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漫画、アニメその他諸々の感想がメインのブログです。現在は「ここだけの話」シリーズについての感想を中心に運営しております。毎日15時の更新は終了し、現在は再び不定期更新に戻っております。
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最終日。今回は帰国が午後便なので午前中は自由時間となる。このラストチャンスをいかにすべきか。
 まぁ、どこか適当なところでマッサージを受けたりホテルの部屋でボーッとしたりしてもいいのだが。だがしかし。昨日の温泉が蓄積疲労を見事に消し去ってくれたのか、無駄に元気があった。
 幸い出かけるアテは残っていて、光華デジタル新天地ビルの駐車場で土日のみ開かれる物産展。ネットで仕入れた情報によると、今回は台中及びその近辺の地域の物産がメインらしい。果物とか野菜とかは日本に持って帰れないのだが、ああいうものは見ているだけでも楽しい。

 この話を最初にした時、妻はこの後の旅程に備えて部屋にいると言っていたが、敢えて今回は重ねて外に誘い出してみた。今朝は朝食を外で食べよう、と言ってみた。MRT科技大樓駅と大安駅の間に粥屋街があるらしいという情報を得ていたので、そこで朝粥を楽しもうと勧めてみたのである。
「朝粥だけなら」
との答えが返ってきたので、そそくさと身仕度を整えて出発。
 毎度お馴染み台北駅からMRT板南線で忠孝復興駅へ。そこからMRT文湖線動物園行きに乗り換えて2駅で科技大樓駅に到着する。文湖線はこの辺では高架になっていて、駅を出て下から見上げるとまるでモノレールのように見える。おかげでどっちに行ったらいいのかを迷わなくて済むのだが。

 そんなわけで高架の線路の下に伸びている復興南路を北に向かって歩くことしばし。進行方向左側に店が見えてくる。
 アテにしていた1軒は朝5時からだと思っていた営業時間が実際は朝5時までであったことが判明し、いきなり頓挫。

 しかし、このあたりはさすがに粥屋の密集地帯であるだけにすぐに別の店が見つかり、そこに決定。申し訳ないことに店の名前をメモし忘れたので、どんな名前であったか不明であるが。

 中へ入るとまずお盆を手にとりビュッフェ形式でカウンター狭しと並べられた小皿料理をチョイス。席に着くと鍋に入った芋粥が用意される。精算は席についてから店の人が皿をチェックし、伝票をつけてくれるのでそれを待って最後に、という形になる。
 茄子の煮浸しだと思って取った皿が実は豆腐だったりするサプライズはあったが、ウマかったので特に問題は無い。
 芋粥はほぼ味付けなしなので、全般濃いめの味付けになっている小皿料理と合わせ技一本でいただくのがよろしいようで。ただ、このほぼ味付けがないはずの芋粥はイコール味気ないではなく。米のこなれ具合といい芋の火の硬すぎず柔らかすぎずな火の通り具合といい、これどうやってるんだ?と首を傾げてしまうレベルである。
 正直、粥がうまいので具は邪魔にならなければ何でもいいとすら思えた。
 小鍋1杯分の粥を夫婦ふたりできっちり食べ尽くしたものの、さすがに粥屋で「うー、食べ過ぎたー」にはならず足取り軽く店を後にすることができた。
 そのまま大安駅まで歩き、MRTに乗る。ひと駅先の忠孝復興で板南線に乗り換え、妻はそのまま台北駅へ。私は忠孝新生駅でさらにもう1回乗り換えて松江南京駅へ。
 光華デジタル新天地へ行くのであれば忠孝新生駅から歩けば十分なのだが、なぜわざわざひと駅先まで行ったのか。単に乗ったことの無い新線に少しでも乗りたかったというのもある。あるが、しかしそれだけが目的ではない。台湾初上陸の時から欠かさず訪れているパイナップルケーキの名店、台北犁記餅店に立ち寄るためである。
 途中、セブンイレブンに貼られている『日式冷麺 冷やし中華』というポスターを見てツッコミを入れずにはいられなくなり思わず撮影。

 日本なのか中華なのか。


 ひとネタ拾ったところで無事台北犁記餅店に…着かなかった。記憶とは違う場所に店舗があったため、確認のため記憶どおりの場所に行くと『移転しました』の貼り紙が。納得して移転先のほうへと向き直ったところ、タクシーからわらわらと降りてくる日本人の一団が。
「あれ?無くなってるぞ?」
「どうしたどうした」
おっちゃん達が口々に言い合っているので
「あっちに移転しましたよ」
と、自分も知ったばかりの情報をもとに指し示す。
 というわけで見ず知らずのおっちゃん一団と連れ立って台北犁記餅店へ入店。ここはパイナップルケーキの名店なのだが、個人的にはメロンケーキのほうが好みで、むしろそれがメインの楽しみだった。
 なのに。売り場にそのメロンケーキが見当たらない。看板のパイナップルケーキはあるのだが。新製品らしいクランベリーケーキはあるのだが。
 メロンケーキがない。
 そして、一緒に入店したおっちゃん達も
「あのアズキのヤツがうめぇんだ」
「ねぇなぁ」
「ねぇわけねぇだろ」
「でも見あたんねーぞ」
等々、口々に言い合っている。
 置いてあるパンフレットからも消えているのでどうやら移転&リニューアルに合わせて商品ラインナップも変更になったようだ。
 『がーん、だな』とか『あの味の無い台北犁記かぁ』とか。『孤独のグルメ』の名台詞的な何かが脳内を去来する。
 止むなくパイナップルケーキのみを6個ばかり買って店を出る。最高で60個買ったこともあるのだが、今回はその10分の1ということで私の落胆具合をお察しいただけるだろうか。

 斯くして、思いのほか身軽な状態で一路光華デジタル新天地ビルへと向かう。
 開始予定時間より30分も早いのでどこで時間をつぶそうかと思っていたが、駐車場を覗くと既に市場はスタートしていた。
 予定より遅くなることはあっても早くなることは無いだろうと勝手に思い込んでいた私は喜び勇んで会場へ。
 この日は台中市周辺の農産物がメイン。マンゴーやドラゴンフルーツ、そして烏龍茶がメジャーだが、この時は桃やブドウなどあまり台湾フルーツとしてイメージしていなかったものがずらりと並んでいてちょっと驚く。しかも、困ったことにかなり美味そうだ。
 何が困ると言って日本には買って帰れないのである。正確に言えば検疫を通過すれば自宅に持ち帰れるが、まぁ現実的ではない。
 明日帰国であればホテルで堪能することも出来るのに、と歯がゆい思いで見て回っていることしばし。
 あった。杉林渓だ。考えてみれば杉林渓は台中の近くにある土地なのであっても不思議はないのだが、買えるとは思ってなかったので実に嬉しいサプライズだ。
 思わず「すげぇ」と口走ってしまったため、店のおばちゃんから
「你是日本人嗎?(あなたは日本人ですか?)」
と聞かれたので。
「是、我是日本人(はい、日本人です)」
と答える。昔取った杵柄でこのくらいの会話なら出来る。
 特にそれ以上の会話は無かったのだが、心なしかおばちゃんの眼差しが柔らかくなったように感じた。
 杉林渓は150g400元と大変お買い得価格。一緒に並んでいた阿里山も同じ分量で同じ値段だったのでセット購入決定。
 1000元札を渡したところ、100元札3枚が返ってきた。
「不行!不行!(ダメダメ!)」
慌てて100元札を1枚おばちゃんに返す。
 1個400元のものを2つ買って100元値引きっていうのはさすがにサービスの域を越えてしまっている。すんなり『ありがとう』で済ませていいレベルではない。
 おばちゃんは「你是真的日本人」と笑顔で言って、100元札を受け取ってくれた。
「謝謝!太謝謝」
もっと気のきいたことを言えれば良かったのだが、これが精一杯。精一杯の感謝を込めて店を後にする。
 さて。さすがにこれ以上はスーツケースの余裕も財布の余裕も無い。忠孝新生駅からMRTに乗ってホテルに戻る。

 部屋では準備万端整え終えた妻がパソコンをいじって待っていた。

 今回の戦果を誇らしく説明するよりも先に台北犁記からメロンケーキが無くなってしまったショックを切々と語りながら、私も荷造りに取りかかる。
 冷蔵庫の中に残っている飲み物も荷物減らしを兼ねて飲んでしまう。ちなみに、日本で飲む用のペットボトルは別途用意して既にスーツケースにしまい込んでいたりする。
 荷造り完了後、ロビーへ降りてチェックアウト。今回はランドリーサービスもルームサービスも利用していないのでカードキーを返して終わり。
 迎えのバスが来るまではソファーに座ってノンビリと待つ。
「帰りたくないねぇ」
「帰りたくないねぇ」
しみじみと、2人揃って同じ感想が漏れる。
 おかげで毎年毎年この時だけは、待っているのに早く来て欲しくないという、いたく矛盾した感情を抱える羽目になる。
 願いも虚しく迎えのバスはやってきてしまい、ドナドナされる牛のようにバスに乗り込む。
 帰りも免税店に立ち寄ることになっているので、到着後未練たらしく隣のコンビニに走り飲むヨーグルトを買って飲んだりする。
 さすがにそれだけでは間が保たないので免税店の中の台湾特産品コーナーをウロウロしてみる。

