鹿児島旅行記(B面) 四日目
日の出直後だったので取り急ぎ大浴場へ行く。思いのほか空いていたので、鼻歌まじりで陽光を浴び、朝風呂を堪能。ああ、もういっそ明日なんて来なければいいのだが。
部屋に戻ってから朝食に向かう。この日は昨日置いてあったできたて豆腐がなく、その代わりなのか麻婆豆腐が並んでいた。朝から食べるようなものかとは思ったが、まぁせっかくだからと皿に盛る。あとは昨日がタンパク質多めだったのでこの日は野菜多めにする。
妻は昨日と同じような感じ。もともと今日は最後だからとか雰囲気に流されないマイペースを貫く性格なのだが、この日飲み物全制覇にしかかったところは私の悪影響か。
昨日同様朝食を取りながら作戦会議。
今日はとっとと京都まで戻るパターンと、途中下車して博多観光するパターンと、同じく途中下車して鹿児島市内を観光するパターンと3つ用意した。
幸い体力に余裕があるのでとっとと戻るパターンは却下となり、博多観光も「特に行きたいところが思いつかない」ということで却下。
さて。鹿児島市内観光は良いとして、どこへ行くのか。桜島か。城山か。妻の回答は「かごしま水族館」だった。なんでもジンベエザメを見たいとのこと。
そうと決まればあとは早い。
とっとと朝食を片付け、身支度を整えて宿をあとにする。
昨日と同じ9時半発の列車に乗るべく、似たような時間に駅に到着したのだが、この日はなぜかやたらと人が多く、荷物をたくさん抱えた我々は確実に座りたかったので指定席を確保。また、この指宿駅ではJR最南端である西大山駅の入場券も販売しているので、事のついでとばかりにそれも購入。
行ってないのに買うというのはポリシーに反するのだが、これは「次回必ず行く」という決意表明として手元に置いておくことにした。
後ろの自由席はそこそこ混雑していたが、指定席はゆったりしていた。南国の日差しに包まれて約1時間、海沿いを走るこの列車にまた乗りに来る日を楽しみに、それまでこの光景を忘れないように、じっくり車窓を眺める。
あの武骨な薩摩隼人を育んだとは思えない穏やかな眺めだった。
定刻どおり列車は鹿児島中央駅に到着し、我々はまたコインロッカーに荷物を預ける。水族館に行くには市バスでも市電でも可能だ。その上付近を通るバスは何本もあるので、とりあえず一番早く来たバスに乗り、水族館前のバス停で降りる。
前、といいつつ真ん前でおろしてくれる訳ではなく、歩いてフェリーターミナルを越えていかないといけない。つくづく荷物を預けておいて良かった。
水族館は家族連れで結構にぎわっていた。水族館に来るのはずいぶん久しぶりだから、この込み具合が普通なのか判断がつきかねたが、鹿児島の子供達は行儀のいい子が多く、わめいたり走ったりする子がいなかったので子供が多いことで生じるストレスは今回ほとんどなかった。
中の展示は結構大掛かりで、払う時には高く感じた入場料が妥当だったことを知る。目当てのジンベエザメはまだ小さく、妻はちょっとがっかりしていたが、同じ水槽にいるマグロやエイの動きが結構派手で楽しめたらしく、埋め合わせには十分だったようだ。
その他ピラルクーの展示も珍しいので眼を惹かれていた。そこですかさず「これを飼ってる野球選手がいてな」という話をする。こうやってじわじわ野球雑学を増やし、なし崩しに野球に馴染ませる作戦進行中。
館内を一周して、最後に「実際触ってみよう」のコーナーへ向かう。展示用に作られたミニチュアの海に棲むナマコやヒトデなどの生物に触れられるようになっているここは本来小さい子供のため場所と思われるが、我々は好奇心には勝てず乗り込んだ。
ナマコが硬柔らかい触り心地であるという貴重な知見を得て、今度は土産物屋へ。ここでは海棲生物のぬいぐるみが大好きな妻のために何か1つ購入しようとしたのだが、残念ながら眼鏡にかなうものがなく、ジンベエザメのマグネットだけを購入。
たまには水族館も面白かった、今度は大阪の海遊館でも行ってみようか、などなど話しつつ我々は次なる目的地ドルフィンポートへ向かった。
このドルフィンポートというのは所謂複合商業施設で、土産物屋とか食堂とか豊富に揃っているのでここで昼食をとることにしたのだ。
