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ふさ千明のおたネタ日記

漫画、アニメその他諸々の感想がメインのブログです。現在は「ここだけの話」シリーズについての感想を中心に運営しております。毎日15時の更新は終了し、現在は再び不定期更新に戻っております。

台湾旅行記2015 4日目

さぁ、土曜日。
 この日は楽しみにしていた花博農民市集の開催日。何をおいてもまずは行かねばなるまい。ただ、開始時刻が10時からなのでそれまでは自由時間である。
 と、いうわけで。朝食もそこそこにホテルから徒歩10分の市政府駅バスターミナルへと向かう。
 今回はこの後のスケジュールを考えて、私の単独行動。と言っても大したことをするわけではない。ちょっとした買い物である。ただ、いささか遠いので高速バスで行く。
 バスターミナルには既に目指す基隆行きのバスが止まっていた。売店で飲み物でも買っておこうという目論見はあっけなく崩れ、バスに飛び乗る。

 道中は実に快適。基隆河に沿って敷設された中山高速公路からの眺望は、鉄オタの私にバスを選択させるくらいには良好。涼しい車内に快適な座席と居眠りには絶好のチャンスなのだが、いつも気づけば基隆の市街地に到着していたりする。
 バスから降り立てば、目の前は基隆港。のんびりと船を眺めながら散歩でもしたいのはやまやまながら、そこまでの時間的余裕はない。
 とっとと目的地へ向けて歩き出す。何回も来ているのでいつもであればぼちぼちと足が道順を覚えていそうなものなのだが、なぜか毎回間違えてしまう。間違えつつも必ず地図の前に出るので、ちゃんとたどり着けたりもする。もしかして間違えて地図の前に出るルートで足が覚えてしまったのかも知れない。
 そんなこんなでやってきたのは基隆市を代表するパイナップルケーキの名店、李鵠餅店。台湾にパイナップルケーキを売っているところは無数にあれど、この店にしか出せないオンリーワンの味わい
を求めて私は毎回足を運ぶ。
 カタコトの英語や北京語に日本語混じりでパインとイチゴを30ずつを買い求める。店の名前が入ったピンク色の派手な大袋に入れてもらって、いざバス乗り場にとって返す。
 ダッシュで台北へ戻るつもり、だった。途中でスーパーを見つけるまでは。見つけてしまったら後はもう吸い込まれるように店内へ。どうしても買わないといけないものがあるわけではないのはずなのにスーパーを見るとつい入ってしまうのは何の病気なのか。
 とりあえず飲み物を確保しつつ、売っているものを見ているだけで楽しくなってしまう。果物も肉も魚も野菜も買って帰れないのに、「ああ、こんなん売ってるんだ。どう料理したらいいかな」などと考えてしまう。
 結局飲み物と台湾紅茶のティーバッグだけ買って撤収。ちょっとした買い物に思いの外時間を食ってしまった。大汗をかいてバス乗り場へ駆け込むと、目の前には台北方面へ行くバスが2台止まっていた。台北と言っても広いので終点や経由地が違うのだろうが、確認している時間はない。どちらであろうが台北市内に戻れれば、後はなんとかなる。
 残念ながら私が選んだ方は私が泊まっているユナイテッドホテルの近くを通らなかったのでそのまま終点の台北駅まで向かう。
 あとはMRTで一本。予定より少しばかり遅くなってしまったので、ホテルに戻るや荷物を置いて
とっとと再出撃。当初の予定ではMRT乗り継ぎだったが、時間を節約すべくホテルまえからタクシーで花博公園に乗り付ける。
 台北駅付近の混雑を避けてスイスイ進むので、MRTであれば30分以上かかるはずが10分も短縮された。
 エアコンの効いた車内から降り立っても温度差にクラッと来ないのは豊かな緑地ならではである。意気揚々と会場に向かえば、既に売買が開始されており、思った以上に賑わっている。まずはいつもどおりぐるっと一周して売り場チェック。
 移転前と同じくちょっとした食べ物を調理して売っているところもある。果物を扱っているところはジュースの販売もしていた。意外なところでは冷凍した海産物が漁協ブースで販売されていて、そこそこ人気があった。当然ながら烏龍茶も阿里山、凍頂、杉林渓と名産地のものがずらり。そして何より、店の数は少ないながらも珈琲も売っている。残念ながら買っても持って帰れないのだが、花売り場には思わず顔がほころんだ。規模はそれほどでもないが、来て良かったと思えるほどには充実している。

 そんな感じで下見も終わり目星もついたところで妻がダウンしてしまった。やはり昨日の台南行きが響いてしまったのだろうか。ここまで来て引き下がる無念さはよく分かる。いささか駄々もこねられたがここは心を鬼にして撤収決定。公園のベンチで少し休憩を取ってからタクシーで再びホテルへ取って返す。

 部屋のベッドで無念の表情をしている妻をなだめつつ、さてどうしたものか。
 さすがに身動きの取れない妻を置き去りにしてどこかへ出かける気にもならない。パソコンで旅行記の下書きでもしようかと思ったところ、当の妻からリクエストが。本来花博農民市集で購入する予定だった友人へのお土産を買ってきてほしいとのこと。具体的には、ドライマンゴーを10袋。
 ドライマンゴー自体は別にそんじょそこらのスーパーで普通に売っているのだが。しかし、それじゃあ面白くない。
 というわけで、私は迪化街を目指した。迪化街は布問屋、漢方薬店、乾物屋などが入り混じっていてある種カオスなエリア。ドライフルーツを買うならメインはここで、と決めている。これまでは雙連駅から20分近く炎天下の中をとぼとぼ歩いたり、西門駅から1時間に3~4本のバスでのアクセスを試みたりと様々やってきたのだが、今回はMRT松山新店線開通に伴い新規開業した北門駅から徒歩ルートを試してみることにした。こういう時は一人だと身軽にチャレンジできる。

 ホテル最寄の国父紀念館駅から板南線で西門駅へ。そこから乗り換えて一駅乗れば北門駅に到着。
 この駅のは台北地下街につながっているので、その27番出口から地上に出る。目の前の塔城街通りを北上して10分も経たないうちにもう迪化街の看板が現れた。以前散々苦労して歩いたのがバカバカしくなるくらい簡単に着いてしまった。
 何度来ても店の場所が覚えられないのだが、パッケージのデザインはしっかり覚えているので問題はなかった。
 まずは妻のオーダーに応えて六安堂参薬行に出向き、ドライマンゴーを10袋。こちらは台湾産マンゴーを使用しているので1袋200元となかなかのお値段。
 私は黄永生中薬房というお店のパインが大好物。何しろパインが干したものとは思えないほどにしっとり柔らかくしっかり甘く、その上たくさん入って80元というリーズナブルな価格。今回は5袋買って帰ったのだが、なぜ10袋にしなかったのかと後悔する羽目になった。もっとも、10袋買っても「なぜもっと買わなかったのか」と思うことは疑いなく、キリがないのではあるが。

 目的を果たしたことであるし、余分な買い物を避けるためにもホテルへ戻ることにした。ただ、ここから少し馬鹿げた行動をとることにした。

 我が家は夫婦揃って艦これで提督業に日々勤しんでいるのだが、我々はフフ怖さんこと軽巡天龍が大のお気に入りで。

 たまたま台北市内に「天龍サウナ」なるものが存在することを知ったためコラ素材としても使えそうなので外観画像だけでも撮影しておきたいね、などと言っていたのだが、ちょうど迪化街から台北駅に戻るルート上にある。じゃあいっちょ行ってみますか、と気まぐれを起こした。
 ただし、中に入る時間的余裕はないので外観撮影のみに留めおく。台湾ではサウナは「三温暖」と表記するところ、一部看板はまんま「サウナ」と書いてあって思わず笑ってしまう。

 台北地下街に戻れば。オタロードとまでは言わないまでもプラモ、フィギュア、DVD等々オタ向け商品を扱っている店が点在しているし、中にはバンダイから許可を受けて一番くじグッズを扱っている店もある。数は少ないながらメイド喫茶や執事喫茶、メイドリフレが集まっている区画もあったりする。
 最初は休憩がてらにメイド喫茶で珈琲でも飲もうかと思ったのだが、結構歩いてきたためどうしようもなく汗ダルマになっていたため自粛。

 あとはMRTに乗ってホテルに戻るだけ、なのだが。せっかくここまで来たのだからと、台北駅構内にある鉄道グッズショップ『台鉄夢工場』に足を向けてみた。
 ここでは街中の書店でなかなか見かけない「鐡道情報」という台湾の鉄道情報雑誌(隔月刊)が購入できるのがありがたい。今回買った223号は鉄道職人群像特集や東京駅開業100周年記念特集があって特に読み応えがあった。
 また諸事情あって猫グッズも充実しており、『小心!猫出没』と書かれた秀逸なデザインのTシャツを購入。
 気づけばドライフルーツと合わせてかなりな量の荷物になってしまったのでMRTを諦めてタクシーでホテルに戻った。

 大荷物を抱えて部屋に戻ると、妻は起きていた。少しばかり動けるようになったというので、この機を生かしてマッサージを受けに行くことにした。
 行きつけのところはいくつかあるが、今回は場所や時間を検討した結果6星集養身會館というお店へ。
 このお店は市内に支店が数店舗あるのだが、一番近くならホテルからタクシーで10分ほど。夕方なのでぼちぼち市内は渋滞していたが、運ちゃんの道選びがうまく、つかまらずに到着した。

 店内は混み合っていたものの、少し待っただけで施術が受けられるとのことで助かった。靴を下駄箱に預け、お茶をいただきながら待つことしばし。施術師さんが呼びに来てくれたのでついていく。
 最初は足湯タイムでじっくりと足をほぐすのはどこも同じだが、ここは薬湯を使っているようでかすかに独特の香りがする。イヤな臭いという訳ではなく、むしろこれを嗅ぐと「6星に来たな」と実感が湧いてよりリラックスできる。
 足湯が終われば2階に上がって専用のフカフカ椅子で足ツボタイム。痛みにのたうつこともなく、開始してすぐ寝落ちしてしまうので施術についてはあまり覚えていない。ただ、目覚めると身体全体がスッキリしていたのが非常に印象的だった。施術者の方は私が目覚めると、どこか不足はなかったか、おかしなところはなかったか、とたどたどしい日本語と英語で訪ねてきたので「好了、好了」とこちらもたどたどしく返した。
 すると「ありがとございました。またおこしください」と深々頭を下げられて、大いに恐縮した。

 さて、身体が楽になると俄然食欲が湧いてくる。妻も同様だったので話はスムーズだったが、22時閉店の店がラストオーダーになるくらいの時間帯だったのでいささか選択が難しい。
 結局、少し歩いて松山新店線に乗り、初日同様饒河街夜市へ。

 もう何度来たかわからないこの場所において、以前から興味を持ちながらも入れなかった店がある。
 夜市の東側入り口すぐにある海産物の店。いまだに名前はよくわからないのだが、いつ訪れても賑わっていて当たりっぽいのだが、陳列ケースから食材をチョイスするシステムが高い壁となっていた。
 しかし。今回は蛮勇をふるってアタックをかけてみることにした。メニューを見てもどれがどれを指しているのかいまいちピンとこなかったりするので、店のおばちゃんにどれがどれなのかを教えてもらいながら注文することに。
 結果。大好きなサバヒーをここでも注文し、そこに青菜炒め、牡蠣のスープと台湾金牌ビールの限定品をチョイス。夕飯としてはいささかボリューム不足では?と思われ方かもおられるだろうが、そこはそれ。スープがラーメンどんぶりサイズでやって来たりするのでこれで十分に腹は満ちる。
 サバヒーは塩焼きにしてもらったのだが、これがもう、ビールと合う。脂と塩とが溶け合って口の中でアルコールとマッチングしてはぐるぐると回る。多分米とも合うのだが、今日はビールだ。
 限定ビールはドライ系でさっぱりとした口当たり。下戸の私でもスイスイと飲める。しかしそこは下戸なので、牡蠣のスープで酔いを覚ましつつ楽しむ。
 幸せの味をかみしめていたら卓上の皿は見る見る空になっていく。饒河街夜市に通い始めてもう何年にもなるが、こんな素晴らしい味を見落としていたとは。
 たまには蛮勇もふるってみるものだとしみじみ思う。