 烏龍茶売り場には峰圃茶荘の名前が入ったセットが置いてあって、あのお店が台北を代表する存在なのだと改めて思い知る。

 また。烏龍茶売り場には茶器もある。あるが、かさばるし割れやすいしでこれほど空輸に向かないものも無い。しかし、犬も歩けば何とやら。茶器と一緒に夫婦箸も陳列されており、これは友人の結婚祝いにちょうど良かろうということで追加購入決定。手持ちの台湾元は尽きかけていたのでカード購入だが。

 バス待ちする時はいつもは大概手持ち無沙汰になるのだが、今回はそんなこんなであっという間に集合時間がやってきた。

 あとは後ろ髪を引かれつつ、バスに揺られて一路桃園空港へ。

 キャセイパシフィック航空のカウンターは混雑していたが、手際良く行列が捌かれていくのでそれほど待たずに我々の番が来た。今回遠慮会釈無くスーツケースにあれこれ詰め込んだおかげでかなりの重量になってしまったが、幸いにも『荷物を減らせ』等々言われる事なく検査をくぐり抜ける。

 所持品検査も出国審査もとっとと済ませ、中の喫茶店で一息いれる。手早くここまで来たので時間にはかなりの余裕がある。マッサージを受けたり買物をしたりという選択肢も浮かんできたが、敢えてここは搭乗ゲートにて待機する。

 この国を離れるまでのわずかに残された時間を静かに過ごしたくなったので。

 しかし、搭乗開始時間になっても列が出来るどころかアナウンスすら始まらない。窓の外を見ると、どうしたことかそもそもとして機が到着していない。長時間の遅れを覚悟しながら思ったことは、ここまでしきりに「帰りたくないねぇ」と言い続けたために台湾の航海の守護神媽祖様あたりが気をきかせてサービスをしてくれたのかも知れないということだ。迂闊な事を言うものではない。
 出発予定時間になったころにようやく『出発は1時間後』というアナウンスが流れた。
 今度こそマッサージや買物という選択肢を実行に移そうかどうしようかという話をしていると、皺深い顔をした老人が話しかけてきた。
「少し教えて欲しいことがあるのですが、いいですか?」
とのことなので、どうぞどうぞ、とうなずくと。
「私は台湾で観光ガイドをしている者です。これから娘と孫を連れて大阪に観光に行くのですが、ここのホテルにはどうやって行ったらいいですか?」
言いながら、老人はホテルのアクセスマップを印刷した紙を広げた。
 見ると、ホテルは新大阪の駅前にあるようだ。新大阪ならば関空からは特急『はるか』で一本で行けるし、乗換えは必要だが関空快速という方法もある。
「少し高くても乗換えが無いほうがいいですか?それとも乗換えがあっても安い方がいいですか?」
と聞くと
「出来るだけ安い方がいいです。娘と孫は分かりませんが、私が日本語分かりますから」
というお返事が。
 ならば、と関空快速ルートを説明する。幸いここはwifiが入っているので、パソコンを開いてネットにつなぎ、検索してぶち当たった画像などを見せながらの説明が出来てスムーズに説明が進む。
 念のために関空発の時刻も確認してメモに書いてお渡しすると、老人は繰り返し礼を述べて去っていった。
 ここまで台湾で受けてきた好意の数々を少しでもお返ししたいという思いを常々持ちつづけていたので、こういう機会があるのは嬉しいかぎり。
 話が終わったのを区切りとしてトイレに行って戻ってくると、老人が再びこちらにやってきた。
「もう1回いいですか?」
「どうぞどうぞ」
そう言うと老人は先程のアクセスマップを広げ
「娘が言うには、空港から新大阪へ行くバスがあるようなのですが、バスはもう無いのですか?」
と、たずねた。それを見ると『大阪国際空港から空港バスで25分』と書いてある。
 なるほど。これは分からないだろう。
 なので伊丹と関空の違いについて地図を描きながらご説明する。また、この時念のためにネットで確認するが関空から新大阪に直接行くバスはない。
 どうせ何処かで乗り換えないといけないのであれば、まだしもJRの方が良いだろう。そのように説明すると老人は娘さんに私の話した内容を通訳し、娘さんもどうやら納得した模様。
「ご丁寧にありがとうございました」
と、深々と頭を下げてお礼を言われると何とも面映い。
「最後にもうひとつ、いいですか?」
「ええ、どうぞ」
「青春18きっぷはまだ売っていますか?」
なんともビックリする名前が出てきた。
「娘と孫は大阪観光だけして帰りますが、私は彼らを送った後18きっぷで日本中をまわりたいのです」
「ええ、まだ売っていますよ。関空にあるJRの駅で買えますよ」
「あのきっぷは素晴らしい。安くて日本中どこへでも行ける」
目をキラキラ輝かせて語るその姿から溢れ出る冒険心は『老人』とお呼びするのが申し訳ない程に若々しかった。
 と、ここで旅が終われば綺麗なのだが。
 1時間遅れで離陸した飛行機は乱れる気流に翻弄されながらも何とか大阪湾上空までやって来た。
 岸和田あたりで打ち上げられている花火を横目に着陸態勢に入ったのだが、少し行ったところで再度上昇し始めた。まぁ、無理矢理に着陸しようとして失敗されるよりは遥かにマシなのだが、この急上昇にはかなり肝を冷やした。
 上空で15分程待たされた挙句に、一番遠いところに着陸させられる。その上、着陸後もしばらく機内待機させられた。
 電子機器の使用許可は出ていたのでこれ幸いと携帯とデジカメで夜の空港という貴重な画像を撮影しまくる。






 ようやく禁足が解けて機外に出られるようになった。モノレールから入国審査まではスムーズにいったのだが、その先がこんな時間なのにまさかの大混雑。遅延したために香港からの帰国便とタイミングがかぶってしまったようだ。
 まぁ、混雑しているものは仕方ないので預けた荷物を回収して税関検査場に出来上がった長蛇の列に並ぶ。
 不慣れな人が並んでいるかどうかで列の進みが変わってくるので、焦っても仕方ない。我々の列も途中までは比較的素早く流れたのだが、携帯品申告書を用意していない人がいたりして途端に進まなくなる。
 もうこの時は時間を計ったりする余裕も無かったのでどのくらいかかったか分からないが、ようやく我々の番がやってくる。
「ご旅行ですか?」
「はい」
「なにか申告の必要なものはお持ちですか?」
「ありません」
「ではどうぞ」
これだけのやりとりで通してもらえたのは混雑の副作用だろうか。
 スーツケースを転がしてようやく到着ロビーに出る。本来であれば『飛行機に乗って関空に到着』の一言で済むはずの部分がやたら長くなってしまった。まぁ、それでも無事に勝るものは何もない。

 すっかり深夜帯なので、一応機内食を食べているのに小腹が空いている。いつもなら何か食べるかという流れなのだが、さすがにこの日はそういう話にもならずとっとと帰ろうという結論になる。

 二階に上がり、駐車場へ。4日ぶりの我が愛車は幸いにして何事も無く、やってきた時と同じ場所にちゃんと停まっていた。
 スーツケースを車に積み込み、あとは一路我が家へと向かう予定だったが、一連のハプニングで蓄積した疲労を癒すべく急遽途上にあるスーパー銭湯に立ち寄ることにした。この辺は車移動ならではの柔軟性。
 4日ぶりの広い風呂にて綺麗さっぱり旅の疲れを落とし、心身ともにスッキリして帰宅する。溜まった疲労を翌日に持ち越さないというメリットが大き過ぎるので、運転しながら「次も車で、だなぁ」とつぶやく。
 そう。いつもながら我々の旅行は終わった時が『次』の始まりなのである。

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とっくに搭乗時間なんですが、まだ機体が来ておりません。確認したら45分のディレイ発生です。あんまりにも未練たらたらなので馬祖様かどなかたが「じゃあもうちょっといれば?」とかそんな感じで気を利かせてくださったのかも知れませんが…。

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今回は出発が午後便なんでホテルにお昼まで居られるのを良い事にもう1つ2つアタックしてきますけども。

 お茶を買ったり名物料理を食べたり、新規開拓で温泉街へ行ったり色々楽しかったのですがもう帰国日です。昨日、温泉街で日本語世代のご老人が話かけてくださったんですが、その時に思わず「台湾が良い国なんで帰りたくないです」って言ってしまいました。すかさず「日本だっていい国ですよ。私、もう何度も行ってます」って返されて大変申し訳ない気持ちになりましたが。

 もっと簡単に行き来出来るようになる日が来る事を願いつつ、ラストミッション行ってきます。

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 この日は朝食を食べてすぐに雙連の朝市へと向かった。
 目的はまたしても茶である。以前、冬に来た時にはここの朝市でも茶を扱っていてそれが安価かつ美味であったので今回もそれを期待してのこと。

