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ふさ千明のおたネタ日記

漫画、アニメその他諸々の感想がメインのブログです。現在は「ここだけの話」シリーズについての感想を中心に運営しております。毎日15時の更新は終了し、現在は再び不定期更新に戻っております。

買っちゃいましたPS3

 アニメの録画をするためと、なんだかんだで増えてきたブルーレイディスクを妻のパソコン以外でも視聴出来るようにするために、買ってしまいました。当然こういう目的なのでトルネとセットです。

 

 まぁ、ご覧のとおりざっくりした扱いです。しかも目的が目的なのでゲームソフトは購入してきませんでした。この『ゲーム以外の目的でゲームハードを買う』という方法に大変悩みました。購入直前までうだうだやっていたのですが、最後の最後で決断を下しました。

 これで土曜の夜に夜更かししなくても日曜の朝起きたら偽物語を堪能できます。実にありがたいことです。

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さよなら絶望先生&化物語コラボSS(二次創作)『ちりクラブ』単品

「木津さん、あなた…」
2のへ組出席番号20番、木津千里の身体にはおよそ、重さと呼べるものが無かった。担任教師糸色望にその身を支えられた千里は、そのことを知られたと見るや、感謝の言葉代わりにスコップを振りかざした。
「先生、戦争をしましょう。」
「では先生、さっそく無条件降伏します」
刹那のためらいもなく望は言い放ち、即土下座の構えをとる。
「早っ。」「そもそも、なんで宣戦布告されたかくらいは聞いてください!」
「どんな理由であれ、私が木津さんにかなう訳はありませんし、木津さんとやりあうつもりもありませんから」
表情をどんよりと曇らせたまま、目をそらす望。
「先生は先程、私の身体の秘密を知りました。」「だから、戦争をします。」
「ですから、私は無条件降伏します」
「話が進まない!」


  ☆


「重し蟹?」
「はい。所謂『怪異』と呼ばれる存在ですね。持っていって欲しい思いと共に重さも持っていってしまうようですね」
本を片手に解説する姿は2のへの知恵袋、久藤准の常である。
「さすが久藤くんは何でも良く知ってますね」
「何でもは知りません。本に書いてあることだけです」
「思いのほかノリノリで、先生ちょっとビックリしてます。で、その蟹の怪異が木津さんから重さを持っていってしまった、と。どうしたらいいのですか?」
「身を清めてから重さを返して下さい、とお願いしたら返してくれるみたいですよ」
教師の質問に生徒が答える。2のへ組では何度となく繰り返されて来た光景であるため、誰も疑問は抱かない。
「木津さん、ということですが?」
「イヤです!」
きっぱり。
「絶望した!解決策を提示されても受け入れない生徒に絶望した!」
両手のひらを上に向け,一部では『支配者のポーズ』とも呼ばれる絶望姿勢で叫ぶ望。
「というかそもそも、重し蟹が木津さんから重さを持っていくきっかけってどんなものだったんでしょうか」
望の言葉に、キラリと千里の目が光った。勿論、目つきは魚のソレである。
「や、やっぱりいいです!知りたくないです!」
「聞きたいか?聞きたいのか?」
「勘弁して下さい!」
その後、校舎には望の絶叫のみが響き渡った。


  ☆


「で、結局、やらされるんですか。」
体育館に、望、千里、准の3名が揃っている。簡易ながら祭壇も整えられ、その上には蝋燭も燃えていた。言われたとおりに千里も衣装替えを済ませている。
「木津さん、その白装束は…」
「はい。丑の刻参り用ですが、何か?」
「いえ、確認しただけです。というか、確認するまでもなかったですね」
脱力する望。
 そんな会話には加わらず、神職風コスプレ姿で1人たたずむ久藤の姿は、どう見ても千里と同級生に見えないどころか、望よりもよほど練れた年齢のそれだった。
 己の姿との余りの差の大きさに気づき、取り繕うように居住まいを正す望。
「えー。では久藤くん、お願いします」
「はい」
本を片手に祝詞を唱える准。程なくして3人の目の前に巨大な蟹が姿を現す。
「うなっ!」
瞬間、スコップ一閃!
「オマエか!私から重さを奪ったのはオマエか!」
蟹が動き出す間もなく、千里のスコップが2度3度と振り下ろされ、的確に蟹の甲羅の継ぎ目部分を痛打する。これはたまらん、と蟹が思ったかどうかは不明だが、スコップから逃れようと反対側へ遁走する。
「逃がすか!」
うな!という書き文字が空中に浮かんだかと思うと、千里の投じたスコップが蟹の目の下に刺さる。
 少しばかりもがくようにうごめいてから、蟹はその動きを止めた。
 千里がスコップを引き抜くと、蟹からモヤのようなものが抜け出て千里の身体へと吸い込まれていった。
「今、体重が元に戻ったようです。」
「それはそれは、何よりでしたね木津さん」
綺麗な棒読み。
「この本にあるとおり、周囲が助けるんじゃなくて本人が勝手に助かるんですね」
「いや、久藤くん。その本に書いてあることはこういう事態を想定したものではないと思いますよ。…さて」
望は哀れな姿と成り果てた甲殻類のほうに向き直る。
「この蟹、どうしましょうか?」
「もちろん、キッチリ食べます。」
千里は右手に鍋、左手に蟹フォークを持って既に構えている。
「食べ物は粗末にせず、きっちりいただかないと。2人の分もありますよ、蟹フォーク」
「いや、私はちょっと…」
「僕も遠慮するよ」
 そして翌日。
「おや、どうしたんですか?木津さん、表情が暗いですが…。もう怪異は退治したのでは?」
「実は、蟹を食べ過ぎて、体重が。」

                            終わり

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さよなら絶望先生&化物語コラボSS(二次創作)『ちりクラブ』とそれにまつわる何か

 放課後は今日も今日とて漫研の部室へ。役割活動ですっかり出遅れた東瀬幸彦が扉を開けると、室内にはいつもの面子が既に顔を揃えていた。
「こんちはー」
「あ、お疲れっす」
ちゃんと反応するのは後輩ばかりであり、部長の早川美都も同学年の茜浜和美も読んでいる本から顔すらあげないのはいつものことである。
 とりあえず席に座り、誰に話すとでもなく話し始めた。
「いやぁ、昨日親に連れられてシンガポールシーフードなんとかってところで『チリクラブ』ってのを食べて来たんだが、これが辛くて辛くて…」
「なに?自慢?美食一家自慢なの?」
途端、本から顔を上げ、噛み付くように会話に参加する和美。ろくに挨拶はしないくせに、こういう話題には食いついて来るんだから、と心中のみで密かにぼやく。
「違う。ちゃんと漫研の活動に繋がる話だから」
「じゃあ聞く」
「チリクラブって名前がさ。ひたぎクラブっぽいなって思って。味、すげぇ辛口だったし」
「えーと。化物語のひたぎじゃなくて、別の作品のチリっていうキャラがカニの怪異にあったパターンって事?」
「察しが良くて助かる。ちょうど、同じシャフトのアニメの『さよなら絶望先生』に千里っていうキャラいたし、あの木津千里が重し蟹に重さを持っていかれる話とかどうかな」
「どうかなって言われても、それ、面白いと思う?」
「まぁ、出発点が駄洒落だしなぁ」
「で?それを誰が描くの?」
「誰ガッテ?」
言った瞬間、零度だった視線が氷点下を割り込む。
「それを描くんじゃないの?」「描クッテ?」「…今の話は何のためのものだったのかな?」「いや、ちょっと面白いかなーって思っただけ。別に描くとか何とかは」「描け。もしくは書け」「…はい」
この時、大雑把なストーリーラインをまとめるだけで勘弁してもらえたのは不幸中の幸いと言うべきだろう。口は災いのもと、というありふれた言葉を大いに噛み締める幸彦であった。





