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ふさ千明のおたネタ日記

漫画、アニメその他諸々の感想がメインのブログです。現在は「ここだけの話」シリーズについての感想を中心に運営しております。毎日15時の更新は終了し、現在は再び不定期更新に戻っております。

台湾旅行記2014 2日目

マッサージの効果か薬膳が効いたのか、それともベッドが良かったおかげか。いずれにしても大変良い目覚め。

 妻の目覚めも悪くなく、朝食を食べる余裕もあった。

 主食となるものは小麦系が食パンにデニッシュ、ワッフルとフレーク各種。米飯系は普通の白いご飯や粥に加え十六穀米もある。あと、これは主食と言って良いかどうか分からないが、ふかしたサツマイモまであった。

 さて副菜だが。
 基本的にはシーザーパークと大きな差は無い。向こうでもやっていた卵のリクエスト調理がここにもあったし、ハムを注文して1枚1枚切ってもらうのも同様。生野菜各種、スクランブルエッグ、ソーセージ、中華風野菜炒め、中華風肉野菜炒め、ハッシュドポテトと豊富だったがスープは味噌汁のみだった。西洋系の方々は困らないのだろうか。 

 デザートはフルーツが5種類に小豆餡を使った餡餅。
 最後に飲み物だが、珈琲とミルクはアイスもホットもあったものの紅茶はホットのみ。また、烏龍茶は存在そのものが無くちょっと残念。他にはクランベリー、グァバ、オレンジの各ジュースと、なぜか『白湯』があった。

 白ご飯をメインにしつつも、おかずは極力野菜を多めに取るように心がける。特に生野菜は台湾で食べ歩きメインな食生活をするとなかなか食べる機会が無いので積極的な摂取を行なう。ちなみに日本ではあまりお目にかからないが台湾のホテル朝食ではお馴染みなアルファルファが実は好物だったりする。

 ドレッシングの種類が豊富なことにも後押しされて割と美味しく平らげ、デザートのフルーツに締めの珈琲までじっくり堪能して部屋へと引き上げた。
 
 さて。本日の予定であるが、今回の旅の主目的のひとつである高雄のお廟行きはとりあえず保留とし、もうひとつの主目的であるお茶その他の買い出しをメインとすることに決定。
 私にとって台北でお茶と言えば峰圃茶荘さんだが、妻が冬の一人旅で見つけてきた迪化街のお茶屋さんが大変良かったので今回はそこにも足を向けることとした。

 ただし。この迪化街というのがなかなかにクセモノで、MRTの駅からもそこそこ遠いし、タクシーで行くにもこのあたりは道幅が狭いので思ったとおりの場所で下ろしてもらえる自信が無い。

 歩くこと自体を忌避する訳ではないのだが、この日の陽射しが暑いを通り越して痛いになりつつあることが懸念の種だった。
 異国の地で熱射病など避けねばならない。少なくとも極力対策を立てて臨まねばならないと考え、資料やら地図やらをあれこれ検討した結果バスで行くことにした。

 迪化街最寄りと思われる南京西路口バス停に行くには206番のバスが良いようであり、それに乗るにはMRT西門駅からが適切と思われた。

 出発前に水分を多めにとり、かつ移動中の飲み物も携帯して部屋を出た。

 西門はホテルの目の前を通っている板南線の駅なので乗換えも無くスムーズに移動完了。
 構内の案内板に従い、5番出口から地上へ出る。
 陽射しはさらに強くなっており、中華鍋で炒りつけられているような気分になりつつ、バス停へ。天母行きという比較的長距離な路線のためかバスはなかなか来なかったが、幸い屋根付きベンチ有り木陰も有りという恵まれた環境だったので、陽射しさえ『当たらなければどうということはない』…は言い過ぎにしてもバスが来るまでの時間をどうにかこうにか耐える事が出来たが、そうでなかったらおそらく手近なタクシーを捕まえて運を天に任せたドライブをするか、もしくはホテルに一時撤退を余儀なくされていただろう。

 空港同様、何台も何台もバスを見送ったあと、ようやく206番のバスがやって来た。車内に満ちる冷気をありがたく全身に浴びながら、悠遊カードをタッチ。
 椅子に腰掛ければ車窓を楽しむ余裕も出る。何度もこの街に来ているのにちゃんと見ることがなかった北門(清朝時代の遺構)もしっかり確認。
 降りるべきバス停もLED表示のおかげで把握出来て、大阪や福岡でバスを使うのとあまり変わらない感覚で無事任務完了。

 さて。バスで北上してきた延平北路を渡ると、もうそこは問屋街。厳密には迪化街ではないらしいが、厳密な区画もないので別に気にせず目的の店へ進む。
 アーケードではないが歩道が屋根付きだったりするのが地味にありがたい。まぁ、歩道を歩けば「おみやげどう?」「からすみあるよ」等々声をかけられたりするわけだが。
 漢方薬やからすみを買うつもりは無かったが、ドライフルーツは好物なので立ち止まって検分。『六安堂参薬行』や『黄永生参薬行』というお店でガンガン試食を勧められ、これがどうにも美味かったのでこちらもガンガンと購入する。毎回購入するパイナップルやマンゴーに加え、今回は試食して美味かったイチゴも追加。
 持って来たトートバッグをドライフルーツでいっぱいにして、再びお茶屋さんを目指す。彰化銀行のところで左折し、西へ少し歩くと目指す茶樂樓がある…のだが、シャッターが閉まっていた。
 年中無休と聞いていたのだが、どうやら臨時休業のようである。昨年冬にこの店を訪れた妻の情報によると店主が唐突に茶畑に出かけたりする可能性もあるらしいので、多分そういうことだろうと判断。
 まさかの事態にやや呆然としたが、そんな悠長なことをしていられないくらいに暑い。近辺を無目的にうろついているだけで倒れそうに暑い。
 体力の消耗を避けるためにも次なる目的地峰圃茶荘さんへとっとと向かうことにする。それこそ立っているだけで干物になりそうな暑さなので移動手段はタクシー一択となる。
 幸いにも5分も経たぬうちに目の前に空車のタクシーが現れてくれたので、素早く手を挙げ、乗り込む。
 峰圃茶荘の名刺を見せると、運ちゃんは大きく2回うなずいて車を発進させた。実になれた感じで10分走るか走らないかのうちに車は店の前に。このあたりの知名度の高さはさすが老舗。
 店内に入ると、店主の蒋老人は先客対応中。次の予定があるでもないので店内商品を確認しつつ待つ事しばし。
 先客の購入が完了し、我々の番が来た。勧められた椅子に座ると、早速好みのお茶の種類をたずねられる。「阿里山の高山烏龍茶をお願いします」と答えると、老人はすかさず茶葉を茶器に投じ、試飲用の一杯を用意してくださった。
 まぁ、ここのお店の試飲は一般的な日本語で言うところの『歓待』なのだが。
「ゆっくり、香りを楽しみ、ワインのように味わって飲んでみて下さい」
とのお言葉だったが、すっかり暑熱にやられてしまった私は我慢が足らずあっという間にカラにしてしまい「早すぎますよ。もったいない」とご指摘を受ける羽目に。 

 2杯目からは喉も潤い、ゆっくりゆっくりと香りも味も楽しみながら飲むことが出来た。
 口から鼻に抜ける甘さすら含んだ芳醇な香りは阿里山烏龍茶ならではのもの。嗚呼、嗚呼。これだ。これを求めて、これが欲しくて、我々は毎年毎年この国を訪れているのだ。

「これでお願いします」

というと、購入希望品を記入するA4両面の発注シートを手渡される。ちなみに勿論表記は日本語。これに記入している間に、空になった茶碗が再び琥珀色の液体で満たされる。

 お茶は自分たちで飲む分にお土産として送る分を含めるとかなりな量になり、そこに台湾島の形をしたパイナップルケーキと舞茸チップスも同じく自宅用お土産用に大量確保したら、総計で大きな紙袋2つ分になってしまった。
 また今年もやってしまいましたなぁ、と夫婦で顔を見合わせて苦笑いしていたら老人から「ホテルまでお荷物をお届けします」とのお言葉を頂戴する。
 
