コミック乱 十月号 感想
孝明帝打擲事件は知りませんでした。
安政の大獄は確かにやりすぎの面はあったでしょうけれども、鵜飼密書事件を見てしまうと「しょうがなかったのかなあ」とちょっと思ってしまいました。彦根城や彦根藩邸襲撃に井伊直弼や間鍋詮勝の暗殺計画などは政権担当者としては見逃せないでしょうし。少なくとも鳥居耀蔵がやった蛮者の獄に比べたらまだ大義名分あるかなあ、と。
日本の置かれた状況が切羽詰まってしまって、政策の主導権争いが命のやりとりになっちゃった、という解釈であっているかどうか分かりませんが。
問題はその後の老中間部が行った朝廷への釈明ですなあ。なんでこんな嘘八百を並べたのか…。まぁ、そんだけ水戸の斉昭が嫌いで、なんもかんも責任をおっかぶせたかったのかも知れませんが。それにしても無理の多い話で。慶喜を跡継ぎにするために家定の命を…というくだりは下知識無しで聞いたっておかしいと思うでしょうな。だって現に跡継ぎになってないんですし。これで朝廷をだましおおせると思っていたのだとしたら井伊政権の時代感覚もかなりおかしくなっていたのではないでしょうか。
浮世艶草子
遠眼鏡で覗きネタは江戸時代の定番と言えば定番ですが、そっから賭博ネタに転がしていくのが大変良かったですねぇ。姐さん絶対誘ってたでしょう、アレ。この手の「初な若者を食っちまう年増」ネタは以前絵かきのときにもありましたが、実際お江戸ではやりたい盛りの若者と、日照った姐さん連中という組み合わせが多かったそうで。絶望先生のネタで「熟女に筆おろしされたせいで、年上でないと物足りなくなったり」的なネタがありましたが、むしろ童貞が経験豊富な熟女に筆おろししてもらうのは日本の伝統でございます。
その他、今回も白粉彫りとかツボ振りイカサマとか細かいネタが色々入ってましたね。この辺のニヤッとさせ方がこの漫画の魅力の1つだと思います。
仲蔵狂乱
これで仲蔵は処女でも童貞でもなくなった訳ですが。処女の時と比べて童貞喪失の時のほうがページ数は少なかったですが、その分カラーなのでトントンかなぁ…いやいや。やっぱり込められた情熱の差は歴然としておりました。
さて。今も昔も花の命は短いもので。まだ現代は収入の道が多様化していますから第二の人生を歩む算段もだいぶマシでしょうが、この当時はそれこそ「芸が身を助くるほどの不仕合わせ」という言葉のとおり、元芸人であることが次のステップには何のメリットもなかったでしょうし、今よりもギリギリの線の上でショービジネスが行われていたことは明らかです。
だからこそ今回の仲蔵の決断や、それを止めなかった周囲の人の配慮は分からないではないのですが、皆が発する言葉の端々に仲蔵の才を惜しむ気持ちが滲み出ていて切なくなりました。
信長戦記
次は美濃攻めですか。
最初に和議を求めたというお話は大変納得のいくものです。作中にも出てきましたが、どう考えたって織田は美濃攻めできるような状況ではないんですから。
そして、どうしても戦うということになるのであれば今しかないと決断する。これもまた合点がいくお話です。相手が弱っている時期は和議なり戦なり新しい動きを始めるチャンスであり、和議がならぬ以上は美濃以外に働きかけて美濃を攻めにかかるのもまた道理。
これからおそらく三河松平家との和議、お市の方の浅井家嫁入りと話は続いていくのでしょうけれども、その中にどれだけの「言われてみれば」があるのか、大変楽しみなところです。
剣客商売
若先生いいですなあ。剣一辺倒という印象だった初期に比べて今回は大変な役者っぷりで。弥七じゃありませんが「大先生に似てくるようだな…」という言葉のとおりでした。三冬に金策したり偽名を使って相手の内懐に入り込んだり。己と、その回りにあるものを有効に生かして事件解決を図る手法は父親譲りでした。しかし何と言っても一番痺れたのは名乗るタイミングですね。敵方の心の隙をついたあの名乗りこそむしろ今回の真骨頂ではなかったかな、と思います。もちろん、その直後の一跳一閃も素晴らしかった訳ですが。
はなむぐり慕情
待ってました荒木先生。副長のこのエピソードは私恥ずかしながら知らなかったものですから、今回のお話は大変新鮮な気持ちで読むことができました。
副長、『親』の仇討ち。池田屋事件の影にはこんなお話があったんですねぇ。「尊王攘夷」で脳が沸騰してしまった自称志士は、なんのための「尊王」であり「攘夷」なのかを見失っていたのだろうとしみじみ思います。今で言えばさしずめ「政権交代」ですかね。
決して多くないページ数の中で推理ものの要素まで絡めつつ、各登場人物の個性を生かしてテンポ良く最後までお話を描き切ったのはさすが荒木先生。感服しました。
また、余談ですが、この号を買う数日前に私の住んでいる集合住宅にもスズメバチが巣を作りまして。我が家には心臓にテフロン埋め込んだ人間がおりますんで気が気ではなかったんですが、読んでいる最中に無事巣が撤去されて一安心でした。
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