 雙連朝市へはMRT淡水線で台北から2つめ、雙連駅で下車。2番出口を上がって目の前がもう朝市である。北に向かって200mほどの小道沿いにひしめき合う小店舗、出店、露店の数々。文昌宮というお廟の門前市として大変賑わっていた。

 肉、魚、野菜、果物といった定番から衣類、雑貨まで。多種多様な品目を扱うこの朝市だが残念ながら今回は茶が見当たらなかった。まぁ、前回も雑貨屋の店先に仮住まい同然の形で陳列してあっただけなのだが。
 とは言え、市場を漫然と歩くこと自体が楽しかったりもするので、前回は立ち寄らなかった裏路地などにも足を踏み入れてみる。日本にあったら『孤独のグルメ』でゴローちゃんが吸い込まれていきそうな小食堂がそこかしこに散在しており、うっかりホテルで朝食をとってきたことを後悔した。

 裏路地を抜けた先には馬偕医院というかなり大きめの病院があるのだが、明らかにそこに入院しているんだろうなぁという出で立ちの老人が小食堂で実にうまそうに魯肉飯などを堪能していて、夫婦揃って苦い入院経験を持つ我々は「気持ちはよく分かる」と口々に言い合った。

 さて、茶である。
 妻が「心当たりがある」というのでそれを当てにして道案内を頼む。道案内も何もないくらいの程近い場所、病院から駅方面に戻って道を渡ったところに店があった。

 台香商店という店の名前を確認するのももどかしく店内に入ってすぐ、私が探しているものが見つかった。高山烏龍茶の数ある銘柄のひとつ、杉林渓。標高1600m以上の高地で生産されたこの茶は私にとって特別な存在である。メジャー度合いで言えば阿里山のほうが上なのだが、個人的にはマグロの大間、ウナギの浜松、牛肉の松阪というくらいの存在感を持つ。

 これが300gで1200元。日本円に直せば約4200円。グラム1400円と言えば肉でもかなりの高級品だが、杉林渓の持つ清々しい味と香りは何物にも代え難い。また、300gあればかなりの期間楽しめるので日割りにするとそこまで高いものでもない。

 さて。私は主目的を達したが勿論まだまだ体力に余裕があるので今度は西門に移転したらしいアニメイトに行ってみる事にした。

 実は、ここ雙連駅から台北駅までは実は地下街でつながっているので、そこを延々歩いていこうという気まぐれを起こした。
 その動機の1つになったのが案内に書かれた『地下書店街』の文字。以前来たときは営業時間外だったので概ねノーチェックだったということもあって足を踏み入れたくなったのである。

 にしても英語で『Undergroud Bookstore』って書かれるとどんなヤバイ書籍を取り扱っているのかと思ってしまう。ちなみに、光華新天地ビルの向かい側にあるほぼ18禁の本屋みたいなのはさすがになかったが、同人誌を取り扱っている本屋はあった。しかも、台湾の作家さんが描いたオリジナル同人誌がある。

 話が前後するが、その同人誌を売っている本屋にたどりつく少し前、総合書店のひとつで『異人茶跡 淡水1865』という漫画を手にとった。“イギリス人商人とアモイの商人コンビが台湾烏龍茶を巡って伝奇旅をする!”という帯のアオリ文にワクワクが止まらなかった。大昔、シルクロードを旅する茶商人の伝奇小説を書こうとして頓挫した経験を持つ私にはツボに入りまくる設定である。


 喜び勇んでレジに持っていき、会計を済ませて数分後、今度は『時空鐵道之旅』なる漫画を発見。高校時代の同級生とタイムスリップして時代時代の鉄道に出会うというストーリーで、百年前の蒸気機関車、阿里山森林鉄道、台湾糖業鐵道、そして1970年代の青いキョ光号が登場する。これも『異人茶跡』同様、台湾の過去を舞台にした作品であり、どちらも台湾の作家さんならではだ。




 勇んでレジに持っていくと、先程と同じ店員さんが納得顔で会計を済ませてくれる。
「いやぁ、ここ通って正解だったな」
つれづれ歩きながらそんなことを言っていると、先述の同人誌屋さんを発見する。
「ああ、ついにこういうところにもこういう店が」
という感じで軽いノリにて店内に入ったところ、衝撃が走った。先程購入した『異人茶跡』と明らかに同じ作家さんが描いたと思われる『茶商與買辧』という同人誌が目に入ってきたのである。
「ああ、これがこの本の元になってるんだ」
同人で描いた作品が認められ、商業作品として発行される!この出版形態が台湾でもあるのか、と思うと無性に嬉しくなった。
 これも即決購入である。




 購入時にB4サイズポスターをプレゼントされたが、ホテルに帰って開けてみると別の作家さんのものでちょっと拍子抜け。



 話を戻そう。
 もうアニメイトに行かなくてもいいんじゃないか?というくらいに収穫を得てしまったが、普通の本屋でこれだけ発掘出来たのだからアニメイトにはもっとあるかも知れないという思いと、何にも無くてもとりあえず場所だけは押さえておきたいという思いから移動を再開する。

 台北駅からは板南線で1駅、西門駅。その6番出口を上がっていくと、目の前にはランドマークのひとつ、西門紅樓がある。
 それを横目に見つつ、大通りの中華路一段へ出る。この大通りを北上すること少しでアニメイトの看板が見えてくる。
 一緒に『指南針』と書かれた看板もあるので、光華の時と同様一緒になっているようだ。



 店の前の歩道で何かのチェックをしている腐女子らしき一群を見かけたが見なかったことにして店内へ。

 店内のレイアウトはリニューアル前の大阪日本橋店に似ている気がした。ただ、ちょっと違うのはあちらが上に伸びているのに対してこちらは下に伸びている。1階はひたすら本で埋まり、グッズやコスプレ衣装等は地下1階に展開している。本は翻訳モノがほとんどだが、漫画やラノベのみならず画集にまで及んでいるのはさすがの一語。
 毎度楽しみなのが18禁コーナーで、日本と台湾で規制に関する考え方の違いがクッキリ出る。
 『Kiss×sis』あたりが該当するのはまぁ納得なのだが『夏の前日』が規制対象なのは「厳しいねぇ」と言いたくなってしまう。日本の少年漫画誌レベルの規制をはみ出るようなものは概ね18禁なようだ。まぁ、実写でも18禁マークがついていてなおヌードグラビアの胸の部分に星マークがついたりするような国なので仕方ない。
 そのコーナーのさらに奥には日本で出版された同人誌のコーナーがある。ここからが『らしんばん』のテリトリーなようだ。
 同人誌以外に中古CD(同じく日本の物)なども扱っているのだが、店内に流れている『Free!』のドラマCD(当然日本語)だか本編音声だかが気になって状況を明確に把握出来ない。日本語で繰り広げられるキャラクターたちのやりとりが店内に延々と流れているのを聞いていると、つくづくここがどこだか分からなくなる。

 一応陳列棚はひととおりチェックしたが、やはりここに並ぶ品物は台湾の方に購入していただくのがスジだろうと思い手ぶらで撤退。その足で地下のグッズコーナーへと向かった。

 階段を降りてすぐの一等地にCDやDVDが並び、そこを過ぎると日本のアニメイトと遜色ない品揃えで所狭しと各種グッズがひしめいているのだが、作品名のポップがオール日本語なことにはもうツッコむ気が起きない。いわんや、その奥あるコスプレ衣装コーナーにおいておや。
 一周して満足し地上へと戻ると、再び本、本、本の世界が広がる。
 日本漫画の台湾翻訳版よりもここに来る前に入手したような台湾オリジナルの作品を探し求めたのだが、これが見当たらない。『FancyFantasy』という情報誌はあったが、今イチ食指が動かない。
 これは手ぶらで帰るも止むなしかと思っていたところに視界に入ってきたのが『猫散歩』という猫写真集。当然のように台湾オリジナル。台湾も日本同様猫好きな事にかけてはかなりのハイレベルで、猫だらけの村もあるくらいなのでこういう本が出版されているのは何の不思議も無いのだが、アニメイトで売ってるあたりが面白い。
 これを唯一の戦果として店を後にし、宿に戻った。

 戻ってもまだ昼過ぎ。まだまだ十分動ける時間。
 帰りがけに買ってきた胡椒餅を昼食として楽しみながら、今後の予定について企画会議。
「どこか行きたいところある?」
「思いつかない」
妻がそう言ってこちらに判断を任せてきた。
 半日というのが実になかなかクセモノで。京華城や永康街などの買物スポットには行ってもおそらく時間が余る。かと言って台南、高雄などの地方都市に行くには時間が足らない。
 まさに、帯に短し襷に長し。
 片道小一時間程度でで行って帰って来られる場所で、わざわざ足を向ける甲斐のある場所。そんな都合のいい場所があるか。
「ひとつ、あるな」
「どこ?」
「北投温泉」
「ああ」
台北駅からMRTでだいたい40分くらい。ラジウム泉と硫黄泉の湧き出る台北の奥座敷。日本統治時代から続く老舗旅館どころか銭湯までもが今なお営業を続けている。大正時代には当時皇太子だった昭和帝も行啓なされた地。
 初めて台湾を訪れた時から一度行ってみたいと思い続けていたのだが、これは丁度いい機会ではなかろうか。