  『ちりクラブ』


「木津さん、あなた…」
2のへ組出席番号20番、木津千里の身体にはおよそ、重さと呼べるものが無かった。担任教師糸色望にその身を支えられた千里は、そのことを知られたと見るや、感謝の言葉代わりにスコップを振りかざした。
「先生、戦争をしましょう。」
「では先生、さっそく無条件降伏します」
刹那のためらいもなく望は言い放ち、即土下座の構えをとる。
「早っ。」「そもそも、なんで宣戦布告されたかくらいは聞いてください!」
「どんな理由であれ、私が木津さんにかなう訳はありませんし、木津さんとやりあうつもりもありませんから」
表情をどんよりと曇らせたまま、目をそらす望。
「先生は先程、私の身体の秘密を知りました。」「だから、戦争をします。」
「ですから、私は無条件降伏します」
「話が進まない!」


  ☆


「重し蟹?」
「はい。所謂『怪異』と呼ばれる存在ですね。持っていって欲しい思いと共に重さも持っていってしまうようですね」
本を片手に解説する姿は2のへの知恵袋、久藤准の常である。
「さすが久藤くんは何でも良く知ってますね」
「何でもは知りません。本に書いてあることだけです」
「思いのほかノリノリで、先生ちょっとビックリしてます。で、その蟹の怪異が木津さんから重さを持っていってしまった、と。どうしたらいいのですか?」
「身を清めてから重さを返して下さい、とお願いしたら返してくれるみたいですよ」
教師の質問に生徒が答える。2のへ組では何度となく繰り返されて来た光景であるため、誰も疑問は抱かない。
「木津さん、ということですが?」
「イヤです!」
きっぱり。
「絶望した!解決策を提示されても受け入れない生徒に絶望した!」
両手のひらを上に向け,一部では『支配者のポーズ』とも呼ばれる絶望姿勢で叫ぶ望。
「というかそもそも、重し蟹が木津さんから重さを持っていくきっかけってどんなものだったんでしょうか」
望の言葉に、キラリと千里の目が光った。勿論、目つきは魚のソレである。
「や、やっぱりいいです!知りたくないです!」
「聞きたいか?聞きたいのか?」
「勘弁して下さい!」
その後、校舎には望の絶叫のみが響き渡った。


  ☆


「で、結局、やらされるんですか。」
体育館に、望、千里、准の3名が揃っている。簡易ながら祭壇も整えられ、その上には蝋燭も燃えていた。言われたとおりに千里も衣装替えを済ませている。
「木津さん、その白装束は…」
「はい。丑の刻参り用ですが、何か?」
「いえ、確認しただけです。というか、確認するまでもなかったですね」
脱力する望。
 そんな会話には加わらず、神職風コスプレ姿で1人たたずむ久藤の姿は、どう見ても千里と同級生に見えないどころか、望よりもよほど練れた年齢のそれだった。
 己の姿との余りの差の大きさに気づき、取り繕うように居住まいを正す望。
「えー。では久藤くん、お願いします」
「はい」
本を片手に祝詞を唱える准。程なくして3人の目の前に巨大な蟹が姿を現す。
「うなっ!」
瞬間、スコップ一閃!
「オマエか!私から重さを奪ったのはオマエか!」
蟹が動き出す間もなく、千里のスコップが2度3度と振り下ろされ、的確に蟹の甲羅の継ぎ目部分を痛打する。これはたまらん、と蟹が思ったかどうかは不明だが、スコップから逃れようと反対側へ遁走する。
「逃がすか!」
うな!という書き文字が空中に浮かんだかと思うと、千里の投じたスコップが蟹の目の下に刺さる。
 少しばかりもがくようにうごめいてから、蟹はその動きを止めた。
 千里がスコップを引き抜くと、蟹からモヤのようなものが抜け出て千里の身体へと吸い込まれていった。
「今、体重が元に戻ったようです。」
「それはそれは、何よりでしたね木津さん」
綺麗な棒読み。
「この本にあるとおり、周囲が助けるんじゃなくて本人が勝手に助かるんですね」
「いや、久藤くん。その本に書いてあることはこういう事態を想定したものではないと思いますよ。…さて」
望は哀れな姿と成り果てた甲殻類のほうに向き直る。
「この蟹、どうしましょうか?」
「もちろん、キッチリ食べます。」
千里は右手に鍋、左手に蟹フォークを持って既に構えている。
「食べ物は粗末にせず、きっちりいただかないと。2人の分もありますよ、蟹フォーク」
「いや、私はちょっと…」
「僕も遠慮するよ」
 そして翌日。
「おや、どうしたんですか?木津さん、表情が暗いですが…。もう怪異は退治したのでは?」
「蟹を食べ過ぎて、体重が。」






「えーと。こんなかんじでどうかな?」
「30点」
「だろうな。ああ、俺の5時間…」


                            終わり

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楽園 Le Paradis8 感想

表紙
・夕暮れ時、妙齢の女性が妙なことをやってます。…すいません。せっかくのシギサワ先生力作の表紙を台無しに。
・でも、こういう妙なことをやってる女性の姿って惹かれます。マジで。ドキドキします。思わず勇気を振り絞って「何してるんですか?」って聞いてしまいそうになるくらい。
・あと、スカートを握る左手にもドキドキしますね。ええ。


アパルトめいと
・犬上先生、割とこのパターンお好きですよね。女性が男性を襲っちゃうタイプのお話。
・男性の家に女性が迷い込んだらセーフですけど、逆は即通報ですよね。
・鍵交換云々のくだりは、どう考えても女性の言い分がおかしい。持ち家でも賃貸でも、自分が住まなくなったら鍵は返しましょう。
・「鍵交換!」「いくらするのよ」「あ…不動産屋は確か3万って」「これで交換しといて」「いーわね!」「じゃ!」嵐のような女性だ。
・ああ、寝具から異性の匂いするとどきどきしますよね、ええ。相変わらず良いところをついてきますね犬上先生。
・「何故開く」何故開けた。
・「すみませんっ」「使っちゃいました全部」「……は?」「電気と水道とガス」「一気に止められそうだったんでつい…」同情の余地はある。というか、嘘のつけない奴だな。
・押し付けて去っていったお金を意図とは別のことに使われ「出るとこ出たらそれなりの罪」っておっしゃってますが、言ってる人も鍵持ってるからって他人の家に勝手に上がったら住居不法侵入ですがな。まぁ、酔っぱらいになにを言っても無駄ですが。
・まっすぐな瞳でにらみつけられるとグッと来る属性か。もしかしたらこいつとはうまい酒が飲めるかも知れない。
・……で、押し倒しちゃったよ。この女(ひと)。「一日も早くカギ交換すること」「でないと今日と同じ目にあうわよ」どういう脅迫ですか。
・ご期待に沿えないとトイチの利子…沿えたら無利子なんですね。分かります。


マイディア
・居心地の良い家、いいですよね。私は結婚前には彼女の家に上げてもらうことが出来ませんでしたので、こういう光景に憧れます。
・で、帰宅したら母親大暴走。うああ。
・母親がヤンデレってのはどうにも始末におえない。
・連絡が取れないことにうにうにする睦子かわいい。色んな意味で知らぬが仏。
・「電話は?」「折れた」これで全てを察してくれる友人が頼もしい。
・秋人に会えたときの睦子の表情、絶品。これは男冥利。
・いかん、シリアスな場面なのにこないだ見た次回予告のせいで壊れた携帯の買い替え、というだけで笑ってしまう。不吉なおっさんがいないか探してしまう。
・気持ちの揺れが表に出る睦子かわいいよ睦子。
・学校に戻り、睦子をつかまえる秋人。学校帰りにカラオケか。うらやましいなぁ。
・「…ちょっとゆっくり話がしたかったから…」こういう使い方ができるって頭では分かっててもこういう使い肩をしたことはありません。
・「見てるだけでいいって思ったのに我慢できなくて」「好きだって言って困らせたと思うけど」「もっと一緒にいられたらって」「それで…」「他の事色々忘れてて…」「……」「手を握ってもいい?」いい彼女だなぁ。このタイミングで察して手を握ってくれる彼女はプラチナより貴重だと思います。
・「家に帰ったら携帯壊れてて……」「睦子に迷惑かけたくないけど…」「一緒にいたらそのうちわかる事だから…」「隠しても意味なかったな…ごめんな」絞り出すような苦悩。
・「…私ちゃんとご挨拶しましょうか」「まじめにお付き合いしてますって」「カッコイイね…」これはかなりカッコイイ。
・「…ひとつ頼んでいい?」「いいですよ」「キスさせて」「……」「私 真剣に話してたんですけど」「俺も真剣だよ」こっからの2ページはもうコメント不能です。くあああ。こういう話、書きたいですわぁ。
・「げんきんだろうけど…」「好きな人が自分を好きだって…」「すごいなあ…」すごいよね。私なんぞ今でも妻からちょっと優しくされるとなんだってやれる気になります。
・だから、帰ってからの修羅場にも、まっすぐに向き合える。
・「母さん 俺」「好きな子ができたんだ」吉と出ても凶と出ても。