 マッサージと食事で体調も回復したため、帰途誠品書店に立ち寄り、懸案の一つだった辞書を購入。ただし、やはり中日辞典に良いものがなかったので中英辞典になったが。 

 ひとつひとつ、やり残しを片付けて行けば行くほど、明日が帰国日であることを意識せざるを得ない。
「帰りたくないねぇ」
コース料理の途中で食事が終わってしまうような、試合の途中で球場から立ち去るような、そんな感慨を今年も抱きながら眠りについた。

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台湾旅行記2015 3日目

朝の良い目覚めは旅先においては何よりも貴重なものであると思う。どれほど入念かつ綿密に組まれた計画も、体調が悪ければ画餅と化してしまう。
 この日も夫婦揃ってそれなりに元気で、寝心地の良いベッドから起き上がるのにもそれほど苦労しなかった。
 やはり温泉の功徳なのだろうか。

 さて。今日はどうするか。双方体調は100%とは言わないものの、十分に動けるコンディションである。日程的にも中間点で、それなりに無理がきく。初台湾の時からずっと行きたいと思っていたある場所にチャレンジするのに条件は揃っている。
 この日、山ほどある選択肢の中から私が選んだのは飛虎将軍廟。台南市にあるこのお廟は、高雄市にある保安宮同様、日本人を祀ったお廟である。
 昨年の旅で訪れた保安宮についてこのブログにて「日本でも他国でも神として祀られている存在はここの他にないのではないか」と書いてしまったが、この飛虎将軍廟が見事に当てはまる。うっかりにもほどがある。

 朝食もそこそこに身支度を整え、関空で調達したお供え物を持って台北駅へ。
 
 いつもどおり新幹線の切符を券売機で確保。いつもは普通席なのだが、今回は体調を慮って商務車ことグリーン車の席を押さえる。
 行きがけに売店で飲み物だけでも、と思ったが、行ってみるとかなり混雑していたので断念して車内販売に頼ることにした。
 台湾高鉄645列車は11時36分、定時に出発する。
 商務車は広々とした座席によって移動による体力へのダメージが少なくなるのもありがたいのだが、飲み物とお菓子のサービスがあるのも嬉しいところで。
 車内販売で買い損ねたペットボトルも無事買えて一安心。

 13時19分、定刻どおり台南駅に到着する。

 今まではここからバスに乗り換えだったが、今回は高鉄と台鉄の連絡線として開通した沙崙線に乗る。高鉄の改札を抜けて、すぐ横にある台鉄の改札へ。台北で散々使った悠遊カードがここでも使えるので、乗り換えは実にスムーズ。
 高鉄台南駅は台鉄では沙崙駅となる。



 改札のむこう、島式ホームで待っていたのはどこか懐かしさを感じさせる青い車両。高鉄からは結構な人数が降りていたと思ったが、4両編成の列車に乗ってみると空席が目立つ。




 車内は涼しいものの、車窓から照りつける陽射しはあくまで強い。2駅先の中洲駅からは本線である縦貫線に合流。仁徳、保安と走って終点台南駅に到着する。

 台南駅前は、初めて来た時からあまり変わっておらず、タクシー乗場もすぐにわかった。

 飛虎将軍廟の名前だけではたどり着けない可能性も考慮してメモには住所も書いておいたのだが、杞憂だったようで、かなりお年を召した運ちゃんは一目見るなりうなずいて車を出した。

 まずは台南駅を背にして西へ向かい、そのまま台湾省道(日本における一般国道)17甲線へ入る。道なりに進んでいるうちに西から北西へ、北西から北へと進路が変わっていく。郊外に出るとホームセンターやディスカウントストア、中古車センターが増えてくるのは日本と同じだが、堂々カタカナで『パチンコ』と書かれた看板を見た時にはさすがに我が目を疑った。
 鹽水渓というそこそこ広い川を渡り、八田ダムこと烏山頭水庫から流れてくる水路をもう一つ越えれば残りはあとわずか。
 右折して同安路という道路に出て直進すれば、左手に紅い瓦屋根のお廟が見える。これこそ飛虎将軍廟に間違いない。
 料金は厳密には覚えていないが、確か100~200元の間くらいだったと記憶している。  
 さて、お参りをしようかと外に出たところ、運ちゃんが何やら話しかけてくる。身振り手振りと合わせてどうにか意図するところを読み取ると、「ここで待っている」ということらしい。
 帰りはバスになると思い、お廟の最寄りバス停まできっちりチェックしてきたのだが(ちなみに同安路口という)、これは思いもよらぬ幸運。何しろここは北回帰線よりも南にある。気温は高く陽射しは強く、バスを待っている間に身体に変調をきたさないとも限らない。
「謝謝、太謝謝」
と感謝の言葉を繰り返しつつ、お廟へ。
 正式名は鎮安堂・飛虎将軍。この飛虎将軍とは日本名杉浦茂峰。旧帝国海軍兵曹長(死後少尉)。彼は1944年10月12日、米軍が台湾に仕掛けた大空襲を迎撃すべくゼロ戦で立ち向かった。しかし、当時旧式化していたゼロ戦では質量ともに優勢な米軍に苦戦を免れず、ついには被弾。そのまま脱出すれば助かったかもしれないところ、集落への墜落を避けるため機体を畑に向けて住民の命を救った。
 戦後、この杉浦飛行士を祀るために建てられたのがこの飛虎将軍廟。飛虎とは戦闘機のこと、そして将軍とは杉浦飛行士を意味する。
 このお廟、看板の下に日本語で「歓迎 日本国の皆々様 ようこそ参詣にいらっしゃいました」と書いてある。もうこれだけで感動してしまうのだが、これを読んで感動している我々にお廟の中にいた日本語を話せる方が気付き、つきっきりでお参りの作法を教えてくださることに。
 今更ながら本当に台湾の方々は優しく温かい。



 圧巻だったのは、タバコ好きだった飛虎将軍に捧げるために、タバコにバーナーで火をつける儀式。この発想はなかった。ちなみにタバコを嗜む人は自ら吸って火をつけるとのこと。
 3体あるご神像にバーナーで火がついたタバコを7本、お供えして思わず合掌。
 我々が一通りのお参りを終えた頃、なんと車内で待っていたはずのタクシーの運ちゃんがお参りを始めた。なんと言っていいのか、なにを言うべきなのか。咄嗟に「ありがとうございます」と言っても伝わったかどうかわからないけれど、言わずにはいられなかった。
 
 廟の中はご神像以外自由に撮影していいとのことなので、奉納された飛虎将軍の写真や制帽、飛行メガネ、勲章、徽章等々をどんどん撮っていく。













 その中に小さなお神輿があった。



 これは日本から奉納されたもの。台湾では神様はお神輿がないとお祭りに参加できないそうで、「これでようやく飛虎将軍は他の神様達と同じになりました」という言葉が深く響いた。
 最後に、日本から持ってきた『日本の翼』というお酒を奉納し、参詣の記念として飛虎将軍Tシャツを購入。しかし、タバコ好きと知っていればそのお名前にちなんで『峰』を買ってくるべきであったと反省。次回は是非そうしたい。
 案内役の方に見送られて外に出ると、タクシーがスタンバッていた。
「ありがとうございます」
と、本来であればタクシーを台鉄台南駅へ向けてもらって台北に戻るところであるが。こうして待っていてもらったおかげで気力体力時間の全てに余裕ができた。
 そこで「林百貨(リンパイフォー)」とメモを見せながらお願いをする。
「オーケー、リンパイフォー」
ちゃんと通じて一安心。
 林百貨とは何か。戦前、台南の地に唯一営業していた百貨店(当時は『林百貨店』)で、戦後閉店の後は製塩工場や警官の派出所等に使われてきたものの1980年代には主なき空虚となっていた。それが、なんと昨年見事新装開店したとのこと。
 台鉄台南駅から徒歩15分くらいのわりと繁華街な場所にあるのだが、再開発の対象にもならずにずっと残されてきたのは、台湾人の心の在り方の現れなのだろう。
 建物を生かしつつの改装ということで、外観だけでも一見の価値があるところ、中にはレアな工芸品やグッズなども各種販売していると聞けば、これはもう食指が動くどころの話ではない。
 来た時同様渋滞しらずのスムーズな道行きで15~20分ほど。格式溢れる建物にタクシーで乗り付けるとまるでタイムスリップしたかのよう。これで私の服装がシルクハットに燕尾服で右手にステッキでも持っていたら最高だったのだろうが、この烈夏の台南でそんな格好をしたら塩茹でになってしまう。
 お廟で待っていていただいた分、感謝の気持ちをチップに込めて降車。

 入り口横には戦前の林百貨店及び台南市の様子がパネルで展示されており、単なるノスタルジーやアミューズメントではない本気の姿勢に嬉しくなる。
 中に入ると1階は土産物コーナーで、南部の物産を中心に台湾各地から取り揃えた名品が所狭しと並んでいる。当然のように結構お高い。ちょっと手が出ないなぁ、とため息交じりながらも見ているだけでも楽しくなるのでゆっくり目に一周まわってみた。
 すると、中になぜか見覚えのある『宇治 三星園』の文字。何かと思えば1階の喫茶コーナーは三星園こと上林三入本店直営店だった。…宇治以外には進出していないはずの上林をまさか台南の地で見ることになろうとは。
 このままずっと1階だけで閉店まで楽しめそうな勢いだったが、さすがにもったいないので上を目指す。
 名物の一つにもなっている、当時のものを再現した(中身は当然最新式)エレベーターに乗ろうとしたところ、大きさが当時の寸法なので実に小さく5人しか乗れない。そのため扉の前には列ができてしまっている。
 やむなく階段で上がるが、これも同様に広くないのですれ違いが発生すると上りと下りが各々譲り合わないといけない。
 各階をじっくり見ながら上を目指すをいつになるやらわからないので、先に一番上まで上がってしまうことにした。えっちらおっちらと登って屋上にたどり着くと、開けた眺望に暑さを忘れる。
 小さなグッズショップの先には当時の神社(末広社)があり、一部が復元されているものの空襲で破壊された鳥居はそのままで、被弾の痕が痛々しい。



 お賽銭箱はないのだが、暗黙の了解としてお賽銭置き場になっているところへ小銭を置き、二礼二拍手一礼。
 さて、お買い物タイムになだれ込もうと思ったが、昼食がまだなことを思い出した。幸いここは百貨店なので外に出なくても食べるところには困らない。むしろ選択肢を絞るのに困るくらいである。
 何しろ次いつ来られるかわからないのだから、この1食は貴重なものになる。5階には『大手焼き』というおでんメインの居酒屋と『cocorico』という洋食レストランがあり、さて、どちらにしたものか。
 暑さにだいぶ痛めつけられていたので、決める前にまずコーヒーでも飲んで一息入れようということになり4階の喫茶『HAYASHI CAFE』へ向かう。
 最初はコーヒーだけのつもりだったが、メニューを見てみると、セットで頼めば3種の甘味、すなわちコーヒーゼリーと柿の上生菓子にプリンが付いてくる模様。
 いかな大食漢の私でもこれを平らげたあとに昼食は入らないし、逆もまた然り。
 しかしどうだ。
 三品はいずれ劣らぬ猛者の風格。どれか一品だけに絞るのも惜しい。妻に諮ったところ「これを昼食代わりにして、夕飯を早めに食べれば?」という回答が。
 というわけで。魅惑の三品にアタック敢行。甘みが濃厚だった場合に備えてコーヒーはLサイズにしておく。
 前置きはこのくらいにして肝心の味はといえば、これが見事。ゼリーは爽やかにほろ苦く、上生菓子は品良く甘く、プリンはノスタルジックに旨い。これが昼食代わりであることに一片の悔いも曇りもなくなった。



 腹一杯、というわけではないのだが満足度はかなりそれに近い。
 満ち足りた気持ちになってしまうとガツガツ買い物をしようという考えも薄れてしまい、どうしてもこれだけは、というものに絞って購入。その中の一つが林百貨店開業当時をイメージしたイラスト入りのタンブラー。
 これはもう見事と言うほかなく、すっかり一目惚れしてしまった。



 食べるものを食べ、買うものを買い。切り上げるにはいい頃合いだ。建物を出て、全景を1枚撮影。この建物に再び会うためだけにもう一度台南を訪れてもいいというくらいには惚れ込んでしまった。



 駅まで戻るのに簡単なのはタクシーだしバスも手軽だが、我々も台南には何度か来ていてわずかながら土地勘がある。ここから駅までそう遠くない上に、ほぼ一本道で迷いようもなく、さらには天候も歩くことが苦痛になる程ではなかったため、移動手段に徒歩を選択した。

