉の渇きに耐えかねてうっかり飲み切ってしまった。もう1本買おうにも300円という空港価格なので気が乗らない。何しろ諸々の費用で財布がすっかり薄っぺらくなっており減らせる支出は少しでも減らしていきたい。という事情から食前薬を機内で食後に飲む羽目になった。本当にグダグダである。
 搭乗開始時間となり、機内へと吸い込まれていくと記憶よりも設備がグッと新しくなっていた上に座席間隔も広くて非常に快適だった。今回乗る機体をずっとエアバスA330だと思っていたのが実際はボーイング777 300ERで、新しい機体の分サービス向上しているんだろうなどと話しているうちに機体の扉が閉じられて離陸準備が始まる。
 うっかりと先日知ってしまった不吉な替え歌が脳裏をよぎったりしながらも無事離陸して一路台湾桃園空港へのフライトが始まった。
 飛行姿勢が安定するとまず機内食タイムである。メニューはまさかのカレーライス。中華航空のイメージからは完全に想定外だったが、ちゃんと美味かったので何の文句もない。流石医食同源を掲げる会社である。
 食後はいつもならパソコンを取り出して文章打つなどするのだが、今日は久々であるしアクシデントで心身ともに疲弊しているしで流石に休養を優先して寝に入った。
 それまでの疲労もあってか着陸態勢に入るとのアナウンスが入るまでガッツリと寝ていた。特筆すべきこともなく無事着陸し、無事台湾の土を踏むことが出来た。内心密かに打ち震えていたのは前述のとおりである。 
 荷物のピックアップが終わったので通例どおり地下1階のフードコートで休憩。
 今までであれば併設されているセブンイレブンにてペットボトル飲料や細々したおやつ類、そして我が家のフェイバリットペーパーであるアップルデイリー紙を購入するところなのだが、セブンイレブンが移転してしまってそれが出来ない。なおアップルデイリー紙は残念ながら2021年に廃刊となってしまっているのでたとえセブンイレブンが移転していなくても購入はできなかったのだが。
 台湾のICカード悠遊カードは2年間使用が無かったらリセットされる仕様だったはずだが確認してみるときっちり残っていた。ありがたくそのまま使用させてもらうことにして、空港地下鉄で台北駅へと出発した。
 地下鉄と言いながら地下なのは空港と台北駅周辺のみなので40分の車中、本来であれば車窓を眺められるところ、生憎と雨天のためあまり見るべき車窓もなく。ただただ時間が過ぎるのを待つだけという鉄道好きの看板を取り上げられかねない過ごし方をしてしまった。
 良くも悪くも何事もないまま定刻どおり、台北駅に到着。
 ホームを上がって改札を抜けた先にはタクシー乗り場があるので行ってみると、一台も停まっていない。その分人の列が出来上がっている。まぁ、数組程度なので待つかという結論になり。しかし待てども待てどもタクシーが来ない。やっと来たと思ったらおなじみの黄色い車体ではなく一見して一般車両としか思えないものばかり。しかし、係員のおばちゃんがテキパキとさばいてお客を乗せていく。
 ウーバータクシー的なシステムっぽいぞと思って待つうち、我々の番が回ってきた。見慣れた黄色い方だった。
 雨でどこもかしこも渋滞している台北市内の道を猛然とかっ飛ばしてくれて、無事メトロホテルに到着。
 「お待ちしてました」となかなか流ちょうな日本語で話しかけられた上、我々の名前までしっかり呼ばれたのでどうやら本日の予約組ラストらしい。空港での休憩やらタクシー待ちやらでだいぶ時間を食ってしまったのでさもありなんと言ったところか。
 カードキーを渡されて入った部屋は値段から想像していたのよりも余程上等な部屋だった。一番ありがたかったのは行程表にはバスタブなしと書かれていたのにしっかりあったことだ。
 休憩して動けるようになったのでまずは腹ごしらえ。
 何しろ私は4年ぶり、妻は5年ぶりである。当然のこと、あれこれと行きたい店は思いつくが、時間も胃袋も有限。短いシンキングタイムの後に2人で出した結論は幸いにして同じだった。
 いざ、思い出多き饒河街夜市へと足を向ける。
 最寄りであるMRT中和新蘆線の行天宮駅へはホテルから歩いて5分程度。そこから一駅先の松江南京駅で松山新店線に乗り換え、終点の松山駅で下車。
 ここは台湾なので松山と書いても「まつやま」ではなく「ソンシャン」なのだが、字が同じという縁で愛媛県のほうの松山から坊ちゃんカラクリ時計のレプリカが寄贈されたりしている。こういうノリの良さが日本と台湾の友好関係を強固なものにしていると私などは思うのである。
 小雨のパラつく中ではあったが、帽子をかぶればしのげる程度だったので気にせず進む。
 夜市の象徴とも言うべき巨大な松山慈祐宮は健在だし名物胡椒餅屋も大行列だったが、夜市全体で見ると店数が減少していて台北においてもコロナの爪痕がいかに深いものであったかを思い知らされた。
 楽しみにしていた四神湯という漢方スープを出す店も、私が大好きなサバヒーという魚を多彩な調理方法で食べさせてくれる海鮮料理店も無くなっていてすっかり肩透かしと言うほかはない。
 これならばいっそこのまま宿に戻って台湾オリジナルのコンビニ弁当で夕飯にしようかとすら思ったが。
 夜市を抜けた先に鵝肉の看板を見つけた。鵝肉、すなわちアヒル料理の店である。これまで専門店で食べたことがなく、ちょうどいいということでこの店に決まった。
 狭い店内だが幸いにも空席はあった。なかったのは材料のほうで、せっかくなのでガッツリ食べてやろうと思ったのにメインとなる肉の部分は売り切れ。
 やむなく内臓のスープと脚を白飯と一緒に注文。しかし、やむなく頼んだこの脚がどうにも美味かった。おそらく塩だけの味付けだと思われるが、加減が絶妙で食べても食べても飽きが来ない。惜しむらくは可食部分が少ないことくらいで、歯を傷めないように慎重になりながらも次々と骨にしていく。
 スープもたっぷりの針生姜がいい仕事をしていて内臓独特の臭みが一切なく、箸もレンゲも勢いが止まらない。あっさりした味つけなのだが、これに味変用の調味料をつけるとご飯がどんどん進む。
 嫁さんは飯を頼まずビーフン入りスープにしていたが、これも大変良かったようで、夫婦揃って美味いと発するだけの機械になったかのように夢中で食べた。
「明日も来たいくらいだな」という言葉が冗談に聞こえないくらいには美味かった。
 ホテルへの帰途、コンビニで買い物をし、懐かしい飲料や食品との再会を果たす。ペットボトルの烏龍茶各種は本場なので当然としても、豆乳や飲むヨーグルトも台湾の物のほうが私好みであり、渡航できない間もどうにかして入手できないものかと苦心惨憺していたがここでようやく口にすることが出来た。
 思い出は時の流れによって美化されがちなものだが、ホテルで味わった豆乳は記憶にたがわぬ飾りっ気のない美味さだった。