 実はこのあと、ここの近所にある『光南大批發』という日本で言うヨドバシソフマップ的なチェーン店で時計のバンド交換をするつもりだったので一も二もなくお願いする。
 ではこれにて、と挨拶をしかけたところで老人は
「マンゴーもおつけしておきます。ホテルで食べてください」
と言い、孫におやつをあげるかのような表情を見せた。

 さて。身軽な状態で光南大批發を目指す。道すがらに昨日食べ損ねた胡椒餅のお店があるので、妻のご要望に従いこちらで一息つくことに。


 灼熱の昼日中に食べる胡椒餅もなかなか乙なものだが、夜市で大行列が出来ていたもうひとつの理由を身を以て理解出来た気がする。

 小腹を満たし、イザ!バンド交換と意気込んでお店に入ったものの。目当てのバンドが見当たらない。正直もう体力ゲージが限界に近かったこともあり、素直に白旗を掲げて店員さんに聞いてみる。咄嗟なのと疲れていたのとで、口をついて出たのは怪しい英語。
このとき「I want to change this watch band」かなにか言ったと思う。もっとカタコトだったかも知れない。ともかく、これで通じた。
 通じたのは良かったのだが、在庫が無いので取り寄せになるとの返答。実は手元にはバンドの切れた腕時計が2つあったのだが、もうひとつのほうも在庫切れだそうで、万事休す。
 確認してみれば前にバンド交換したのが2009年。もう5年も前のことだ。在庫が無いのもムベなるかな、である。
 ここでもうひとつ別の腕時計を買っても良かったのだが、もう何かを選択する余力が無かった。くらくらする頭をどうにかなだめて、台北駅にたどり着く。直射日光を浴びなくなった途端に少し楽になったのだから、やはり南国の太陽というのは舐めてはいけない。ここ数年適度にスコールと遭遇してきたりして心身に優しい状況が続いていたので、すっかり慢心していたようだ。

 しかし今宿に帰ってしまうと昼食を食いっぱぐれる。貴重な台湾での一食を棒にふるのはいかにも勿体ない。そう思ってフードコートで牛肉麺など食べてみたのだが、半分しか入らなかった。やはり体調の悪い時に欲をかいて無理をするとロクなことが無い。

 せっかく台北駅に来たのに構内にある鉄道グッズ屋に立ち寄る根性も無くMRT乗り場に急ぐ。
 國父紀念館駅で下車し地上に戻ると、再び目眩が襲ってきた。逃げ込むようにホテルに戻り自室で横になる。
 目が覚めた時、時計は17時を少しまわっていた。窓越しに感じられる陽射しは依然として強かったが、体調が回復したおかげで出かけようという気持ちも復活していた。
 それにしても夫婦というのは面白いもので、私が目覚めてしばらくすると妻も起きだしてきた。

 自然、さぁて、このあとどこへ行くベエかという話になる。
体力が回復したとは言え万全ではないし、明日以降のことを考えると無理は出来ない。
 こういう時、答えはひとつ。本屋、である。
 台湾におけるジュンク堂的存在である誠品書店。ホテルからMRTでひと駅隣の市政府駅の裏手にはその誠品書店があるのだ。
 中にはレストランもあったりするので、夕食もすませられる。ちなみに誠品のとなりは阪急百貨店なので、そこでも夕食可…というかそこで夕食をとるのが普通の選択なのだろうが、ここは日系百貨店ということで日本でお馴染みすぎるお店が多々入っている。さすがに台湾に来てまで『ぼてじゅう』だの『さと』だのはちょっとためらわれる。
 まぁ、何にせよ誠品で本を買ってから、その時の気分に合わせて店を選ぼうという結論に至った。
 買い置きのパパイヤミルクで水分補給をして外へと出る。
 夕暮れ時、風こそ凪いでいるものの昼間と比べたら歩きやすさは雲泥の差。MRTでひと駅なら歩いたほうが早いと、てくてく進む。エアコンで冷やされた身体には多少の熱気がむしろ心地いい。一日中このくらいの気温気候であればもっとあちこち出歩けるのだが。
 昼間と違い心身ともに余裕がある状態なので市政府駅や阪急百貨店が見えてきた時には「え?もう?」という感じだった。

 市政府駅はMRTの駅であると同時にバスターミナルでもあり、ここから方々へ高速バスが旅立っている。それこそ桃園空港や港町基隆へもここから出発できる。台湾ではあまり見かけないコインロッカーも少ないながら備え付けられている。コンビニやフードショップもある。

「帰りはここから空港へ向かってもいいな」なんてことを話しながら、入ってきたのと反対側へ抜けると目の前が誠品書店のビルだ。

 目当てのものはあるが、まずは最上階のオーディオコーナーへ。以前の旅行記でも書いたとおり日本と台湾ではDVDはダメだがCDとブルーレイは共通規格なので買っても問題無い。
 何か掘り出し物でもあれば、とうろついてみるが今イチピンと来なかったので本売り場へと降りる。

 ちなみにこの時私が探していたのは『日本皇族的台湾行旅』という本。その名のとおり台湾が日本だった時代にこの地を訪れた皇族の旅についての本である。こういう台湾ならではの本は是が非でも押さえておきたい。おカタい内容だが冊数は出ているらしいのでこのクラスの本屋なら簡単に見つかるだろうと思っていたのだが。
 これが、見当たらない。まず新刊コーナーにない。アレッと思い歴史コーナーや台湾コーナーを探るも見当たらない。見落としてしまったのか、それとも売り切れてしまったのだろうか。判然としないまま置いてありそうな場所をぐるぐるまわり続ける。溶けてバターになるくらい歩き回っても見つからない。

 iPadをベースにした在庫検索機があったのだが、キーボードが発音記号式でなかなか思うように字を変換出来ない。どうにかこうにか『日本』だけは変換できたのでとりあえずそれで検索してみると無数に情報が出てきて手に負えない。
 途方に暮れつつあれこれボタンをいじってみると日本語変換設定が出てきた。何でこんな機能がついているのかとか悩みだしたらキリがないのでとりあえず検索。その結果によると、ちゃんと歴史コーナーの棚に在庫はあるとのこと。
 しかし、やはり無いものは無いのである。
 きっと最後の1冊が売れてしまったのだろう、とついに諦めて帰ろうとエスカレーターに乗ったところ、1つ下の階も本売り場であることに気づく。ただ、本以外のものも半分くらいのスペースを占めているのでそんなに期待は出来ない。

 まぁ、それでも見るくらいなら、と新刊コーナーに足を運んでみたところあっさり発見。
「上から見てまわったのが敗因だったか」
と今さら嘆いてみても仕方ないので、平積みになっている本をレジに持っていって無事任務完了。
 本来なら翻訳された日本漫画購入とか色々目論んでいたのだが、心身ともに疲れてしまったので今回はこれにて撤退。
 夕飯をどうしようか、という話もあまり盛り上がらず、結局帰りのコンビニでカップメンやらおにぎりやらを買ってホテルですませることにした。この時買った鯖のおにぎりやらカップメンやらが結構旨かったので全く悔いはなかったが。

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台湾旅行記2014 初日

夏がやって来た。世間ではどうあれ、我が家においては台湾旅行の季節である。今年はちょっと長めに休みがとれたため、4泊5日の日程にしてみた。

 ただ、この4泊5日というのがクセモノで。旅行会社のプランというのは基本的に3泊4日までで、4泊するとなるとオプションプランになる。予算的におさまる安いツアーだと延泊不可であったり、また延泊可なものは予算を大幅に超過していたりする。
 散々検討した結果、ネット販売で往復航空券とホテル予約のみを押さえることにした。いつものシーザーパークを諦め、価格とランクをにらめっこすること数時間。航空会社は中華航空(チャイナエアライン)、ホテルは國聯大飯店(ユナイテッドホテル)で決定。

 当日9時に我が家を出発し、幸いなことに渋滞に悩まされることも暴走車に怯えることも無く、10時半前には無事関空到着。駐車場は3階が満車、4階もほぼいっぱいだったが、なんとか駐車スペースも見つかり、荷下ろしもスムーズにいった。