 あっさりと妻の同意も得られ、タオルなどのお風呂セットをコンパクトにまとめて部屋を出、MRT淡水線に乗り込む。
 北投温泉へは北投駅ではなく、そこから支線で一駅の新北投駅で下車。この、北投駅の乗換時間を利用してトイレで用を足したりインフォメーションセンターでパンフレットをもらったり。パンフレットは当然のように日本語のものが用意されている。

 パンフレットを熟読しつつホームで待っていると、賑々しくラッピングされた4両編成の列車が入線してきた。


「コメントに困るな、コレは」
外観のみならず、車内にもモニターがあったり装飾があったりでJR九州の特急列車を彷彿とさせるような造りになっている。



 これが限定イベント列車ではなく毎日北投〜新北投間を行き来しているのは大阪環状線西九条駅とユニバーサルスタジオ駅とを往復する列車を連想させた。

 ただ、困ったことにこの電車、外が見られない。厳密に言うと見られない訳ではないのだが、窓にもぴっちりラッピングシートが貼られているので見づらいことこの上ない。

 せっかくの良い眺めなのだが、かと言って運転席後ろの窓にかぶりつくのもいささか気が退けたので諦めてひたすらに待つ。
 電車はのんびりのんびりとした走りで新北投駅に到着。
 ホームに降りたってみると、台北市内よりもいささか涼しい。やはり山あいにある街だからだろうか。

 日帰り入浴をどこでするか、というアテは特に無かったのだが、今回は下見くらいのつもりで源泉の湧き出る地熱谷を目指して気軽に歩き始める。豊かな森林に包まれたゆるやかな坂道という光景が箱根を連想させた。ちなみに有馬にも似ていなくはないが、あちらはもっと坂の傾斜がきつい。
 左手にはホテル、右手には公園。公園には湧出量豊かな温泉が川となって流れている。少し行くとレンガ造りの温泉博物館が見えてくるが、敢えてスルー。下見なので、どこかにアタックをかけるより大雑把でもある程度広く回ってしまいたかった。

 そこからさらに坂を上がっていくと水着着用で入る親水公園にたどりつくが、妻から「それじゃあ風情がない」との一言で却下になった。
 それではと、再び地熱谷を目指して歩いていくと程なくして雨が降り始める。昨日買った傘が早速役立った。
 この雨があっという間に本降りになってしまったので、地熱谷行きを断念。雨宿りも兼ねてどこか日帰り入浴出来るところに入ろうとしたところ、不思議な光景が目に入った。
 足湯である。
 降りしきる雨を物ともせず、濛々と湯気をあげている川に足をつけている人たちが何人もいる。
「あれ、いいな」
「いいね」
なんだろう。実に楽しそうなのである。もうアレでいいな、ということになり。橋を渡り階段を降りて河原へと出ると、硫黄の香りが鼻先に漂ってくる。






 好適地は既に先客に押さえられてしまっていたが、それでも木陰に何とか座れる場所を確保すると、靴と靴下を脱ぎ他の荷物と一緒に濡れないように傘をさしかけてから、ゆっくりと足をつける。
 足首から下が溶け出してしまいそうな心地よさに長嘆息が漏れる。
 普通、足湯というのは足首からせいぜいふくらはぎにかかるくらいまでをつけるものだが、あまりのお湯の気持ち良さに、なんとかもっと足を入れ込めないか工夫してみる。足を投げ出すように伸ばすと、膝下いっぱいまでつけることができた。
 じっとしているのが苦手な私だが、今回ばかりはずっとこうしていたくなった。
 しかし、5分程して妻が湯当たりを起こしてしまったので早々に中止となった。
小やみになってきた雨に当たって、動けるようになるまで熱を冷ます。
 この温泉の効能はもう言うまでもない。北は函館谷地頭温泉から南は指宿海底温泉まで日本中あちこち入ってきたが、その中でも群を抜いて効いた。
 幸い、妻の湯当たりも少し休むと動けるようになったので撤収開始。

 熱を蓄えた身体に心地よい涼風を浴びながら駅を目指して歩くと、左手に瀧之湯やら加賀屋やら日本ゆかりの建物がいくつも見えてくる。それを撮影しつつ「今度はぜひじっくり来よう。ここで1泊してもいいな」などと話していると品の良い老婦人から「日本の方ですか?」と声をかけられた。
 老婦人は「私、小さいころは日本人だったので、日本語がしゃべれるんですよ」とおっしゃられていた。
 こちらも、新婚旅行で来て夫婦でこの国が大好きになり毎年のように台湾に来ているが、今回初めて北投温泉にやってきた。大変良いお湯でした、ということをお話させていただく。
「台湾、良い国ですねぇ。明日帰国なんですけど、帰りたくないです」
「未練があるんですねぇ。でも日本だって良い国じゃないですか。私、もう何回も行っていますし、これからも行くつもりですよ」
なぜだかこのとき、涙が出そうになった。自分でもよく分からないのだが、どうしようもなくこみ上げてくるものがあった。
 さすがに気恥ずかしかったのでなんとか誤摩化し、老婦人に「ありがとうございます」とだけ述べてお別れする。
 その後、水分補給と気持ちの整理とを兼ねてスーパーで飲み物を購入し、公園で小休止。
「来て良かったな」
ぽつりと呟いたら、妻が小さくうなずいていた。

 帰りは車中で熟睡してしまったので取り立ててネタも無く。かなりギリギリまで寝ていたので乗り過ごしたりせずに済んで幸いだった。

 この日の夕食は今回の台湾旅行最後の夜ということもあり各種候補があがったが、妻の湯当たりダメージが完全に回復していないということもあり、再び台北駅2階へ。
 ここにある夜市をイメージしたフードコートで飯を食わないとどうにも台湾に来た気がしない。

 フードコートは金曜の夜なので混雑していたが、探すと2人分の座席は無事確保出来た。店の入れ替えがあったりしたものの、私が求めてやまなかった魯肉飯、青菜炒め、かきオムレツに魚団子のスープの定食風セットは無事残っていた。妻は台南名物擔子麺。
 街歩きと温泉とでたっぷり汗をかいた後だけに、魯肉飯の塩っけが全身に染みる。うまい。どうしようもなくうまい。
「この味も、食べ終わったらまた来年かぁ」
「冬にもう1回来る?」
「来れたらいいけどなぁ」
「温泉行くんだったら冬の方がいいし」
生臭いことを言わせていただくと、給料が回復したら年1回を2回に増やすことがギリギリ可能になる。今年いっぱいは厳しいが、来年度から復活する約束なのでそうなったらぜひ実現させたい。

 この日も食後にデザートとして豆花を買って帰り、ホテルの部屋で惜しむように味わって食べた。

拍手[0回]




 はい。台湾版『孤独のグルメ』でございます。『深夜食堂』は何度も見かけたのにこれが見当たらなかったのでおかしいなぁと思っていたんですが、巻末を見てみると去年の12月にようやく出版されたようです。

 あと、見慣れない出版社名でして。あれっと思ってネットで出版物リストを見てもこれ以外に漫画が見当たらないので、どうやら漫画とかあんまり縁が無い出版社なようです。
 しかし、料理について注釈がついているのは勿論(台湾でもメジャーなものについてはついてませんが)、ハヤシライスを食べ損ねた回に出てくるWINS銀座について『連載当時存在していましたが今はもう無いです』と解説してたりしてますので不慣れながらも真面目に取り組んだ姿勢が伝わってきます。
 巻末の鼎談が載ってなかったりするのですが、ああ、これは本編で力尽きちゃったんだな、と思ったりしたものです。

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 うっかり寝てしまいまして。起きたらこんな時間でした。
 アニメイト光華店が撤退していたため探すのにちょっと苦労したんですが、ごらんのとおり無事確保出来ております。さよなら絶望先生台湾版の二十九集と三十集。一応ひととおり目は通してみて一番インパクトがあったというか「これは大丈夫なのか」と思ったのがアナグラムの回(第三十集第二百九十二回)です。
 大概上級者向けなネタが揃っているわけですが、この回は全部「日本語で並べ替えるとこうなります」的な説明で解決してるところに「もうお前らここまでついてきたんだから大丈夫だよな?な?」という東立出版社さんのよく分かった翻訳スタイルが垣間見えます。