 台南には何度か来ていて若干ながら土地勘がある。ここから駅までそう遠くない上に、ほぼ一本道で迷いようもなく、さらには天候も歩くことが苦痛になる程ではなかったため、移動手段に徒歩を選択した。
 久々に歩く台南の街並みには不思議な懐かしさを感じる。視野に入る光景は確かな異国でありつつも妙に落ち着くこの感覚は我が事ながら良く分からない。自分が馴染んだどこかの街に似ているからということでもない。
 訪れるたびにいい思い出を刻んで帰るからかも知れない。

 台鉄台南駅の白亜の駅舎が見えると嬉しくなると同時に、ここを発たねばならない寂しさをも感じる。



 しかし、始発の沙崙行がホームに姿を見せている。案内板を見れば発車まで5分もない。大慌てで改札を抜けてホーム階段を駆け下りると、先程まで心身を満たしていた感慨もどこかへ吹っ飛んでしまう。
 何しろこれを逃せば次は30分後。
 大汗かいた甲斐あって無事間に合ってめでたしめでたしなのだが、ぼちぼちもう少し落ち着いた旅のスタイルに移行していきたいと思わなくもない。
 しかし、沙崙駅に到着後も新幹線の切符を手配するため急ぎ足にならざるを得ない。人を押しのけて走るような真似こそしないが、「慌ただしい日本人だなぁ」くらいは思われたかも知れない。
 乗換改札最寄の自動券売機に誰もいなかったことも幸いして直近の切符を入手。セブンイレブンで飲み物を買う余裕まであった。
 ちなみに帰りも商務車で、ドリンクとお菓子のサービスを受けた後はすっかり寝落ちして体力の温存もしくは回復に努める。鉄オタの体内時計というものは不思議によく出来ていて、あと10分で終点台北駅というあたりでしっかり目が覚めた。
 台北に戻ってきたら時間は既に夜7時半を過ぎていた。昼食をちゃんと食べていないということもあって食欲は割と旺盛。駅の近辺にもホテルの近くにも美味しいお店は数々あり、豊富に存在するはずの選択肢の中から敢えて駅2階のフードコートをチョイスする。
 毎年一度はここで食べるのが最早我が家の風習と化しているので、南部に遠征した帰りはあれこれと検討しつつも最終的な結論はいつも同じになってしまう。
 込み合ってこそいたが、なんとか2人分の席を確保し交代で食べたいお店に並ぶ。私は昨夜が肉だったので今日は魚の気分。サバヒーという魚は私の好物なのだが、ちょうどそれをメインにした定食があったので即決定。ちなみに別名ミルクフィッシュともいうのだが、漢字で書くと『虱目魚』で、知らずに見たらギョッとする字面をしている。白身であっさりしつつも旨味が濃く、食べても食べても飽きのこない素晴らしい魚なのに。
 付け合わせの野菜ともどもしっかりいただいて大満足の夕ご飯となった。

 心身共に余裕がいささかあったので、寄り道などしつつノンビリとホテルに戻った。

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台湾旅行記2015 2日目

明けて2日目。時差は1時間しかないので特に支障はない。カーテンを開けて窓の外を見ると、空は良く晴れている。あまり暑くなると困るが、まずは観光日和と言っていいだろう。
 朝食つきなので、券を持ってバイキングへ。
 昨年同様バラエティ豊かというか無国籍にもほどがあるというか。定番のパン、白飯、シリアルに生野菜各種はもちろんのこと。ご当地メニューな中華惣菜、和食からは味噌汁に沢庵に茶そば、あんころ餅があると思えば洋食からハムソーセージにワッフルやパンプディング。デザートとして各種フルーツも揃っており、果ては蒸したサツマイモも置いてある。
 気の向くままにチョイスし、締めのコーヒーまでしっかりと美味しくいただく。 

 満腹になったところで、相談タイムとなる。さて本日はどこへ行ったものか。今回もやはり行きたいところが沢山ある。全ては回りきれない。こういう時は優先順位の高いものから片付けていく方が良かろうということで、まずは買い物を済ませて後顧の憂いを断とうという結論になった。
 台湾を訪れる動機は数々あるが、中でも台湾でしか買えないものの買い出しというのは特に強い。
今回はまず花博公園に新しく出来た神農市場を目指す。
 国父紀念館駅から板南線で台北駅へ。ここからは淡水線に乗り換えて圓山駅で下車。目の前にあるのが花博公園である。
 ここは2010年に行われた台北国際花の博覧会の跡地を利用して作られた公園で、台北という大都市の中にあると思えないほど広大である。
 目指す神農市場は駅近なので困らなかったが、道二つ向こうにある天使生活館に行こうと思ったら2キロ以上歩かなければいけないようだ。広大にもほどがある。
 さて、その神農市場であるが、ここは台湾各地の産物、特に農業関係のものを中心に集めたマーケットである。



 国を代表する特産品のお茶は勿論のこと、はちみつ、ジャム、ドライフルーツに調味料、麺類各種
等々取り扱いは豊富である。ここなら最近すっかりハマってしまった台湾産珈琲もあるだろうと期待をして訪れたのであるが、お茶の一割にも満たない棚面積ながら確かに存在していた。
 台湾産珈琲はお茶に比べれば生産規模は実に小さいもので、価格はそれなりにお高い。しかし飲めば納得するだけの実力があると私は思っている。阿里山や凍頂、杉林渓といった高級烏龍茶と同じく、高原の澄んだ空気を思わせる透きとおるような香りに私はすっかり魅了されてしまっている。
 烏龍茶は入手するアテが多々あるのでここでは買わず、珈琲のみを戦果としてお店を後にする。

 MRTで台北駅へと戻り、板南線に乗り換えて西門駅に出る。珈琲を求める行脚パート2は駅前にある蜂大珈琲店。ここでは台湾産豆で淹れた珈琲がいただけるということで前から気になっていたお店である。
 妻はブレンド、私は台湾珈琲を注文。ブレンドも香り豊かであったが、やはり台湾珈琲は格別だった。昼時だったのでなにか腹にたまるものを一緒に頼んでもよかったのだが、ここは敢えて珈琲だけをじっくりと楽しんだ。
 と、珈琲を堪能した後は烏龍茶の番。
 日差しが強ければタクシーでの移動をと思っていたが、幸いにして程よい曇天。目指す場所までそう遠い距離でもないので歩くことにした。蜂大珈琲店から西門駅へと戻り、大通りの中華路を北上。横丁の漢口街へ入って5分も歩けば台北老店(老舗)として知られる峰圃茶荘に到着する。
 毎年のようにお世話になっており、台湾に来れば顔を出さずにはいられないのは良い茶が手に入るからというのもあるが、やはり店主のお人柄だろうと思う。
 試飲試食として振舞われるお茶やお菓子をいただきながら会話するその言葉の端々ににじみ出る温かさはまるで親戚の家に来たかのよう。
 今年などは「円安だから大変でしょう?」と懐具合の心配までしていただいた。まぁ、確かに毎年同じぐらいの量を買って帰るのに今年は円換算すると過去最大額の出費になってしまったのだが。
 購入量が多いので(一番大きな紙袋2つ分)ホテルへ配達してもらうことになるのも毎度のことだが、おまけにマンゴーをいただくことも恒例になってしまっているのはいいのだろうか。毎回ホテルに戻ってからいただくのだが、味は濃厚で素人の私にも安物ではないなと一口でわかるくらいには美味しい。
 帰り際には「お昼はもう召し上がられましたか?」と聞かれ「いえ、まだなんです」と答えると「近くのいい店をお教えしましょう」と手ずから店への地図を書いて教えてくれた。
 點水樓というそのお店は小籠包が美味しいそうで、「鼎泰豊もいいお店ですが、こちらも負けません」とのこと。
 何は無くともまず小籠包。これを2籠。上海菜飯というピラフとチャーハンのいいところを集めたような中西折衷的料理があるのだが、これが好物なのでメニューに発見した時の喜びは大きかった。
あとは東坡肉に季節の野菜炒めを注文。
 小籠包は確かに鼎泰豊に負けず劣らず。並ばずに入れる分こちらが有利とも言える。大量の針生姜と一緒に酢や醤油をつけてどんどん口に放り込む。
 上海菜飯はベーコンと青梗菜を具にした中華風ピラフ。

 なんだかんだと昼食を食べずにおいて本当に良かった。心底そう思える味に出会えて、老板(オーナー)への感謝の念で満ちる。
 あとは台北駅前のNOVAというミニ電気街のようなビルに立ち寄って細かい買い物をしようと足を向けるも、改装工事中。近くに別のチェーン店もあるのだが、気力が削がれてしまったのでMRTでホテルに戻る。
 結構歩いて体力を消耗したので、軽くシャワーを浴びてお昼寝タイム。最初は仮眠のつもりが結構な熟睡になっており、眼が覚めるとすっかり日が暮れていた。
 さて、どうするか。買い物に関しては本日の結果がそれなりに満足できるものであったし、選択肢の自由度はそれなりに高い。
 実は前から行きたいところがあった。行義路温泉というのか紗帽谷温泉というのか、ガイドブックによって名前が違うのだが、MRT淡水線の石牌駅からバスかタクシーで行けるところに日本風の温泉があるとのこと。旅の疲れを温泉で癒して体力回復、という目論見なのだが。その中でも川湯温泉という店は雰囲気も良さそうで気になっていた。
 ただ、妻の方がいささか渋っていた。以前訪れた北投温泉は川が天然足湯状態になっているほどの豊かな湯量なのだが、その足湯で湯当たりを起こしたことがあるので、また同じことになるのでは、と警戒気味だった。
 とは言え、疲れをとって翌日の行動をスムーズにしたいという思いは同じだったので最終的にはオーケーが出た。
 最寄り駅まではホテルから30分もかからない。ラッシュの時間帯ではあったが、MRTは本数が多いので混雑はそれほどでもない。まぁ、日本の乗車率が異常でそれに慣れすぎているというのもあるとは思うが。
 さて、石牌駅からはどうするか。温泉街までは地図を一目見ただけでもわかるくらいに山道の連続なので「バスだと酔いかねないから」と主張したところこれが通り、タクシーを選択。
 運ちゃんに川湯温泉と書いたメモを見せればすぐに伝わり、レッツゴー。
 5分としないうちにうねうねとした山道に入るが、それに合わせたように沿道の家々は急に豪華なものになる。台北市内は地下が高くて一軒家が買えないというのが定説らしいのだが、このあたりにくるとそうでもないらしく、凝った造りの家々がずらりと並んでいる。中にはどう見ても『お屋敷』と呼びたくなるような日本風建築もあった。
 そんなこんなで退屈知らずの道中は楽しく過ぎて、温泉街に到着。運ちゃんは『川湯』と書かれた、この上無く分かりやすい看板の前につけてくれた。



 ゲートをくぐり階段を降りていくと、スピーカーから大音量で流れているのは演歌だった。よく似た台湾の曲の空耳的聞き間違えだとかではなく、思いっきり日本の演歌。私は詳しくないので誰のどんな曲かはわからなかったが、日本語なのはさすがにすぐ分かった。
 階段の脇には鯉の泳ぐ池もあり、公式サイトによると『純日本風味』なのだとか。まぁ、よくある「頑張ってるけど、違うよなぁ」ではない。ここはかなりの本格派だ。何しろ露天風呂で、入浴方法も海外でよくある水着着用方式ではなく、日本流の全裸である。