のだが。足湯があるのを発見してしまい、足湯優先ということでコンビニでタオルを購入してから足をつける。つけながら、本当に帰るのが惜しくなった。いっそこの街に転勤希望でもだしてやろうかという気になった。
足湯から上がって、さぁ昼食をということで我々が絞り込んだ選択肢は3つ。黒豚料理の専門店か、回転寿司か、それとも地元料理を扱っているというみなと食堂か。これはかなり迷ったが、やはり最後は薩摩料理で締めようということでみなと食堂へ。
昼時なのでちょっと待ってから席に着く。メニューは豊富でかなり迷ったが、最後だから食べたいもの全部行くことにした。各々定食を頼んだ上でサバフグの唐揚げ、鰹の酒盗、そして幻の焼酎森伊蔵があったのでこれをお湯割りで注文。
私は日本酒党なのだが、森伊蔵は素直にうまかった。本当はお湯で割らずそのまま飲むのが一番なのだろうけれども、そんなことをしたら京都まで帰り着けなくなってしまうので、お湯で割りながらゆっくりゆっくり飲む。
いい酒で、肴も上等と来れば言うことはない。シメにふさわしい昼食だった。
鰹の酒盗は併設する故郷市場で売っていたので帰り際に購入し、タクシーで中央駅まで戻る。
みどりの窓口で博多までの指定席を確保し、ちょっとだけ時間が残ったので駅ビルの地下で鹿児島名物かき氷白熊を食べる。果物がたくさん入った上に独特のシロップがかかったこの白熊は冬に食べても結構おいしかった。
食べ終えて、コインロッカーから荷物を取り出して新幹線ホームへ向かった。最後はいつもバタバタだが、未練を断つにはこのほうがいいような気がする。
新幹線「つばめ」で新八代へ。新八代で同じホームの「リレーつばめ」に乗り換える。買えちゃったから、という理由で今回も個室グリーン。私が知る中で、国内交通機関最上質のサービスが味わえるのだから、機会があるたびに使ってみたくなる。唯一の欠点があるとすれば乗車時間が短すぎることということくらい。
つばめレディからおしぼりとドリンクのサービスがあり、毛布や枕の貸し出しを受ける。何しろここにはソファもあるから仮眠もできるのである。
つばめレディとは所謂客室乗務員の女性で、鹿児島中央駅ではつばめレディ仕様のリカちゃん人形まで販売されていたりした。航空会社のキャビンアテンダントをご想像していただければおおむね正解であるが、私の経験から言わせていただけば、つばめレディは大変クオリティが高く、その二社と比べても優るとも劣らない。今回も大変端正で気品のある女性であった。
うちはヲタ夫婦という以上に、妻も女性を萌え対象にできたりするツワモノなので、こういう女性にお世話してもらうことに大変値打ちを感じる。そのための代価だとしたらグリーン料金は安いと意気投合してしまう病んだ我々。
そんな上質の空間の中で、コンセントがあるのをいいことにパソコンを起動させて文章を打ったりソファに寝そべって仮眠したりと1時間半を気ままに使う。これこそ真の贅沢だと思うので、あえて好き勝手やる。
楽しければ楽しいほど時間はあっという間に過ぎてしまい、列車は博多に到着してしまった。「せめてこれ小倉まで走らねぇかなぁ」「走ってたら絶対小倉まで乗るのに」私の呟きにすっかり鉄分の増した妻が同意した。
「リレーつばめ」を降りて、ちょうど夕食の時間帯だったので新幹線の乗り継ぎ時間を1時間半とり、博多で何か食べて帰ることにした。
昼食を食べたのが遅かったのであまり腹も減っておらず、選択に決定打を欠いたが、迷えば迷うほど食べる時間がなくなるので「クリスマスイブっぽさを優先」ということを理由にしてスパゲティにした。
別にクリスマスイブだからどうこうする家庭でもないのでこれは後づけに近い。昼食の内容が素晴らしすぎたためか、あまりパッとせず、そそくさと食べて店を出た。
そそくさしすぎて半端に余った時間を本屋で潰してからホームへ。
このたびの締めくくりの列車は、「のぞみ」52号。入線してきたのは新型車両N700系。荷物が多いからという理由でこれもグリーン席にしたのだが、今回エクスプレスカードのポイントが溜まっていたため、普通の指定席料金で取れた。
一人に1つずつコンセントが割り当てられているのでパソコンをいじったりしつつ、やっぱり寝てしまったり。新型車両は鳴りもの入りで導入されただけあって座り心地は大変良かった。
新幹線から降りた京都駅は、やっぱり寒かった。