 あと、最終巻までたどりついておいて今さらですが、台湾において『先生』という言葉は日本における『〜さん』というニュアンスで、学校の先生という意味の言葉は『老師』『師傅』になります。だもんで作中でも『先生』と呼びかけるところは『老師』になってます。
 だから『絶望先生』は台湾の感覚だと『絶望さん』になると思います。なんかホラー漫画っぽいですね。もしくは学年誌に載ってそうな漫画っぽい。なんで『絶望老師』にしなかったのかということを勝手に推察しますと、多分日本版と同じロゴが使えるからではないでしょうか。
 それとこれは完全な邪推ですが『お前らこの漫画わざわざ買うくらいだから分かるよな?』的な意図も割と感じられてしまいます。それもひしひしと。

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朝5時。日本時間なら6時。目覚ましもかけていないのにいつもどおりに目が覚めてしまう。睡眠時間は短めだったのにわりとスッキリしているのはマッサージの功徳か、それともベッドが良かったおかげか。

 ただまぁ、こんな時間に目が覚めてもどこへ行く事も出来ないし、やる事と言えばネットなのだが。無線LANのおかげで寝ながらネットが出来るありがたい環境。

 一応、本日の旅程にまつわる情報収集がメインなのだが、しばしば寄り道したりするのはネットサーフの常。
 本日の第一目的は茶。
 茶の買い付けと言えば例年台南まで長駆新幹線で買いにいき、振發茶行を訪れて店主の厳大人にお会いするのが旅の楽しみの大きなひとつではあったが、台南まで行くのがそろそろしんどくなってきているのもまた事実。下手をすると2日目は行って帰ってで終わりになってしまう危険性すらあるので、新規開拓の意味と合わせて今回は台北市内でアタックをかけてみようと思う。

 既に台湾入りする前からあたりはつけていた。
 峰圃茶荘。
 1883年開業ということで、1860年創業の振發茶行には少し及ばないものの台湾においてはかなりの老舗である。
 根城にしているシーザーパーク台北から十分徒歩圏内なのだが、逆に言うとタクシーを使えないので周囲の地理についてはしっかり押さえておかねばならない。店の住所とその近所の目印になりそうな建物について再確認。

 そうこうしているうちにいい時間になったので妻が起きだしてきた。妻は普段朝ごはんを食べる習慣がないため意志確認をすると「食べる」とのことなので、連れだってホテルのバイキング会場へ向かう。

 ここは和洋中がわりと満遍なく揃っているので目にも楽しい。この日はいつもスルーしてきた中華粥をメインとして、それにあうおかずを物色し、バランスを心がけて選択する。しかし、どちらかと言うと真打ちは食事の後のデザートだったりする。
 日本の物より濃いめで美味なヨーグルトと地味豊かなフルーツ類を堪能して、締めにホット烏龍茶。これが最強。
 
 愉快に腹を満たして、まずは今回の旅の主目的のひとつ、茶の買い入れに出発。ハンドタオルや扇子などの防暑用品を装備するなどして身支度を整え、先述の峰圃茶荘へと向かった。

 店に入るなり店主の蒋老人に「日本の方ですか?」と日本語でたずねられ、そうですと答えると以後は日本語のみで応対を受けることとなった。
 勧められて試飲用の応接セットに座ると、実に多種多様なお茶が提供されはじめる。
 具体的な銘柄を挙げていくと、阿里山烏龍茶、一般的にはプアールとして知られる銀峰陳年老茶、東方美人烏龍茶などを試飲させていただいた。
 特に東方美人烏龍茶は「蜂蜜を入れるとさらに美味しくなりますよ」という言葉とともに、ガラス瓶からスプーンで琥珀色の液体が注ぎ込まれる。途端に広がる芳醇な香り。今まで味わった事の無い新しい味覚を得ることができた。
 これまで大量に台湾茶を飲んできたはずなのに、まだまだ知らない事がたくさんあったのだと改めて思い知った。
 また、この店のお茶以外の名物として台湾島の形をしたパイナップルケーキとマイタケチップスなるものもお茶請けとして勧められる。
 もはや試食試飲の域を超えて『歓待』だと思うのだが、店主の老人はニコニコとしているばかり。

 この方も御多分にもれず日本好きということで、お茶やお菓子をいただきながら日本の話題で盛り上がるのだが、その会話の途中で店主の老人から
「どこかでお会いした事ありませんか?」
とたずねられた。が、残念ながらこのお店に来たのは初めてである。その旨を告げると、老人は少し残念そうな顔をしていた。
 しかし。これを書いている今気がついたのだが、もしかしたら店主の老人が私の祖父と会ったことがあるのかも知れない。初日編でも書いたが私の祖父は台湾滞在歴があるので、その可能性はゼロでもない。もしそうだとすると実に不思議な縁である。

 会話とともに味と香りとを存分に楽しませてもらい、レッツ買物タイム。
 発注は数と品物の間違いが無いようにと作られたオール日本語な発注シートに必要数を書き込んでいくのだが、あれもこれもと欲張っていくうちにとんでもないことになった。
 すなわち。
 東方美人茶100gを1箱、同じくティーバッグ12バッグ入りを12袋、炭焼き阿里山高山烏龍茶100gを1箱、炭焼きでない阿里山高山烏龍茶100gを3箱、銀峰陳年老茶100gを4箱、ティーバッグの高山烏龍茶25バッグ入りを1箱、マイタケチップスを15袋、パイナップルケーキ8個入りを4箱。





 自家消費分以外にも職場や友人たちへの土産があるので店の人が目を見張るような分量になってしまったが、これでも最低限どころか、やや不足気味である。

 しかし、一度に運べる分量としてはほぼ限界に近いのでこの程度にしておく。おまけとしてマンゴーまでいただいて店を後にした。

 大量に抱えた荷物を置くためにホテルに戻り、身軽になってから台湾のアキバこと光華デジタル新天地ビルへと向かう。

 台北駅からは地下鉄で2つめの忠孝新生駅で下車。新生北路を北に向かって歩くのが本来の最短ルートなのだが、敢えて大回りになる金山北路ルートを取る。こっちから行くとアニメイト光華店があるので、まずここで台湾版漫画各種を仕入れておく腹づもりであった。あったのだが。
「ないな」
なくなっている。アニメイトとらしんばんが入っていたビルが『テナント募集中』になっていた。
 思わぬ展開で予定が大いに狂ってしまったが、困惑しているのも勿体ない。気を取り直して光華デジタル新天地ビルへと向かった。
 今回ここにやってきたのは、LANケーブルとノートパソコン用冷却ファンを購入したいというのがあった。どちらも何年か前に台湾で購入したものを愛用してきたのだが、さすがに経年劣化してきたので今回更新しにきたのである。

 ビルは上から攻めるがモットーなので、まず最上階に上がり、そこからじわじわと降りていく。
 しかし、ここで我々は思わぬ苦戦を強いられることとなった。LANケーブルと冷却ファンとを扱っている店が激減しているのである。
 考えてみれば台北市内はwifiとタブレットが主流。そうなると私が求めている2つはどちらも時代遅れの代物である。これはうっかりしていた。
 それでも、1つ2つくらいはあるだろうと高をくくって探索を続行する。

 主目的のブツを探り当てるその前に漫画専門店を発見したので、アニメイトが無くなって買いそびれた分を補填すべくそちらに吶喊を掛ける。
 今回のメインターゲットはなんと言っても台湾版『さよなら絶望先生』最終巻。コレクター的な意味もあったが、それより何よりあのアナグラム回を異なる言語でどう取り扱ったのかが知りたくてしょうがなかった。
 大して広くもない店内に2メートル超の本棚がいくつも並び、その中にみっしりと詰まった大量の漫画がまるでモザイクタイルのようだ。これを丹念にチェックしていくと無事発見できた。30巻だけでなく29巻もあったので両方確保。

 ちなみに。アナグラム回はあとでホテルに戻ってからチェックしてみたところ「日本語で並べ替えるとこうなります」的な注釈がついているだけという投げっ放しジャーマン仕様。察するに『お前ら、ここまでこの作品についてきたんだから大丈夫だろ?』というある意味よく分かった判断なのではなかろうか。

 せっかくだし他にも何かないかと探していくと、あった。『孤独のグルメ』台湾版。今まで見つからなかったのが不思議なくらいのメジャータイトルである。翻訳出版されたのが奇跡のような『球場ラヴァーズ』よりも後に出会うことになろうとは。
 あとで中を読んでみてその謎が氷解した。これ、出版されたのが数ヶ月前なのである。しかも、出版社は漫画を翻訳出版するのがこれが初めてらしい。何があったのかは不明だが、せっかくなのでここから漫画翻訳に本格進出していただきたいものである。