 いつもならまずチェックインなのだが、まだ時間がだいぶ早かったので、先にたこ昌でちょっと遅めの朝ごはん。台湾でもたこ焼きが食べられるご時世ではあるが、明石焼はさすがに見たことが無いのでここで食べておく。…うっかりこんな事を書いたらそのうち食べられるようになったりするかも知れないのがあの国の恐ろしいところなのだが。
 
 食べ終えるとガラガラのチェックインカウンターで手続きを済ませ、荷物を託す。

 ちょっとばかり時間に余裕が出来たのを幸い、本屋をさまようことしばし。妻は探している本があるようなのだが、どうにもお目当てのものがなかなか見つからないようなので、先にATMで両替用の現金を引き出しておく。

 結局探せど探せど目当ての本は見つからず。予定時間を過ぎてしまったので若干慌て気味にドタドタと手荷物検査場へと向かった。

 平日にも関わらず検査場の入口にはかなりな行列が。一瞬だけやばいかな?と思ったものの、列は思いのほかスムーズに流れてくれて事なきを得る。その先の出国審査もそこそこ混雑していたが、こちらは指紋認証登録をしてあるおかげで専用ゲートを並ばずにパス出来た。
 予定していた有料ラウンジでくつろぐというのは却下になったが、それでも何度か脳裏によぎった『荷物抱えて通路を全力疾走』はしなくてすんだ。

 わずかに残された時間を使って免税店へ向かう。と言ってもブランド品をどうこう、というのではない。今回、日本に大変ゆかりが深いとあるお廟を訪れる予定だったので、そこに奉納する煙草とお酒をここで購入。

 大きく『KIX』と書かれた紙袋をぶら下げ、込み合うモノレールに乗って搭乗ゲートへ。ここまでくれば一安心。
 あとはもう案内が開始されるのを待つばかりなのだが、その案内が始まらない。なんでも桃園空港の滑走路整備の関係で折り返し便の出発が遅れているとか。なんとも焦った甲斐の無い話だ。
 さすがに何時間も待たされるということはなく、ちょっとばかりの待ち時間で搭乗開始となる。
 エコノミーなので狭い機内ではあったが、美味しい食事というのは素晴らしいもので、機内の印象は食事待ち時間→食事時間→食後の時間という感じになっている。珍しくビールなど飲んでしまったこともあってか、苦痛を憶えることも無く2時間ちょっとの旅は瞬く間に過ぎて、気づけばもう台湾上空。

 先述のとおり今回は旅行社のフリーツアーではなく航空券とホテル予約オンリーの旅路なので、当然空港からホテルまでの交通手段も現地手配。手間はかかるが、次の予定に追い立てられて焦る、という煩わしさから解放されるのはありがたい。

 飛行機に預けた手荷物がなかなか出てこなくてもイライラせずに済んだ。この時間を交代でトイレに行ったり両替を済ませたりと、積極的に活用する方向で動けたのも、荷物を回収したら即合流という動きから外れていればこそ。

 ちなみにこの時両替した5万円はレート0.287で14,350台湾ドル(以下元と表記)、1円=3.484元の換算だ。ここに手数料が30元引かれて14,320元が手元にやってきた。

 物価の安い台湾においてはちょっと多すぎ、くらいの金額なのだがこれが後々すっかり足らなくなって慌てる羽目になろうとは思いもよらなかった。

 荷物のピックアップと両替が済んだら、あとはバスのチケットを押さえて発車までの時間に一服休憩する段取り。
 事前調査にて泊まるホテルの目の前で下ろしてくれるバスがあることは把握していたので、そのバスのチケット売り場を確認してに並ぶ。並んでいる時に簡体字を使いこなす女性に自然体で割り込まれたりしつつも無事購入成功。
 ただ、発車が15分後なので空港内の喫茶店でくつろぐプランは無しになった。代わりに自販機で無糖のお茶を購入し、熱風渦巻く外気の中へ。



 バス乗り場は国光客運やら長栄客運やら、我々が乗る目当て以外のバスがひっきりなしに出たり入ったりして熱気をさらに追加してくる。
 何台も見送ったあとにようやく松山機場行き5502系統の建明客運バスがやって来た。

 運転手さんにチケットを見せてスーツケースを預け、ようやく車内へ。2階に上がると最前列が空いていたのでそこに陣取り、まずは水分補給。

 空席が目立つ状態で発車。空港最寄りのホテルにだけ停車すると、あとは一路台北市内を目指して爆音を響かせた。

 建設中だった追加の高速道路が開通し、いつもより遥かに高い場所をバスが走っている。おかげで見慣れたはずの車窓が実に新鮮に映った。渋滞もなく、おかげで居眠りする間もあらばこそ、気がつくともう淡水河が見えてきた。ここから先が台北市。計った訳ではないので概算だが、いつもより10分程度の時間短縮だろうか。
 中華宮殿様式で有名な圓山大飯店が見えたらバスはいよいよ市街地へ。行天宮のところで高速から一般道へと降りて、まずMRT忠孝復興駅前で停車。結構な人数が下車。荷下ろしもあってちょっと時間がかかるのはお互い様。
 次のMRT國父紀念館駅前で我々も下車する。バスが止まったのは生憎と車道を挟んだ反対側だったが、それでもホテルが目の前なのは変わりなく便利この上ない。バスの運ちゃんは荷下ろししながらあれがホテルだ、分かるか?というようなことを指差ししながら教えてくれた。
 「明白了、謝謝!」と頭を下げてから横断歩道を渡る。我々に似つかわしくないオシャレな外観にちょっと戸惑いつつ、今回の根城である國聯大飯店(ユナイテッドホテル)へ。
 フロントでホテルバウチャーを見せたところ、以後は全て日本語で対応してくれた。チェックイン時に保証金がいることを知らされていささか慌てる。ちなみに1日1000台湾元、4泊で4000台湾元と長く泊まるおかげで結構な額になってしまった。多めに両替をしておいて本当に良かった。
 手続きが無事終わるとカードキーが渡される。この時、空いていたので無償でグレードアップしてくれた旨を告げられる。初めて使う、しかもかなり格安料金で予約を押さえた客であるのにこの気遣い。本当に嬉しい。
 アップグレードしてもらった部屋は、扉を開けると居心地の良さが一目で分かった。中華と西洋が程よく調和した家具調度の品の良さもさることながら、ベッドの寝心地が良いことや風呂が広いことなどもありがたい。



 風呂に関しては独立したシャワーブースがあったことも特筆しておこう。私のようにどんくさい人間にはこれが大変重宝した。

 寝心地のいいベッドで一休みし、体力気力を回復させてからようやくお出かけタイム。

 ホテルから車道を挟んだ向こう側、ちょうど空港からのバスを降りたあたりはドーム球場が建設中であるが、そのさらに向こうには松山文創園區なるギャラリースペースがありそこでは演劇上演やアート作品の展示などが行なわれている。この日は偶然にもガンプラエクスポ台北なるイベントが催されているらしいので、覗いてみることにした。
 道すがら、ホテルの至近にコンビニやスーパーがあることを確認しつつ歩くこと10分。目の前に思いっきり『GANPLA EXPO』の看板が。



 しかし、大通り側は出口専用で入ることはできないそうなので、公園の中を通って入口側へ。歩いてみて分かったのだが、ここはどうにも本来オシャレ空間であるべき場所っぽいのだが、違和感なくガンプライベントが溶け込んでいるのは良いのか悪いのか。
 中に入ると、展示は初代から最新かつ未放送のGのレコンギスタまで大変充実している。ただ、展示資材をどこから持って来たのか分からないが『テレビ朝日系 金曜ごご5:00から放送』とか明らかに放送当時のポスターまんまなのが気になった。



 見れば『NO PHOTO』の表記も無くどうやら写真撮影フリーなようで、スマホを向けてバシャバシャやっている人々に混ざって我々も熱心に画像を確保する。

 歴代放送分の公式的展示のあとは、創作意欲が溢れまくった工夫プラモの数々がずらりと並んでいた。個人的にはウーロン茶のペットボトルを背中に背負ったセブンイレブン仕様に最もハートを射抜かれた。売り物だったら間違いなく購入不可避な逸品だった。