Spotted Flower
・初手から申し訳ありませんが、私、ポル産アニメという言い方があまり好きではありません。こういう揶揄する表現を笑えないのは心の余裕が無いんでしょうねぇ。
・「……絶対息子に見せたくねぇ」「……娘にならいいの?」どっちもアウトだと思います。
・「健全に育てる自信がない」「…まったく下らない事で悩んでるねぇ」これは私旦那の方に同意だなぁ。
・「不健全なオタになったあんたが」「今結婚してセックスして嫁を孕ませてる」「この人生大逆転をどう説明するわけ?」……これの感想というのとはちょっと違うんですが。実体験の人生大逆転を小説にするのは最後の手段にとってあります。
・「先の事なんてわからないよ」おっしゃるとおりです。
・「つまりわかった?」「2人で育てるって事」「2人の子供なんだからね」「男だ女だって」「文句言ってる場合じゃないよ」そもそも、自信があって子供を育てる人ってほとんど居ない気がするんですよね。
・「幼女を育てたかったなぁ……」「キモーイ」台無しだよ!台無しだよ木尾先生!でもちょっとだけ気持ちがわかる。だって自分の惚れた女にそっくりな幼女だよ?目の中どころかありとあらゆるところに入れたって痛くない自信がある。


お前は俺を殺す気か
・このタイトル!タイトルが!タイトルを付けるセンスを分けて下さいシギサワ先生。
・そして毎回悩むんですけども、シギサワ先生の作品に私が感想をつけていいのかどうか。いやもう、明らかにいらん事をしている気がしてならんのですよ。今回は特に見事な仕掛けも入ってましたし、つまらん駄言を展開させて台無しにしたくないのが本音です。
・とりあえず脱帽しますが、いつかこういうお話を書いてみたいものです。とりあえず勝手にノベライズして練習するかなぁ。
・当たり障りの無いところで言うと、今回のヒロイン橋本さんみたいな怜悧な美人が私は大好きで、自分の書く文章にも何度か登場させようとしては失敗してます。
・あとまぁ、怜悧な人が乱れるとたまらんですね。ハイ。
・「…さて、この先どうやって生き延びようか」ガンガレ。その甲斐はあると思うぞ。


悲しい顔して
・「10年前」「彼はわたしの母の愛人だった」こういう読者の鼻っ柱をぶん殴るような言葉を操るセンス。
・放課後のバス停でよく会い、よく話す。つかみどころのない関係。
・20で子持ち女性の愛人かぁ。やるなぁ。
・スイートルームでお菓子と絵本。それでもひとりにされたら子供は泣きますわな。
・「無いわー」「安いわー」「うわー恥ずかし」その『無い』『安い』『恥ずかしい』が許される時期ってのが人生にはあるんだよ…。
・「このひとが」「悲しい顔をすればいいのに」「二度と取り戻せないものを悔いて泣けばいい」そんな風に思われるほどの男になってみたかった。
・「よしよし」「あっちゃん」「辛い思いをしたんだね…」この手が、母を引きつけ、そして今娘をも。
・「ああ」「お母さん」「今なら少しだけあなたがわかる」「あたしきっと」「この人のことが好きになる」このくしゃっとした表情。心のうちにあるものをこらえてこらえて、それでもなおこらえきれなくて表に出てしまうこの表情。


オムレツの思い出
・「そろそろ幼なじみから彼氏彼女に転職したい」「………ご免…」2秒で終わるラブコメ、ではなかった。
・この叔母は確かに惹かれるだろうなぁ。
・「未亡人が出した真っ赤なゼリーをチュルチュルと食った」という文章のどこに変態性を感じたのか。もしわたしの予想が当たっていたとしたら、それを連想できるコイツらの方がよっぽど変態だ。
・「あのっ僕は」「卓朗叔父さん以上に衿子さんを精神的に支える人間になりたいです」「…………ありがとう …嬉しいよ」「文人君があと10歳大人だったら」「もっと嬉しかったろうね」冒頭の『ご免』とここの『ありがとう』は同じなんですよね。
・そうかそうか、バターの匂いだったか。そら「……吐きそう」にもなるわな。克服できる日は来るのか。


彼女実験
・あー。白衣女子萌え。なんか今まで大脳を酷使して文章書いてきたのですが、ちょっとホッとしたり。
・「正気にては大義ならずとは誰の言葉だったかしら」『大業』です黒咲先生。で、葉隠です。
・実験はやってみることに意義がある。そして、この『実験』は『恋愛』に置き換えられる。
・近づいて、拒まれて、遠ざかって。今回のお話はアプローチの仕方によってはもしかしたら、と思ってしまう分余計に切なくなりました。
・「勝手にはじめて」「勝手に終わらせて…」でも、もしかしたら恋愛とはそもそもそういうものなのかも知れない、そうあるべきものなのかも知れない。
・「ごめんなさい…」謝ることで、終わらせて、また始めることが出来る。


ひたひた
・セリフが無いのに、読み手の脳裏に自然と会話が浮かんでくる。ツルケン流っすなぁ。
・特に家の前でのやりとりは2パターンくらい瞬時に出てきました。こういうアクティブな女性キャラの魅力を表情と動きとで何よりも描写するのもツルケン流。
・女性の方が乗り気だったのに、家に入れずに返した男の事情も色々勘ぐると愉快です。
・むくれながらも大胆に仕掛けて行く動きを猫視点で追うと淫靡というよりユーモラス。
・満足する一人と一匹。寝付けない一人。


あまあま第7話
・バレンタインデーのお話。
・「私達には今更でしょう?」さめてるなぁ。
・チャリの後ろは指定席。頑張れ犬型人間。
・好きな人からもらえたら、コンビニのチョコだって、カカオの実そのままだって宝物ですよ。
・「よく見てるな…」女子の観察眼は同性にも異性にも鋭い。
・手作りにするから「来年からはもう買わない」とは、良いツンデレをいただいた。

あまあま第8話
・そしてこっちはホワイトデー。「忘れてたー」アカン。
・お返しは悩みますよねぇ。これについては色々ネタを抱えてますが、せっかくなので自分の小説で使うつもりです。
・美咲も忘れてたのか。いや、美咲のことだから忘れてなかったのに忘れてたことにしてる可能性も。
・「誰かが決めた日じゃなくても」「私たちはいつでも一緒できるんだから」「私はそれで良いと思う」いい女だなぁ。高校生なのにこんな事言われたら一生尻に敷かれるの確定。
・同じクラスになった方が大変だよな。隠してると特に。ガンガレ2人とも。


14歳の恋第10話
・相手が余裕のある態度だと余裕のなくなる長井君。
・そして、その余裕の無さが分かっていれば、自分は余裕を持って接せられるというのは、やっぱり大人なんだと思う。
・「顔に出やすいんじゃね?」自覚無かったのか長井。
・「あー」「やべ」「日野原先生の気持ち分かるわ」こうして包囲網は完成してしまう。御愁傷様。


