二次創作をお目当てのお客樣方のために
「Agape」
心の中に強く刻まれた甘い匂い。ごくわずかな時間のことなのに、なぜか確かな記憶。
初めてだった。
あれが大人の香りなのか。
異性を惑わせ陥れる魔の香り。あの人は知らないのだ。自分がどのような馨しさを備えているか。そしてそれがどれだけの女性を不治の病にかからせているのかを。
あの時。確かにあの人は側にいた。無防備な姿で、甘い匂いを漂わせて。極わずかな時間の記憶だったが、いつでも、そしてどれほど経っても鮮明に思い出せた。まるで、脳裏に焼き付けられてしまったかのように。
そして、その記憶が夜ごとに彼女を苦しめる。
それまでの千里であれば、布団に入ればすぐ就寝し、起きる時には目覚ましが鳴りだす前に目が覚めてきっちり7時間半の睡眠時間を守ってきた。その千里が輾転反側を繰り返すようになったのは、あの日からだった。
こういうのを恋というのだろうか。
小学生の時、手作りチョコをあげた男の子が緊急入院した時からそういうことに縁がなくなった千里にはよく分からなかった。単なる性欲の発露ではないのか。発情期を迎えた動物のように身体が心を突き動かし、惑わしているだけではないのか。
だとすれば。
とても自分から動くことなどできなかった。
身体から始まるつきあいなどきっちりしていないことこの上ないではないか。
別に「最初は交換日記から」などと古風なことを言うつもりはないが、せめて心と身体のバランスがとれてからでなくては、正面からの告白などできはしない。「身体だけでもいいからあなたのものにして下さい」などとは、とても…。
毎夜同じことを考え、そしてまた同じ結論に至る。
最後には満たされぬ身体を抱えて、火照りを鎮める”作業”に入るのが日課のようになっていた。
パジャマのズボンはきっちり30cmだけ下げる。下げすぎると足が自由に動いてしまい、大きな音を立ててしまいそうだから。
「………っ、くふっ」
極力、声は立てない。立てそうになったら、枕に顔を埋めて耐える。音も声も出していいのは30デシベルまで。
毎日決まった様式で、務めて機械的に事を行おうとしていた。あくまできっちりすることで精神の平衡を保とうとしていた。
そうしなければ、自分が自分でなくなってしまうから。
他の女子がうらやましかった。
人目をはばかることなく愛を告げ、己が魅力をあらわにして愛する者の愛を得ようとする姿が。自分にはできない。自分には示すべき魅力がない。未熟な肉体とその割に歳不相応な肌年齢では、ありのままの自分をどのようにしてさらけ出してもあの子達には到底叶わない。
思えば思うほど、千里の指は激しく自らの秘めた部分を責め立てた。湧き出てきた自らの潤みを指で掬い集め、そのまま一番感じる部分におしつける。2つの指で挟み込み、わずかに上下させると火照りが増していった。
毎日しているためか、快楽のスイッチは以前よりやや大きさを増したように思える。その分だけ、得られる快感も増しているようだ。
鎮まれ、私の身体。早く鎮まれ…。
最後は、ついぞ自分には向けられたことのない、あの男のあたたかな笑顔を思い浮かべながら、極みに達した。
コンナワタシデハアノヒトニアイサレルハズガナイ。
というわけで千里のお話です。
タイトルはメロキュア(岡崎律子&日向めぐみ)の同名曲(アルバム「メロディック・ハード・キュア」所収)からいただきました。無償の愛という意味だそうです。一度このテーマで書いてみたかったのですが、千里と先生の話を書く場合にはこのテーマしかないと思い、チャレンジしてみました。
この先は書け次第掲載していきますが、私大変遅筆ですので書き上がりの遅さに関してはご容赦ください。
ではでは。
たぶん。
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