 チケット売り場で入浴券を購入し、受付の人にもぎってもらって中へ。半券は食堂で割引券として使えるのである。
 下駄箱に靴を預けるとすぐに脱衣場。ここにはちゃんとコインロッカーもあるし、鏡やドライヤーも備え付けてある。小さいが別室にマッサージルームもあり、超ベテランと思しき老人が笑顔で待機していた。
 マッサージはかなり魅力だったが同行者がいるので今回はパスするとして。さぁ風呂だ。温泉だ。
 手早く衣類や荷物をロッカーに放り込んでタオル1枚を手にして浴室へ。まずは洗い場にて汗をしっかり流す。ボディーソープもシャンプーも備え付けのがあるので、その辺の不便もない。
 さっぱりしたので、浴槽へつかる。大きい熱めの湯と小さいゆるめの湯に冷水ジャグジーの3種類があり、まずは広い方へ。
 熱めの湯が全身にしみる。そこかしこに溜まった疲労が湯の中に溶け出ていくようで、なんとも言えぬ心地だ。手足を広げて全身で湯を味わう。所謂『濃い』お湯質で、その上源泉かけ流しなのもいい。効く。実に効く。露天の解放感も効果を高めてくれるようだ。
 ただ、熱めなのであまり長く入っていられない。一旦あがって夜風で涼む。
 涼んでいて気がついたが、多くの人がペットボトルや水筒で飲み物を持ち込んでいる。早速真似しようとタオルで水気を拭って脱衣場に戻ったが、ロッカーを開ける前にハタと気づいた。小銭がないので、一旦開けてしまうともう閉められない。
 しおしおと浴室に戻り、足を洗ってぬる湯のほうへつかる。こちらは頃合いの湯温で長く入っていられる。ただ、狭い上に打たせ湯があるので人口密度がかなり濃い。
 ここは地元の方々の憩いの場でもあるので、ここは譲り合うのがいいだろう。ほどほどに楽しんで、再び夜風に当たって身体を冷ます。
 しかし、さすがは温泉と言うべきか。保温性に優れていてなかなか体温が下がらない。やむなく冷水ジャグジーに入って強制的に冷ます。
 程よく下がったところで再びゆる湯へ。たまたま誰も使っていなかったので打たせ湯にもチャレンジしてみたが、なるほど人気があるのも納得の極楽加減。
 ただし、血行が良くなればなるほどノボせやすくもなるので長く入っていられないという諸刃の剣。
 最後にあつ湯に入り直して、シメとした。

 外に出た時、まだ妻の姿はなく。出てすぐのところにあるベンチで夜風で涼をとりながら待つことにした。
 照明が強いので星空を楽しめないのだけが残念だが、それすらもさして気にはならない。MP3プレイヤーを取り出して好きな音楽たちとともに5分待ったか10分待ったか。
 女湯から上がってきた妻の姿を見て思わず一言。
「またダメだったか」
「うん…」
また湯あたりしてしまった模様。
 ただ、今回はペース配分を工夫したのでそれほどきつくはないとのこと。夕飯も食べられると主張している。
 ここはもともと温泉レストランなので食事が可能であるし、先程の入浴券の半券を使えばその分の値引きもしてもらえる。しかし今回は敢えて別の選択をしたかった。ここに向かう道中、タクシーの車窓にある店を見つけたので。
「夕飯、ひげ張にしたいんだけど」
「あ、いいよ」
ひげ張。正確には[髪/胡]鬚張魯肉飯。
 日本においては以前神戸三宮の駅前に店を構えていたこともあり、我々には馴染みのある店。現在では石川県に2店舗あるのみになってしまったので、わざわざ兼六園観光に際しては昼食に立ち寄るくらいには愛用している。
 ただ、台湾に来れば台湾小皿料理を食べられるお店はそれこそ山のようにあるのでなかなか選択肢に入ることはない。
 それでも、今回のようなチャンスがあるとなれば話は別だ。
 店の人にタクシーを呼んでもらおうかと思ったが、割と遅い時間までバスが走っているらしいので待ち時間のロスを避けてバス停に向かった。
 長い長い階段を登り、さらにその先の坂道を登って大通りに出ればすぐそこにバス停がある。次の時間を確認するまでもなく、嘘のように出来すぎたタイミングで坂の上からバスが降りてくる。
 乗り込む際に何事か言われたのだが聞き取れずまごまごしていると身振り手振りで座るように示してくれてようやく意味がわかった。
 慌てて席に着くと、すぐさま右へ左へ車体が揺れる。行きがけにもこの道行きは体験したが、バスだからか下りだからか、帰りの方が揺れる。これは注意されるのも当然だ。
 石牌駅前のバス停で降り、妻の体調を再度確認。問題ないとのことなので勇んでひげ張へ。
 店内に入ると、レジの前に列ができている。結構夜遅くなのに並ぶくらい混雑しているのか?と思ったところ、これは持ち帰りのようで、我々は列に加わることなく空いている席についてメニューをもらう。
 色々迷いはしたが、最終的には魯肉飯と季節の野菜炒めにスープの定食という定番を夫婦おのおので微妙にアレンジして注文。
 料理が来るまでの間店内を眺めていて気がついたのだが、雰囲気がほか弁や吉野家のそれに近い。日本においてこそ珍しくて美味しいものが食べられるお店であるが、台湾においては馴染みのある料理をお手ごろ価格で提供している地元のチェーン店もなんだもんな、と納得する。
 こんな当たり前のことすらも、体感してみるまではピンとこなかった。
 そんな話をしているうちに料理はやってくる。食べてしみじみ思うのは、台湾小皿料理万歳!ここまで夕飯を食べずにおいて本当に良かったな、ということ。
 温泉と夕飯とでチャージしたエネルギーの甲斐あって足取りも軽くホテルへと戻ることができた。

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台湾旅行記2015 初日

毎年の事ながら、夏は台湾という我が家。
 今年は引越しがあったり仕事がかなりバタバタだったりと出発間際まで落ち着かない状況だったこともあってかなりギリギリまで行けるかどうか予断を許さなかった。最悪チケットとホテルのキャンセルまで覚悟するも、当日朝無事出発できる運びとなった。
 車にスーツケースを積み込んでいる時にも「やっぱり戻ってこい」という電話が来ないかという不安を抱えていたりしたということから、どのくらいギリギリだったかお察しいただけるだろうか。

 しかし、一度出発してしまえば雑念も去る。それよりも考えるべきことがたくさんあるからだ。道路は渋滞していないか、空港の駐車場はちゃんと空いているのか、今回の日程に問題ないのか、等々。
 とは言うものの、久しぶりに100キロを超える距離を運転するので、道中あれこれ考える余裕などはあっという間に吹っ飛んだ。
 後ろから猛スピードで迫られたと思えば横の車がウィンカーなしで車線変更してきたりとなかなかにスリル溢れる展開はなかなかの試練だったが、ちゃんと無事故無違反で関西国際空港に到着。

 懸念していた駐車場もエレベーターからは遠い場所ながら空きがあってホッとする。
 チャイナエアラインのカウンターも並ばずスムーズにチェックインできたし、保安検査もあっさり終わり、なんとも順調。あとはいつもの有料ラウンジでひと休み、と思っていたら関空の改装に伴い閉鎖されていた。
 さて、こうなると行き場に困る。残っているのはビジネスクラス以上やゴールドカード以上を対象にしたラウンジばかりだし、飲食店はどこも満席。
 右往左往していると、物陰にひっそりと存在しているパソコンデスクに気づいた。人目につかない場所にあるためか、幸いにして誰もいない。イスも机もあるので、荷物を置いてゆっくりできる。交代で飲み物等々買いに行き、くつろぐことしばし。本来であれば昼食にしたい頃合いなのだが不思議と食欲に乏しい。買ったばかりのお茶で喉を潤しつつパソコンをいじっているうちに搭乗時間も近くなり、とっととゲートへと移動する。所謂『爆買い』直後とおぼしい同乗者でいっぱいのモノレールに揺られることも、この先に待っている日々を思えばどうということもない。

 たどり着いた搭乗口で待っていたのは「出発時間10分繰り下げ」というお知らせ。これ幸いと、最後のトイレタイムとする。
 搭乗開始となっても長蛇の列なので、慌てずノソノソと並ぶ。列はゆっくりと進むが、たまーにおしゃべりに夢中な面々が流れを止めていたりする。しょっぱい。
 そんなこんなでようやく乗り込んだチャイナエアライン157便は見る限りほぼ満席。ほぼ飛び込みに近い予約でよく窓際二人並びの席が確保できたものだ。

 そのラッキーを堪能すべく外の景色を楽しむ。そのうち電子機器の使用許可が下りたので、デジカメで何枚か撮影。上空からでも「お、喜入のコンビナート」とか分かってしまうのは我ながら無駄特技だと思う。

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 そういう楽しみ方も、流石に洋上に出てしまえば続行不可能である。おとなしく機内食の配布を待つくらいしかできない。
 ちなみにこの日のメニューはチキンかポークの2択。夫婦でそれぞれ違うものを注文し、食後に感想戦を楽しんだりする。


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 飲み物は下戸のくせにビールを頼む。昼間っからビールの解放感は下戸であっても、いや、下戸だからこそ格別のものがある。せっかくなので酔いに任せて一寝入り。モーニングコールはシートベルト着用サインの点灯音だった。

 幸いにして座席のモニターから機外カメラにリンクして着陸の様子を見ることが出来るので、迫力満点の映像を楽しみながらの到着となった。
 
 1年ぶりの桃園空港が『なつかしい』とすら思えるのはこの場所にも楽しい思い出が多いからだろう。荷物を担いで入国審査を待つ長い列に並ぶのも、あまり苦にならない。
 大陸居民と書かれた薄紫のパスポート軍団に列を阻まれたりしたものの、通関自体は無事終わり入国を果たす。スーツケースを回収し両替を完了したら、あとはとっととホテルに向かっても良かったのだが、バスの中で飲むお茶が欲しくなり地下のセブンイレブンへ向かう。
 購入後はそのままフードコートで休憩。ここには春水堂という台湾の国民的カフェがあって、名物はタピオカミルクティーだったりするのだが、うっかりタピオカ抜きの単なるミルクティーを注文。その上、サイズがSとMのみだったので「じゃあ」とばかりに深く考えずMサイズを頼んだら私の知ってるMサイズの5割増くらい大きいのが来て、飲み終えるのに少しばかり手間取る。
 それでも休憩の甲斐あって気力体力ともに回復し、意気揚々とフードコートをあとにする。
 今回はバスのチケットを買うのにメモではなく口頭での注文にチャレンジしてみたのだが、無事に通じた。通じたというか聞き取ってもらえたというか。ちなみに先方の説明はうまく聞き取れなかったので「オーケーオーケー、センキュー」で済ませてしまった。まぁ、前回と同じバスなので特に問題はなかったのだが。
 バスは高速道路の事故渋滞に巻き込まれたようだが、その時すっかり眠りの世界に入っていた私は全く気付かず。目が覚めたあとで顛末を教えられる。

 そんなこんなで予定よりは遅れたが、予約していたチェックインの時間にはちゃんと間に合った。MRT国父紀念館駅前のユナイテッドホテルこと國聯飯店。相変わらずオシャレな造りで自分たちには似合わないなと思いつつも、立地の良さとシモンズベッドの寝心地に負けてまたここにしてしまった。
 昨年はたまたま空いていたので無償アップグレードしてもらったのだが、今年はさすがにそういうラッキーはなく、一般客室へ。一般客室でも居心地は十分良い。前述の通りベッドの寝心地もさることながら、バスタブが広いので旅の疲れを癒すのには実に助かる。
 一つ難点があるとすれば、居心地がいいのでついつい部屋に長居してしまうことだ。荷ほどきをしたりネット接続を確認したりベッドでゴロゴロしたりしているうちに気づけば1時間半以上経過していた。

 これでは何をしに来たのかわからない。意を決してベッドから這いずり出て身支度を整える。
 さしあたって出かける用事としてはまず夕飯、そして国境越えの移動疲れを癒すマッサージというところだが。この両者を満たせる場所として真っ先に浮かんだのは[食堯]河街夜市。
 また、ホテルの道向こうに広がる元タバコ工場の広大な敷地が松山文創園地区として再開発されたそうなのだが、ここに台湾を代表する本屋である誠品書店が出来たらしく、方角としては[食堯]河街へ向かう途中になるのでここに立ち寄ることにした。ホテルからは徒歩圏内なので夕涼みがてらのんびり歩く。
 道すがら、スーパーだったはずのところにジュンク堂(台湾表記は淳久堂)が出来ていたり、イベント限定だったはずのガンダムグッズショップが常設になっていたりと初手からノックアウト気味。

 ちなみにジュンク堂はほぼ全て日本の発売された雑誌・書籍で埋め尽くされており、「これなら日本で買うなぁ」と肩を落とす羽目になった。個人的には「え?こんな本まで翻訳しちゃったの?」という驚愕の出会いを楽しみにしていたので。







 ちなみに、店に貼ってあるポスターも完全に日本のものなので、一瞬どこにいるのか分からなくなること請け合い。

 初手からそんなショックを受けたりしたものの、目指す誠品書店にはちゃんと着けた。
 ここは書店でありながら本を扱うスペースと同じかそれ以上に台湾各地の物産を扱うお店がそこかしこにある。お茶もお菓子もなかなか良いものを扱っていたのだが、いかんせんお高い。一昨年くらいまでなら為替レートの恩恵から多少の高値も笑って購入だったのに、人生初体験となる1台湾元=4円の前には慎重にならざるを得ない。
 そもそもとして探していた漢日辞典も良いものが見当たらなかったため結局目の保養をしただけに終わり、タクシーで夜市へ向かった。丸っこいショッピングモール京華城の横を10分も走れば派手な電飾の看板と眼が光る謎のフクロウ親子がお出迎えする[食堯]河街夜市だ。