14歳の恋第11話
・オクラホマミキサーの喜劇と悲劇。まーねー、わたしの中学のときもこんなんでしたわ。一人だけ、しっかり手を握って来た女子がいましたけどね。
・堂々と手を繋げる喜びと、それが期待はずれになる悲しみと。その根底にあるおそれと気恥ずかしさには自分自身覚えがあるだけに、この現象につっこむ資格もありませんが、すでに14歳掛ける2を通り越して久しいおっさんとしては『お前ら勿体ないことしてるんだぞ』と言いたくなります。
・2人きりでやり直し。いつまでも、いつまでも。音楽はエンドレスで、胸の高鳴りと、頬の熱さと。キスよりもうらやましい宝石の時間。

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コミック乱四月号 感想

浮世艶草子
・天狗面に卑猥なものを感じるのはどうしたもんでしょうか。大昔にそんな小説を読んでしまったからでしょうか。
・というわけで今回は松田の旦那久々の登場。この名コンビの絶妙な距離感が好みです。
・神隠しがさらうのみで不埒な真似に及んでいないのは不幸中の幸い。
・「母親の重でございます」母親だか娘だか分からない人が。
・しかし、これまでの例とは違い、無惨なことに。
・貞満屋の読みどおり、3日後に再び天狗が。天狗面つけてまぐわってるところはどうにも昔のブルーフィルムのようでした。
・うなじを見て相手の年齢を推し量るところはさすが腕っこき。
・連れ子に折檻した挙句1人寝が寂しくて魚屋と懇ろに、か。悲しい結末です。
・お島、最後の最後で爆弾発言。悲しい事件の最後が微笑ましくて救われました。


剣客商売
・今回は小兵衛先生の古い門人吉村弥惣治が登場。
・「浅蜊の佃煮のような顔をしているが……」「先ず、わしが弟子の中ではわしに恥をかかせぬ奴よ」一度でいいからこういうことを言われてみたいものです。
・悩みを抱えているらしい弥惣治を見て、大治郎は父の元へ。夢心地での膝枕から落とされておかんむりの小兵衛先生。
・主の見栄の張り合いから、命懸けの勝負をする羽目に。なんとも迷惑なことですが、これも武士…と思ったのですが、家を潰すような賭けまでするとは、これは明らかに暴走というものです。
・飯の描写が凄くうまそうです。よく知った食材の場合はいいのですが、馴染みの無さそうなものをうまそうに見せるにはどうしたら…とか色々現在修行中なので勉強になります。
・「二度とお前をかまってやれなくなるぞ……」「困りますよう」この夫婦と来たら朝っぱらから。
・思わぬところから事の真相を知る小兵衛先生。人脈というものはありがたいものです。
・主の賭け好きは家来にも伝染しているようで。こういうのも『家風』というのでしょう。
・しかし、困り者の殿様にはしっかり者の家老あり。うまいこと舌先三寸丸め込んで賭けものを差し替え、最悪の事態を避けることには成功。しかし、己が身の上と、戦う相手とにのしかかった重みに悩む剣士2人には思い至らぬどころか結局賭けにするか。
・いざ、勝負というところで、乱心ものを装った秋山父子乱入。この手があったか。にしても、メイクもよく出来てますな。
・薪ざっぽうを振るって軒並みぶっ倒すところは痛快至極。
・仲良く恥をさらさせて、無かったことにする。お見事。
・「それにしてもこの着物は実にひどいもので…」「三冬さんとおはるが苦心の作じゃ」まったく、遊び心を持った夫もしくは舅を持つと苦労しますな。


風雲児たち幕末編
・桜田門の銃声。
・ああ、名門井伊家も概ね渡り中間だった、と。このころは一部の例外を除いてどの藩もそんな感じだったようですね。別に大老だったからと言って藩財政に格別の余裕があったわけでもないでしょうし、井伊家だけが例外ということも無かったでしょうね。
・結果、20に満たぬ人数対15名というほぼ互角の勝負が開幕。しかし、肝心の井伊直弼は銃弾に腰骨を砕かれ身動きが取れぬ状態。
・襲撃側も迎撃側も初の実戦。顔を見知った同士でも同士討ちが行なわれる等、当然のように相当に混乱してます。
・「しかしお駕籠は絶対一人で守れない」なのに大名行列が駕籠だったという時点で武士の行列としては間違ってる気がします。
・生き残ってはいるものの、戦意喪失した人間は戦力にはならない。士気をくじくことと、日頃から士気を高めておくことの重要性がよく分かります。
・赤門開かず。護衛の奮闘虚しく、井伊の首は落ちた。赤鬼、墜つ。

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後藤沙緒里のいろはにほへと第179回「納豆トーク?」感想

・「今年はですね、閏年だから29日まであるんです」「1日多いと得した気分になったりする?」すいません。そういうイベント心を失ってしまったのか、ワクワクしません。でも年度末に1日余計にあるとちょっと助かるかも。
・「その日お誕生日の方もいらっしゃるから、やっぱり良いのではないですか?」著名人ですと赤川次郎さんと飯島直子さんが2月29日生まれですね。
・「そっか。給料日が1日遠のく!なんていう意見もあったりして」切実。
・「目撃!となりのさおりちゃん」「漫画喫茶でさおりんを見ました。さおりんは漫画を読まずに寝ていました」これ、私やったことあります。漫喫は昼寝場所としてもなかなか優秀です。
・「『漫画喫茶だからって漫画を読むとは限らない。私はここにシャワーを浴びにきているのだ』ということでした。最近の漫画喫茶事情は色々なのですね」「あなたの目撃した後藤沙緒里は…人違いです」「あたしは多分行ったことがない」「記憶が無いです」声優さんでどなたかが、収録の合間に漫画喫茶に行ってオーディション関係の漫画を読んだり、というお話をされていたような…。すいません、記憶があやふやです。
・「シャワーなんてあるんですか?」「すごいですね。お泊まりできちゃうんですね」「漫画喫茶じゃない、そんなの。ホテルじゃないですか」鍵がかからない上に外からよく見える状態なのでホテルではないですねぇ。昼寝にはいいですけど、マジ寝にはちょっとキツいかも。
・「やだ、なんかやだ。漫画喫茶なのにシャワーをあびにきているのだ、とか言う人ヤだ」というか、シャワー浴びるだけだったら銭湯に行った方が。
・「私、ないので一度くらいは行ってみたいですね。なかなか行かないですけど」「『終電逃した人が、泊まってシャワーあびたり』」「そういう使い方ですか」何しろ安いですからね、漫画喫茶。
・「やっぱりヤダ。お風呂上がりなんて見られたくないです。女子だもん」「見られる状態ですよね」すいません。さおりんの爪のあかをうちの妻に煎じて飲ませたいのですが。
・「どんな設備なんだろう。どうしよう、気になって来た。行ってみたくなっちゃった」「凄いですよね」「今度行きましょうよ。漫画喫茶ロケ?」「ここがシャワールームです」番組で実際にシャワーを使ってみたりとか…いやいやいや、番組の方向性が変わってしまいます。
・「行ってみたくなってしまった」もしおいでになられたらその際はこちらで感想などをお聞かせください。
・「卵かけごはんを食べるさおりんを見ました」「卵かけごはんにさらに納豆をかける、これが日本の朝ごはん、ともりもり食べていました」「あなたが目撃した後藤沙緒里は…本人?」何で疑問形。
・「これよく分からないんですけどどういうことですか?」「納豆にたまご入れりゃいいじゃないかと思ったんですけど」ご飯と卵がよく混ざった状態に、さらに納豆を投下するということだと思います。
・「あたしは、納豆には卵を入れる派です」「たまご、御ネギです。あとお醤油。たまにめんつゆ、たまにポン酢」「バリエーションがありますね」「夏だと、山芋、おねぎ、ゆかり」「ポン酢」色々工夫なさってますね。納豆は健康によろしいので私も適量を適宜食べる生活を心がけていました。昔は。
・「『納豆、むしろ好きじゃない』」「手前に居る女子が好きじゃないって」納豆は好き嫌いが別れますから。私は大好物ですが妻が非常に苦手なので家では食べないようにしております。
・「さっきから顔がなんか変だと思って、じゃない、表情が思わしくない」さおりんのさりげない配慮。
・「におい?」「くちゃいですか?」匂いが気になる人は辛子を多めに入れてみて下さい。
・「苦い?苦いって初めて聞きました」「なんか悪いの食べたんじゃない?」おかめ納豆のQ&Aページに『賞味期限を過ぎると苦くなる』という意味のことが書いてありました。賞味期限の切れたものは食べたことが無いので『苦くなる』というのは初めて知りました。
・「『納豆って腐るんですか?』」「腐ると糸引かなくなるんですって」そのようですね。
・「多分本人っていうことでいいんじゃないすか」認定いただきました。