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台湾旅行記2018(6日目)

泣いても笑っても今日が帰国日である。今日は行くことを決めている場所が1ヶ所だけあった。
 二二八和平紀念公園である。
 二二八とは何かと言えば。1947年2月28日に国民党政府の政策に反対する人々が蜂起し武力鎮圧された事件のことを指す。その後台湾は戒厳令が布かれ国民党政府による恐怖政治に長く苦しむこととなった。
 戒厳令は1987年まで続き、最終的に言論の自由が保障されるようになるまでには李登輝総統時代の1992年までかかった。
 その二二八事件の犠牲者を悼み、またその悲惨な後世に記録を残すために作られたこの公園と二二八事件で弾圧者の立場にあった蒋介石を称える中正紀念堂がともにあるところに台湾の複雑さが表れている。
 今まで訪れたことのなかったこの公園に、今回は足を向けた。
 一般的な公園としての機能ももちろんあるので、太極拳らしきなにかをやっている一団に遭遇したりもする。
 紀念鐘や平和のモニュメントに祈りを捧げ、事件の記録が残された追思廊へとたどり着いた。ここには事件の経緯が展示されているほか、亡くなった人の顔写真も掲示されている。その掲示の前にお供え物として持ってきた日本酒を置き、手を合わせる。
DiRKt8uUwAAwtBK

 公園内には事件に関する資料館もあるのだが、時間が早いのでまだ開いていない。
 実になんとも中途半端ではあるが、大事をとって早めに出発するのでやむを得ない。今回は光華商場にも行っていないし、色々と不完全燃焼気味のところはあるが一時は旅行そのものを断念しなければならないかも知れなかったので来られただけでも良しとしたい。

 ホテルに戻ってチェックアウトし、徒歩でMRT桃園線の台北駅へ。ここでインタウンチェックインして荷物を預ける。機械のトラブルで若干時間は取られたものの買い込んだあれこれですっかり重たくなったスーツケースは無事運ばれていった。
 この便利さを覚えてしまうと、もう元のやり方には戻れない。
 あとは残った自由時間をどう使うかなのだが、迷った挙句に昨日のドーナツ屋へと向かった。どうにもこうにもあのドーナツの味が忘れられず、炎天下にもかかわらず8つも買い込んでしまう。
 その場で食べたほかは機内や帰宅後にも食べてみたが、冷めてもしっとり食感で十分に楽しませてもらった。