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 平日夜だというのにここの賑わいは相変わらずで。まずは体調を整える意味からマッサージへと向かう。ここには『視障按摩』、所謂眼の見えない人たちによる按摩店がある。あちこちで揉んでもらってきたが、ここや空港にある視障按摩店はその中でも頭一つ抜きん出て上手い。
 30分、テレビ付きの椅子に腰掛けてプロの技に身を委ねる。テレビでは毎度お馴染みANIMAXがソードアートオンラインの吹き替え版などを放送していたのだが、さすがに聞き取れないので、言葉がわからなくても楽しめる台湾プロ野球の中継を見ることにした。
 見始めた時は試合も中盤、点差は僅かという好展開だったのだが残念ながらマッサージ開始数分で寝落ちしてしまったので内容はほとんど記憶にない。これではアニメでも野球でも同じである。
 眼が覚めると足のむくみは見事解消されて、靴がスッと履ける。おかげで混雑した夜市を歩く足取りも実に軽い。
 夜もだいぶ遅い時間になってきているが、閉まっている店はゼロ。夕飯の選択肢は全く減っていない。めぼしいところとしては台湾名物魯肉飯のほかに鉄板焼き、烏骨鶏料理、そしてまさかの小籠包を発見。小籠包は屋台でひとつひとつ包んでは蒸してるという本格派。これは話の種にぜひと思ったが、狭い一角に並んでいる人がいるくらいの人気なので断念。
 去年も行った薬膳スープが名物の圍爐というお店へ。メニューは薬膳排骨(スペアリブ)、薬膳羊肉、魯肉飯の3つなのだから実に硬派だ。私が羊、妻が排骨。それと魯肉飯を2つ。
 肉づくしの夕飯は胃に優しくないと思われがちだがさにあらず。甘くも辛くも塩っぱくもない薬膳スープは全身に元気を届けてくれる。口へと運ぶ手が止まらない。お店の方で味にアクセントをつけるための味噌ダレもつけてもらえるのだが、最初はそれ無しでガンガンと食べることをお勧めしたい。
 台湾最初の夕飯としては申し分のない選択であったと満足して店を出る。いつもならタクシーでホテルへ戻るところを、今回は延伸開業したばかりのMRT松山新店線に乗って帰った。

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ただいま関西国際空港

今年も台湾旅行に行ってまいります。
 関空の出国エリアにあった有料ラウンジがなくなってしまい、どこで時間をつぶそうかと一時は途方にくれましたが、なんとか安住の地を見つけて現在休憩中です。

 毎年の事だというのに今回はどうした訳か夫婦揃って妙に落ち着きません。

 何事もなければいいのですが…。

 例年より若干不安交じりで行ってまいります。

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台湾旅行記2014 5日目

帰国日。正直あまり気分が優れないのは帰りたくないからだろうか、それとも蓄積してしまった疲労のせいだろうか。

 さて。唐突だが偉大なる革命家孫文を台湾の人たちは敬意を込めて『國父』と呼ぶ。そしてその國父を称えるべく建てられたのが、今回の根城であるユナイテッドホテル最寄りの駅名にもなっている國父紀念館。

 この台湾が誇る一大ランドマークをあれこれと理由を付けてはこれまで素通りし続けてきてしまった訳だが、今回はさすがに行ける。ホテルの目の前という好条件であり、朝食からチェックアウトまでの時間で悠々行って帰って来られる。
 の、はずだったのだが。寝坊が全てを狂わせた。
 朝食時間には無事間に合ったものの、時間的余裕は当初の予定よりグッと少なくなってしまった。

 それでも、こんな近くに泊まっていて素通りして帰るのはあまりに失礼だということで半ば強引に出発する。

 ホテルから目的地まではほんのわずかな距離なのだが、それでも油断の出来ない暑さが我々をさいなむ。これは今回何度も経験したが、何度経験してもまだ『慣れる』ということが出来なかった。峰圃茶荘の老人も「今年は異常な暑さです。気をつけて」とおっしゃられていた。台北に住み続けて1世紀近くになろうかという方の言葉なので実に重みがある。

 なんとか無事にたどり着き、建物の陰に入るとそれだけで割と心地よい。どれだけ日差しが強いのか、とふたりで苦笑しつつ中へ。

 孫文の巨大な銅像を一目拝もうとホールへ入ると、ちょうど1時間ごとの衛兵交代式が始まるタイミングだった。この交代式、台湾では中正紀念堂のそれが有名だが、実はこちらでもやっている。
 狙った訳ではなかったが、せっかくなので拝見させてもらおうと人垣の一部となる。
 実際の動きについては動画を撮影してきたのでそちらで確認していただくとして。
 
 機械仕掛けのように正確かつタイミングの一致した動きは余程の訓練を積まないと出来ない。特に銃剣交換の場面などはどれだけの時間を要したか知れない。この10分にも満たない時間の中にどれだけの下積みが裏打ちされているのかを考えると、國父という存在に込められた敬意の深さに思い至る。

 それに触発されたのであろうか、孫文という人物に対して改めて興味が湧いた。『せっかくなので』という言葉は実に便利かつ危険であり、衛兵交代式だけではもったいないと孫文の生涯を展示した資料室にも入ってみる。我が家では面白おかしいエピソードのほうでお馴染みになってしまっているが、勿論ここではそういう展示はない。
 建物を出ると目の前にも孫文の銅像があり、その背後が碑林になっていた。碑林というのはその名のとおり石碑の集まりであり、ここには中華民国の歴代重鎮が孫文に捧げた文字文章を石碑にして集めていた。



 とまぁこんな感じで、ちょっと立ち寄るだけのつもりが思わず時間を長々費やしてしまった。慌ててホテルに戻り、チェックアウト。慌てたためにうっかり忘れ物をしたことには桃園空港に着いてから気づく。

 さて、空港への移動手段であるが。
 来たときに目の前で降ろしてもらったのだから、当然帰りも目の前からバスが出るはずなのだが、路線バス用のバス停もたくさん並んでおり、今イチバス停がどれなのか分からない。バス停が分からなければ当然次が何時に来るのかも分からない。
 もっと言うと、我々が使用したバスは比較的本数が少ない。最悪、20分間もしくはバスが遅れたらそれ以上の時間を炎天下にて焙られる覚悟がいる。帰国日に熱射病にでもかかったらシャレにならない。

 となると、ここから乗ることは断念し、涼しさが確保されている上、大荷物を抱えても気兼ねなくゆっくり待てる乗り場を利用することにした。
 市政府駅のバスターミナルも涼しい点では合致するが、あそこは待機場所が意外に狭く、大荷物を抱えた我々にはいささか窮屈であった。

 となるとどこがいいか。幸いにしてひとつ心当たりがあった。

 松山空港から桃園空港へ行くバスがそれだ。松山空港は当然待機ロビーが結構広いし、そこからバス乗り場は目と鼻の先。周囲に居る人たちも大荷物を抱えているのが前提なので気にせずノンビリ待てる。

 ホテルをチェックアウトしてタクシーを拾う。ここから松山空港までは10分くらいかかっただろうか。そのため料金もさしてかからず。

 ここは国際空港化してからは来たことがなかったので、まずは喫茶店で一服しようかとも思ったのだが、行って見るとなんだか列が出来ているので休憩はパス。とっとと桃園空港まで移動してしまおうという結論に至る。

 バスロータリーは空港内からも見て分かるところにあるので、乗り場を自分でウロウロして確認すれば分かるのだろうが、まぁ暑いし、ということでサービスカウンターで聞いてみる。
 するとコンパクトに乗り場や発車時刻などがまとめられた案内の紙を渡される。書かれているのは当然のように日本語。それによるとバスはここから直通のものがあるようだ。こういうメモは重宝するのでとっておく。

 そのメモに従い6番乗り場に停車中のバスに乗り込む。

 バスは行天宮の近くで一度乗客を拾ったあとは市街地に入らず高速に乗ったのでこれまた快適。今までのように送迎の便があったり、もしくは台北駅近辺のホテルに泊まったりというのでなければ松山空港ルートはなかなか使えるという結論に至った。

 桃園空港は来た時と同じかそれ以上に暑かった。しかし、この暑さともこれでまたしばしのお別れかと思うとほんの少しだけ名残惜しさを感じた。

 チャイナエアラインのチェックインカウンターでは長蛇の列を職員さんが懸命に捌いていた。おかげで列の長さの割には待ち時間が短くて済んだ。こういうところはチャイナエアラインいいな、と思うのだが。

 今回の台湾旅行最後の食事は機内食があることを考慮して地下のフードコートにて軽めに済ます。ちなみに店の中ではセブンイレブンが一番人気でちょっと苦笑。

 待ち時間はマッサージと買物とで幸せに消化する。マッサージは今回結局初日の1回しか受けていなかったので、ここで受けて疲労を少しでも解消しておけるのは幸運だった。
 それにしても、もうこれ以上買う物なんかないだろうと思っていたが、ここの本屋で野球雑誌の『職業棒球』が買えたりしたので侮れない。あと、ホテルの冷蔵庫に忘れてきた台湾製の水筒もここで買い直せたのは大いに助かった。
 このマッサージ及び買物の時間はちゃんと搭乗開始時間を計算に入れてスケジュールを組んだのだが、来た時と同じくまたディレイ発生でがっくりした。

 実際に離陸する時すらも機内でそこそこ待たされたので何事かと思ったら、窓の外を見てビックリ。滑走路上でまさかの大渋滞が起きていた。飛び立つ順番待ちしている飛行機の行列なんて初めて見た。滑走路が工事中というのはアナウンスで知っていたものの、まさかここまでカオスになっているとは。

 搭乗口でも機内でもだいぶん待たされ、ようやく離陸。

 飛び立つと程なくして機内食の配食開始となる。待たされたイライラを食事で解消してもらおうという腹づもりなのだろうか。
 
 機内食は行き同様に帰りもなかなかの充実っぷり。メインディッシュのみならず脇役のはずのポテトサラダまでしっかり美味しいのは『偉い』と褒めたくなる。
 帰りは関空から車を運転しなくてはいけないので行きのようにビールを楽しんだりはせず。ただ、ひねくれ者なので子供のようにオレンジジュースなんぞ頼んでみたりするのだが。




 食事が終わればたくさんの思い出を抱えてひと寝入りし、目が覚めればもう間もなく着陸態勢だとのこと。慌ててシートベルトを締め直し、椅子に深く掛け直す。

 何度来ても新しい出会いと発見がある台湾だが、今回は特に紅毛港保安宮が思い出深い。艇長は日本の軍人なので戦死後は当然靖国神社や地元の護国神社にて祀られているのだが、別宗派にてもあのようにお祀りされている例は世界にどれほどあるのだろうか。

 探せばいくらでも出て来るのかも知れないが、少なくとも艇長がその中の幸せな一例に挙げられるのは間違いないところだろう。

 八田さんと烏山頭水庫のように、こちらの逸話もぜひ広まって欲しいものである。

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これから帰国します

結局最後までアニメイト台北にも書店街にもいかなかったため、こちらでご報告することはあまりありませんが、艦これ提督諸氏には日本の軍艦及び軍人がお祀りされている高雄市の紅毛港保安宮にはぜひお参りいただきたいと願うものでございます。
 詳細な様子や現地への行き方等々は旅行記の中に書かせていただきますが、お廟の管理人の方には大変良くしていただきましたし、艦これをプレイしていない方にもお勧め出来る場所でした。