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百姓貴族2巻 感想

・超実録農業漫画、2冊目でございます。
・クリスマスツリーは自家製ですかそうですか。見事な自給自足理論。当然モミの木じゃなくてエゾマツだったりするわけですが。最後は薪になる無駄の無い仕様。
・あと、鶏肉のプレゼントはありがたいけどホラーなのはちょっとトラウマですね。これは慣れちゃうのもいかがなものかと。
・北海道の冬備えは本当に戦闘態勢ですね。あと、カマクラの作り方が超合理的すぎます。農作業機器って便利ですね。
・しかし、寒さの規模が本当に桁違いすぎてどうにもこうにも。濡れた手で鉄板触ると即張り付くとか怖過ぎます。
・十勝開拓史は凄絶の一語です。「開墾のはじめは豚とひとつ鍋」とは…。
・これでもかこれでもかと襲いかかってくる天災は、シミュレーションゲームだったらリセットボタンものですが、実人生だったらそうはいきませんからなぁ。読んでて一番怖いのはバッタでした。
・そして、現代においても開墾は困難な作業のようで…。でも2ヘクタールという単位のデカさがさすが北海道。
・荒川先生のご先祖様は田中正造先生の同志でしたか。私は小学校6年の時に田中先生の伝記を読んだのですが、あの中におられたのでしょうか。
・逮捕状出て北に逃げたとか、さすがの生命力。
・せっかく稼いだバイト代が大特取得費用へ…。「上司の命令は絶対です」じゃあしょうがない。
・教習所で「乗ってましたね?」って言われちゃうのも農家の子弟ならではですな。
・「農家の常識は社会の非常識」しかも北海道だしなぁ。
・トラクターというか、大特全般が巻き込まれると危険な乗り物で、迂闊に近づくと大事故にも繋がりかねないそうですね。
・牛の繁殖は男の悲哀が如実に描かれていて、思わずホロリと。あと、牛とは言えハーレムの実態は夢を奪いますなぁ。
・人工授精はもっと夢を奪うわぁ。「産業動物」という言葉がピッタリ来ます。まぁ、なまっちょろいこと言ってる場合じゃないのは口蹄疫の時に色々と学ばせていただきました…。いつでもお肉をいただくときは感謝とともに。
・初乳って売れないんですか。本当に色々勉強になる漫画です。
・規格外のお話は悲しいですね。畑で実物を見たことの無い方々も多いのでしょうね。「クズイモ」っていう表現からしてもう…。
・人間計量器のおばちゃんカッコいいです。
・「もうごはん好き嫌いしません!」「なんでも残さず食べます!!」最後はこうなりますね、やっぱり。
・日本分割統治計画って、またダークな話題が。こうならなくてホントに良かったですよね。北海道の方には笑えない内容でしょうねぇ。
・ゴルビーとエリツィンが懐かしい。あと、ウラジミール大帝は誰がお描きになってもキャラがぶれないなぁ。
・ハリウッド映画を地で行く男。それが荒川父。こりゃファンも増えるというものです。
・「ひどいネタしか無いですよ?」「読者さんはそういうのが読みたいんです!!」ええまあその通りです。
・理不尽で大雑把でパワフルで、でも一本不思議なスジの通ったオヤジさんに乾杯。まぁ、自分の親がこうだったらこんな悠長なことを言っていられないんでしょうけど。あ、でもうちの母方の実家が元農家だったんですが、おんぶヒモで括りつけるのは実績あるそうです。
・牛の角切りは読むだに痛いお話でした。傷痕をコテで焼いたら犬猫大集結というところはちょっと微笑ましかったですけど。「あなたたち!!これは焼き肉じゃなくってよ!!」という言葉も彼等には届かず。
・農家の友、犬。バカだったり不憫だったりお役立ちだったり。ねずみ狩りは犬もやってくれるんですね。
・水が変われば牛乳の味が変わるのも当然ですね。人間も吸血鬼に毎日血を吸われる人は食べた物によって血の味が違って『む?今日は餃子を食いおったな?』とか言われるんでしょうか。
・牛乳を飲んで感動する息子さんと旦那さん。何気に初登場。
・牛乳マジックに関しては、『基準値っていうのはそういうものだよなぁ』としか言えません。あまり検査を厳密にやりすぎるとコストが上がって大変なコトになりますし。
・大自然と共存共栄が農家の基本。そして、害のあるモノは排除。これも基本。
・牛をペットにするのは『その発想は無かった』の一語です。飼いたいと思ったことは無いのですが、出来てもやらないと思います。牛と添い寝はちょっと憧れますけど、命懸けなのは…。
・「骨まで焼いてよ!!」「つーかあああいいにおい!!」ペット斎場で手に負えるレベルなんでしょうか牛の大きさって。

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「ぼくときみのたからもの」をラノベ風にリライトver1.3

