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明日は帰国日。1日をフルに使えるのは今日だけとなった。

 そろそろ毎年恒例基隆アタックを仕掛ける頃合いである。アタックと言いつつ、要は台北の北にある港町基隆まで名物のパイナップルケーキを買いに行くだけなのだが。

 そして。私がアタックをかけている間、妻はどうするのかとたずねたところ台湾の石鹸メーカーに『阿原』というブランドがあるのだが、淡水という街にその本店があるとのことで妻はそちらに行くと言う。

 ちょうどいいので互いに目的を果たした後に台北駅で合流しようということになった。

 私はホテルから歩いて5分の距離にある市政府バスターミナルから高速バスで基隆を目指す。毎年のことながら本数も多く速くて快適で安いとバスは鉄道に対してアドバンテージしかない。しかも今年乗った車両はUSB充電口まで備えていた。今回はiPad miniを使っているので、このありがたみが地味にわかるようになってきた。

 出発して程なく高速道路に乗ると、あとは基隆までノンストップでひたすら快走。この区間は眺めの良い車窓なのだが、ここ数日の疲れが抜けていないためか居眠りを始めてしまい、目が覚めた時にはもう基隆の街なかだった。

 降車場所は港の目の前なので、降り立つと急激に世界が変わる。視界に広がる船に血が沸き立つのを抑えきれない。遮るもののない直射日光の熱もなんのその、船の写真をガンガン撮っていく。首都の外港だけあって軍艦、漁船、客船と多種多様な船が場所を分け合って共存しているのが面白いので何度も来ているのに、来るたびにこうしてカメラを向けてしまう。
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 そうして身体がギブアップする寸前くらいまで熱心に動き回るが、ボーダーラインは踏み越さなかった。カメラをしまい、歩き出す。

 目指す李鵠餅店へは何度行っても一度間違うので、今では最初っから直接目指さず、地図のある夜市の入り口へ向かう習性が身についてしまった。遠回りをしてもそれほど所用時間が変わらないというのもあるが。

 無事到着したところ、店内は平日の午前中ということもあってか先客の姿はなかった。おかげで待ち時間なくゆったり購入。
 この時購入したのはパイナップルケーキを30個とイチゴケーキを30個。

 店を出ると、道向こうに『大正女僕(メイド)珈琲』という看板を見かけ、ちょっと惹かれたが、まだ営業時間外だったので看板を撮影するにとどめた。こんなところにもメイド喫茶の波が…というか大正って何。
 基隆には『昔の台湾を今に伝える港町』というイメージを持っていたのだが、着実にオタ化の波は押し寄せてきているということか。そのうち李鵠餅店の店員さんの制服がそっち寄りになったりするのだろうか…。

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 戸惑いを消化しきれないまま、李鵠餅店特有のピンク色をした派手な手提げ袋を手に台鉄基隆駅へ向かう。たどり着いて初めて、歴史ある古い駅舎が使用を停止しており現在台北よりの新駅舎へと移転していたことを知る。

 基隆の街はそれなりの規模なのだが、鉄道の駅としては盲腸線の悲しさ、朝夕以外は基本的に各駅停車が発着するだけの地味なターミナル駅である。台北からの距離の割には時間がかかりすぎるところにもその一端はあるのかも知れない。

 なので新駅舎も地味な造りなのだろうとさして期待せずに向かってみると、規模の大きさもさることながら行先案内のLED化など設備が最新のものになっており、面目を一新していた。
 改札を抜けて階段を降りれば地下化された2面4線の頭端式ホームに出る。これまたどんな特急列車が発着してもおかしくない厳かな雰囲気を持っていた。

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 まぁ、現実に停まっていたのは台北近郊のみを走る各駅停車なのだが。そして実際、列車に乗ってみれば線路が改良されたわけではないので台北までの所要時間は昔のまま。高速バスに押されてしまうのも無理のない話という悲しい結論になってしまう。

 個人的にはそんなのんびりした鉄旅は好きなのだが、時間を最優先にしなければならない海外旅行においては選択するのにいささか勇気を要する。今回待ち合わせ場所を台北駅にしたおかげで久々に乗ることができたのは嬉しい誤算と言える。

 とはいえ、汐科駅を出ると電車は地下に潜ってしまい、あとは台北駅までただ乗っているだけの時間になってしまうのだが。それでも、楽しいひと時だったことには違いない。

 台北駅に到着するも、妻はまだMRTの車内にいたので、構内をぶらついて時間を潰す。提携している日本の鉄道会社や駅の展示があってなかなか楽しい。西武、京急、江ノ電と関東の私鉄各社がパネルをずらりと並べている中、JR西日本大阪駅と台北駅が姉妹駅となったとのことで、関西勢では唯一展示がある。
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 時間潰しのつもりがなかなかに面白く、妻に声をかけられるまでメールにも電話にも気付かなかった。