 展示会場には蕎麦屋の手打ちブースよろしくモデラーの方がリアルタイムで製作に勤しんでおられたり、『ガノタに日本も台湾も無い』と言わんばかりの雰囲気。
 展示の先は物販コーナーになっていて、日本直輸入の各種ガンプラから「こんなの日本で見たことねぇぞ!?」と慌てふためくような謎グッズまで所狭しと積み上げられていた。
 Tシャツ類はかさばらないし、1枚くらい買ってもいいかと思ったものの、こういうのは買うだけ買って満足してしまい実際にはコレクションとしてタンスの肥やしになるだけなのでグッと我慢。手ぶらで会場を後にした。
 初手からハードパンチを食らった感があるが、特に動揺も無くMRTの入口まで戻る。

 國父紀念館駅から板南線で南港方面に2駅の永春駅で下車。5番出口から上がると忠孝東路五段に出るので、そのまままっすぐ交差点まで歩き、交差点を左折して松山路へ。そこから歩いて5分ほどすると目指す沐錦堂足體養生會館が見えてくる。
 ここは台湾の代名詞のひとつである足ツボマッサージの数ある名店のひとつ。以前、この店は光華デジタル新天地の近くにあり、その時は買物ついでによく立ち寄ったのだが、現在のこの場所に移転してからは縁遠くなってしまっていた。今回はホテルから近いこともあって久々に行ってみることにした。

 足ツボと半身マッサージをあわせ技にしたセットで計70分。まずズボンをマッサージ用半ズボンに履き替え、足湯につかる。
 足がほぐれたところで専用の椅子に座ってマッサージ開始。痛みを訴えたりするどころか、5分もするとすっかり眠り込んでしまうくらいなので、移転しても腕は相変わらずのようだ。

 心地よい眠りから覚めると、二階に上がってベッドに横になる。こちらでもあっという間に寝こけてしまいマッサージ中の記憶がほとんど無いのだが、終了後は全身がすこぶる軽かったことからも効き目は歴然。

 礼を述べて店をあとにし、次なる目的地饒河街夜市を目指す。ちょっと歩くと服飾問屋街の『五分埔服飾特区』があり、その先が台湾国鉄松山駅。そこから夜市までは目と鼻の先だ。
 ここの名物は胡椒餅なのだが、狭い夜市にひしめくような行列を見て早々に諦める。というか、夜市に来た主目的である夕飯としては物足りないし、そもそもこの店は支店が台北駅近くに出ているのでそれほど無理をする必要も無かったりする。
 気を取り直して、夕飯リサーチ開始。込み合う夜市を歩いて気づいたのが、先程見かけた五分埔服飾特区の影響かファッション関係の店が増え、代わりに食べ物の店が減っているということ。その中でも、疲労回復に効果があって大変重宝した四神湯という薬膳料理を出してくれるお店は今回目当てのひとつであり、別のお店になっていたのを確認したときの落胆は大きかった。
 端から端まで歩いてもピンと来る店が無く、士林の夜市まで移動しようかとも思ったが、歩いた道の反対側に何かあるかも知れないと、手近にあった猪ソーセージで小腹を満たしてもう一度チャレンジ。
 行けども行けども見つかるのはかき氷とかたこ焼きとか関東煮(おでん)とかクレープとかカットフルーツとか、どれも夕飯にはしづらいものばかり。
 半分以上を過ぎてダメならこのまま松山駅に出て電車で移動しようと思っていたところに出会ったのが『圍爐』という薬膳料理の店。

 煮込んだスープから漂う香りとほどほどに込み合った店内が決め手となって席に着く。迷うほどのメニュー数もないのだが、それなりに迷ってから魯肉飯の大をひとつと中をひとつ、それに羊肉のスープと骨付き豚肉のスープをひとつずつ注文する。
 相変わらず台湾で食べる羊肉はクセも臭みも極限まで押さえ込まれていて、実に食べやすい。しかし本領はスープ。何味と言っていいのか、私の乏しい語彙では出てこないのが非常に惜しい。塩っぱくも辛くも苦くもない。強いて言うなら羊肉の旨味が溶け出した味、であろうか。プラスチック製のレンゲでグイグイ飲めてしまう。
 さらには店の一角に置かれた3種の調味料が味に変化を与えてくれるので、飽きが来ない。ひとりあたり二品だったが、魯肉飯を大にしたおかげでボリューム的にも不足無く、質量共に満足して夕食完了。

 あとは大通りへ出てタクシーを捕まえ、ホテルへと戻りこの日は無事終了。

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台湾のお宿にて

さきほどチェックインしまして。無事お部屋でくつろいでおります。
 今回は旅行会社差し向けのホテル行きバスでなく普通のリムジンバスでここまで来たので、道中の休憩時間で目を見張るようなラッピングバスに遭遇したりはしませんでした。
 ただ、いつもと違うホテルなので試しにテレビつけたら普通にアニマックスが見られる環境なことが判明しまして。ちなみに今は『変態王子と笑わない猫(台湾名:變態王子與不笑猫)』やってます。あと、別のチャンネルでこち亀やってまして。
 どちらも吹替版かつ字幕付きです。

 あんまり堪能しすぎているとホテルから出なくなるので気をつけます。

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お知らせ

半年以上のご無沙汰でございます。

 今年も台湾旅行に参りますゆえ、こちらにてお知らせさせていただきます。

 日程は7/16〜20の4泊5日です。今回もリアルタイムのご報告などしつつ、こちらのブログに旅行記をアップさせていただく予定ですが、今回どこまでここ向けのネタが拾えるか不明でして、もしかするとあまり読むところの無いものになってしまうかもしれません。

 そもそもとして、ここしばらくちゃんと文章を書いていないのでちゃんと書きあがるかどうか、という不安がございますが。

 ともあれ、行ってまいります。

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台湾旅行記2013 4日目

最終日。今回は帰国が午後便なので午前中は自由時間となる。このラストチャンスをいかにすべきか。
 まぁ、どこか適当なところでマッサージを受けたりホテルの部屋でボーッとしたりしてもいいのだが。だがしかし。昨日の温泉が蓄積疲労を見事に消し去ってくれたのか、無駄に元気があった。
 幸い出かけるアテは残っていて、光華デジタル新天地ビルの駐車場で土日のみ開かれる物産展。ネットで仕入れた情報によると、今回は台中及びその近辺の地域の物産がメインらしい。果物とか野菜とかは日本に持って帰れないのだが、ああいうものは見ているだけでも楽しい。

 この話を最初にした時、妻はこの後の旅程に備えて部屋にいると言っていたが、敢えて今回は重ねて外に誘い出してみた。今朝は朝食を外で食べよう、と言ってみた。MRT科技大樓駅と大安駅の間に粥屋街があるらしいという情報を得ていたので、そこで朝粥を楽しもうと勧めてみたのである。
「朝粥だけなら」
との答えが返ってきたので、そそくさと身仕度を整えて出発。
 毎度お馴染み台北駅からMRT板南線で忠孝復興駅へ。そこからMRT文湖線動物園行きに乗り換えて2駅で科技大樓駅に到着する。文湖線はこの辺では高架になっていて、駅を出て下から見上げるとまるでモノレールのように見える。おかげでどっちに行ったらいいのかを迷わなくて済むのだが。

 そんなわけで高架の線路の下に伸びている復興南路を北に向かって歩くことしばし。進行方向左側に店が見えてくる。
 アテにしていた1軒は朝5時からだと思っていた営業時間が実際は朝5時までであったことが判明し、いきなり頓挫。

 しかし、このあたりはさすがに粥屋の密集地帯であるだけにすぐに別の店が見つかり、そこに決定。申し訳ないことに店の名前をメモし忘れたので、どんな名前であったか不明であるが。