 変更点
 シーン追加しました。これで少しでもヒロインの魅力が表現できてるといいんですけども…。


   ぼくときみのたからもの

『♪いつもどおりのある日の事~ 君は突然立ち上がり言った~』
巨大スクリーンには、エンディングテーマをバックに、満天の星空が映し出されている。
 スタッフロールが流れていくシーンを、5人の男女が見つめている。
『♪いつからだろう~ 君の事を~』
「いい最終回だったな~」
「もうええっちゅうの。何度めだよそのボケは。これ見るたびに言ってんじゃん」
静寂を破って、どうしてもこらえきれなかった、という風情で感嘆する太身の男に、隣に座っていた痩身の男がツッコミを入れる。凸凹コンビなこの2人のやりとりは、いつ見ても漫才師のようだ、と東瀬(あずせ)幸彦は思った。あいつらは漫画研究会じゃなくて漫才研究会だ、と評した者が居るのもむべなるかな。
 この2人、成本誠と河本明は高校の入学式で出会って意気投合して以来のコンビなので結成からまだ半年も経っていないはずなのだが、とてもそうは思えない。ちなみに大きい方が明で小さい方が誠である。
「あなたたち、余韻台無し」
と、冷たく静かに、だがしっかりと響く声がした。
『♪どうかお願い~驚かないで~聞いてよ~』
「あ、すんません部長。あと3回分ありますけどキリがいいからここで休憩にしていいですか?」
『火憐だぜ!』『月火だよ!』
「そうね、一旦止めて頂戴」
部長こと早川美都(みさと)が眼鏡位置を直しながらそう言うと、すばやく動いてリモコンを構える幸彦。
『予告編クイズ!』しかし、まだ止めない。タイミングを見計らうように画面を見据えている。
「にしても、あっちぃなぁ~」
「しょうがねーじゃん。節電節電」
凸凹コンビ、成本誠と河本明はそう言いながら扇子を動かす手を休めない。
『次回!つばさキャット 其ノ参!』『其ノ参とそもさんって似てる』ここで一時停止ボタンを押す。凸凹コンビによって手早くカーテンが開けられ、光とともにわずかだが室内に風が通った。臨海部特有の、潮の匂いを含んだ風だ。こういう時だけは、この部屋が4階にあることを感謝したくなる。
「部長がいなかったら今年はこうやって視聴覚室を使わせてもらえなかったかも知れなかったんだから、感謝し」
「宝物、かぁ」
それまで沈黙を保っていた茜浜和美が、急に口を開いて幸彦の話をぶった切った。しかし、切れ長の眼に宿る強い光を見ると抗議をする気にはなれない。
「見せてあげたい宝物…ねぇ」
おもむろに美都の方を向くなり
「部長はそういうのってなんかありますか?」
とたずねる。
「そうね。相手がドン引きしないって誓約するなら見せてあげてもいい秘蔵のハードBLコレクションとかはあるけど」
「やめてください。てかそういうことじゃないって分かって言ってますよね部長」
心底げんなりした顔ですがるように。おそらく、内容を想像してしまったのだろう。
「ええ、分かってるわ」
ごく小さく口元だけで笑う美都を見て、聞くんじゃなかった、と小さく口の中だけでつぶやく。
「そういうお前はどうなんだ?茜浜」
「あたし、あるわよ」
幸彦の問いに、即答が返ってきた。正直なところ『知りたいの?気になるの?』とじらされるだろう、くらいにしか思っていなかったので、せっかく放られたうまくボールを投げ返す事が出来ない。
「へぇ」
と言うのが精一杯だった。誰がどう見て間抜け過ぎるとしか言いようがない。
「……何よ」
「いや、茜浜が、ねぇ…」
「あたしがそういうロマンチシズムとは無縁だと?」
口の端だけで笑う仕草が良くない予兆であることは、この1年半弱で存分に思い知っているため、素直に引くことにする。
「すまん。失言だった」
「見たい?」
しかし、和美はそれ以上深追いしてこなかった。
「へ?」
その反応と言葉の内容とに、二重に意表をつかれ、思わずほうけた顔になる。
「見てみたいかって聞いてるの」
「……正直興味は、あるな。うん」
「ほほぅ」
ニヤニヤという音が聞こえて来そうないたずらっぽい笑顔に心底を見透かされたようでうっかり目をそらしてしまう。
 それが和美のニヤニヤを余計に助長することになるのだが。
「茜浜さん、見せてもらってもいいかしら?」
「もちろんです」
「部長は今日何時くらいまで大丈夫ですか?」
「別に何時まででも」
聞きながら、シチュエーションが違ったら若干ドキッとするセリフかもな、と思ったりする。
「で、あんたたちはどうする?」
和美はこの場にいた残りの2人にも声を掛ける。
「あ。俺、この後はバイトッス」
「同じく」
オタクをするにも金がかかるから。嫁のためにはありとあらゆる手段で!と気勢をあげて彼等は勤労青少年の顔つきになる。
「じゃあ計3人ね」
「いや、俺まだ行くかどうか答えてないけど」
「行くんでしょ?」
「はい、行きます」
我ながら無駄な抵抗だったな、と苦笑する。
「今が2時半で…あと3話ね。ちょうどいいわ。化を全部見たら行きましょう」
「じゃ、休憩は終わりってことで続きに行きましょうか。東瀬くん、お願い」
「はいはい。了解です」
幸彦は手元のリモコンを再度構えた。カーテンが閉まってから、再生ボタンを押す。
 漫研の夏恒例行事、視聴覚室を占領してのアニメ鑑賞マラソンは『化物語』の第十二話が終わり、間もなく十三話が始まろうとしていた。初日のこの日はコミケ終了の翌々日ということもあってか、事前に参加表明をしていた何名かの姿がない。結果、3年生で部長の美都、2年生では幸彦と和美、1年生は誠と明の計5人しかいない。
 そう言えば去年も初日は集まりが悪かったな、と幸彦は去年の夏を振り返る。まだあの時は茜浜は入部してなくて、凸凹コンビも勿論入学前だからいなくて。
 女子と一緒に、というか他人と見るにはいささか気まずいオープニングだからか、目は画面を追いつつもそんなことが脳裏に巡っていた。
 もともと水泳部員だった茜浜和美が漫研に移籍する事になったのには、若干経緯がある。
 1年生の9月、学年対抗水泳大会の直前に和美は気胸を患い、それをきっかけで水泳部を退部した。退部後日々鬱々としていた和美に絡まれたときの事を、幸彦は忘れる事が出来ない。
「あんた一体何でそんなに楽しそうなの?」
廊下で出くわすなり、こうだった。
我ながらさぞやへらへらした顔をしていたのだろう、と今でなら分かる。しかし、見知らぬ人間からやさぐれた目つきで突然こんな言葉を突きつけられた当時は、口をぱくぱくとさせることしかできなかった。
「バカじゃないの?」
「あ、あ…うん。そうかも知れない」
「なに?なにしてんの?」
「いや、俺はこれから漫研の部室に…」
「漫研?漫研ってそんなに楽しいところなの?じゃ、あたしも行ってみる。連れて行きなさい」
否応無く、時代劇や刑事物のドラマで引っ立てられる下手人もかくや、というノリでキリキリと漫研の部室に案内させられた。
 出会い方としては、ほぼ最悪と言って良いだろう。こんなきっかけながら和美は漫研に入部し、居着き、そして現在こうして一緒にアニメ鑑賞マラソンもしている。もっとも、あの時のことがあるので、今でもどんな事情であれ和美から睨まれると何も言えず何も出来ず立ちすくむしかないのだが。
 後日、入部から少しして、和美から釈明があった。
 水泳大会の出番直前に急に息苦しくなって。なんとか誤摩化してがんばろうと思ったけどやっぱりダメで。大会が中止になるような大騒ぎになった挙句病院に運ばれてレントゲン撮影で発見されたら即入院で絶対安静。そんな風に、経緯に関して努めて言葉を簡素に、そして冷静に話そうとする和美だったが、その堤防は最後の最後で決壊してしまった。
「こんな、針の先くらいの穴で、これまでずっとやってきたことが終わっちゃって」
親指と人差し指の指先を合わせて作った隙間は、小さければ小さいほどにその無念を大きくする。
「寝すぎて背中や尾てい骨が痛くなったのって、初めてだった」
言いながら、その感触を思い出したようで、わずかにその部分をさすった。
「病院から退院する時に、一ヶ月くらい安静にしてたら、また水泳に戻っても良いよって言われたんだけど。一度だけプールに戻ってみたら、あれだけ楽しかった水の中が、恐怖の対象でしかなくて」
若干、声が震えていたかも知れない。それは絞り出すようでもあり、溢れ出すようでもあり。
「もう自分の人生にこれからずっと楽しい事なんてないんじゃないかって思ってたら、何が楽しいのか知らないけど何の悩みも無さげに気の抜けた顔をしている人間を見つけちゃって」
しかし、その様子を直視できなかった幸彦には和美の表情を思い出す事も出来ない。
「理不尽だったとは思うけど、あの時はどうすることもできなかったの。ごめんね」
「うん。えっとな、茜浜。俺は気にしてないし、できれば茜浜にも気にしないで欲しい」
相手の顔を見て話すというただそれだけのことに、とても勇気が必要だった。同じ事を同じ時にやれ、と言われて出来る自信など欠片もない。それでも。幸彦は和美から目をそらさず。
「役に立てたんなら、それでいいよ」
もっと気のきいたことが言えるようになりたいと思いながら、そう言うのが精一杯だった。
 そして未だに、気のきいたことが言えるようにはなっていない。