 あとは駆逐艦雪風改め丹陽最後の奮戦の地である金門島を訪れる計画でしたが、これは不発に終わりました。次回の楽しみとしたいと思います。

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ちょっと気になったこと

うっかり日付が変わってしまいましたが、今年の台湾オリジナル旅行最後の夜でございます。

 今回はアニメイト台北にも行かず台湾オリジナル漫画も買わなかったりと、オタネタ的には不作でしたが、一応あちこちに探り入れておりまして。
 『台湾のアキバ』こと光華商場には足を運びまして。日本と台湾、DVDではリージョンコードの厚い壁に阻まれておりましたが、ブルーレイでは見事統一規格となり、台湾で販売されているものを普通に日本で視聴出来るようになりました。
 そんな訳で今回は日本で買い漏らした、もしくは手が出なかったものを買って帰ろうと光華デジタル新天地ビルにて探索したんですが。思った以上に種類が少なく、あってもメジャーどころ(ジブリ作品とかエヴァとかハガレンとか)ばかりで。
 半ば諦めかけていたところ、とあるお店のブルーレイコーナーの一番上の棚に探していたもののひとつである某公務員アニメの3巻があったんですが。
 これ、ジャケットがあからさまにカラーコピーな上にいくらなんでも安過ぎるだろうというお値段(ちなみに300元。日本円で1050円程度)。カラーコピーなのは見本品だからかも知れないし、安過ぎるのは在庫処分等何らかの事情があるのかも知れないし、とか色々好意的に考えてみたんですが、決定打としてリージョンコード等々の記載がどこにもありませんでしたので、これはどう考えてもリスクが高過ぎると判断し回避しました。
 
 コピー品をうっかり買うと悪気があろうと無かろうと税関で没収ですし、ケースによっては事情聴取やそれ以上のことなんかもあるようですので皆様もご注意くだされませ。

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台湾旅行記2014 4日目

疲労の蓄積度は昨日の朝よりも深い。しかし、丸一日使えるのは今日で最後。この日は土曜日なので待望の新光華商場ホリデーマーケット開催日でもある。ホテルで一日ゆっくりする、などという選択肢を取る気は毛頭ない。
 金門島は諦めるとしても、マーケット自体は10時くらいからスタートなので、それまでに用事のひとつふたつ片付けられる。

 あれこれと脳内で候補を挙げているうちに、基隆に行きたくなった。基隆は台北市の北に位置する港町。正確にはそこにあるパイナップルケーキの名店李鵠餅店に行ってみたくなった。というか李鵠餅店の味が恋しくなった。

 そして、基隆まで行くもうひとつの動機として、市政府駅バスターミナルから出ている基隆行きのバスを試してみたいというのもあった。

 今回は買物してとんぼ返りなので、ひとりでお出かけである。
 市政府駅バスターミナルへはホテルから徒歩圏内。ただ、暑いので遮るもののない北側(聯合報ビル側)ではなく木陰のある南側(國父紀念館側)を歩く。この街に緑が豊かであることをしみじみと感謝しつつ歩く。
 当然國父紀念館の前を横切るのだが、建物の大きさに驚きつつ、同時に何度も何度もこの街を訪れておきながらここを素通りし続けてきたことに思い至る。
 これは今日明日中に訪れておかねば。

 などなど考えているうちにもう市政府駅が見えてきた。
 早速中へ入ってチケットカウンターで乗車券を購入しようとしたところ、基隆行きは直接バスの中で支払うシステムとのこと。しかも、悠遊カードが使えるそうで。ちなみにお値段は40元。あと、これは降りる時に知ったことだが、乗る時にも降りる時にもタッチして金額を調整するシステムなので乗る時に機械にタッチして「お、34元だ。カード割引かな?」などと勘違いをしてはいけない。降りる時に注意されてしまうのでお気をつけいただきたい。

 乗り場に並ぶこと10分ほどでバスはやって来た。高速バスなのでハイデッカーの良いヤツだ。空いているのを幸い、車窓を楽しめる最前列に陣取った。
 ここを出るとバスは1カ所だけバス停を経由するとすぐ高速道路に乗り、快速に飛ばす。

 これがなんとも速い!
 台北駅西のバスターミナルから乗ったときは市内の渋滞に巻き込まれてなかなか高速に上がれなかったが、今回は乗車してすぐ高速に乗る経路だったので居眠りする間もあらばこそ、30分弱でバスは基隆に到着した。
 台北駅から鉄道を使うと最速の自強号でも39分かかるので、ホテルから駅までの移動を考えたらバスのほうが圧倒的ですらある。鉄道好きであるからこそ、この不利は残念である。
 基隆の空は美しく晴れていた。台北市内でも高雄市内でもうらめしく見上げることの多かった夏空にも、ここ基隆では笑顔になれた。目の前に広がる港の光景と相まって、どれほど暑かろうとも苦にならなかった。


 しばし見蕩れてしまったが、それもしばしの間。目的を忘れてはいない。

 李鵠餅店へ。

 うっかり道を間違えて廟口夜市の前に出てしまったりしたが、そこにある地図に思いっきり李鵠餅店の場所が書いてあったおかげで無事たどりつけた。さすが老舗、さすが名店。

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 まだ早い時間ということもあってか、店は混雑していなかった。バラで1個から買えるのだが、私は大量買付けをするので10個入りプラスチックケースを指差し、パイナップル味とイチゴ味を各2ケースずつ注文。
 そう。このイチゴ味というのが台湾でも珍しいので、私は足を伸ばして買いに来たという訳である。

 大きな袋に詰めてもらってホクホク顔で基隆駅前のバスターミナルへと戻る。帰りもやっぱりバスである。鉄道にも食指は動いたのだが、時間帯が悪く普通列車しかなかったのとホリデーマーケットがそろそろ始まっている時間だったのとでバスにした。

 台北市内方面のバスは本数が多いが、その分行き先も多岐に渡っているのでそこだけは気をつけないといけない。乗り場に大きく書かれている経由地を確認してから並ぶ。ここは台湾に珍しく冷房が入っていなかったのでぬぐってもぬぐっても滴り落ちてくる汗に往生したりしつつ、並ぶ。
 そうして10分ほど待っただろうか。やって来たバスに乗り込むと車内の涼しさに心の中で万歳三唱。

 帰りの便は市政府駅バスターミナルを経由しないので、ホテルに近い別のバス停で降りる。

 部屋に戻って荷物を置き、今度は妻と2人で連れ立って出発。今度はMRT國父紀念館駅から電車に乗って3駅の忠孝新生で下車。

 やっぱり焙られるような陽射しの中を歩いて光華商場ホリデーマーケットの会場へとたどり着く。
 私がこの催しにこだわる理由として『貴重なものが安く買えるから』というのが理解されやすいのでしばしば口にするが、実際のところは、この祭りの縁日のような雰囲気がたまらなく好きだから、というほうが大きかったりする。メイン会場をぐるっと取り囲むように飲食物を売ってたりするところなどはたまらない。

 さて。まずは中央会場から順に見てまわる。今回は彰化県主催ということでご当地名産の果物が多数出ている。
 元来台湾で果物と言えばマンゴー、パイン、ドラゴンフルーツなどが有名である。が、目の前で売られているのは梨、桃、ブドウといった日本でお馴染みのモノばかり。どうしたことか。それと、どれもこれもうまそうなのは大変いいのだが、販売単位が1箱(6個入り)とか1斤(600g)とかで分量的に手が出ない。
 せめて、とブドウジュースを購入してみる。その場で絞りました的な濃厚至極の味わい。

 売っている店の数は少ないものの茶もあるのだが、それよりも我々の目を惹いたのはコーヒー豆である。しかも、売っているだけではなく、どうやらその場で飲めるらしい。

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 早速オーダーしてみると、台湾コーヒー独特の澄んだ香りとスッキリした味わいに購入即決。

 去年まではあんなに入手に苦労したというのに…。ちなみに挽いたものではなく豆の状態で売っていたため、帰国後のコーヒーミル購入も同時に決定した模様。

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 早速の戦果だが、妻は茶の選択肢が少ないことにいささか困っていた。土産用にも自家用にも現在の分量ではいささか不足気味(何しろ1年分なので)とのこと。一昨日茶楽樓に行き損ねたおかげで計算が狂っているらしい。

 じゃあいっそもう一度茶楽樓に行ってみるか、と提案する。行ってみて今日も店が閉まっているようなら完全にあきらめもつくだろうし、その上で改めて段取りを組むことも出来る。

 ただ、前回のようにバスで行くと時間がかかりすぎる。大体どの辺りで止まってもらえばいいのかの土地勘も掴めたので、敢えて前回避けたタクシーで行くことにした。このあたりは流しのタクシーが多いのですぐにつかまった。ダメ元で『迪化街』のメモを見せると運ちゃんは大きくうなずき、速やかに車を発進させた。
 台北駅付近でちょっと混雑した以外は順調で、ものの15分もしないうちに永楽市場前で車は止まった。この先は道幅がグンと狭くなっているので、ここからは歩いたほうが確実である。
「謝謝」
「アリガトございました」
互いが互いの言語で礼を言い合う光景は珍奇と言えば珍奇かも知れないが、気は心というやつだ。
 ここから先は一昨日来た道なので迷いようも無く、ものの5分ほどで茶楽樓に到達。
「開いてる」
「開いてるねぇ」
しかも店内からは茶を焙じている時のような芳ばしい香りが漂ってきている。
 安心して中へと進むと、店内には店員さんと思しき女性と、客と思しき女性が何やらの会話をしている。
 とりあえずそれが終わるのを待つ間、店内の品揃えをチェックしてみたり。妻が気に入ったというだけあってモノも価格帯もなかなかによろしい。
 先客の用事も終わったようなので、妻が店員さんに茶の注文をする。
「試飲されますか?」
「いえ、前回来てモノは分かってるんで大丈夫です」
「以前も来ていただいたんですか?」
「その時は男の方が対応して下さったんですが」
「父です」
「え?あなた娘さんですか」
大変申し訳ないが、店の名刺に写っている非常に丸々としたお父さんとすらりとした娘さんがどうしても結びつかない。
 まぁ、その辺は些事である。それよりも一昨日店が閉まっていたことほうが気になった。
「一昨日はお休みだったんですか?」
「ええ、はい。体調が悪くて…、あ、すみません。いらっしゃってたんですか」
「年中無休って書いてあるのに閉まってたから心配しました」
「すみません。体調が悪くて寝込んでしまって。父が今日本に帰国中なのでお店が開けられなくて。ご迷惑をおかけしました」
「いえ。でももう大丈夫なんですか?」
「はい。もう大丈夫です」
そんな会話をしつつ、和やかに買物終了。
 茶に関してはこれで後顧の憂いを断てた。となれば再度ホリデーマーケットにアタックをかけてもいいだろう。
 大通りで再びタクシーを拾い、メモを見せて速やかに光華商場まで運んでもらう。
 マーケットは依然として盛況だった。
 とりあえず移動と暑さで消耗したエネルギーを出店の香腸(台湾ソーセージ)で補充。暑い中で熱いものを食べるので汗が止まらないものの、うまいという事実の前にはそれすら無力である。
 食べ終えて、取り入れたパワーを元手に周回再開。
 が、妻のほうはコーヒー豆も茶葉も手に入れてしまったので割と購入意欲は満足してしまったらしい。私はと言えば、まぁ何か珍しいものや良さげなものがあって値段や分量がネックでなければ買ってもいいかな?くらいの心づもりだったので、最後にもうひとまわりだけして撤収することにした。見事大好物の杉林渓烏龍茶を発見&購入して心の中でガッツポーズ。
 ちなみにこの品種、近年ようやく日本でもルピシア等で取扱がされるようになったが30g2,000円以上はするというお高いもの。これが300g1000元(約3,500円)で買えたのだから大変ラッキー。

 収穫物を手に手にホテルへ戻った。

 軽いお出かけのつもりが最終的にはあっちへこっちへと動き回った上、昨日一昨日とマッサージを受け損ねて疲労抜きが十分でないこともあって、部屋で荷物を整理していると急激に眠気に襲われ、お昼寝タイムになってしまった。というか今回は非常に暑かったということもあるが、とにかく休憩時間を挟むことが多くなってしまった。これがもう若くない旅の形というものなのだろうか。単に普段からの体力作りやこちらに来てからの身体のメンテナンスを怠ったとも言えるが。

 ともあれ。寝て起きればもう時刻は夕方。だいぶ楽にはなったが、さてどうしたものか。 

 國立故宮博物院。言わずと知れた台湾の一大博物館。
 東京は上野の国立博物館でここの収蔵品を借り受けての特別展示をやっていて、中でも国外へは初の移動となった翡翠製白菜は大人気のため4時間待ちにもなったらしい。
 その白菜が2週間の特別貸出期間を終えてこちらに戻ってきている。幸いにしてこの日は21時まで開館時間を延長してしているので夕方から見に行っても十分見る時間はある。というか、この時間であれば混雑もマシになっていて昼間に行くよりもゆっくり見られる可能性すらある。

