台湾旅行記2014 5日目
さて。唐突だが偉大なる革命家孫文を台湾の人たちは敬意を込めて『國父』と呼ぶ。そしてその國父を称えるべく建てられたのが、今回の根城であるユナイテッドホテル最寄りの駅名にもなっている國父紀念館。
この台湾が誇る一大ランドマークをあれこれと理由を付けてはこれまで素通りし続けてきてしまった訳だが、今回はさすがに行ける。ホテルの目の前という好条件であり、朝食からチェックアウトまでの時間で悠々行って帰って来られる。
の、はずだったのだが。寝坊が全てを狂わせた。
朝食時間には無事間に合ったものの、時間的余裕は当初の予定よりグッと少なくなってしまった。
それでも、こんな近くに泊まっていて素通りして帰るのはあまりに失礼だということで半ば強引に出発する。
ホテルから目的地まではほんのわずかな距離なのだが、それでも油断の出来ない暑さが我々をさいなむ。これは今回何度も経験したが、何度経験してもまだ『慣れる』ということが出来なかった。峰圃茶荘の老人も「今年は異常な暑さです。気をつけて」とおっしゃられていた。台北に住み続けて1世紀近くになろうかという方の言葉なので実に重みがある。
なんとか無事にたどり着き、建物の陰に入るとそれだけで割と心地よい。どれだけ日差しが強いのか、とふたりで苦笑しつつ中へ。
孫文の巨大な銅像を一目拝もうとホールへ入ると、ちょうど1時間ごとの衛兵交代式が始まるタイミングだった。この交代式、台湾では中正紀念堂のそれが有名だが、実はこちらでもやっている。
狙った訳ではなかったが、せっかくなので拝見させてもらおうと人垣の一部となる。
実際の動きについては動画を撮影してきたのでそちらで確認していただくとして。
機械仕掛けのように正確かつタイミングの一致した動きは余程の訓練を積まないと出来ない。特に銃剣交換の場面などはどれだけの時間を要したか知れない。この10分にも満たない時間の中にどれだけの下積みが裏打ちされているのかを考えると、國父という存在に込められた敬意の深さに思い至る。
それに触発されたのであろうか、孫文という人物に対して改めて興味が湧いた。『せっかくなので』という言葉は実に便利かつ危険であり、衛兵交代式だけではもったいないと孫文の生涯を展示した資料室にも入ってみる。我が家では面白おかしいエピソードのほうでお馴染みになってしまっているが、勿論ここではそういう展示はない。
建物を出ると目の前にも孫文の銅像があり、その背後が碑林になっていた。碑林というのはその名のとおり石碑の集まりであり、ここには中華民国の歴代重鎮が孫文に捧げた文字文章を石碑にして集めていた。
とまぁこんな感じで、ちょっと立ち寄るだけのつもりが思わず時間を長々費やしてしまった。慌ててホテルに戻り、チェックアウト。慌てたためにうっかり忘れ物をしたことには桃園空港に着いてから気づく。
さて、空港への移動手段であるが。
来たときに目の前で降ろしてもらったのだから、当然帰りも目の前からバスが出るはずなのだが、路線バス用のバス停もたくさん並んでおり、今イチバス停がどれなのか分からない。バス停が分からなければ当然次が何時に来るのかも分からない。
もっと言うと、我々が使用したバスは比較的本数が少ない。最悪、20分間もしくはバスが遅れたらそれ以上の時間を炎天下にて焙られる覚悟がいる。帰国日に熱射病にでもかかったらシャレにならない。
となると、ここから乗ることは断念し、涼しさが確保されている上、大荷物を抱えても気兼ねなくゆっくり待てる乗り場を利用することにした。
市政府駅のバスターミナルも涼しい点では合致するが、あそこは待機場所が意外に狭く、大荷物を抱えた我々にはいささか窮屈であった。
となるとどこがいいか。幸いにしてひとつ心当たりがあった。
松山空港から桃園空港へ行くバスがそれだ。松山空港は当然待機ロビーが結構広いし、そこからバス乗り場は目と鼻の先。周囲に居る人たちも大荷物を抱えているのが前提なので気にせずノンビリ待てる。