   ☆


「あの十二話があったから、エンディングテーマをフルで聞いた時はビックリしたなぁ」
「勇気を出して告白する歌だと思ったら…ね」
全話見終えて、校舎を後にした時には時刻は4時半を回っていた。まだまだ夏の陽射しは強烈なまま。そこに蝉の鳴き声が追い討ちをかけてくる。立っているだけで汗が流れるほどで、むしろ歩いている方が少しでも身の回りの空気が動く分、涼しい。
 美都はショートカットな上に無表情気味なのでまだしも涼しげだったが、肩までかかる長さの和美は余計に暑そうに見えた。
 埋め立て地特有のだだっ広い歩道に3人並んで歩く。このあたりは、その横を人や自転車が通り抜けたりしても、避ける必要がないくらいに広い。それでも幸彦は車道側を歩く。隣に和美、一番内側に美都。
「で、さらにあのあとの展開がまた切なくてなぁ…」
「あたしは羽川派だから、余計にあの展開キツかった」
「ああ、羽川派なんだ」
「うん。確かにガハラさんとのカップリングはお似合いだとは思うんだけど、あの報われなさは…」
「まぁ、切ない展開だったけどさぁ。阿良々木暦はあの場合どうしたら良かったのかって考えると、俺は何も言えなくなる」
まさか二股なんてあの2人相手に通用しないだろうし、とまでは言わない。そういう言葉を口にする行為が『迂闊』の名に値する事はちゃんと学んでいる。
「その辺は思い入れするキャラの違いかもねー」
「いっそ、同人で描いてみたらどうだ?自分なりの羽川エンド」
「いや、羽川エンドってことはひたぎクラブ前に羽川とくっつくパターンでしょ?いやいやいや」
ないわー、という顔で手を左右に振る。
「単に切ないってだけ。物語としては納得してても、まだどうしても心がついていかないと言うか…。えっと。すいません。部長は誰派ですか?」
「メメ派」
「ああ、そうですか…」
話題を振った事を、一瞬だけ後悔した。
「忍野メメと阿良々木暦の関係性は弟子と師匠であり、歳の離れた友人であり、そしてパートナーでもある。そこが実に興味深い」
あくまで静かに、だが滔々と語る美都。
「そういう意味でしたか」
 所謂腐的な意味にとっていたため、拍子抜けする幸彦。
「そうよ。もちろん、腐女子的なアプローチもしていなくはないのだけれど」
「いやいやいや、そっちはちょっと」
「そう」
「ええっと、話を戻してもいいですか?」
ごくわずかだが残念そうな表情を見せる美都に、和美が若干食い気味に許可を求めた。
「何の話だっけ」
「戻すと言うか、さっきの続きで聞こうと思ってたんだけど。羽川エンドの前提として先に羽川翼のほうが告白するとして、その場合普通に阿良々木暦と付き合ってたかな?」
「どうかなぁ。阿良々木暦っていうキャラクターは羽川翼を神格化してた部分があると、俺は思ってるんだけど、まぁ、率直に言ってそういう相手とは付き合えない気がするなぁ」
「そういうもんなの?」
「少なくとも阿良々木暦っていうキャラはそうだと解釈してる。んで、これはもう間違ってる解釈かも知れないと思って敢えて言うんだけども」
「何?」
「神格化した存在が自分のところまでおりてきてくれるっていうのは嬉しい反面、やめてくれっていう気持ちもあるんじゃないかなぁ」
「本編ではいい笑顔で『誇っていいんだな』とか言ってたけど」
「もちろん、それも嘘じゃないだろう。でも、どこかで下から崇めて喜んでる部分があった気がするんだよなぁ」
「もうその辺は完全に受け手側によって解釈が分かれるレベルのお話ね」
うんうんとうなずいてから
「ちなみに私は別の理由で付き合わなかったと思うわ」
と、切り出した。
「おお、傾聴傾聴」
「だって、阿良々木暦にとって羽川翼は戦場ヶ原ひたぎに出会う前の時点では校内唯一の友人だったんでしょう。彼女にしてしまったら友人が存在しなくなるじゃない。阿良々木暦っていうキャラクターは、多分羽川翼の友人というポジションに心地よさを感じていたと思うの」
「ほほう」
「どう?」
「実に面白いと思う…っと、もうすぐ駅だけど、電車には乗らないのか?」
話に集中していて気付くのが遅れたが、視界にはとっくに鉄道の高架橋が見えていた。
「乗らない」
「じゃ、バスには乗るのか?」
「乗ってもいいけど、今日は乗らないで行きたい」
ガハラさんよろしく現地につくまでは秘密主義のようで、あんまり情報量が増えない。もしかしたら盛り上がっていたところで話をぶった切った事が機嫌を損ねたのかも知れない、ということにはこの時思い至らなかった。
 そうこうするうちに、いつも乗り降りしている最寄り駅を通り過ぎる。これまでより歩道に人が増えているため、3列横隊を解除して1列縦隊に隊列変更する。当然先頭は道案内役の和美で、中間に美都、殿(しんがり)が幸彦というパーティ構成となった。
 駅ビルを過ぎて、道すがら右手には巨大展示場、左手にはシティホテル群がそれぞれ強い存在感を示している。
 しかし、和美はそのまま直進する。
「ほら、もうすぐ見えてくる」
歩道橋の向こうにある施設は、1つしか無い。
「ここって、アレだ。野球場、だよな?」
「そうよ。海風と鴎のスタジアムよ」
このあたりは埋め立て地であるためか、他ではあまり見られなくなりつつある震災の爪痕を歩道のあちこちに残しており、さらには夕暮れ時ということもあって若干歩きづらい。
「ここに、あたしの宝物があるの」
「へぇ~」
感心するようなそうでないような、曖昧な感嘆。
「嫌なら別にいいのよ?」
「別に嫌じゃない。野球自体は、昔割と見てたし。せっかく来たんだから、久々に見てみたい」
素っ気なく言われてしまうと、幸彦は自分でもビックリするくらい早口で返した。
「部長はどうしますか?」
「私も異存はないわ」
「じゃあ3枚用意してきますから、ここで待っててください」
言うなり、肩まである髪をゆらして駆け出して行く和美。混雑しているのに、巧みにすり抜けていくからかそのスピードはほとんど落ちない。
「なんか、意外ですね」
「あら、そう?」
「部長は意外じゃないんですか?」
「どこかなんて想像もできなかったんだもの。意外という言葉には当たらないわ」
「ああ、なるほど」
静かにそう言われてしまうと、どう言葉を継いでいいのか分からず、幸彦はやや気まずく沈黙する。
 美都はそれを見ると、カバンから本を取り出して、ページをめくる。
 手持ち無沙汰な幸彦は特にすることも無いので、何とはなしに周囲を見渡してみると、自分の知っている球場の光景とはだいぶ異なることに気がついた。屋台だか出店だかがたくさん出ているのはまぁいいとして。関係者入口みたいなところの真ん前にはなぜか舞台がしつらえられていて、その上で歌ったり踊ったりしている一団がいる。右手には2階建てとおぼしき建物があって、どうやらグッズショップらしいのだがなぜか『ミュージアム』と書いてあるのが謎だった。
「そう言や、野球場に来るのなんて、何年ぶりだろう」
誰に言うでもなく、ぽつりとつぶやく。思い返せば、昔はそこそこ見ていた方だったはずだ。ただ、徐々に興味が漫画やアニメにシフトして行き、そちらに意識が向かなくなったというだけのことで、それはある種自然なことだと思っていた。
「宝物、ねぇ…」
今ひとつ意味を掴みかね、口の中だけでそっと言葉にしたとき、和美が切符売り場から駆けて来るのが見えた。
「お待たせ!」
美都は素早く本をしまい
「お疲れさま。茜浜さん、いくら?」
とたずねる。
「いいんです。これ、実はタダ券使ったんです」
言いながら、内野自由席のチケットを見せる。
「お父さんがファンクラブに入ってて、特典でもらえるんです。でもお父さんは『俺は内野じゃ見ないから』ってあたしにくれて。で、もらったものの、あたしもずっと使う機会がなくて財布の中でほったらかしにしてたんです。だから気にしないでください」
「でも、それに甘えるのも悪いから、なんかおごるよ」
「言ったね?」
幸彦の提案に、和美の瞳がキラリと光ったような気がした。そしてそれは、気のせいではなかった。


