愛…しりそめし頃に… 9巻 感想
伝説ですらあるマガジンサンデー1日違い事件を本作で読む日を、ずっと待っていました。両誌50周年を意識してのご執筆だったとは思いますが、しかしサンデーへの引き受けの電話をかけるのが後1時間遅かったらどうなっていたか。先に話が来たサンデーを受けたか、それとも迷惑をかけた講談社のマガジンをとったか。この辺は興味深いイフではあります。原作を持ってきたサンデーに対してマガジンはフリーだったようですし、当時の藤子不二夫先生が週刊少年誌と言う土俵にどんな漫画でアタックしたのか、考えるだけでも楽しいものです。
また。今巻ではさいとう・たかを先生が初登場しました。手塚先生に憧れ、でも同じことをやっていては超えることはできないという理念を熱く語るシーンはエネルギッシュな作風そのままでした。そのさいとう先生が手塚先生に会えて少年のようにほほを赤らめているのがまた和みます。
あと、才野・満賀両名が手塚先生に初めて会うシーンは何回読んでもいいものです。今だったら考えられない点も含めて、当時がうらやましいです。
最後に。いい作品に触れたことで創作活動がバリバリ進むのは僭越ながら私にも経験があることでして、うんうんとうなずきながら該当ページを2回ばかり読み返してしまいました。
テラさんが当時既に「こんな漫画は見るにたえない」と言っています。しかし、そのさらに20年後の漫画で育った人間からすれば、「明るく楽しい」そして「夢と元気を与える」漫画は、テラさんが考えている以上に幅が広いものだと思います。アクションもギャグも、どぎついことだけで支持したりするほど子供は純朴でもうかつでもありません。
後年の、古き良き時代に殉じてしまった姿を知ってしまうと、憂うテラさんを見るのがいささかつらくなってきます。
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