 唐突な思いつきにしては割と良いアイディアであると自画自賛しつつ、妻に諮る。ダメ出しされるか心配だったが無事賛同が得られ、出発進行。

 ホテルの前でタクシーをつかまえ、メモを見せるいつものやり方で今回も無問題。

 土曜の夕方という割と込み合う時間帯だが、うまく渋滞を避けて台北松山空港の横を行き基隆河を越えミラマーガーデンホテルの大観覧車を過ぎると、自強隧道というトンネルが現れる。これを抜ければ、もう目と鼻の先に故宮博物院がある。
 軽快なハンドルさばきのおかげもあって、現地到着したときはまだ十分空が明るかった。

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 最初の想定よりはかなり有利な条件でのスタートだが、そもそもここはちゃんと見ようと思ったら丸一日かかるようなところなので、かなりの駆け足になることは覚悟完了済。要はポイントの絞り方である。

 まず白菜は外せないとして。あとは九州の国立博物館にこのあと貸し出されるトンポウロウそっくりな肉形石も見ておきたい。…我が国もかなり他人の事は言えないが、なんだこの方向性。
 もちろんそれ以外にも青銅器や磁器の名品を中心に観覧プランを組む。

 館内は思いのほか人が多い。よほど夜間開館が知れわたっているのだな、と思って見ていると、子供達を学芸員さんたちが引率し案内している。夏休みの企画かなにかでやっているのだろうが、問題は引率している人たちの格好だ。揃いも揃って展示を意識したと思しきコスプレをしているのだ。
 皇帝の衣装を身にまとった男性は思いのほか似合っていたのに足元がスニーカーで台無しだったり、別のお姉さんは例の翡翠白菜にしようとして単なる謎のフェルトパッチワークになってしまったり。特に後者は「Photo OK?」とたずねるのも憚られるほどで。
 それでも子供がわめいたり駆け回ったりしないし、何より大陸からの団体客が居ないので、以前来た時に比べたら実に静かである。この心地よさ、入館して10分も経たぬうちに、また夜に来ようと心に決める。
 そして件の翡翠白菜だが、確かに芸術的名品だとは思うものの、何度も見ているということもあってか心を奪われるというほどのことはなかった。この辺は好みの問題なのでご容赦いただきたい。肉形石もまた同様。

 私の好みは上述のとおり磁器と青銅器、そして家具類。
 家具については1階で清代貴族の部屋を再現した形での家具展示をしており、これがまた私を惹き付けてやまない。家具というのは各々役割を持っているので、バラバラに展示するよりも当時の状況を再現してその役割を観る者に対してハッキリさせたほうが魅力を増す。ここはその理想的展示のひとつと言える。故宮博物院の展示室どこか1カ所で1日過ごせと言われたら私は迷う事なくここを選ぶ。
 しかし実際はそんな贅沢など出来ようはずもなく、次へと急ぐ。
 
 古来『玉(ぎょく)』という名で親しまれた翡翠。これは特に漢民族に愛され先述の白菜を初め様々な美術品の素材となっている。その『玉』に手で触れるコーナーがあった。喜び半分緊張半分で手を伸ばす。
 宝石の一種なのでもちろん硬いのだが、不可思議な滑らかさというか柔らかさというか。金属とは違う暖かみのある硬さを感じた。

 そのあとは白磁、青銅器、古書文献等々を大急ぎで見てまわる。急ぎすぎて少しばかり時間が余ったので、最後は4階の三希堂というカフェレストランで一服。もう時間が遅いのでドリンクのみということだったが、もちろんOK。

 眼下に広がる夜景や店内に飾られた多種多様な調度品を眺めながら飲むお茶はまた格別だった。
 飲み終えて下に降りるとまだ入口横の土産物売り場は営業中だったのでこれ幸いとアタックを敢行。
 目当ては過去の特別展示の図録。古いものは半額で売っていたりして大変お買い得。そしてここで我々は残り福とも言うべき大当たりを引き当てる。『康煕大帝と太陽王ルイ14世』。どうやら過去に清王朝とフランスブルボン朝を代表する両君主にちなんだ特別展をやっていたようなのだが、こういうのが夫婦揃って大好物なので値段とか大きさとか諸々のハードルを突破して購入する。
 今手元に現物があるのだが、ページをめくるたびに自然と溜息が漏れる。

 嗚呼、本当に来て良かった。思いつきから始まった吶喊ツアーだったが、大いに満足出来る結果だった。

 その後タクシーで台北駅に出て、フードコートでパパッと夕食を済ませてホテルに戻った。
 明日はいよいよ帰国日である。たくさんの思い出を両手に抱えてゆっくりと眠りについた。

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台湾旅行記2014 3日目

疲れやすくはなっているものの寝れば何とか回復するのは広い風呂の効用だろうか、それとも広くて寝心地のいいベッドのおかげだろうか。昨日は本探しでヘトヘトになってしまった上にマッサージを受けそこねたのに朝ちゃんと起きられた。
 
 その上ちゃんと食欲もわいてきたので今朝も盛りだくさんの朝食をしっかりいただけた。バイキングの献立は昨日と同じだったので省略するが、同じメニューでも飽きが来ないというのは重要だと思った。
 
 さて。今日はどうするか。

 本来であれば、お廟行きの計画を実行するにふさわしい日なのだが。

 だがしかし。躊躇せざるを得ないほどに今年の台湾は暑い。熱暑炎暑という言葉がふさわしい状況だ。比較的北に位置する台北市内ですらこうなのだから北回帰線の向こうっかわである高雄市内はさらに暑いだろう。

 妻は身体が弱いのであまり無理をさせたくない。キツい日程になることを説明し、その上で体調を確認したところ「大丈夫」という返答が。

 ならば行くしかない。
 お供え物として関空で調達してきた清酒『玉乃光』と煙草『峰』にいよいよ出番がやって来た。部屋の片隅に固めておいてあったそれらをトートバッグに詰め、暑さ対策の帽子とタオルを持てば出発準備完了。

 地下鉄で台北駅に出て、そこから新幹線に乗る段取り。
 窓口には結構人が並んでいたのだが、クレカで買える券売機はガラガラで、9:54台北発左営11:30着の速達型列車の切符をすんなり購入成功。

 発車まであまり時間が無かったので、道すがらにある便當本舗で飲み物だけ購入してホームへと急ぐ。

 途中台中しか止まらない速達型だけに車内はほぼ満席。ほんとうによく並びで席が取れたものだ。座席についてホッと一息つくと、列車は静かに動き出した。

 もう何度目の乗車になるのかも憶えていないが、相変わらず車内は快適である。日本の新幹線とは姉妹的存在であるのに、乗るたびに明確に違う何かがあるように感じるのだが、それが一体何なのかは未だに答えが出ないままでいる。

 台中で隣に座っていた青年が降りたかと思うと入れ替わりで別の青年が乗ってきた。他の席も同様の状況で、乗車率はかなり高い。

 乗客をいっぱいに詰め込んで、列車は定刻どおり11:30に左営駅到着。ここで我々はMRTに乗り換えて終点近くの高雄国際空港駅で下車する。

 地図によると目指す紅毛港保安宮はひとつ手前の草衙駅が最寄りなのだが、ここからだと徒歩で2キロ近くかかるため極力避けたいルート。そのため、タクシーが確実に捕まるであろうしバスもたくさん走っているという推測のもとに空港から向かうことにしたのである。

 このとき、国内線ターミナルと国際線ターミナルのどちらを選択すべきか少しばかり悩んだ。両方で情報収集出来ればベストだったのかも知れないが、このふたつが結構離れているので行ったり来たりしているうちに体力も時間もどんどん使ってしまう。
 ではどちらにすべきなのか。

 私が出した結論は、国内線ターミナルだった。その決め手となったのは「国内線のほうがあまりメジャーでない場所についても把握しているだろう」という推論だった。
 という訳で早速観光案内所にて紅毛港保安宮についてたずねるが、そもそも国内線ターミナルなので日本語がわかるガイドさんがいなかった。そのため最初はうまく通じず全く別の『旗後天后宮』のほうを案内されてしまう。
 苦心惨憺してどうにか『紅毛港保安宮』であることを分かってもらえたが、先方は知らないようであった。手元のノートパソコンで検索してくれたが、残念ながら出てきた結果は既にこちらが入手している以上のものではなかった。
 それでも精一杯の努力に関しては大いに謝意を表して案内所をあとにする。

 出来れば路線バスを使いたかったが、こうなってはやむを得まい。すぐ目の前に止まっているタクシーを使う他は無い。
 タクシーで行く場合、往路はいいのだが帰りが困る。地元タクシー会社の電話番号を調べても、電話で『今紅毛港保安宮にいるので1台そこまで配車して欲しい』ということを伝えられる自信が無い。
 なので正直背水の陣である。帰りはあまり詳しくないガイドブックの地図だけを頼りに最寄りのMRT駅までたどりつくか、はたまた偶然流しのタクシーを捕まえて再び空港に戻ってくるかくらいしか思いつかない。

 それにしても。こうやって地図を頼りに現地の人もよく分からない場所へ行こうとしていると、新婚旅行の際に日本統治時代の史跡巡りの一環で烏山頭水庫というダムへ行ったときのことを思い出す。
 あの時はその為だけに台南市内の割と大きなホテルに前泊したのだが、この時も行き方を教えてもらおうとコンシェルジュに行ったところやはり『分からない』と言われてしまったのである。
 そこで我々夫婦とコンシェルジュの係の人と3人で地図を見ながらああでもないこうでもないと検討を繰り広げることとなった。
 最終的には『台湾国鉄の隆田という駅が近いようだが、ここからタクシーで行けるか?』『おそらく行けるだろうが、その駅にタクシーがいるかどうかは分からない。少し先の新営ならばほぼ間違いなくいると思う』というやりとりがあって、見事隆田駅からタクシーで到達出来たのは大変良い思い出である。
 ちなみにその際はやはり帰りのタクシーを自力で呼ぶことが出来ず、ダムの管理事務所に助けていただく羽目になった挙句、待っている間お茶までごちそうになってしまった。

 さて、今回はどうなることやら。まずはたどりつくことだが。

 幸いにしてタクシーの運ちゃんに地図と住所を見せたところカーナビで検索してくれて、場所そのものは判明。車は迷う事なく進んで、もうすぐつくかというところでまさかの通行止め。
 しかし、さすがそこはプロ。運ちゃんは諦める事なく迂回してどうにか目的地へたどり着こうとしてくれたが、住宅街の細い道に苦戦する。いくつ目かの角を曲がった時に、豪華絢爛な廟に翻る旭日旗が見えた。間違いない。
「あれだ!」
日本語での反応だったが運ちゃんにはしっかり伝わったようである。
 しかし、アスファルトの舗装工事が我々の行く手を阻んでいた。舗装したてでアッツアツのアスファルトの上を車が走ることは出来ない。まぁ、ここまで来ればいかな灼熱気候でも歩いて行けるので、工事をしている手前で下ろしてもらう。
 靴底が溶けるんじゃないかというくらいに熱冷めやらぬアスファルトの上を飛び跳ねるようにして歩き、どうにか無事紅毛港保安宮に到着した。

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 こちらで神様として祀られているのは旧大日本帝国海軍軍人にして第三十八号哨戒艇艇長。
 艇長が戦死後に地元の人の夢枕に立ち「漁民を護り豊漁を約束する代わりに日本へ帰して欲しい」と希望したのがこのお廟の由来なのだそうだ。信徒の方々は艇長の慰霊のため定期的に沖縄の護国神社や東京の靖国神社に参拝をしておられるそうで、実に何とも頭の下がる思いである。

 そんな由来なので、いささか緊張して神妙な面持ちで中に入ると、管理人の方が笑顔で出迎えてくれた。日本語は通じなかったが、我々が日本人だと分かると身振り手振りで案内してくれた。

 まずは中央の祭壇。これこそがこの地にて『海府大元帥』という神様として艇長を祀った祭壇。ここには一緒に郭府千歳と宗府元帥の2柱の神様も祀られている。

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 この祭壇には月桂冠や赤玉ポートワインなど日本のお酒が多々お供えされている。そこに私が持って来た玉乃光と峰も仲間入りさせていただく。

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 備え付けの線香に火をつけゆっくりと参拝。戦死後もなお海と人を護る神としてこの地に在るということの重みに、胸の内を熱いものが満たす。