 中へ入るとまずお盆を手にとりビュッフェ形式でカウンター狭しと並べられた小皿料理をチョイス。席に着くと鍋に入った芋粥が用意される。精算は席についてから店の人が皿をチェックし、伝票をつけてくれるのでそれを待って最後に、という形になる。
 茄子の煮浸しだと思って取った皿が実は豆腐だったりするサプライズはあったが、ウマかったので特に問題は無い。
 芋粥はほぼ味付けなしなので、全般濃いめの味付けになっている小皿料理と合わせ技一本でいただくのがよろしいようで。ただ、このほぼ味付けがないはずの芋粥はイコール味気ないではなく。米のこなれ具合といい芋の火の硬すぎず柔らかすぎずな火の通り具合といい、これどうやってるんだ?と首を傾げてしまうレベルである。
 正直、粥がうまいので具は邪魔にならなければ何でもいいとすら思えた。
 小鍋1杯分の粥を夫婦ふたりできっちり食べ尽くしたものの、さすがに粥屋で「うー、食べ過ぎたー」にはならず足取り軽く店を後にすることができた。
 そのまま大安駅まで歩き、MRTに乗る。ひと駅先の忠孝復興で板南線に乗り換え、妻はそのまま台北駅へ。私は忠孝新生駅でさらにもう1回乗り換えて松江南京駅へ。
 光華デジタル新天地へ行くのであれば忠孝新生駅から歩けば十分なのだが、なぜわざわざひと駅先まで行ったのか。単に乗ったことの無い新線に少しでも乗りたかったというのもある。あるが、しかしそれだけが目的ではない。台湾初上陸の時から欠かさず訪れているパイナップルケーキの名店、台北犁記餅店に立ち寄るためである。
 途中、セブンイレブンに貼られている『日式冷麺 冷やし中華』というポスターを見てツッコミを入れずにはいられなくなり思わず撮影。

 日本なのか中華なのか。


 ひとネタ拾ったところで無事台北犁記餅店に…着かなかった。記憶とは違う場所に店舗があったため、確認のため記憶どおりの場所に行くと『移転しました』の貼り紙が。納得して移転先のほうへと向き直ったところ、タクシーからわらわらと降りてくる日本人の一団が。
「あれ?無くなってるぞ?」
「どうしたどうした」
おっちゃん達が口々に言い合っているので
「あっちに移転しましたよ」
と、自分も知ったばかりの情報をもとに指し示す。
 というわけで見ず知らずのおっちゃん一団と連れ立って台北犁記餅店へ入店。ここはパイナップルケーキの名店なのだが、個人的にはメロンケーキのほうが好みで、むしろそれがメインの楽しみだった。
 なのに。売り場にそのメロンケーキが見当たらない。看板のパイナップルケーキはあるのだが。新製品らしいクランベリーケーキはあるのだが。
 メロンケーキがない。
 そして、一緒に入店したおっちゃん達も
「あのアズキのヤツがうめぇんだ」
「ねぇなぁ」
「ねぇわけねぇだろ」
「でも見あたんねーぞ」
等々、口々に言い合っている。
 置いてあるパンフレットからも消えているのでどうやら移転&リニューアルに合わせて商品ラインナップも変更になったようだ。
 『がーん、だな』とか『あの味の無い台北犁記かぁ』とか。『孤独のグルメ』の名台詞的な何かが脳内を去来する。
 止むなくパイナップルケーキのみを6個ばかり買って店を出る。最高で60個買ったこともあるのだが、今回はその10分の1ということで私の落胆具合をお察しいただけるだろうか。

 斯くして、思いのほか身軽な状態で一路光華デジタル新天地ビルへと向かう。
 開始予定時間より30分も早いのでどこで時間をつぶそうかと思っていたが、駐車場を覗くと既に市場はスタートしていた。
 予定より遅くなることはあっても早くなることは無いだろうと勝手に思い込んでいた私は喜び勇んで会場へ。
 この日は台中市周辺の農産物がメイン。マンゴーやドラゴンフルーツ、そして烏龍茶がメジャーだが、この時は桃やブドウなどあまり台湾フルーツとしてイメージしていなかったものがずらりと並んでいてちょっと驚く。しかも、困ったことにかなり美味そうだ。
 何が困ると言って日本には買って帰れないのである。正確に言えば検疫を通過すれば自宅に持ち帰れるが、まぁ現実的ではない。
 明日帰国であればホテルで堪能することも出来るのに、と歯がゆい思いで見て回っていることしばし。
 あった。杉林渓だ。考えてみれば杉林渓は台中の近くにある土地なのであっても不思議はないのだが、買えるとは思ってなかったので実に嬉しいサプライズだ。
 思わず「すげぇ」と口走ってしまったため、店のおばちゃんから
「你是日本人嗎?(あなたは日本人ですか?)」
と聞かれたので。
「是、我是日本人(はい、日本人です)」
と答える。昔取った杵柄でこのくらいの会話なら出来る。
 特にそれ以上の会話は無かったのだが、心なしかおばちゃんの眼差しが柔らかくなったように感じた。
 杉林渓は150g400元と大変お買い得価格。一緒に並んでいた阿里山も同じ分量で同じ値段だったのでセット購入決定。
 1000元札を渡したところ、100元札3枚が返ってきた。
「不行!不行!(ダメダメ!)」
慌てて100元札を1枚おばちゃんに返す。
 1個400元のものを2つ買って100元値引きっていうのはさすがにサービスの域を越えてしまっている。すんなり『ありがとう』で済ませていいレベルではない。
 おばちゃんは「你是真的日本人」と笑顔で言って、100元札を受け取ってくれた。
「謝謝!太謝謝」
もっと気のきいたことを言えれば良かったのだが、これが精一杯。精一杯の感謝を込めて店を後にする。
 さて。さすがにこれ以上はスーツケースの余裕も財布の余裕も無い。忠孝新生駅からMRTに乗ってホテルに戻る。

 部屋では準備万端整え終えた妻がパソコンをいじって待っていた。

 今回の戦果を誇らしく説明するよりも先に台北犁記からメロンケーキが無くなってしまったショックを切々と語りながら、私も荷造りに取りかかる。
 冷蔵庫の中に残っている飲み物も荷物減らしを兼ねて飲んでしまう。ちなみに、日本で飲む用のペットボトルは別途用意して既にスーツケースにしまい込んでいたりする。
 荷造り完了後、ロビーへ降りてチェックアウト。今回はランドリーサービスもルームサービスも利用していないのでカードキーを返して終わり。
 迎えのバスが来るまではソファーに座ってノンビリと待つ。
「帰りたくないねぇ」
「帰りたくないねぇ」
しみじみと、2人揃って同じ感想が漏れる。
 おかげで毎年毎年この時だけは、待っているのに早く来て欲しくないという、いたく矛盾した感情を抱える羽目になる。
 願いも虚しく迎えのバスはやってきてしまい、ドナドナされる牛のようにバスに乗り込む。
 帰りも免税店に立ち寄ることになっているので、到着後未練たらしく隣のコンビニに走り飲むヨーグルトを買って飲んだりする。
 さすがにそれだけでは間が保たないので免税店の中の台湾特産品コーナーをウロウロしてみる。

 烏龍茶売り場には峰圃茶荘の名前が入ったセットが置いてあって、あのお店が台北を代表する存在なのだと改めて思い知る。

 また。烏龍茶売り場には茶器もある。あるが、かさばるし割れやすいしでこれほど空輸に向かないものも無い。しかし、犬も歩けば何とやら。茶器と一緒に夫婦箸も陳列されており、これは友人の結婚祝いにちょうど良かろうということで追加購入決定。手持ちの台湾元は尽きかけていたのでカード購入だが。

 バス待ちする時はいつもは大概手持ち無沙汰になるのだが、今回はそんなこんなであっという間に集合時間がやってきた。

 あとは後ろ髪を引かれつつ、バスに揺られて一路桃園空港へ。

 キャセイパシフィック航空のカウンターは混雑していたが、手際良く行列が捌かれていくのでそれほど待たずに我々の番が来た。今回遠慮会釈無くスーツケースにあれこれ詰め込んだおかげでかなりの重量になってしまったが、幸いにも『荷物を減らせ』等々言われる事なく検査をくぐり抜ける。

 所持品検査も出国審査もとっとと済ませ、中の喫茶店で一息いれる。手早くここまで来たので時間にはかなりの余裕がある。マッサージを受けたり買物をしたりという選択肢も浮かんできたが、敢えてここは搭乗ゲートにて待機する。