 さて。本は買えたが、肝心なものを入手出来ていないので探索を続行する。6階から5階、4階、3階と降りて、結構な軒数を巡り巡ってようやく冷却ファンを多数置いている店を発見。
 何種類か比較検討してから気に入ったものを選択する。レジに持っていくと、いきなり箱を開けられたので何事かと思ったら、そのまま冷却ファンにUSBケーブルを挿して動作チェックをし始めた。
 若干大きめにカラカラと音がしたが、まぁお安いお値段だったのでこんな物だろうと思っていたら「これはダメだから交換します」と言い、別のを出してきてくれた。こちらも同様に動作確認が行なわれ、今度は格段に音が小さい。「これでどうですか?」とたずねられたので「是、是」とつたない台湾国語で答える。同じ店にLANケーブルも取扱いがあったので合わせて購入。
 これで目的はほぼコンプリート。もし有れば、めでたくリージョンコードが日本と台湾で一緒になったブルーレイのソフトでも1つ2つ買っていきたかったが、探せども探せどもDVDしか見当たらないのでこれは断念(DVDはリージョンコードが日本と台湾で異なる)。
 概ね満足出来る戦果を手にしたので、ビルを後にする。出てすぐのところに炭焼き香腸(台湾ソーセージ)の屋台があったので1つずつ購入。少し甘めの香りを楽しみながら思いきりかぶりつくと、溢れ出てくる肉汁が熱くてウマい。照りつける太陽もなんのその、あっという間に食べ尽くしてしまう。
 小腹を満たしたこともあり、続いてもうちょっとこの辺を歩いてみようかと思ったが、どうにも空模様が怪しい。
 どうしたものかと逡巡しているうちにポツポツと降り始めた。この時まだ傘を調達していなかったのでこのままではずぶ濡れ確実。慌てて地下鉄の駅に避難する。
 ちょうどいいのでこのまま次の目的地へ移動する事にした。頂好というスーパーマーケットのグループが有るのだが、その中でもMRTの忠孝復興駅と忠孝敦化駅の間にある店が規模が大きく重宝している。

 忠孝復興駅から忠孝敦化駅までの間には地下街が通っているので雨天でも問題なく歩いていける。しかも、ここの地下街にはテナントがあちこち入っているので、傘も買える。

 ただ、この時は焦りもあって手近にあったセブンイレブンで買ってしまい、そこから少し行ったところに傘の専門店を発見してしまうコントを成立させてしまった。しかも、地下街から地上に上がった時には見事に雨は止んでいたのだから見事な二段オチ。 

 このコントにはちょっとしたおまけがあって。
 さらなるうっかりとして地上に上がる出口を間違えてしまったのだが、上がった先に順成蛋糕というパン屋を見つけた。ここはパイナップルケーキコンテストで優勝したことが名前の由来になっている冠軍鳳梨酥が名物で、前から一度訪れてみたいと思っていた。間違いを奇貨として立ち寄り、くだんの冠軍鳳梨酥を6つほど購入。



 これから買物をしようというのに、その前からどんどん買物を増やしているのは我々の台湾におけるスタンダードである。
 さて。前振りが大変長くなってしまったが、ようやく頂好ストアに到着。
 地下に広がる多種多様な売り場。果物、野菜、肉類などは魅力満点だが買って帰ってもどうしようもないのでパス。
 メインは普段飲み用のティーバッグ烏龍茶、日本では見た事も無いものまでガッツリ揃っているドライフルーツ、中華菓子などである。
 以前来た時はそのメインの売り場だけを重点的にチェックして終わったのだが、今回は比較的時間に余裕がある。だもので、メイン以外の売り場も丹念にチェックをかけてみたのである。
 その甲斐あって掘り出し物があった。茶の名産地であるこの台湾だが、実はコーヒーも生産しているのである。ただ、生産量は茶に遠く及ばないため滅多に売っているところを見かけない。
 その希少な台湾コーヒーがなぜかここで売っていたのだ。台湾8年目にして初の邂逅である。産地を見ると阿里山だった。茶の名産地である阿里山で作られたコーヒーにはどうしても期待をしてしまう。しかも、台湾で主流のインスタントではなくドリップ式だ。
 このほか、メインの獲物であったドライメロン&ドライマンゴー、高山烏龍茶のティーバッグ、そして今年の正月に下関で紛失してしまった謎の日本メーカーが関わっているらしい烏龍茶エキス配合洗顔フォーム(ただし日本で売っているのを見た事は無い)、ペットボトル飲料各種などなど、カゴ一杯に買い込む。
 いつもなら分量に比してお値段がリーズナブルなことを支払いの時実感するのだが、今回は阿里山コーヒーが存在感を発揮してそこそこの額に。

 地下街へ降りて、とことこ歩いてMRT忠孝敦化駅へ。そこから板南線で台北駅に。
 買物三昧だったこの日もようやくこれで終わろうとしていたのだが。というか、本来これ以上何かを買う気はなかったのだが。
 台北駅にはアレがあった。
 臺鐵夢工房。台湾国鉄直営のグッズ屋さんである。鉄道雑誌や写真集、鉄道模型などなどが所狭しと並んでいるのだが、台湾もすっかり日本に毒されてしまったため、こういうところでも萌え化グッズが陳列されていたりする。
 しかもそれが1つ2つではないのが困りどころだったりする。売り場を何周もして、散々迷った挙句に台湾の国花である梅と美少女イラストが入ったマグカップを購入してしまう。



 おまけのように鉄道雑誌も購入。萌えイラストコースターが4枚セットおまけについてくる仕様のマグカップもあったのだが、これはさすがに断念。

 このような経緯で両手を荷物でいっぱいにして宿に戻る。何かこう、やりきったような清々しい疲労感が身体を満たしている。

 部屋では買ってきたお茶とドライフルーツで一息入れてから荷物整理に取りかかる。この日だけでかなりの分量が増えた。入国時にはスカスカだった私のスーツケースが半分以上埋まる。

 荷物が多かったので結構整理に手間取り、終わった時にはいざ夕飯という時間になっていた。本日は遠出ではなかったとは言えあちこちに出かけっぱなしだったので夕飯は近場で済まそうか、という提案であっさり決まり、台北駅の2階にある中華料理店、上海湯包館へと向かった。

 欣葉とかAoBaとか大三元酒樓とか、割とお値段お高めの中華料理店も選択肢に無いではなかったが、何しろホテルのすぐ近くという気軽さと、ちゃんとそこそこ以上に美味しいという魅力には抗い難く。気づけば台湾に来るとかなりの高確率で夕飯がここになっている。毎年1回は必ず来ている計算になる。

 ちなみに小龍包が名物ではあるが、私の一押しは上海菜飯。要はこれ、ベーコンとチンゲンサイのチャーハンなのだが、これがどうしたものか胸を打つうまさなのである。これを田鰻の炒め物と一緒に食べるのが私のジャスティス。
 この文章を打っていると、口の中があの味の記憶でいっぱいになって実に困る。先ほど夕飯を食べ終え、そのあとデザートまでいただいたというのに奇妙な空腹を憶えてしまう。

 そのくらいに魅力ある料理なので、他の料理の記憶があまり無い。そろそろ量をこなせなくなってきたので毎年頼んでいた白身魚の蒸し物を断念したとか、そもそもビールを頼まなかったとかそんなことばかりが蘇ってくる。
 節制して我慢したはずなのに注文の際には店員さんに「この分量で本当に大丈夫ですか?」と確認されてしまうのはお約束。

 懸念は半分的中し、後半はかなりの苦戦を強いられたものの無事完食する。帰りがけに小南門というデザート専門店で豆花という豆腐デザートをテイクアウトする余裕もあった。

 買って帰ったデザートはホテルの部屋でやや行儀悪く堪能させていただいた。
 斯くして、台湾2日目は豆腐と小豆の不思議な甘さを楽しみながら暮れていった。

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昨夜はあちこち回った後ホテルに戻ったら力尽きて寝てしまいました。ブログにアップするにしてもツィートするにしても、なかなか『すぐ!』というのが出来ませんでして。申し訳ないかぎりです。

 さて。昨日は夕食後に足ツボマッサージを受けながら椅子についているテレビを見ていたらANIMAXで日本のアニメ(具体的には『SKET DANCE』とか『ぬらりひょんの孫』とか)をやっていたんですが、まぁそれはもうネタにもならない日常的な光景でして。

 むしろ眼を見張らされたのは、ANIMAXでもなんでもない普通のチャンネルにて、皆様ご存知のヒゲソリゲンドウことシックのエヴァひげ剃りCMをやってたことですかねぇ。あのキャンペーンがまさか国際的規模で行なわれていたとは思いませんでした。もう驚かないつもりで毎年来てるんですが、結果何度驚かされてるんでしょうか私は。

 画像を押さえられなかったのだけが悔やまれます。

 あと、これはどうでもいいことなのですが、ANIMAXのCMがやたら不動産関係ばかりでして。やっぱり台湾でも『アニメは大きなお友達が見るもの』扱いという事でしょうか。

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今年も台湾旅行の時期がやって来た。もはや我が家には『行かない』という選択肢は無い。どのように行くか、どのくらいの期間行くか、台湾のどこに行くか、行って何をするか。検討事項は各種あるが、「今年も行くかどうか」を検討した事は一度も無い。

 今年はお仕事的に諸々あったりして出発時期が後ろにズレてしまい、その余波で希望していた土日を跨いでの4泊5日が出来なくなってしまったのだが、それでも予算内で3泊4日・シーザーパークホテル宿泊・往復にキャセイパシフィック航空利用という好条件は確保。