 続いては、中央祭壇のその手前にある神輿。なぜ神輿。いや、ここの神様が日本人だから、なのだろうけれども。神様の乗り物だから、神輿を『日本への里帰り用』として用意してあるのだとしたらその周到な配慮に感謝の念が湧く。ただ、手前にある日付が間違っているのはご愛嬌。

 中央祭壇の左がわには『にっぽんぐんかん38』と書かれた神艦が祀られている。こちらはこれ自体がご神体扱いらしいのだが、荘厳な中央の祭壇とはまた別次元に強烈なインパクト。元々は艇長を『日本に帰す』ために“建造”されたものであり、本来は神器ともいうべきものだが、神器がご神体に昇格したようなものでああろうか。

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 中央祭壇同様、こちらにもお供え物が多々あるのだが、ここに艦これグッズであるところの戦艦大和の艦娘イラスト入りお酒が奉納されている。どこの提督かは存じ上げぬが、見上げた志である。



 こちらにも深々と頭を下げる。 

 この神艦、模型とは言え船大工さんに発注した本格派なので実によく出来ている。70年前の哨戒艇がモデルだと言うのにレーダーやミサイルが装備しているのご愛嬌。また、万国旗が満艦飾になっているのだが、先の大戦では敵同士だった日の丸と青天白日旗も仲良く隣同士なのが微笑ましい。

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 日本と台湾のつながりをまたひとつ実感出来て、そして廟内をいっぱいに満たしている善意に触れることが出来て。烏山頭水庫の時にも思ったことだが、蛮勇を振るってでも来て良かった。

「では、帰ります」
と。管理人さんには通じないのだが、どう言っていいか分からなかったので日本語で挨拶をする。
 通じたのか通じてないのか、管理人さんは笑顔ひとつうなずくと、そのままどこかへと姿を消してしまった。
「どうしたんだろう」
「昼時だし、用事があるんじゃないかな?」
まぁ、詮索しても仕方ないので最後に中央祭壇に向かって一礼をし、お廟を出た。
 外は相変わらずの炎暑。雲は出ているのだが、陽射しを和らげるような働きをしてくれている気配はまるでない。お廟の中は割としっかりめに冷房が効いていたので、温度差もあって頭がクラクラする。
「大人(ターレン)!」
ボーッとしていた私に、管理人さんが声をかけてきた。生まれてこの方そんな呼ばれ方をした事が無かったので一瞬自分のことだと分からなかったが。 
 両手に持っているのは冷たいお茶がふたつ。何といっているのかは聞き取れなかったが、差し出されればさすがにこれが何を意味するのかは分かる。
「謝謝!太謝謝!」
これから最悪2キロ近い道のりを歩くかも知れない我々にとっては何よりも心強い援軍だ。繰り返し頭を下げながら、名残を惜しみつつ紅毛港保安宮をあとにした。

 敷き終わったばかりなのでまだアッツアツのアスファルトの上を飛び跳ねるように歩いて、まずは比較的大きな通りである『明鳳三路』に出る。

 先程お廟でもらってきたリーフレットには分かりやすくかかれた地図があり、それを見ながらどっちが草衙駅だろうかとためつすがめつ。左側を見た時に保安宮とは別の大きなお廟が見えた。こちらはどうやら濟天宮というらしい。もしかしてタクシー会社に電話して『濟天宮まで来て!』と言えば来てくれるのだろうか、と考える間もなくその近くにバス停がある事にも気づく。
「バスあるの?」
『紅7』と『69』と書かれた表示の横には電光掲示。これは明らかにあと何分で来る、という表示であろう。69の『小港站』行きのほうが早く来るようなので、これを待つ事にした。

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 先程までの悲愴ですらあった覚悟はどこへやら。相変わらずの刺すような暑さだが15分もすればバスが来ると分かっていればどうという事はない。
 この69系統は国鉄高雄駅からMRT小港駅方面へと結ぶ路線のようだ。わざわざ『方面』と書いたのは、路線図を見ると終点の小港站とは別に『ニ苓國小(捷運小港站)』と書かれたバス停があったため。終点まで行かずここで降りねばならない。乗り過ごすと面倒そうなので気をつけねば。

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 路線図に続いて時刻表を見るとこの69系統は1時間に1~2本程度の運行間隔なので、15分待てば乗れるというのは大変な幸運だ。
 小港行きではなく逆方向の高雄駅行きであればもっとありがたかったが、そこまで望むのは贅沢が過ぎるだろう。
 それに、もし待っている間に反対側にバスが来ればそれに乗ればいいだけのこと。

 そんな話をしているうちに小港站行きはやってきた。

 台北で乗ったバスと同様、電光掲示で次のバス停が表示されるので乗り過ごす心配はなかった。空いていた座席に腰掛け、ホッと安堵のため息。
 気持ちに余裕が出ると車窓を楽しむゆとりも生まれる。観光路線ではなく住宅街をひた走る生活感溢れる眺めだが、見知らぬ土地においては十分楽しめる。

 時間にして20分だろうか30分だろうか。結構な乗車時間を経てようやくニ苓國小(捷運小港站)のバス停に到着。
 バスから降りてもMRTの入口らしきものは見当たらなかった。前後左右を見渡して、一番大きな通りに出る。
 交差点から再び前後左右を確認してみると右手にそれらしき建造物が。おお、あれだあれだと喜び勇んで近づいてみたらそれは入口ではなく冷房用の通風口だったりしたのだが、地下用の通風口があるということはすなわちこの下を地下鉄が走っているという何よりの証拠であり、通風口の少し先には今度こそ小港駅の4番入口があった。ようやくたどり着けた。

 地下に降りて乗車券がわりのトークンを買うに際して、相談がひとつ。

 空港で降りるか、左営駅で降りるか。

 実は今回もうひとつの行き先があった。

 台湾で一番大陸に近い島、金門島。国共内戦最後の戦場。今でも一部が立入禁止区域だったり海岸線に地雷が残っていたりする最前線の島。
 そこに高雄空港から行ける便があるので、高雄から金門島経由で台北というルートで戻る計画だった。
 問題は体力的余裕。最後はバスに助けられたとは言え、心身ともにかなり疲れているのは確かだ。
 金門島に行くなら空港へ、おとなしく台北に帰るなら左営へ。

 夫婦で最終確認をし、大丈夫、それでも行こうということになった。
 ではまず空港まで、とボタンを押したところ、なぜか表示は左営。
「え?」
時既に遅し。トークンは2枚出てきてしまっている。
「払い戻しする?」
「それはしてもいいけど、駅員さんにどうやって説明する?」
等々言い合ったが。
 これは海府大元帥が『おとなしく台北へ戻れ』とおっしゃっているに違いないという結論に至り、トークンはこのまま使用することにした。
「帰ろう、帰ればまた来られる」
これは南方ではなく北方における海の男の名言だが、今我々が置かれた状況はまさにこの言葉のとおりであっだと思う。
 MRTの車内でひと寝入りしたおかげで、左営駅に着いた時には気力体力も随分戻ってきていた。

 となると、人間やはり腹が減ってくるもの。

 いつもなら駅弁を買って車中で食べてもよかったが、今日はゆっくり食べるほうを選んだ。幸い左営駅には三越が隣接しており、中にはレストランもフードコートもあるので選択肢は豊富。

 MRTの改札から地上に出ずそのまま直結で行けるのも何気にありがたい。

 連絡通路を抜けると目の前がいきなりフードコートなので、まずは一周ぐるっとまわって良さそうな店がないかどうかの下見。

 一大勢力が丸亀製麺だったりナゴヤ飯でお馴染みスガキヤが入ってたりと「ま、まぁ日系百貨店だから」としか言い様のない光景であったが、我々の好む夜市飯っぽいお店もあるのでセーフ。
 とりあえずそこを第一候補として、レストランのほうも見てみることに。8階9階には本格中華に日本料理店、イタ飯屋やタイ料理店などが軒を連ねている。どれもそれほど悪くない選択肢ではあったが、せっかくだしフードコートで夜市飯だなぁということになり地下に戻った。
 地下に戻ると丸亀製麺の天ぷらを揚げる香ばしい匂いに一瞬だけ誘惑されたが、わざわざ台湾の、しかも高雄まで来て丸亀製麺というのはさすがにノーだ。もっと長く滞在して日本食に飢えていたら違っただろうが、まだまだそこまでではない。
 『八陽』という海鮮小皿の店で魯肉飯と海鮮野菜スープセットを注文。
 今日どれだけの汗を流したか知れない身体に、スープの塩味が染みる。野菜もスープの旨味を吸って滋味深く、箸が止まらない。
 魯肉飯はもう、安心安定の旨さ。豚肉をしょうゆニンニクベースのダシで煮込んでご飯にかけた、という説明するために自分で書いた字面を見ただけでもう腹が減ってくる。



 この時も気づけばあっという間に平らげてしまったあとだった。最初は足らないかな?とも思ったが食べ終えてみればちゃんと満足出来た。

 あとは『お告げ』に従って粛々と新幹線で台北に戻る。

 ホテルに戻ると峰圃茶荘からの紙袋が届いていた。中を確認し、おまけでもらったマンゴーを冷蔵庫に入れてからぐっすりお昼寝タイム。

 目が覚めた時、外を見るとまだ夕陽はかろうじて空にとどまっていた。

 しかし、起きてはみたもののまだ若干頭がボーッとしている。本当にフットワークが重くなってしまったものだ。

 このあとどうするか、をぐずぐずと決められぬまま時間だけが過ぎていった。

 まぁ、どこへも行かないとしても飯だけは食わねばなるまい。特に昨日はコンビニで簡単に済ませてしまったので今日はちょっと張り込んでもいいかな、という気分になっている。

 鼎泰豊。

 言わずと知れた台湾が世界に誇る小龍包の名店である。これがホテルから徒歩圏内ということもあり、

 結構並んでいる。まぁ、小1時間くらいなら並ぶ覚悟で来ている。まずは順番を取らねば、と受付のお姉さんに近づいていくといきなり
「いらっしゃいませー」
と声をかけられた。
「おふたりさまですか?」「15分から20分くらいお待ちいただきますけどよろしいですか?」
という、淀みなく流れるような日本語に圧倒されつつ無事順番は確保。待っている間にメニューと記入表とを渡され、注文を組み立てていく。
 何と言っても台湾ビールと小龍包は外せない。小龍包も色々種類があるので迷ったが、最後はオーソドックスなのを10個入りで1カゴに決定。あとは空心菜の炒め物、海老と豚肉のチャーハンと肉チマキと割と普通なチョイス。ちょっと少なめなのはお酒を飲むため。

 小龍包そのものは食べる機会がそこそこあるので、『名店』の味やいかにといささか勿体ぶって口にする。
 食べてみると、この店の知名度も混雑もその全てに納得が行く味だった。何をどう表現しても不正確になってしまうというか、はっきりとした輪郭のある味ではないのだが、これがどうにもクセになる味で、ひとつ食べると自然と2つ目に手が伸びる。

 ビールを飲む間もあらばこそ、10個の小龍包はあっという間に消えてなくなった。もう1カゴ頼むかどうか真剣に検討したが、食べきれなくなっても困るのでここはグッとこらえる。
 その他の料理もちゃんと美味かったのだが、正直小龍包に全てが持っていかれていてあまり憶えていない。
 2人で1000元ちょいと台湾の物価を考えれば結構なお値段がしたのだが、次回も必ず来ようという気持ちになるくらいには満足していた。

 幸せな気分で店を出ると、ついつい寄り道をしたくなる。体力が尽きていたはずなのに、飯がうまいということには不思議なパワーがあるものだ。

 昨日行ったのとは別の誠品書店の店舗がちょっと行ったところにあるので、そこへ足を向ける。
 今日はどうしても買わねばというお目当ても特に無いので、のんびりと本を楽しむ。
 画集や写真集などをメインに目の保養をしていると、コミックのコーナーでうっかり『BL POSE』とか書いてある本を見つけてしまう。
 ちゃんと見ていないので断言は控えるが、男性同士が熱いまなざしで見つめ合っている表紙からしておそらく私の推測どおりの本であろう。そんなところまで日本の後追いしているとは思わなかった。
 何だか一気に疲れてしまったので、中にある喫茶店でひとやすみ。台湾ではあまり目にすることがなかったハーブティーがあるので、これを食後の一服にした。

 今日もコンビニで買い出しをしてから宿に戻る。疲労の蓄積を自覚していたので本当はマッサージを受けたかったのだが、それすらも面倒になってしまっていたので省略してしまった。明らかなミスである。

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