 この国を離れるまでのわずかに残された時間を静かに過ごしたくなったので。

 しかし、搭乗開始時間になっても列が出来るどころかアナウンスすら始まらない。窓の外を見ると、どうしたことかそもそもとして機が到着していない。長時間の遅れを覚悟しながら思ったことは、ここまでしきりに「帰りたくないねぇ」と言い続けたために台湾の航海の守護神媽祖様あたりが気をきかせてサービスをしてくれたのかも知れないということだ。迂闊な事を言うものではない。
 出発予定時間になったころにようやく『出発は1時間後』というアナウンスが流れた。
 今度こそマッサージや買物という選択肢を実行に移そうかどうしようかという話をしていると、皺深い顔をした老人が話しかけてきた。
「少し教えて欲しいことがあるのですが、いいですか?」
とのことなので、どうぞどうぞ、とうなずくと。
「私は台湾で観光ガイドをしている者です。これから娘と孫を連れて大阪に観光に行くのですが、ここのホテルにはどうやって行ったらいいですか?」
言いながら、老人はホテルのアクセスマップを印刷した紙を広げた。
 見ると、ホテルは新大阪の駅前にあるようだ。新大阪ならば関空からは特急『はるか』で一本で行けるし、乗換えは必要だが関空快速という方法もある。
「少し高くても乗換えが無いほうがいいですか?それとも乗換えがあっても安い方がいいですか?」
と聞くと
「出来るだけ安い方がいいです。娘と孫は分かりませんが、私が日本語分かりますから」
というお返事が。
 ならば、と関空快速ルートを説明する。幸いここはwifiが入っているので、パソコンを開いてネットにつなぎ、検索してぶち当たった画像などを見せながらの説明が出来てスムーズに説明が進む。
 念のために関空発の時刻も確認してメモに書いてお渡しすると、老人は繰り返し礼を述べて去っていった。
 ここまで台湾で受けてきた好意の数々を少しでもお返ししたいという思いを常々持ちつづけていたので、こういう機会があるのは嬉しいかぎり。
 話が終わったのを区切りとしてトイレに行って戻ってくると、老人が再びこちらにやってきた。
「もう1回いいですか?」
「どうぞどうぞ」
そう言うと老人は先程のアクセスマップを広げ
「娘が言うには、空港から新大阪へ行くバスがあるようなのですが、バスはもう無いのですか?」
と、たずねた。それを見ると『大阪国際空港から空港バスで25分』と書いてある。
 なるほど。これは分からないだろう。
 なので伊丹と関空の違いについて地図を描きながらご説明する。また、この時念のためにネットで確認するが関空から新大阪に直接行くバスはない。
 どうせ何処かで乗り換えないといけないのであれば、まだしもJRの方が良いだろう。そのように説明すると老人は娘さんに私の話した内容を通訳し、娘さんもどうやら納得した模様。
「ご丁寧にありがとうございました」
と、深々と頭を下げてお礼を言われると何とも面映い。
「最後にもうひとつ、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「青春18きっぷはまだ売っていますか?」
なんともビックリする名前が出てきた。
「娘と孫は大阪観光だけして帰りますが、私は彼らを送った後18きっぷで日本中をまわりたいのです」
「ええ、まだ売っていますよ。関空にあるJRの駅で買えますよ」
「あのきっぷは素晴らしい。安くて日本中どこへでも行ける」
目をキラキラ輝かせて語るその姿から溢れ出る冒険心は『老人』とお呼びするのが申し訳ない程に若々しかった。
 と、ここで旅が終われば綺麗なのだが。
 1時間遅れで離陸した飛行機は乱れる気流に翻弄されながらも何とか大阪湾上空までやって来た。
 岸和田あたりで打ち上げられている花火を横目に着陸態勢に入ったのだが、少し行ったところで再度上昇し始めた。まぁ、無理矢理に着陸しようとして失敗されるよりは遥かにマシなのだが、この急上昇にはかなり肝を冷やした。
 上空で15分程待たされた挙句に、一番遠いところに着陸させられる。その上、着陸後もしばらく機内待機させられた。
 電子機器の使用許可は出ていたのでこれ幸いと携帯とデジカメで夜の空港という貴重な画像を撮影しまくる。






 ようやく禁足が解けて機外に出られるようになった。モノレールから入国審査まではスムーズにいったのだが、その先がこんな時間なのにまさかの大混雑。遅延したために香港からの帰国便とタイミングがかぶってしまったようだ。
 まぁ、混雑しているものは仕方ないので預けた荷物を回収して税関検査場に出来上がった長蛇の列に並ぶ。
 不慣れな人が並んでいるかどうかで列の進みが変わってくるので、焦っても仕方ない。我々の列も途中までは比較的素早く流れたのだが、携帯品申告書を用意していない人がいたりして途端に進まなくなる。
 もうこの時は時間を計ったりする余裕も無かったのでどのくらいかかったか分からないが、ようやく我々の番がやってくる。
「ご旅行ですか?」
「はい」
「なにか申告の必要なものはお持ちですか?」
「ありません」
「ではどうぞ」
これだけのやりとりで通してもらえたのは混雑の副作用だろうか。
 スーツケースを転がしてようやく到着ロビーに出る。本来であれば『飛行機に乗って関空に到着』の一言で済むはずの部分がやたら長くなってしまった。まぁ、それでも無事に勝るものは何もない。

 すっかり深夜帯なので、一応機内食を食べているのに小腹が空いている。いつもなら何か食べるかという流れなのだが、さすがにこの日はそういう話にもならずとっとと帰ろうという結論になる。

 二階に上がり、駐車場へ。4日ぶりの我が愛車は幸いにして何事も無く、やってきた時と同じ場所にちゃんと停まっていた。
 スーツケースを車に積み込み、あとは一路我が家へと向かう予定だったが、一連のハプニングで蓄積した疲労を癒すべく急遽途上にあるスーパー銭湯に立ち寄ることにした。この辺は車移動ならではの柔軟性。
 4日ぶりの広い風呂にて綺麗さっぱり旅の疲れを落とし、心身ともにスッキリして帰宅する。溜まった疲労を翌日に持ち越さないというメリットが大き過ぎるので、運転しながら「次も車で、だなぁ」とつぶやく。
 そう。いつもながら我々の旅行は終わった時が『次』の始まりなのである。

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遅れてます

とっくに搭乗時間なんですが、まだ機体が来ておりません。確認したら45分のディレイ発生です。あんまりにも未練たらたらなので馬祖様かどなかたが「じゃあもうちょっといれば?」とかそんな感じで気を利かせてくださったのかも知れませんが…。

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ああもう帰国日だ

今回は出発が午後便なんでホテルにお昼まで居られるのを良い事にもう1つ2つアタックしてきますけども。

 お茶を買ったり名物料理を食べたり、新規開拓で温泉街へ行ったり色々楽しかったのですがもう帰国日です。昨日、温泉街で日本語世代のご老人が話かけてくださったんですが、その時に思わず「台湾が良い国なんで帰りたくないです」って言ってしまいました。すかさず「日本だっていい国ですよ。私、もう何度も行ってます」って返されて大変申し訳ない気持ちになりましたが。

 もっと簡単に行き来出来るようになる日が来る事を願いつつ、ラストミッション行ってきます。

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台湾旅行記2013 3日目


 この日は朝食を食べてすぐに雙連の朝市へと向かった。
 目的はまたしても茶である。以前、冬に来た時にはここの朝市でも茶を扱っていてそれが安価かつ美味であったので今回もそれを期待してのこと。

 雙連朝市へはMRT淡水線で台北から2つめ、雙連駅で下車。2番出口を上がって目の前がもう朝市である。北に向かって200mほどの小道沿いにひしめき合う小店舗、出店、露店の数々。文昌宮というお廟の門前市として大変賑わっていた。

 肉、魚、野菜、果物といった定番から衣類、雑貨まで。多種多様な品目を扱うこの朝市だが残念ながら今回は茶が見当たらなかった。まぁ、前回も雑貨屋の店先に仮住まい同然の形で陳列してあっただけなのだが。
 とは言え、市場を漫然と歩くこと自体が楽しかったりもするので、前回は立ち寄らなかった裏路地などにも足を踏み入れてみる。日本にあったら『孤独のグルメ』でゴローちゃんが吸い込まれていきそうな小食堂がそこかしこに散在しており、うっかりホテルで朝食をとってきたことを後悔した。