ホテルをチェックアウトしてタクシーを拾う。ここから松山空港までは10分くらいかかっただろうか。そのため料金もさしてかからず。
ここは国際空港化してからは来たことがなかったので、まずは喫茶店で一服しようかとも思ったのだが、行って見るとなんだか列が出来ているので休憩はパス。とっとと桃園空港まで移動してしまおうという結論に至る。
バスロータリーは空港内からも見て分かるところにあるので、乗り場を自分でウロウロして確認すれば分かるのだろうが、まぁ暑いし、ということでサービスカウンターで聞いてみる。
するとコンパクトに乗り場や発車時刻などがまとめられた案内の紙を渡される。書かれているのは当然のように日本語。それによるとバスはここから直通のものがあるようだ。こういうメモは重宝するのでとっておく。
そのメモに従い6番乗り場に停車中のバスに乗り込む。
バスは行天宮の近くで一度乗客を拾ったあとは市街地に入らず高速に乗ったのでこれまた快適。今までのように送迎の便があったり、もしくは台北駅近辺のホテルに泊まったりというのでなければ松山空港ルートはなかなか使えるという結論に至った。
桃園空港は来た時と同じかそれ以上に暑かった。しかし、この暑さともこれでまたしばしのお別れかと思うとほんの少しだけ名残惜しさを感じた。
チャイナエアラインのチェックインカウンターでは長蛇の列を職員さんが懸命に捌いていた。おかげで列の長さの割には待ち時間が短くて済んだ。こういうところはチャイナエアラインいいな、と思うのだが。
今回の台湾旅行最後の食事は機内食があることを考慮して地下のフードコートにて軽めに済ます。ちなみに店の中ではセブンイレブンが一番人気でちょっと苦笑。
待ち時間はマッサージと買物とで幸せに消化する。マッサージは今回結局初日の1回しか受けていなかったので、ここで受けて疲労を少しでも解消しておけるのは幸運だった。
それにしても、もうこれ以上買う物なんかないだろうと思っていたが、ここの本屋で野球雑誌の『職業棒球』が買えたりしたので侮れない。あと、ホテルの冷蔵庫に忘れてきた台湾製の水筒もここで買い直せたのは大いに助かった。
このマッサージ及び買物の時間はちゃんと搭乗開始時間を計算に入れてスケジュールを組んだのだが、来た時と同じくまたディレイ発生でがっくりした。
実際に離陸する時すらも機内でそこそこ待たされたので何事かと思ったら、窓の外を見てビックリ。滑走路上でまさかの大渋滞が起きていた。飛び立つ順番待ちしている飛行機の行列なんて初めて見た。滑走路が工事中というのはアナウンスで知っていたものの、まさかここまでカオスになっているとは。
搭乗口でも機内でもだいぶん待たされ、ようやく離陸。
飛び立つと程なくして機内食の配食開始となる。待たされたイライラを食事で解消してもらおうという腹づもりなのだろうか。
機内食は行き同様に帰りもなかなかの充実っぷり。メインディッシュのみならず脇役のはずのポテトサラダまでしっかり美味しいのは『偉い』と褒めたくなる。
帰りは関空から車を運転しなくてはいけないので行きのようにビールを楽しんだりはせず。ただ、ひねくれ者なので子供のようにオレンジジュースなんぞ頼んでみたりするのだが。
食事が終わればたくさんの思い出を抱えてひと寝入りし、目が覚めればもう間もなく着陸態勢だとのこと。慌ててシートベルトを締め直し、椅子に深く掛け直す。
何度来ても新しい出会いと発見がある台湾だが、今回は特に紅毛港保安宮が思い出深い。艇長は日本の軍人なので戦死後は当然靖国神社や地元の護国神社にて祀られているのだが、別宗派にてもあのようにお祀りされている例は世界にどれほどあるのだろうか。
探せばいくらでも出て来るのかも知れないが、少なくとも艇長がその中の幸せな一例に挙げられるのは間違いないところだろう。
八田さんと烏山頭水庫のように、こちらの逸話もぜひ広まって欲しいものである。
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