  ☆


 入場口から階段を上って上って、ひたすら上って一番上まで。ようやくたどり着いた席からは、スコアボードがちょうど真っ正面に見えた。ライトスタンドやその近くの内野席はみっちりと満員だったが、この辺は若干のゆとりがある。3人分くらいの空きはすぐに見つかり、無事に腰をおろすことができた。
 美都、和美の順に座り、両手に食べ物を大量に抱えた幸彦が通路側に陣取った。ここに上がって来るまで、和美は3つの店で食べ物を買いこんだにも関わらず、なおも「野球観戦って、お腹が空くのよねぇ」と言っていたので追加のご用命がくだることに備えた為だ。
 まずは袋からあれこれと取り出して各人希望のものを配る。
「あ。あたしそのカツサンドね」
「はいはい。部長はどれでしたっけ?」
「コーヒーとパエリアを」
幸彦は2人に手渡した後、自分のカレーライスを取り出す。
 ひととおり行き渡ると、改めて眼下に広がる光景を見渡す余裕ができる。緑色のグラウンドでは、ホームチームの選手達が練習をしている。それがサークルライン照明によって浮かび上がると、日常から切り離された空間のようで幻想的ですらある。
「確かにいい眺めではあるな」
「そうね。ちょっと新鮮」
2人がそういうと、和美はやや照れくさそうに
「別に、そんなに熱心なファンって訳じゃないの。受験の年にちょうどチーム自体もごたごたしちゃってたりしてて、今はちょっと離れてる感じかな」
と言い、少しの間を空けてから言葉を継いだ。
「でも、今日あのシーンを見て思い出したの」
「知ってる?このチーム、何年か前に無くなりかけたことがあるの」
「えーと。アレか。合併騒動だかなにか」
小学生の頃の話なので、幸彦は若干あやふやな記憶を掘り起こすことになった。
「そう。うちはお父さんが熱心なファンでね。小さい頃からここによく連れてこられたの。あのニュースが流れた時は、もう大変だったわ。お父さんが家で大騒ぎしちゃって」
和美が若干目を細めた。
「あの時は、最初関西のチーム同士が合併するって話だったのに、そのあとチーム数がどうとかで、このチームが九州のチームと合併して移転だとか、1リーグ制に変更とか、言葉の意味はそのころのあたしにはよく分からなかったんだけど、私、そのとき生まれて初めて見たの。お父さんが、と言うより、大の大人が大声で泣くところを」
そう言う和美の瞳も若干潤んでいたように、幸彦には見えた。
「あたしはそのとき、お父さん泣かないでって一生懸命に言う事しかできなかったんだけど、色々あって結局ここのチームは残ったの」
「残って、その次の年にチームが優勝してね。どうやってチケットをとったのか日本シリーズにも家族みんなでここに来て、そのときに、和美、お前のおかげだって、お父さんが言ったの。おかしいよね。あたし、別に何にもしてないのにね」
「でも、この場所でお父さんに肩車されながらそう言われたら、なんだかこの眺めがとっても大切なものに思えて来て」
「以来、この場所とこの景色はあたしの宝物なのだ」


   ☆


 帰り道。球場前の歩道橋を越えると、ようやく人ごみもまばらになってきた。3人は長蛇の列になっていたバスをあきらめて、駅を目指して歩いている。
「どうだった?」
「いや、面白かったよ。ホントに。まぁ、なんだかんだ言っても、いい印象で帰れるのはやっぱりホームのチームが勝ったってのが大きいと思う。ホームだから、球場全体で喜ぶ感じになっててさ、なんか、ああ、こういうのいいなって思えたよ」
幸彦が珍しく大真面目な顔で言うものだから、和美は思わず噴き出しかけた。
「そうね。今度はもっと近くで見てみようかしら」
「え?部長、野球に興味が?」
「野球に、というか、あの選手達に。ああいう肉体のモーションを脳裏に刻んでおくことは創作活動にもきっとプラスになるわ」
若干、げんなりした顔になる幸彦と和美と。特に『肉体』というフレーズで何かを悟ってしまったために。
「まぁ、そういうジャンルで描いてる人達もいるみたいですけどねぇ」
ちょうど終わったばかりのコミケのカタログに、そんなジャンルのページがあったことを思い出してしまう。つくづく、人間はいらない記憶を選択して消去できない不便な生き物である。
「特に、私達の席から一番遠くに居た選手、あの人面白かったわ。まるでそこにボールが来るのが分かってるみたいに走り出して、当たり前みたいにジャンプしてボールを掴むところ、それこそまるでアニメか特撮みたいだった」
言いつつ、眼鏡をクイッと直す。
 センターを守っていた選手は野球という競技に詳しくない者ですら感嘆させるようなプレーを再三再四に渡って披露していた。フェンス際の大飛球も内外野の中間点ぎりぎりにふらふらと落ちそうな打球も明らかにレフトの守備範囲だろうという打球も、そうするのが当然であるかのようにグラブにおさめていた。
「あの人、確か打つ前に走り出してた事あったよな」
「何年ぶりとか言ってた割にはよく見てるじゃない」
「よく見てると言うか、目が引きつけられたんだよな。あんまりにも面白過ぎて」
そのプレーのあまりの見事さに、一度ならず相手チームのファンからも賞賛の拍手を受けていたほどだ。
「ま、ピッチャーでもなくバッターでもなく外野手が一番インパクトがあったってのもあの席ならではだったかもな」
「プレーそのものだったらまだいいのだけど、『応援が一番面白かった』なんて言われることだって珍しくないから」
「ま、確かにアレはインパクトあったな」
人の声が100メートル以上離れたところから押し寄せてきたことは強烈な印象として刻まれていた。耳に残るというより、脳に残る光景だった。
「それを言うなら、試合内容とは直接関係ないけど、食べ物もなかなかうまかったな」
「でしょう。でもいいチョイスしたわよ。あたしの知る限りで、ここで売ってるカレーライスの中じゃあれが一番おいしかったはず」
「あー、茜浜。お前、さっき、そんなに熱心なファンじゃないとか言ってたよな、確か」
「………だって、ヒかない?」
やや気まずそうに。おっかなびっくりな視線で、幸彦の表情をうかがう。
「別にヒかねぇよ。少なくとも、女子なのに女性キャラの萌えについて熱く語る方がよっぽどだと思うぞ」
「そんなん漫研の女子みんなやってるじゃない」
「だから、どっちもヒくようなことじゃない。俺にとっては、だけど」
 2つめの歩道橋を過ぎると、鉄道の高架橋が見えてくる。
「でも、最近ちょっと離れ気味だったってのはホント。だからチケットだって残ってた訳だし」
こういうのは誰とでもいいってもんじゃないし、と口の中だけで小さく小さくつぶやいてから、幸彦に目線を向ける。
「そうそう。東瀬くん?」
「ん?なんだ?」
「あなたの宝物も、もし良かったら教えてくれる?」
「……俺は至ってつまらん人間なので特に何もないんだけど」
一旦言葉を切って、空を見上げる。
「そうだな。今日のことが、きっと何年かしたら宝物になってるような気がするよ」


                             終わり

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これが噂の歯みがきか!

・「あたしの尻に突き立てるつもりか!」どういう思考回路してんだよ。
・5分間耐久歯みがきかー。なかなかいい事を考えつくな。さすが第一級変態紳士。
・この顔はヤバい。兄も妹も。
・うむ。ヤバいのは顔だけじゃなかった。己の仕掛けた策に溺れる阿良々木氏はいい追いつめられた方をしておいででした。
・「なにしてはるんどすか?」なんで京都弁。
・「「助かったぜ月火ちゃん。ありがとう!」」色々危なかった。実に危なかった。
・千枚通しですか月火さん。何に使うのかは説明しなくていいです。
・「延長戦に付き合ってやってもいいんだぜ」「再戦を申し込んじゃおっかな」で、クライマックスには千枚通しを持って来た月火ちゃんが無双するんですね。
・「少しだけ仲良くなった」ですか。思わず『ひたぎさんこっちです』って言いたくなるような仲の良さですな。
・エンドカード、ナイスシーン選択!ごちそうさまでした!

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Aパート終了

・火憐ちゃんのキャラが素敵におかしい。いい壊れっぷりです。と言うか、阿良々木兄妹の会話が全般ぶっ壊れております。「処女やる」「いるかぁ!」は最高です。
・神原スールデスカ。非公式ファンクラブデスカ。そういうモノが存在しても一切不思議はないんですが。
・話し合いでダメなら殴り合い。いっそ清々しい。
 

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