 裏路地を抜けた先には馬偕医院というかなり大きめの病院があるのだが、明らかにそこに入院しているんだろうなぁという出で立ちの老人が小食堂で実にうまそうに魯肉飯などを堪能していて、夫婦揃って苦い入院経験を持つ我々は「気持ちはよく分かる」と口々に言い合った。

 さて、茶である。
 妻が「心当たりがある」というのでそれを当てにして道案内を頼む。道案内も何もないくらいの程近い場所、病院から駅方面に戻って道を渡ったところに店があった。

 台香商店という店の名前を確認するのももどかしく店内に入ってすぐ、私が探しているものが見つかった。高山烏龍茶の数ある銘柄のひとつ、杉林渓。標高1600m以上の高地で生産されたこの茶は私にとって特別な存在である。メジャー度合いで言えば阿里山のほうが上なのだが、個人的にはマグロの大間、ウナギの浜松、牛肉の松阪というくらいの存在感を持つ。

 これが300gで1200元。日本円に直せば約4200円。グラム1400円と言えば肉でもかなりの高級品だが、杉林渓の持つ清々しい味と香りは何物にも代え難い。また、300gあればかなりの期間楽しめるので日割りにするとそこまで高いものでもない。

 さて。私は主目的を達したが勿論まだまだ体力に余裕があるので今度は西門に移転したらしいアニメイトに行ってみる事にした。

 実は、ここ雙連駅から台北駅までは実は地下街でつながっているので、そこを延々歩いていこうという気まぐれを起こした。
 その動機の1つになったのが案内に書かれた『地下書店街』の文字。以前来たときは営業時間外だったので概ねノーチェックだったということもあって足を踏み入れたくなったのである。

 にしても英語で『Undergroud Bookstore』って書かれるとどんなヤバイ書籍を取り扱っているのかと思ってしまう。ちなみに、光華新天地ビルの向かい側にあるほぼ18禁の本屋みたいなのはさすがになかったが、同人誌を取り扱っている本屋はあった。しかも、台湾の作家さんが描いたオリジナル同人誌がある。

 話が前後するが、その同人誌を売っている本屋にたどりつく少し前、総合書店のひとつで『異人茶跡 淡水1865』という漫画を手にとった。“イギリス人商人とアモイの商人コンビが台湾烏龍茶を巡って伝奇旅をする!”という帯のアオリ文にワクワクが止まらなかった。大昔、シルクロードを旅する茶商人の伝奇小説を書こうとして頓挫した経験を持つ私にはツボに入りまくる設定である。


 喜び勇んでレジに持っていき、会計を済ませて数分後、今度は『時空鐵道之旅』なる漫画を発見。高校時代の同級生とタイムスリップして時代時代の鉄道に出会うというストーリーで、百年前の蒸気機関車、阿里山森林鉄道、台湾糖業鐵道、そして1970年代の青いキョ光号が登場する。これも『異人茶跡』同様、台湾の過去を舞台にした作品であり、どちらも台湾の作家さんならではだ。




 勇んでレジに持っていくと、先程と同じ店員さんが納得顔で会計を済ませてくれる。
「いやぁ、ここ通って正解だったな」
つれづれ歩きながらそんなことを言っていると、先述の同人誌屋さんを発見する。
「ああ、ついにこういうところにもこういう店が」
という感じで軽いノリにて店内に入ったところ、衝撃が走った。先程購入した『異人茶跡』と明らかに同じ作家さんが描いたと思われる『茶商與買辧』という同人誌が目に入ってきたのである。
「ああ、これがこの本の元になってるんだ」
同人で描いた作品が認められ、商業作品として発行される!この出版形態が台湾でもあるのか、と思うと無性に嬉しくなった。
 これも即決購入である。




 購入時にB4サイズポスターをプレゼントされたが、ホテルに帰って開けてみると別の作家さんのものでちょっと拍子抜け。



 話を戻そう。
 もうアニメイトに行かなくてもいいんじゃないか?というくらいに収穫を得てしまったが、普通の本屋でこれだけ発掘出来たのだからアニメイトにはもっとあるかも知れないという思いと、何にも無くてもとりあえず場所だけは押さえておきたいという思いから移動を再開する。

 台北駅からは板南線で1駅、西門駅。その6番出口を上がっていくと、目の前にはランドマークのひとつ、西門紅樓がある。
 それを横目に見つつ、大通りの中華路一段へ出る。この大通りを北上すること少しでアニメイトの看板が見えてくる。
 一緒に『指南針』と書かれた看板もあるので、光華の時と同様一緒になっているようだ。



 店の前の歩道で何かのチェックをしている腐女子らしき一群を見かけたが見なかったことにして店内へ。

 店内のレイアウトはリニューアル前の大阪日本橋店に似ている気がした。ただ、ちょっと違うのはあちらが上に伸びているのに対してこちらは下に伸びている。1階はひたすら本で埋まり、グッズやコスプレ衣装等は地下1階に展開している。本は翻訳モノがほとんどだが、漫画やラノベのみならず画集にまで及んでいるのはさすがの一語。
 毎度楽しみなのが18禁コーナーで、日本と台湾で規制に関する考え方の違いがクッキリ出る。
 『Kiss×sis』あたりが該当するのはまぁ納得なのだが『夏の前日』が規制対象なのは「厳しいねぇ」と言いたくなってしまう。日本の少年漫画誌レベルの規制をはみ出るようなものは概ね18禁なようだ。まぁ、実写でも18禁マークがついていてなおヌードグラビアの胸の部分に星マークがついたりするような国なので仕方ない。
 そのコーナーのさらに奥には日本で出版された同人誌のコーナーがある。ここからが『らしんばん』のテリトリーなようだ。
 同人誌以外に中古CD(同じく日本の物)なども扱っているのだが、店内に流れている『Free!』のドラマCD(当然日本語)だか本編音声だかが気になって状況を明確に把握出来ない。日本語で繰り広げられるキャラクターたちのやりとりが店内に延々と流れているのを聞いていると、つくづくここがどこだか分からなくなる。

 一応陳列棚はひととおりチェックしたが、やはりここに並ぶ品物は台湾の方に購入していただくのがスジだろうと思い手ぶらで撤退。その足で地下のグッズコーナーへと向かった。

 階段を降りてすぐの一等地にCDやDVDが並び、そこを過ぎると日本のアニメイトと遜色ない品揃えで所狭しと各種グッズがひしめいているのだが、作品名のポップがオール日本語なことにはもうツッコむ気が起きない。いわんや、その奥あるコスプレ衣装コーナーにおいておや。
 一周して満足し地上へと戻ると、再び本、本、本の世界が広がる。
 日本漫画の台湾翻訳版よりもここに来る前に入手したような台湾オリジナルの作品を探し求めたのだが、これが見当たらない。『FancyFantasy』という情報誌はあったが、今イチ食指が動かない。
 これは手ぶらで帰るも止むなしかと思っていたところに視界に入ってきたのが『猫散歩』という猫写真集。当然のように台湾オリジナル。台湾も日本同様猫好きな事にかけてはかなりのハイレベルで、猫だらけの村もあるくらいなのでこういう本が出版されているのは何の不思議も無いのだが、アニメイトで売ってるあたりが面白い。
 これを唯一の戦果として店を後にし、宿に戻った。

 戻ってもまだ昼過ぎ。まだまだ十分動ける時間。
 帰りがけに買ってきた胡椒餅を昼食として楽しみながら、今後の予定について企画会議。
「どこか行きたいところある?」
「思いつかない」
妻がそう言ってこちらに判断を任せてきた。
 半日というのが実になかなかクセモノで。京華城や永康街などの買物スポットには行ってもおそらく時間が余る。かと言って台南、高雄などの地方都市に行くには時間が足らない。
 まさに、帯に短し襷に長し。
 片道小一時間程度でで行って帰って来られる場所で、わざわざ足を向ける甲斐のある場所。そんな都合のいい場所があるか。
「ひとつ、あるな」
「どこ?」
「北投温泉」
「ああ」
台北駅からMRTでだいたい40分くらい。ラジウム泉と硫黄泉の湧き出る台北の奥座敷。日本統治時代から続く老舗旅館どころか銭湯までもが今なお営業を続けている。大正時代には当時皇太子だった昭和帝も行啓なされた地。
 初めて台湾を訪れた時から一度行ってみたいと思い続けていたのだが、これは丁度いい機会ではなかろうか。

