他人暮らし 感想
・というか、買ってから随分置いたんですよ、この漫画は。精神のささくれた時に読むともったいないような気がして。ほんわかする事の多い谷川漫画だからこそ、落ち着いた心持ちで読みたいと思って。
・本作は三十路女性3人(バツイチ、独身、新婚(ただし初日に逃亡中))がひょんなことから同居する事になったお話です。単行本化にあたって短編『秋雨』も併録されております。
・それぞれの事情により『おひとり様』な3名の、それぞれの物語は古式ゆかしい少女漫画の系譜をしっかり受け継いだ内容となっております。昔はこういうの駄目だったんですけどねぇ。昔食べられなかったものがおいしく感じられた時のような気持ちです。加齢というのは悪いことばかりでもないなぁ、とつくづく思いますね。
・3人のうちバツイチの女性こと純花が落ち込んでいる時に別れた元旦那と再会して、イイ感じに盛り上がりつつもヨリは戻らないあたりは少女漫画と違いますけど、まぁ、内容的にはそっちのほうが自然なんでいいと思います。
・「年々自分の中の基準が厳しくなってくの!!」「あたしも年々物件として厳しくなってるんだけどネ!!」「そこわらうとこ!!」こちらは独身の頼子の物悲しい捨て身ギャグですが。なんだろう。絶望放送『良子!不良子!普通の子!』の結婚ネタを連想してしまいました。『笑ってよぉ〜』『笑えぇ〜』という新谷さんの切ない叫びを思い出してしまいました。
・この頼子のお話で、何気ない一言で気になっていた人を傷つけてしまって、それを悩んでいるうちに当の本人がやってきたり、という展開は前述の古式ゆかしい少女漫画の系譜というにふさわしいものがあります。
・最後はサワです。私の高校時代の想い人と同じ名前だったのでちょっと複雑な心境に…なるにはちょっと歳をとりすぎました。全然気にならなかったことが我が事ながら逆意表。
・新婚旅行が家族旅行に化してしまったことにぶち切れて逃走しているわけですが、国内旅行ならイザ知らず海外旅行、しかもヨーロッパ20日間とか豪儀ですね。今回は何だか個人的な事ばっかり書いてますが、せっかくなのでここでも書いてしまいますと、我が家の新婚旅行にも妻のほうの両親が着いてこようとしました。当然却下でしたが、亡義父の事を思うと、一緒に旅行する最後のチャンスだったのかなぁとちょっと申し訳なくなったりもしました。
・行動力があって、社会的には優秀なはずなのに、どこかほんわかしている旦那はやっぱり女性心をくすぐるんでしょうか。この人ちょっと絶チルの皆本を連想させますね。
・「なんだかあたしにあやまれ!!」と頼子がぶち切れる場面も絶チルを連想してしまいます。私が谷川漫画をこよなく愛するのも、この辺の少年漫画と少女漫画の程よいマッチングによるものなのかも知れません。
・「あたしの人生には結婚が必要だったの」重いセリフだなぁ。
・条件で結婚する、というのは私は一頃毛嫌いしていた考え方で、今でもあんまり好きではないんですが、「この齢まで待ったんだもん 妥協したくないよ」というところは心の動きとしては理解出来ます。『いや、むしろ妥協しろ』と言いたくなるのも事実ですが。
・旦那のほうも条件で結婚していた、という事が判明して似た者夫婦として元サヤに納まって行く訳ですが、「まずはコーヒーでもどう?」という旦那の言葉に路上で笑いあうふたりの笑顔が素敵でした。
・最後の「秋雨」という作品は亡くなった同僚が夢枕に立つお話です。同僚がある日突然…、というのも三十路っぽいテーマですよね。二十代だと重すぎるけど、30過ぎるとちょっとだけ身近になるんですよね、こういうことが。悲しい事ですが、
・忙しくて忙しくて、大事な事が日常にとりまぎれて行くけれども、1人になった時に、ふと思い出し、考えてしまう。その延長線上に夢枕なのかなぁ、と思ったり。
・亡くなってしまった人とは、もうそれ以上思い出を重ねる事はできないけれども、それでも夢という形で、かりそめの時間を与えられるのであれば、素敵な事ですね。
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