2013年 年始旅行記(2日目)
この時、酒を飲んだ翌朝にしてはスッキリと目を覚ますことが出来たのは缶ビール1本でやめておいたことが良かったのだろうか。
隣を見ると妻はまだ寝ている。
船はもう既に新門司港に入港しているが、我々はゆっくりステイの手続きをしているのであと1時間半ここにいられる。
というわけで、寝ている妻を起こさないように身支度を整えて朝風呂へゴー。貸し切り状態の展望浴場は、まだ外が暗かったために眺望はそれほど楽しめなかったが、空いていたおかげでゆったりとお湯を楽しむことが出来た。
さっぱりして部屋に戻ると、その物音で妻が目を覚ました。朝風呂を堪能して来た話をすると、自分も行くと言い出した。朝食をどうするかとたずねたところ「いらない」と答えたので、昨日持ち帰りにした料理の皿を返しがてら私はひとり朝食をいただきにレストランへと向かった。
朝がゆセット、朝カレーセットなどなど魅惑のメニューに目移りしながら選んだのは焼鮭の和定食。追加に辛子明太子もつけて、万全の構え。味噌汁に九州特有のアゴダシの香りを感じながら、美味しくいただいた。
満腹&満足して部屋に戻り、荷物をまとめにかかる。私はこの手の作業が苦手なので妻より先に取りかかってちょうど同じくらいに終わる。程よいタイミングで妻が風呂から戻ってくる。2人とも荷物をまとめ終わった頃に、下船時刻10分前となる。
部屋を出てエレベーターに乗り、わが愛車のもとへ。
さぁ、ここからは知らない旅の形が始まる。自分で運転して、自分でたどりつく道のりのスタートである。若干の緊張と共に、車のエンジンをかける。頼みのカーナビはまだ大阪泉大津港にいる状態になっていたのがいささか不安だったが、スピーカーから流れてくる『1/6の夢旅人 2002』を聞くとそれも一気に吹っ飛んだ。
この曲を知る切っ掛けになった『水曜どうでしょう』という番組の面々がしてきた旅のスケールや無茶加減を思い出すと、自分の不安が実に小さなものに思えて気持ちが落ち着く。
船から外へ出てしばらくするとカーナビが現在位置を把握したので、その案内に従って新門司インターチェンジから九州自動車道に乗る。
♪せ~かいじゅうをぼ~くらのなみ~だで埋め尽くして~
樋口了一さんの声に乗ってアクセルを思いきりふかせ…れば良かったのだが、路面が白くなっているのを見て思いとどまる。
「凍ってる?」
「さぁ…?」
少し走ってみた感じでは通常の道路と変わりなかったので、これは凍結ではなく凍結防止剤だと確信し、ようやく安心して加速出来た。
一路、鹿児島へ。
いきなり山越えだったり、ちょっと長めのトンネルが2つ続いたりして軽いジャブを食らったが、それでも大過なく進む。そのジャブを乗り越えて遠賀川にさしかかると、これまで九州旅行の際に使っていた山陽新幹線の線路と並走することとなり、ちょっと不思議というか愉快というか。
その少し先、若宮インターチェンジ手前では噂に聞いた『若宮 宮若』というちょっと珍しい看板を実際に見ることが出来てさらに愉快度アップ。
心配の種だった天候も渋滞も特に問題は無く、三車線の高速道路を快調に走る。長丁場のドライブになるため、この旅行で視聴すべく用意したBGMやらDVDやらあったのだが、まずは妻が昨日初売りで買い込んで来た東方系CDが投入される。
福岡インターを過ぎ、太宰府、筑紫野と過ぎていくに連れて並走する車の数は徐々に減っていく。ただ、どこまで行っても西鉄バスの姿だけは見ることが出来たのには驚くのを通り越して笑ってしまう。さすが日本一のバス会社。
車窓も楽しみたかったのだが、さすがにそんな余裕は無く。せいぜい基山パーキングエリアの横を通過する際にちらっと視線を向けて、『パーキングエリア』という名前にそぐわぬ規模の大きさに感心した程度である。
鳥栖ジャンクションを越え筑後川を越え、ひたすら南下していくと間もなく熊本県に入る。
道中は退屈するだろうと踏んでいたのだが、まったくその気配もない。運転している自分はともかく、妻も楽しそうに車窓を眺めている。このままだとせっかく用意したものは出番無いままかな?と思ったりもしたが、まだまだ鹿児島までですら道半ばであるし、帰りもある。そう判断するのは早計というものだ。
車は程なくして北熊本サービスエリアまで2キロのところまで来る。ぼちぼち距離も稼いだのでこの辺で休憩してもいいのだが、ちょっとした目論見があったので先延ばしにする。
さらに25キロほど走った先、緑川パーキングエリアに車を止めた。