 また。関空駐車場の利用料金が安くなった事にも後押しされ、買い替えた車をフル活用する前提でスケジュールを組み、例年の関空前泊は止めて出国当日朝7時出発という日程になった。

 それもこれも11時15分発というCX565便の絶妙なダイヤあってのこと。本当に取れて良かった。

 さて。
 そんなわけで7月24日の朝。運転するにも関わらず例によってワクワクしすぎて睡眠時間があんまり確保出来なかったりするのだが。
 見た目の割には容積に富む我が愛車に荷物を積み込み、予定どおり7時に出発進行。出発間際に突発的に雨に降られたりはしたものの、それも大阪府内に入る頃にはほぼ止んでしまい。あとは少しばかり渋滞に巻き込まれたくらいで大変スムーズな旅路。
 一応通勤時間帯に掛かるため所要時間を30分以上多めに見込んで旅程を設定したのだが、それが丸々浮いてしまい、結果として出国手続き完了後の休憩時間に変換されることとなる。

 立体駐車場に車を置き、荷を降ろして。ゴロゴロとスーツケースを転がしていけば、そこはもう空港のロビー。

 エレベーターで4階に上がり、既に賑わっている団体カウンターへ。ちょっとばかり待つ事になったが、なにしろ時間はたっぷりあるので気持ちにもゆとりあがる。
 チケットを受け取った後、スーツケースを預けたり保険に入ったりと毎度お馴染みな諸手続きも無事完了し、ようやく朝食タイムとなる。妻は朝食をとる習慣がないので私だけだが。
 吉牛があったり大戸屋があったりココイチがあったりする光景が普通であり、日本食に飢えたりする心配がほぼ皆無な国に行くので別に何でも良かったのに、それでも和食を選んでしまうのはどうしたものか。寿司にしようか讃岐うどんにしようかという若干の逡巡のあと、まいどおおきに食堂で納豆とか辛子明太子とか豚汁とか割とたっぷり目にいただく。

 運転の疲れも癒えるジャパニーズ朝ごはん(若干邪道気味)を満喫し、保安検査場へと向かう。毎度の事ながら電子部品を大量に抱えているのでカバンから出す品数が多く、カゴに移し替える作業に難儀する。手持ちカバンやウェストポーチからパソコン、デジカメ、携帯電話、充電器各種、iPod等々。往年の名番組『バクさんのカバン』もかくやと言うくらいに諸々出てくる。
 どうにかこうにか全て出し終え、検査も異常なしとなり。一旦出した荷物をしまうのにも若干労力が必要だったが、一番面倒なところが終わってしまえばその辺はおまけのようなものだ。
 階段をおりた先に待っている出国手続きも指紋認証なので並ばずにクリア。
 この時点で搭乗開始まで1時間以上を残していたため、有料ラウンジでマッサージ椅子に揉まれたり飲み物をいただいたりとくつろいで過ごす。

 モノレールに乗って降りた先には既に我々の乗る機体が待ち構えていた。搭乗ゲートにたどりつくと、ちょうど搭乗開始の時間である。

 なんだか無駄が無い一方でせわしなくもある。若干バタバタ気味に機内へ入ると、いつもと比べて空席が目だつ。毎年割とぎちぎちだった記憶ばかりなのだが今回はちょっと様子が違う。3席並びで隣に人が来ないどころか、隣の3席が丸々空いていたりする。理由はよく分からないが、なんにせよ余裕があるのはありがたい。そんなわけで窓際から写真撮り放題。



 機内食はポークが品切れだったので謎な白身魚のあんかけに。割とアレコレ魚を食べ歩いてきたはずなのに、味の記憶が無く何の魚だか分からない。一番近いもので鰻なのだが、まさかなぁ…。
 付け合わせの謎麺と合わせてなかなか美味しくいただく。



 食べ終えるころには機体は沖縄県上空を通過していた。そんなわけでパソコンを取り出してちょっと文章でも打とうかという間もないまま、無事桃園空港到着となる。

 久々の第1ターミナルは改装工事が終了して、私の知っているのとは全く別の建物のようだった。まるで美術館のようになっていたその中を荷物を抱えて入国審査場へ。

 テロ対策のためか顔の撮影登録が行なわれるようになったようで、これがやたら列の進みを悪くしている。いつもよりだいぶ待たされて、ようやく私の番が来る。

 カウンターの上に置いてあるカメラを覗き込むように指示されて、待つ事しばし。特に問題なしと認められて無事台湾入国を果たす。パスポートに押されたスタンプは今まで『中華民国R.O.C』だけだったのに今年からそこに『(TAIWAN)』が加わっている。この辺はここまでの経緯を考えると大変感慨深いものがある。
 ターンテーブルからスーツケースを拾い上げて、ロビーへ出ると旅行会社の人が待っていてくれた。
 今回は我々ともう1組のみなので、バスではなく普通のバンに乗っての移動となる。こんな事態はさすがに初めてである。

 空港から高速道路で台北市内へ移動する道中、豊かな緑と繁体字溢れる車窓を楽しむこと30分。今回の予定を決めきらないまま右手に朱塗りの圓山大飯店が見えてくると、もう市街地である。高速を降りてからも渋滞につかまる事なくスムーズに移動して免税店に到着。いつもより車中の時間が短く感じたのは、やはりバスよりもバンの方が速いからだろうか。乗り心地も良かったし。
 
 免税店に到着すると、まずここで両替し、それを持ってすかさず隣のファミマへ突撃するのが今までのパターンであったが、今回は頼まれものがあるのでまず買物。私も愛用している台湾特産というか台湾オリジナルの水筒があるのだが、これは日本では入手困難なので買ってきて欲しいと今回依頼を受けている。これを1つ確保してからファミマへ。

 日本と同じお馴染みの入店音と「光臨」の声に出迎えられて店内に。冷蔵庫でキンキンに冷やされている種類豊富なペットボトルの烏龍茶軍団に笑みが漏れる。
 飲み物については、しばしば「気をつけないと砂糖入ってるから気をつけろ!」的な情報を目にするが、以前に比べれば砂糖入りのものもだいぶ減ってきた。私が初めて台湾を訪れた2006年には砂糖入りの方が多かったくらいだが、今では目をつぶって取っても無糖のものを掴む確率の方が多いくらいだ。

 その多数ある無糖茶の中から最近のお気に入り『茶裏王 青心烏龍』を購入。免税店の前にあるベンチでゆっくりといただく。砂糖とは異なる、烏龍茶独特の甘味と香りがのどを潤し、心をくすぐる。

 飲み終えて集合場所に戻ると、まだちょっと時間がある。我が事ながら落ち着きの無いことだが、追加でもう1本お茶を購入しに行ってしまう。

 シーザーパーク台北に到着する。しかし、着時間がいつもより早かったために部屋の準備がまだ出来ておらず、ロビーで待つ事しばし。
 用意が整った部屋はリニューアルされていて、記憶にあるものとちょっと違っていた。言い換えるとなんだか豪華になっていた。

 豪華過ぎると普通は落ち着かないものだが、この部屋に限ってはそういう事も無くすっかり我が家同然にくつろいでしまう。すなわち、弾むベッドに横になって移動の疲れを癒すモードに移行。

 もうこのまま熟睡してもいいかも知れないと思い始めたところ、妻の声がした。
「今何時?」
「5時くらいだな」
「このあとどうするの?」
「動ける?」
「動けるよ」
「じゃ、行くか」
ということで。
 熟睡直前から一気に活動再開。簡単に身仕度を整えて部屋を後にする。
 今日の第一目的地は台北の北にある港町基隆。もっと言うと、その街にある廟口夜市と李鵠餅店に行く事が目的である。

 以前行ってどちらも大変気に入っていたのだが、台北から小一時間かかることが災いしてここ数年ご無沙汰となっていた。今回、「初日に余力があれば」という条件付きで行き先の候補に挙げていたため、前述のような会話になった。

 台北から基隆に行くには鉄道とバスの2つのルートがあるが、夕方の帰宅時間帯で鉄道だと座れない可能性が高かったのと、いっぺん乗ってみたかったという動機で今回はバスにしてみた。

 新しい景色に出会える事を楽しみに、ホテルの斜向いにある台北西バスターミナルへ。
 こういうチケット類を買う時は間違いを避ける意味もあっていつも筆談なのだが、今回試しにカウンターで「キールン、リャンガ(基隆2枚)」と身振り付きでやってみたところ、ちゃんと買えた。1人55元(約180円)。
 基隆行きのバスは長蛇の列だったが、時刻表を見ると待っているバスのその次が3分後に来るのが分かり、気持ちに余裕を持って並ぶ。