 結局その後は寄り道せず、早めに空港入り。一直線に保安検査場を通過したその先にあるフードコートで昼食をとる。帰国時はここにある台湾料理の青葉で名残の台湾ご飯を食べるのが私の習慣となっている。
 今年は豚足づいていて、これで3回目か4回目になる。豚足という言葉から連想される脂っこさはなく、スイスイと入っていくので見かけるたびについつい頼んでしまうのである。
 
 食べ終えて一休みしてから免税店へ。ブランド品とか宝飾品とかそういうものには皆目興味がない我々のお目当てはKAVALANウィスキーである。
 免税とはいえ流石に最高級のものは買えないのだが、今年はちょっと頑張って2番目に安いものにした。最近日本でも出回るようになったとはいえ、おいそれと買える値段ではないのでこうして入手したものを大事に大事に飲むのである。
 他には特に欲しいものもなかったのだが、通りすがった免税のおもちゃ売り場に任天堂Switchが売っているのはともかく、ファミコンミニことニンテンドークラシックミニまで置いてあったのはどうしたものか。かくいう私もつい先日1年半も待たされてようやく入手したばかりなのだが、まさかここで遭遇するとは思わなかった。
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 毎年帰国時に桃園空港で色々なものに遭遇してきたが、衝撃度で言えば今年が一番かも知れない。それこそKAVALAN入手の喜びもどこかへ行ってしまいそうだった。
 買い物が済んでしまえばあとは帰国便の出発を待つばかり。例年帰国便は遅れるのが通例になっていたのだが、今年は幸か不幸かオンタイムであった。

 関空着陸時も、飛行機を降りてからも待たされることなく、過去にないほど実にスムーズだった。
 おかげで時間に余裕ができて、どこかの温泉に寄り道をすることも十分可能だったが、まっすぐ家に帰ろうとことで意見が一致した。それこそ風呂や夜食どころかコーヒーの1杯も飲まずに家路に着いた。

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台湾旅行記2018(5日目)

明日は帰国日であり、フルに使えるのは今日が最後。
 ではあるが、本日の予定は完全白紙。昨日を休養日にあてたことで気力体力ともに十分ではあるもののそれをどう使っていいのかわからない。ちなみに先般地震の被害があった花蓮を訪れるという計画は列車の切符が取れないことであっさりと頓挫している。
 この日はあまり天気が良くなさそうであり、屋外系のネタは避けようということになった。
 ならばということで今日は台湾のローカル線に乗ることにした。

 ローカル線と一口に言っても六家線や集集線や内湾線、深澳線に平渓線とある(沙崙線は乗車済み)。
 時刻表を見つつ「一番近いところにしとこうか」という無難な結論に至る。というわけで今回は平渓線完乗の旅に決定。余力があれば深澳線もついでに乗っておくし、余力がなくとも帰りには侯[石同]で下車して猫村に立ち寄ることも合わせて決定した。

 台北駅で平渓線深澳線の1日乗車券を購入。これが80元で、瑞芳までの乗車券を別途購入。こっちは區間車料金で49元。
 
 台北駅を9時25分に発車した列車はのんびり走って乗換駅の瑞芳には10時23分着。平渓線直通の菁桐行きは11時2分発なのでちょっと駅前をブラブラする。
 
 ほんのちょっと歩いただけなのだが、駅前に猫を何匹か見かける。猫村の侯[石同]ほどではないがここも猫に染まり始めているのだろうが。

 駅に戻るとホームにずらり並んだ人の列に出くわす。こういう時は端っこに行くのが良い。その甲斐あって無事座れた。三貂嶺から線路は分かれていよいよ平渓線に入っていく。
 入っていくというか、宜蘭線はここまで寄り添ってきた基隆河と分かれていくのに対し平渓線は並走を続けるのでここだけを見ていると平渓線のほうが本線であるかのような錯覚に陥る。
 山道を分け入っていく旅人のような足取りで列車は平渓線最初の駅である大華のホームにたどり着く。ここには「十分瀑布(滝)に行く人は線路を歩かないで!」という注意書きがあった。
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 車窓から見える道が不安をそそる細道ばかりなので気持ちはわかるが線路を歩く行為は大変危険である。
 大華駅を出て数分、右手に遊歩道が見えてくる。十分風景区と呼ばれる景勝地に入ったようだ。そのまま十分老街の町並みを突っ切って十分駅に到着する。ここで行き違いを兼ねてしばし停車。
 空が雨模様でなければせっかくのフリーきっぷを駆使して改札を抜け、何か買ってこようかとも思ったのだが。列車が平渓線に入った頃から降り出した雨は分け入るほどにその強さを増していく。停車しているホームが改札から離れていることもあって、下車することがどうにもためらわれた。
 多くの人はそんな雨など物ともせずにどんどん降りて行ったのだが。この空模様ではランタンも打ち上げられないだろうし滝に行くのも一苦労ではあろうがそれはそれで旅の思い出になるのだろう。