 あっさりと妻の同意も得られ、タオルなどのお風呂セットをコンパクトにまとめて部屋を出、MRT淡水線に乗り込む。
 北投温泉へは北投駅ではなく、そこから支線で一駅の新北投駅で下車。この、北投駅の乗換時間を利用してトイレで用を足したりインフォメーションセンターでパンフレットをもらったり。パンフレットは当然のように日本語のものが用意されている。

 パンフレットを熟読しつつホームで待っていると、賑々しくラッピングされた4両編成の列車が入線してきた。


「コメントに困るな、コレは」
外観のみならず、車内にもモニターがあったり装飾があったりでJR九州の特急列車を彷彿とさせるような造りになっている。



 これが限定イベント列車ではなく毎日北投〜新北投間を行き来しているのは大阪環状線西九条駅とユニバーサルスタジオ駅とを往復する列車を連想させた。

 ただ、困ったことにこの電車、外が見られない。厳密に言うと見られない訳ではないのだが、窓にもぴっちりラッピングシートが貼られているので見づらいことこの上ない。

 せっかくの良い眺めなのだが、かと言って運転席後ろの窓にかぶりつくのもいささか気が退けたので諦めてひたすらに待つ。
 電車はのんびりのんびりとした走りで新北投駅に到着。
 ホームに降りたってみると、台北市内よりもいささか涼しい。やはり山あいにある街だからだろうか。

 日帰り入浴をどこでするか、というアテは特に無かったのだが、今回は下見くらいのつもりで源泉の湧き出る地熱谷を目指して気軽に歩き始める。豊かな森林に包まれたゆるやかな坂道という光景が箱根を連想させた。ちなみに有馬にも似ていなくはないが、あちらはもっと坂の傾斜がきつい。
 左手にはホテル、右手には公園。公園には湧出量豊かな温泉が川となって流れている。少し行くとレンガ造りの温泉博物館が見えてくるが、敢えてスルー。下見なので、どこかにアタックをかけるより大雑把でもある程度広く回ってしまいたかった。

 そこからさらに坂を上がっていくと水着着用で入る親水公園にたどりつくが、妻から「それじゃあ風情がない」との一言で却下になった。
 それではと、再び地熱谷を目指して歩いていくと程なくして雨が降り始める。昨日買った傘が早速役立った。
 この雨があっという間に本降りになってしまったので、地熱谷行きを断念。雨宿りも兼ねてどこか日帰り入浴出来るところに入ろうとしたところ、不思議な光景が目に入った。
 足湯である。
 降りしきる雨を物ともせず、濛々と湯気をあげている川に足をつけている人たちが何人もいる。
「あれ、いいな」
「いいね」
なんだろう。実に楽しそうなのである。もうアレでいいな、ということになり。橋を渡り階段を降りて河原へと出ると、硫黄の香りが鼻先に漂ってくる。






 好適地は既に先客に押さえられてしまっていたが、それでも木陰に何とか座れる場所を確保すると、靴と靴下を脱ぎ他の荷物と一緒に濡れないように傘をさしかけてから、ゆっくりと足をつける。
 足首から下が溶け出してしまいそうな心地よさに長嘆息が漏れる。
 普通、足湯というのは足首からせいぜいふくらはぎにかかるくらいまでをつけるものだが、あまりのお湯の気持ち良さに、なんとかもっと足を入れ込めないか工夫してみる。足を投げ出すように伸ばすと、膝下いっぱいまでつけることができた。
 じっとしているのが苦手な私だが、今回ばかりはずっとこうしていたくなった。
 しかし、5分程して妻が湯当たりを起こしてしまったので早々に中止となった。
小やみになってきた雨に当たって、動けるようになるまで熱を冷ます。
 この温泉の効能はもう言うまでもない。北は函館谷地頭温泉から南は指宿海底温泉まで日本中あちこち入ってきたが、その中でも群を抜いて効いた。
 幸い、妻の湯当たりも少し休むと動けるようになったので撤収開始。

 熱を蓄えた身体に心地よい涼風を浴びながら駅を目指して歩くと、左手に瀧之湯やら加賀屋やら日本ゆかりの建物がいくつも見えてくる。それを撮影しつつ「今度はぜひじっくり来よう。ここで1泊してもいいな」などと話していると品の良い老婦人から「日本の方ですか?」と声をかけられた。
 老婦人は「私、小さいころは日本人だったので、日本語がしゃべれるんですよ」とおっしゃられていた。
 こちらも、新婚旅行で来て夫婦でこの国が大好きになり毎年のように台湾に来ているが、今回初めて北投温泉にやってきた。大変良いお湯でした、ということをお話させていただく。
「台湾、良い国ですねぇ。明日帰国なんですけど、帰りたくないです」
「未練があるんですねぇ。でも日本だって良い国じゃないですか。私、もう何回も行っていますし、これからも行くつもりですよ」
なぜだかこのとき、涙が出そうになった。自分でもよく分からないのだが、どうしようもなくこみ上げてくるものがあった。
 さすがに気恥ずかしかったのでなんとか誤摩化し、老婦人に「ありがとうございます」とだけ述べてお別れする。
 その後、水分補給と気持ちの整理とを兼ねてスーパーで飲み物を購入し、公園で小休止。
「来て良かったな」
ぽつりと呟いたら、妻が小さくうなずいていた。

 帰りは車中で熟睡してしまったので取り立ててネタも無く。かなりギリギリまで寝ていたので乗り過ごしたりせずに済んで幸いだった。

 この日の夕食は今回の台湾旅行最後の夜ということもあり各種候補があがったが、妻の湯当たりダメージが完全に回復していないということもあり、再び台北駅2階へ。
 ここにある夜市をイメージしたフードコートで飯を食わないとどうにも台湾に来た気がしない。

 フードコートは金曜の夜なので混雑していたが、探すと2人分の座席は無事確保出来た。店の入れ替えがあったりしたものの、私が求めてやまなかった魯肉飯、青菜炒め、かきオムレツに魚団子のスープの定食風セットは無事残っていた。妻は台南名物擔子麺。
 街歩きと温泉とでたっぷり汗をかいた後だけに、魯肉飯の塩っけが全身に染みる。うまい。どうしようもなくうまい。
「この味も、食べ終わったらまた来年かぁ」
「冬にもう1回来る?」
「来れたらいいけどなぁ」
「温泉行くんだったら冬の方がいいし」
生臭いことを言わせていただくと、給料が回復したら年1回を2回に増やすことがギリギリ可能になる。今年いっぱいは厳しいが、来年度から復活する約束なのでそうなったらぜひ実現させたい。

 この日も食後にデザートとして豆花を買って帰り、ホテルの部屋で惜しむように味わって食べた。

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もうひとつの戦果




 はい。台湾版『孤独のグルメ』でございます。『深夜食堂』は何度も見かけたのにこれが見当たらなかったのでおかしいなぁと思っていたんですが、巻末を見てみると去年の12月にようやく出版されたようです。

 あと、見慣れない出版社名でして。あれっと思ってネットで出版物リストを見てもこれ以外に漫画が見当たらないので、どうやら漫画とかあんまり縁が無い出版社なようです。
 しかし、料理について注釈がついているのは勿論(台湾でもメジャーなものについてはついてませんが)、ハヤシライスを食べ損ねた回に出てくるWINS銀座について『連載当時存在していましたが今はもう無いです』と解説してたりしてますので不慣れながらも真面目に取り組んだ姿勢が伝わってきます。
 巻末の鼎談が載ってなかったりするのですが、ああ、これは本編で力尽きちゃったんだな、と思ったりしたものです。

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