 幸いな事にやって来たバスにラスト2名としてちょうど乗れた。

 当然窓際の席など望むべくも無いので車窓は遠望するしかなかったが、あっさり寝オチしてしまったのでそもそも車窓の記憶が無い。

 バスから降りると、目の前には港が広がっていた。日没前だったので、船がよく見えた。手前には豪華客船がありつつ、ここは軍港も兼ねているため港口部付近にはグレーに塗装された軍艦の姿も見える。ここに戦前なら要塞司令部が置かれ、栄光ある大日本帝国海軍の艨艟たちがひしめき合っていたし、戦後も数多の海戦をくぐり抜けて生き残った駆逐艦雪風が中華民国海軍に引き渡されて丹陽とその名を変えて、海軍旗艦として鎮座していたことがある。

 そして。私の祖父が戦時中南方開発金庫という金融機関に勤めていたのだが、その名のとおり南方が任地だったため日本本土からヴェトナムやフィリピン、シンガポール、ビルマ(現ミャンマー)等に向かう際、ここ基隆の港に降り立ち、目的地へ向かう船の便を待つ間しばし滞在したそうなので、個人的にいささか縁ある場所でもある。




 さて。ひととおり感慨に浸ったあと、名物パイナップルケーキといちごケーキを買うべく李鵠餅店へと向かう。

 ここでケーキと言うものは日本式のケーキとは全くの別物で、小麦粉を卵と牛乳で練って焼いたものの中にパインやいちごのジャム状の餡が入っている食べものである。どちらかと言うとケーキよりもパイに近い。正確にはパイともまた違う何かなのだが、まぁそういう食べものだと思っていただくしかない。

 地図よりも前回の記憶をたよりに移動すると、いつも大体道に迷って立ち往生するパターンなのだが、今回はこれで不思議とちゃんとたどりつけたりするのである。
 パイナップルを30といちごを30。夫婦2人で分けるとは言え、計60個を一挙購入。1つ28gで131キロカロリーもある食べものなので、60個全部食べると約7800キロカロリーという圧倒的な熱量が身体に加わる事になる。ただ、それだけの価値はある味だ。



 かくして、箱2つを抱えて廟口夜市へと突撃する事になる。店から夜市までは所謂指呼の距離。ここの名物は三明治と書いてサンドイッチ。特に有名なのは營養三明治で、細長い揚げパンでキュウリ、トマト、ハム等を挟んだ大変独創的な一品だ。
 だが、今回我々には別の目当てがあった。台湾の名物料理魯肉飯は豚挽肉の煮込みをご飯にぶっかけたものなのだが、豚の代わりに羊の肉を使った羊魯飯がここの夜市で食べられる。これしかない。
 その名も『羊肉[火庚](火と庚で1字)・羊肉魯飯』というド直球で分かりやすい。その上、ここの夜市は店ごとに番号が振ってあるので大変探しやすい。ちなみにこの店は通し番号27-1。店はお廟の前の一等地にあるためか大変賑わっていた。幸い空席があったのですぐに座れた。

 メニューから羊魯飯を2つと、羊肉清湯(羊肉と生姜の塩味スープ)と羊肉[火庚]湯(清湯にタケノコとローリエとあと謎のダシをくわえたもの)を各1。

 羊魯飯にしろスープにしろ、使われている羊肉からは臭みをほとんどゼロと言っていい程に感じない。そのため、心には旨味だけがしっかり刻まれていく。そして我々は夕なぎ時の港町を歩いてきたため相応に汗をかいており、スープが全身に染みた。
 食事中の会話もほぼ「うまいな」「美味しいね」だけで完食。「很好吃了!(美味しかったですよ!)」と声をかけて店を後にする。

 量はそれほど無かったはずなのに、今食べたものだけで概ね腹いっぱいになってしまった。これでは夜市食べ歩きという大目的に支障を来す。それも哀しいので、腹ごなしとして夜市をぐるっと一周してみる。食べ物屋の屋台が多い中で、衣類やおもちゃ等を扱う店もあり、実にバラエティに富んでいる。眺めているだけで退屈しない。うろうろしていると、好物の香腸(台湾風ソーセージ)を焼く良い匂いを嗅ぎ付けた。炭火で焼いていることもあって、大変食欲をそそられた。
「いけるか?」
「まだちょっと…」
とのことなので、ここは断念。
 この時、ふと思いついて持って来た時刻表で確認すると台北方面への列車があと15分程で発車する頃合いと分かり、丁度いいので撤退することにした。

夜市から大通りへ出て、あとはほぼ一本道。停泊する船舶がきらびやかな光を放っている姿を横目に見ながら一路台鉄基隆駅を目指す。
 駅に着いて、まだ若干時間に余裕があったので飲み物を補充してから台北方面(彰化)行きの電車に乗り込む。

 乗り込んだはいいが、本来先に出ているはずの宜蘭方面からやってくる列車が遅れているとの事で、途中駅で少しばかり待たされる。まぁ、そのおかげで食堂車つきの謎の編成と遭遇することが出来たりと大変なラッキーにも預かれたのだが。




 その後は特に遅れも無く、電車は台北の1つ手前松山駅に到着する。
 なぜ台北駅まで乗らなかったかと言えば。
 まず1つ。この松山駅に用があった。見てお分かりのとおり、この『松山』という名前は愛媛県の県庁所在地である松山市と同じである。
 それが縁で日本の松山からここに贈りものがあったと聞いたのでこれは見ておかねばと思い、今回基隆行きとセットで旅程に組み入れてみたのである。
 地下ホームから階段を上がって改札口へ。改装されてすっかり綺麗になったコンコースを歩くとMr.ブラウンコーヒーなど出来て

 インフォメーションセンターのあるあたりに、それはあった。神輿、である。正確には台北市・松山市友好神輿。






 スケールが小型なだけで少しも手を抜いていない造り。これは本格的過ぎる。しかも祭り提灯2つ付き。松山市の本気をまざまざと見せてもらった。
 きっかけが『たまたま名前が一緒だから』だとは思えないくらいに本気で、大変微笑ましい。「スゲー」を連呼しながら堪能。

 時間としてはそれほど長くはなかったと思うが、すっかり満足して地上へ上がる。地上は地上でカオスな事になっており。
「なんだ、この看板」
多分、駅ビルオープンに関する看板だと思うのだが、入っている店がユニクロだのココイチだの讃岐製麺所だのらあめん花月だのさぼてんだのなのはまぁいいとして。
 なんで樽酒のイラストなのか。明確な理由は無いのかも知れないが、久々に想定外の衝撃を受けた。
「いや、まぁ、うん」
それ以外の言葉が出てこない。




 いつまでも眺めている訳にもいかないので、写真だけ撮って次なる目的地饒河街夜市へと向かった。
 台鉄松山駅から歩いて5〜10分というくらいには程近いこの夜市で夕飯パート2&マッサージという流れを目論んでいた。
 夕飯パート2にはひとつ目当てがあり、ここには名物のひとつに胡椒餅なる食べものがある。魯肉飯、香腸と並んで好物のひとつなのでぜひ、と思ったが、店の前に出来ている列の長さを見て断念。

 まぁ、実はここ以外でも食べられるのでムリをする事は無い。

 となると、今度は烏骨鶏スープを出してくれる薬膳料理のお店にしようかとも思ったが、これが見当たらない。見落としていただけなのかも知れないが、ここは大賑わいの夜市なのでその分競争も激しいのだろう。他にも以前来た時にあった店がそこかしこで別の店になっていたりする。
 なのでちょっと不安になったが、もうひとつの目当ての盲人按摩と書かれたマッサージ屋さんは健在だった。ただ、この日は足ツボの人が1人と普通のマッサージの人が1人しか居なかったので、私が足ツボ、妻が普通のマッサージを受ける事に。
 どちらのマッサージも40分400元。ふたりで800元。対費用効果を考えると大変お安い。
 椅子にはテレビがついているのでチェックしてみると、ANIMAXで『SKET DANCE』や『ぬらりひょんの孫』の台湾版をやっていたりするのはまぁいいとして。ザッピング中に遭遇したエヴァひげ剃りCMの台湾版。あの『誰だお前』状態の碇ゲンドウが怪しい程にさわやかな笑顔を振りまく例のアレである。
 やはりこの国は油断ならない。うっかり「ファッ!?」とか口走ってしまったが、按摩の匠には気づかれなかったか、気をつかってもらったかで事なきを得ている。
 そんなアクシデントがあったものの、マッサージを受けたおかげで体調はかなり回復し、足取り軽く店を後にする。
 さて、次はどこへ行こうかという話になったが、あれこれ候補に挙がったものの「明日に備えて宿に戻る」という何とも年寄り臭い結論に達した。昔ならば有り得なかったが、翌日以降この結論の正しさが身にしみる事となった。

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台北市内を聖闘士星矢のラッピングバスが走ってました。どうやらネトゲになっている模様。

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今さらですが非公開に変更
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読書、創作活動(文章のみ)、野球観戦、旅行、食べ歩き
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四十路オタです。そんな年齢なので言う事やる事古くさくてすいません。
艦これ提督ですがリポートをここにあげたりとかいう事はしておりません。攻略記事を書けるほど上手でもないので。
一次創作及び二次創作に関してはpixivで発表しております。興味をお持ちいただいた方は上部のリンクからお願いいたします。
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