 というわけで、乗客の多くが下車したおかげで乗客全員が着席してなお空席ができる程度の乗車率になる。
 十分を出てしまうと、再び人跡乏しい山際を張り付くように走る。四国の予土線を思い出すような河と緑の車窓が続く。元々この路線は台湾屈指の菁桐炭鉱から石炭を運ぶ運炭線だったそうだが、確かにここには石炭貨車が似合いそうだ。
 並走する車道にも自動車の姿をあまり見ない。実に長閑な平渓線であるが、空だけがどうにもあまり長閑ではない。
 雨粒に妨げられてあまり景色を楽しめないまま終点菁桐に到着する。これでとりあえず平渓線は完乗となった。
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 折り返しの列車が出るまで15分しかないため昼食をとるというわけにもいかず。せめて駅のスタンプでも押して帰ろうとしたが見当たらない。駅の隣にある土産物屋に何やらたくさん置いてあったが、残念ながら菁桐車站と書かれたものはなく、押さずに車両に戻った。
 深澳線直通八斗子行きと変わった車両は小止みになってきた雨の中12時15分定刻どおりに発車する。
 山中をゆったりと駆け戻り、侯[石同]駅で下車。ここは今やGoogleMapにも載るようになった猫が主役の村である。
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 思う存分猫を愛でるその前に駅前食堂で昼食をとる。陽春麺なる見慣れぬ名前の料理がメニューに載っていたので頼んでみると、これがシンプルな味わいながら実に美味い。あまりに美味いので他でも食べられないものかと調べてみると割と有名な料理らしく、これまで12年何を見てきたのだろうかと少しばかりショックを受ける。
 それはさておき猫である。幸い雨も止み、かと言ってギラつく暑さでもなく。のんびり猫を求めてさまよい歩くのには最適な日和となった。
 木陰、植木鉢の隙間、歩道の脇、土産物屋の台の上、段ボールの中、草むら。そこにもここにも猫がいる。寝ているもの、座っているもの、くつろいでいるもの、散歩しているもの。あるがままのその姿を見ているだけでしあわせになれる。やはり猫は素晴らしい。

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 村の中を端々までひたすら猫を求めて丹念に歩き回り、だいぶ汗をかいたので猫のいる喫茶店で一休み。ここでも店の看板猫がテーブルの上に乗ってくださるという熱烈歓迎を受けた。テーブルに乗るだけでこちらに媚を売ったりせず気ままに過ごすところがまた良いのである。
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 濃密な猫成分を充填して台北に戻る。
 いざ夕飯というその前に。今回の旅の前に脆皮鮮[女乃]甜甜圏なる店のドーナツが良いという情報を得ていたのだがここまで買う機会を得ずに最終日になってしまっていた。このままでは結局最後まで行かずに終わるだろうと判断し、思い切って先に買いにいくことにした。
 小さい店らしく、わかりにくそうだということで結構な覚悟を固めての出発だったが台北駅の地下街から北側に向かって歩いていくと割とすぐ近くのところに店は見つかった。
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 長くはないものの列ができており、客は皆結構な量を買い込んでいく。そんなに美味いのならば我々も大量買いしてみようかと思ったが夕飯が食べられなくなってしまうのでグッとこらえて4つで我慢。せっかく揚げたてだったので通りの脇で食べてみる。サクサクではなくもちもちの食感。軽い甘さは後を引く。小さいながらも行列店なのが頷ける味だった。
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 もう一度並んでこれを夕食代わりにしてもいいのではないかと真剣に話し合ったが、明日帰国途中にもう一度買いに来るということでなんとか踏みとどまった。

 では肝心の夕食は何にするのか。
 今回の旅では台湾料理は結構食べたし、かと言って和食に飢えるというほどでもない。フレンチやイタリアンも美味い店が増えたらしいが、あまり惹かれない。
 こういう時はフードコートで目に付いたものをパッと食べてしまおうといつもの台北駅2階へ向かった。
 日本でもおなじみ鶏三和の親子丼がちょっと気になったが、何かが違う。うろうろしているうちに「これだ!」となったのが海南鶏飯。
 今年の台湾最後の夕食はまさかのシンガポール料理となった。2人前セットで300元は実にお値打ちである。
 これが安かろう悪かろうならば悲しいオチになるのだが、本場物を何度となく食べてきた家人が太鼓判を押すハイレベルな味だった。シンプルな蒸し鶏にチリとジンジャーの2種類のソースが組み合わさって舌を飽きさせない。
 鉄道、猫、美食と実に言うことのない幸せな1日はこうして締めくくられた。

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