ここを選んだ理由はズバリ、名前である。オタ夫婦である我が家的に『緑川』と言えば声優の緑川光さんを真っ先に連想せざるを得ない。特に、ガンダムWを長年追いかけ続け現役で二次創作を続けているうちの妻としてはやはり反応してしまう名前であったので、休憩場所にここをチョイスするのはある意味自然と言えた。ちなみに私にとって緑川さんと言えばスレイヤーズのゼルガディスが一番思い出深い。
そういう訳で、駐車するとまずは看板を撮影。
上に思いっきり『ヒライ』と入っているのがネタ的に膨らみを持たせている。
「ヒライっていう名前のキャラ演じてなかったっけか?」
「記憶にないなぁ」
「惜しい」
そんな会話をしてしまうのは、もうどうしようもない業のようなものだとして。
撮影完了後はとりあえずトイレを済ませて買い物タイム。ローカルドリンク好きの私としてはまずドリンクコーナーをサーチする。熊本でローカルドリンクと言えばらくのうマザーズのコーヒー牛乳がまっさきに浮かぶが、これは鹿児島でも入手可能なのでパス。サーチの結果、“晩白柚(ばんぺいゆ)とはちみつドリンク”に決定。ちなみに晩白柚とは熊本県は八代市の特産品となっている巨大柑橘類で、ザボンの仲間である。以前、八代市にある日奈久温泉に宿泊した時には大浴場の浴槽にこれがいくつも浮いていたという愉快な思い出がある。
味はやや甘めで、かといってべたつく感じはなく、運転の疲れを取るという意味ではいいチョイスだった。
車に戻って椅子を倒し、しばし仮眠モード。カーステレオ使用権を交代してもらって私の用意してきたメモリーカードの音楽を流す。
休憩中なので無駄にテンションをあげないようにと『魂のルフラン』及び『心よ原始に戻れ』をチョイスするが、うっかりとその次が『太陽曰く燃えよカオス』だったので仮眠が強制終了。車を発進させる。
(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! ←これで頭の中を一杯にしつつ、とりあえず事故らないようにすることだけを心がける。
この次も『お後がよろしくって…よ!』だったり『天体戦士サンレッドのテーマ』だったり。あとはニコニコ動画で拾って来た替え歌たちが続いて流れて、テンションは高いままでキープされる。
その高いテンションのまま、八代ジャンクションに突入。この先は『危険物積載車規制区間』であり、山越えの急カーブが多数存在する上、23本のトンネルが連続する九州道最大の難所。それなのに、このハイテンションなBGMに後押しされて割と楽しく運転できてしまう。絶景だらけの車窓を台無しにしたようにも思えるが、気にしてはいけない。
圧巻は全長6キロを超える肥後トンネルで『白金ディスコも無ェ(Fuli ver)』が流れ始めた時。意味も無く「これで勝つる!」と思ったものである。月火ちゃんと吉幾三の絶妙なコンビネーションに後押しされて、無事突破。
もちろん、テンションが上がったからと言ってスピードまで上げるような真似はしない。急カーブと上り坂のコンビネーションが私からそういう浮かれた気持ちを根こそぎ奪い取る。
人吉インターチェンジまで2キロ、の看板を目にした時には「あ、そう言えばめだかボックス関連の曲入ってないな」ということに気がついた。まぁ、気づいたからといってどうすることも出来ないし、よくよく考えてみたら善吉のキャラソンは出ていないので『人吉で人吉善吉の曲を流す』はそもそもとして実行不可能だったのだが。
その後、門司から250キロの看板を目にするころには難所も抜け、やれやれと思ったら加久藤トンネルという強敵が待っていた。最長の座こそ肥後トンネルに譲ってはいるが、その長さは肥後トンネルより少し短い程度であり、十分に難所と言えた。ここも愉快な音楽の力を借りて無事に通過する。
トンネルを抜けるとそこは鹿児島県…ではなく宮崎県。正確に言うとトンネルの中で既に宮崎県だったのだが。福岡から熊本に抜ける時にいったん佐賀県を通過するように、熊本から鹿児島に行くにあたっても途中宮崎県を通過するのである。えびのジャンクションを越えて少し行くともう鹿児島県なのだが。
にしても。鉄オタの自分が肥薩線に乗るより先に高速道路で人吉~吉松間を駆け抜けることになるとは想像だにしなかった。肥薩線自体はループ線とか駅弁立ち売りとか見どころや楽しみの多い路線なので今でも一度は乗ってみたいと思っている。と言うかいつか乗ってやる。