 さて。互いに買ったものを抱えたまま次の目的地に行くのもためらわれるので、一度宿に戻って荷物を置いてこようとしたのだが。どうせ宿に戻るならもう一箇所さらに買い物をしてからにしようということになった。
 という訳で、台北駅から徒歩で10分とかからない老舗の茶商である峰圃茶荘へ。
 今回は先客がいたため、相席する形で試飲させていただく。先客の方たちは初台湾のようで、茶葉を聞香してはその違いや効能についてつぶさにたずねていた。
 我々はと言えば、この店に来てここに座り、聞香させていただくと、実家に帰ってきたような安心感を覚える。佳き茶の佳き香。世は移ろえど、変わって欲しくないものが変っていないという安心感。
 先客はあれこれ悩みながら、幾許かの茶を購入していった。我々はいつものように…と言いたいところだったが、今回は茶器の分荷物のスペースを広めに確保しなければいけないので、いつもよりいささか控えめ気味に購入。それでも大きな紙袋をいっぱいにするくらいは買ってしまうのだが。
 今回はいつもの阿里山や高山に加えて眼精疲労に良いという普菊茶も購入してみる。いささか癖があるので万人向けではないが、個人的には1箱しか買ってこなかったことを後悔したくらいには気に入った。

 今回もいつもどおり「ホテルに配送します」と言ってただいたのだが、今回は宿に戻る途中に寄ったので大丈夫です、と返したものの。思いのほか紙袋が膨れ上がっており、あれでMRTに乗るとなかなか迷惑かも知れないと思い直してご厚意に甘えた。

 帰り際、バックヤードにいた店主の蒋老人が出てきてくださり、「今年もおいでいただきありがとうございます。また来年もお越しください」とご挨拶をいただいた。白寿に近いお歳だというのにまだまだ矍鑠としておられ、「必ず来年も来ます」と約して店を出た。
 さて。当初の予定どおり宿に戻って荷物を置き、再び台北駅に戻る。

 この日の目的地は台湾を代表する猫の村、猴[石同](石と同で1つの字)。昨日行った鶯歌とは逆方向の電車に乗ってのんびり行く。
 昨日と違うのは方向だけでなく、乗った車両が最新のもので、輪行用に自転車を置くスペースが設定されていた。
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 台湾には外国人観光客でも手軽に借りられるYoubikeというレンタサイクルがあり、こういう車両があるのならば自転車を借りて見知らぬ街を駆けるのも楽しそうだ。もちろん、季節は夏以外という前提だが。


 小一時間で猴[石同]駅に到着。ホームに猫がお出迎えしていたりはしないが、ホームから遠目に猫が見られるくらいには猫の村である。
 そして駅名標示板にすら猫がいる。
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 改札を抜けた先にある売店は当然のように猫グッズを取り揃えており、ここが猫の国の入国ゲートであることを物語っているようだ。
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 猫の国なので前回来た時は家の軒先や庭先、裏路地や広場にとどこへ行っても猫の姿を見なかったことはなかった。とにかく猫好きには夢のような場所なのだが、この日はあいにくと雨が降り出しており、猫は引っ込んでしまっている可能性が高い。

 さてどうするか。
 実はここは元炭鉱の街でもあるので、鉱山好きでもある我々は雨宿りを兼ねて先に炭鉱跡を巡ってみることにした。

 炭鉱関連の施設は猫村とは駅を挟んで反対側にあり、基隆河にかかる橋が『運煤橋』という名前で、運炭トロッコの線路をモチーフにしたデザインだったりとなかなか楽しませる演出だ。廃線跡を辿っているようで、ワクワクする。
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 ただし、骨組みから下を流れる河がバッチリ見えてしまうということもあって、高所恐怖症が私よりも強い妻はおっかなびっくり渡っていたが。

 そして。橋むこうにはまさにトロッコそのもの何両か連結された状態で線路の上に待ち構えていた。
 中には石炭の代わりに観光客が数組。どうやらこれで炭鉱跡を巡れるらしい。
 ただ、チケットが必要なので、今にも出発しようとするトロッコたちに飛び乗って、というわけにはいかない。