鹿児島県に入る際には桜島と西郷隆盛が描かれたカントリーサインがお出迎え。鹿児島と言えばこの2つ。鹿児島県は期待を裏切らない。
栗野、横川と通過し、南下を続けると視界に鹿児島空港の文字が。次は溝辺鹿児島空港インターチェンジ。何度かお世話になった鹿児島空港のすぐ近く。ここの空港は『鹿児島』の名を冠するにふさわしく足湯を備えており、利用のたびにその恩恵にあずかったことが昨日のように思い出される。
また、このあたりには『水曜どうでしょう』の名企画対決列島のラストを飾った場所である西郷公園も存在するのだが、それがどこなのか、巨大な西郷像のおかげで運転しながらでもすぐに分かった。
「時間に余裕があったらここで降りたいんだけどねぇ」
「まぁ、またの機会に」
予定に遅れは無いものの、かと言ってあんまり寄り道をしていると昼食を取りっぱぐれる危険性がある。このまま一気に走りきろうと思ったのだが、ルート確認を兼ねて桜島サービスエリアに立ち寄る。
桜島では無いのに桜島サービスエリアを名乗るくらいなので、当然桜島を一望できるポイントがあるだろうと思ったが、そうでもなかった。トイレの横にちょっと見晴らしのいい場所があって、そこからならば一応全景が楽しめたので、用足しのついでに撮影もしておいた。
さて。実はこの先、指宿へ行く前に桜島に立ち寄り、マグマ温泉というステキな名前の銭湯に入り、また昼食もすませる計画なのだが、桜島行きフェリー乗り場によりスムーズにたどりつくためには鹿児島北インターで降りた方がいいのか薩摩吉田インターで降りた方がいいのか。サービスエリアの案内所で聞いてみたところ『どちらでもそれほど変わらないと思いますが…』とのこと。変わらないのであれば薩摩吉田で降りてしまおうという結論に到る。
このとき、事のついでとばかりに抜け目無く好物のかるかんを購入。あったらあっただけ食べてしまうので、自重に自重を重ねて2個だけにしておく。
桜島サービスエリアから薩摩吉田インターまではすぐである。延々走ってきた九州道とはここでお別れし、県道16号線へ。県道とは言え整備状況もよく、思っていたよりもずっと走りやすい。これは正解だった。
県道16号線から国道10号線に入り、鹿児島港へ。出港間際だった12時45分発のフェリーに滑り込みで乗船(しかもラスト1台!)出来たのはラッキーだった。
桜島フェリーは乗船時間も15分と短いため車中にとどまっていてもいいのだが、せっかくだから上部甲板にあがって眺望を堪能することにした。風は強いが、寒さはそれほどでもない。さすがは南国鹿児島。
「噴いてるねー」
「噴いてるなー」
桜島の御岳からもくもくと白い噴煙が立ち上る。この時は桜島に来た実感が湧くなあ、くらいにしか思わず暢気に構えていたのだが、あとでこれがどういう意味を持つのか思い知らされることになる。
何しろ15分しか無いので名物のうどんを食べるヒマもなく桜島入港が間近となったので、車に戻り待機する。
最後に乗ったため、降りるのも最後。他の車両が全て降りた後、誘導に従って地上へ、そしてフェリーの料金所へ。ここまでETCカードでの支払いばかりだったので現金払いの手間ひま、そして時間のかかりっぷりを思い知らされる。やっぱりETCは偉大な発明である。
料金所からちょっと、本当にほんのちょっと進むとすぐそこに桜島マグマ温泉はある。駐車場に車を入れ、入浴用の最低限の荷物だけ持って中へ。
「すいません。ポンプが故障していて今日は温泉のほうが…」
あらら。残念ではあるが、コレばっかりは仕方が無い。それでも普通のお湯の風呂は使えるということなので利用することに。シャンプー&ボディーソープ完備で300円という格安料金なので、普通の風呂だけでも使う価値はある。そもそもからして私の好きな錦江湾を眺めながら入浴できるというのも高ポイントである。
そんなわけで、食事の前に入浴タイム。思いのほか蓄積したダメージをここでしっかりほぐし、この先の運転に備える。広い窓から差し込んでくる穏やかな陽光は京都どころか朝上陸した北九州と比べても暖かく柔らかい。遠路はるばる走って来た甲斐を感じる。
湯からあがって、隣の国民宿舎にあるレストランへ。私はずっと焦がれていた黒豚とんかつ定食、妻はなぜかブリ大根パスタという大変チャレンジャブルなチョイス。
ブリ大根パスタは妻曰く「当たり」だそうで。私のほうはやや揚げ過ぎの感はあったが、そこはやはり黒豚。別格にうまい。
食べ終えて、本来であればこの後は桜島一周する予定だったが、思いのほかフェリー乗り場が混雑していたこともあって予定を繰り上げて戻ることにした。
行ってみると、フェリーの待機場所どころかその手前の料金所から既に車が長蛇の列を為していたのだが、並んでいる車を見て1つ気づいた。
「白いな」
そう。桜島の噴煙からもたらされる降灰を浴びて白くなっている車がそこかしこに存在していた。それを見て、このままいくとうちの車もこうなるんだろうなと腹をくくる。
フェリーは30分以上待つことを覚悟していたが、臨時便でも出してくれたのかそこまで待つ事も無く乗船できた。
帰りの便は比較的前の方になったこともあって、車から出ずに過ごした。
鹿児島市街に上陸後、港の近くでガソリンを給油してから一路指宿を目指す。ここから先は一般道で延々走っていくため、距離に比して所要時間がやたら長い。それなりに覚悟してハンドルを握ったつもりだったが、渋滞がその遥か上を行っていた。
比喩でもなんでもなく、動かないのである。カーナビは県道217号線、所謂産業道路と言われる路線を推奨するのだが、これが尋常ではない込み具合だった。信号が1回変わって1両分進むかどうかというのではどうしようもない。隣を走る国道225号線に変更する。こちらは多少混雑していたものの、それなりに進むので、だいぶマシ。
市電と並走するというのも鉄オタ心をくすぐってくれてなかなかに良い。
それでもカーナビが繰り返し繰り返し産業道路に戻れと言うので交通安全教育センター前交差点から戻ると、渋滞は解消していた。スムーズに流れていれば、確かにこちらの方が走りやすい。ガンガン飛ばす周囲の車に流されないようにスピードを抑制しつつ、ひたすら指宿を目指す。
産業道路が終わり、国道226号線へと入るあたりから車窓は海岸線に変わる。錦江湾を左手に、指宿枕崎線を右手に見ながら走れる恵まれた行路。
喜入の石油備蓄基地を過ぎるといよいよ指宿市である。しかし、まだここからが長い。指宿商業高校を過ぎたあたりから内陸の道になり、信号も多く、40キロ制限なのでどうにも時間がかかる。日が暮れ始めたこともあって、緊張感は2割増くらいになる。
狭い上に街灯の少ない道を慎重に進み、宮ケ浜駅、二月田駅と過ぎて指宿駅も越えて、ようやく目指す指宿海上ホテルへと到着した。
荷物を降ろし、ホテルの人に車のキーを預けて駐車を任せる。チェックインの際に「いつもご利用ありがとうございます」と迎えてもらえると、長駆ここまでやって来て良かったとしみじみ思った。
部屋に荷物を置いて、一休み。まずは砂むしである。
フロントで専用の浴衣とタオルを受け取り、外にある砂蒸し場へ。日暮れ後であるので、南国とは言えいささか寒い。これが、砂中に埋め込まれて地熱で15分蒸し上げられると寒くも何ともなくなるのだから、不思議だ。
砂をシャワーで落とし、その後は5階にある大浴場でゆったりする。陽が沈んでしまった後なので景色はうっすらとしか見えないが、それでも温泉につかりながら海を眺める楽しみは至高のひととき。毎年毎年この瞬間のために1000キロを旅して来ていると言っても過言ではない。
この砂蒸し→温泉のコンボアタックのあとは、部屋に戻ってくつろぎタイム。くつろぎタイムなのにパソコンを立ち上げてしまうのは業というものだろう。
私のパソコンは部屋からはネットにはつなげないので、車内観賞用に持って来たDVDでも見ようかと物色する。
ちなみに持って来たのは初代ガンダム映画編3本と水曜どうでしょうの『アメリカ合衆国横断』『ヨーロッパリベンジ』『サイコロ6』『onちゃんカレンダー』『30時間テレビの裏側全部見せます!』。
2時間も3時間もあるわけではないので、一番短い『onちゃんカレンダー』にしておく。
3月の撮影が完了したあたりで妻が帰ってきたので視聴を中止。
水分補給をすませて、夕食をとるべく会場に向かう。
出された食事は鹿児島の郷土料理をメインとしたもの。さつま揚げのせいろ蒸しとか黒豚鍋とか名物数ある中でも、『とんこつ』という骨付きの豚肉料理が我々一番の楽しみ。これは鹿児島以外ではなかなか口に出来ない。薩摩味噌で煮込まれた骨付き豚肉のとろける味わいは、砂むしと並んで指宿まで旅をする動機のひとつになっているほどだ。
これを焼酎『さつま小鶴』の水割りと一緒に堪能する至福。
もともとそれほど酒に強くない上に、旅の疲れもあってコップ1杯の焼酎ですっかり出来上がり、食べ終わると寝床へダイブして就寝。
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