 出発したトロッコを見送りつつ、受付で入園券と乗車券を兼ねたチケットを購入。
 周囲の様子が物珍しくて、ウロウロと見て回るうち先発のトロッコが戻ってきた。
 こういう時に一番前に陣取りたくなるものだが、さすがにここは子供連れに譲って後ろへ。
 車両というよりも箱と言いたくなるようなトロッコに腰掛けて待っている間に案内人がやってきて、チケットを確認しつつグッズの売り込みなどもしていく。

 小さな電気機関車に牽引されて出発する。何しろトロッコなのでサスペンションも何もあったものではなく線路の継ぎ目を通る衝撃が直接身体に響く。尾てい骨から脊髄にゴツゴツと来る。
 受付の横を通ってトロッコは坑道へと突入していく。
 途端、体感温度が数度下がる。地中は気温が変化しづらいので夏涼しく冬暖かいのである。
 坑道なので当然天井は低く、ほのかに明かりが灯されているのみなので雰囲気的に江戸川乱歩や横溝正史の作品世界を連想させる。このあたりは日本も台湾も変わらない。
 一応観光スポットなので坑道内には他の鉱山跡と同様にマネキンや道具の展示がなされておりその説明看板などもあるのだが、語学力の壁に加えて薄暗いため内容はあまり頭に入ってこない。ただ、マネキンのおかげで何をしている場面なのかはわかる。
 坑道を抜けて広場に出ると、広場というその名のとおり本当に広々と感じられるし、空が見えるということにありがたみを覚えた。
 この広場で機関車は停止し、全員一旦下車となる。採掘道具の実演を見たあとは、我々も道具に触れたり、自分で人力トロッコを動かしたりできる。
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 電動ドリルやツルハシ等、日本だと「危ないから触るだけ」になりそうなものも、実際に電源オンしたり振り下ろしたりできるのが台湾らしくて楽しい。

 自分の職場にも似たような道具があるのにもかかわらず、こういう場所だと不思議とテンションが上がって魅力的に感じる。

 それなりに堪能して再びトロッコに戻る。全ての乗客が乗り込んだのを確認すると、電気機関車は再び動き出す。
 途端、慣れたと思っていたゴツゴツに再び襲い掛かられる。継ぎ目の多い分岐器の上はひときわ響く。こんなものに毎日乗って坑道の奥深くまで『通勤』していた坑夫さんたちは本当に大変だったことと思う。
 そんな風に考え事ができるくらいには若干の余裕とともにトンネルを抜けると、出発した橋のたもとの停車場に到着する。短い時間ではあったが、なかなか楽しませてもらった。

 続いては本来の目的地である猫村へと向かう。
 降ったり止んだりの天気なので案の定猫の姿は少ない。右を見ても左を見ても視界に必ず猫がいた前回のようにはとてもいかない。それでも土産物屋の店先にでーんと陣取って眠る三毛猫や「記念スタンプを押したきゃ俺をどかしてからにしな!」と言いたげに眠る黒猫、雨天でも水に濡れないコースでパトロールを欠かさない別の黒猫、お気に入りの場所でくつろいでいるうちに平べったくなってしまう黒白猫等々、素敵な出会いはあったので来た甲斐がなかったということは全くない。
 前回のような集団芸にはお目にかかれなかったが、それはまた次の機会に期待するとしよう。
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 自家用土産に猫トートバッグ、職場の土産に猫パイナップルケーキを購入して撤収。

 台北駅までは電車内でひたすらあの猫が良かったこの猫が良かったと楽しく思い出を反芻し合う。

 駅に着くともう日暮れどきだった。ぼちぼち夕飯の算段をする頃合いである。台北駅で夕飯を、ということになると。選択肢は豊富なのだが最終的にはいつも2階のフードコートを選択してしまう。
 台南担仔麺というお店で夜市飯。名物の担仔麺を注文しないことに毎回心苦しさを感じつつ、好物の虱目魚(サバヒー)定食に香腸(台湾ソーセージ)をプラスしてオーダー。これが個人的にはほぼベスト台湾飯。
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 ここは虱目魚をワサビ醤油で食べられるのも嬉しい。コクのある白身とワサビ醤油は相性抜群でいくらでも食べられる。
 ここに香腸が加わるので箸が止めるタイミングが見つからない。

 この幸せも今宵限りだと思うと、一抹の寂寥感が調味料に加わってまた格別の味となるのである。

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今さらですが非公開に変更
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三十路オタです。そろそろ三十路の残りのほうが少なくなってきました。そんな年齢なので言う事やる事古くさくてすいません。

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